
この2024年に創立70周年を迎えるヨシムラジャパン。長く社長として同社を率いた2代目、吉村不二雄さんに代わり、国内ではこちらも長くヨシムラのチーム監督として、また直近ではFIM世界耐久選手権を戦うヨシムラSERT Motulチームのディレクターとして活躍中の甥、加藤陽平さんが社長就任することも発表された。その加藤新社長の肝いりでスタートしたのがスズキ油冷機の復刻プロジェクト。今、分かるその詳細をお伝えしよう。
油冷GSX-Rの復刻は加藤新社長の肝いり企画
「2024年は油冷GSX-Rの復刻に取り組もうと思っているんです。ヨシムラはこれまで、レースで重用したホンダCB750 FourやカワサキZ1のパーツを現在に蘇らせてきた。次は当然、油冷GSX-Rとなるわけです。今、油冷機にお乗りの皆さんが困っている部品もリプレイスパーツとして開発できるといいですね」(加藤さん)
以前からそんな話をしていた加藤さんがこの春、ヨシムラの3代目の社長に就任した。加藤新社長は吉村不二雄さんのお姉さん、吉村由美子さん(故人)の息子さんで、不二雄さんから見れば甥。加えて書けばヨシムラのライダーとして名を馳せた加藤昇平さん(故人)を父に持つ、生粋のヨシムラっ子。そして油冷GSX-R復刻プロジェクトは加藤新社長の、肝いり企画として、いよいよスタートした。
今回の東京モーターサイクルショーに展示された『ヨシムラGSX-R750 レーサーレプリカ“604”』は、『ヨシムラがこれから油冷GSX-Rに本格的に取り組んでいく』という決意を、まずは周知するために製作されたデモバイク。エンジンの中身こそまだストックのままだが、フレームは辻本 聡さんがデイトナでデビューした1986年モデルのヨシムラGSX-R750のフレームワークを現在の視点で見直した補強が施されるほか、さまざまな新作パーツも装着されている。
油冷機向け新ブランドとエンジンパーツに期待!
「全日本チャンピオンを獲ったらデイトナに連れて行ってやる」。辻本 聡さんはPOPこと初代社長、故・吉村秀雄さんとの約束を1985年に全日本TT-F1クラスの年間王座を奪取することで果たし、'86年にAMAスーパーバイク・デビュー。初戦となったデイトナ200マイルでは予選的意味合いの50マイルレースで3番手に入り注目を集めたが、決勝レースはマシントラブルでリタイヤ。翌'87年のデイトナでは2位入賞で雪辱を果たす。そのゼッケン“604”が30余年を経た今、蘇る。
1985年の全日本TT-F1クラスの年間王座奪取、'86年のAMAスーパーバイク・50マイルレースで3番手。翌'87年のデイトナでは2位入賞を果たしたゼッケン“604”。
『ヨシムラGSX-R750 レーサーレプリカ“604”』の見どころは、そのフレームの補強と新作パーツ群。初期型GSX-R750はスズキ社内で約222kgと割り出した当時の750ccクラスの乾燥重量を、176kgにまで軽量化したエポックモデル。実験を重ねながら不要な箇所、パーツを徹底的に排除したという油冷エンジンばかりに目が行きがちだが、車体軽量化に当たってはMR-ALBOXフレームも単体で8.1kgにまで削ぎ落とされていた。
「その分、レースで使うには剛性不足ということで、当時から各所に補強が施されていました。 今回のレーサーレプリカ“604”はストリートモデルとして製作したもので、今の視点と技術で補強位置を検討し直しています。当時の車両にそのまま倣うものではありません」と言うのは、同社設計部の川口裕介さん。新作パーツ群も、往時の雰囲気を大切にしながら現代化されている。
「装着されるパーツも現時点では習作。製品化に関してはショー会場でのお客さまの反応や、これからの社内検討を経て決めることになります」(同)とも言うが、新作パーツに付けられた『YOSHIMURA 604 SPL』の文字や、こちらも新作のトップブリッジに刻まれた“604”のロゴに、ヨシムラの油冷機向け新ブランド誕生を予感できる。次に着手するはずのエンジンパーツも含め、期待は膨らむばかりだ。
東京モーターサイクルショーが2週間後に迫った3月初旬。ヨシムラのファクトリー内では、展示用の『ヨシムラGSX-R750 レーサーレプリカ“604”』(奥)と'86年型レーサーの実車(手前)が並べられ、慌ただしく作業が進められていた。
東京モーターサイクルショーに実車を並べたのは『より忠実に、その雰囲気をデモバイクに落とし込むため』。30余年を経た今ではヨシムラも当時を知らないメカニックばかり。両車を綿密に比較しながらの作業が進められた。
『ヨシムラGSX-R750 レーサーレプリカ“604”』のフレームまわりは補強箇所とその数が再検討された。
エンジンはノーマルで、パルサーカバーとスタータークラッチカバーは同社アルミ製現行品を装着。キャブは油冷GSX-R750に設定のないTMR-MJNφ32mmが装着され、エキゾーストも「YOSHIMURA 604 SPL」のチタン製として復刻。油冷GSX-Rのお約束、ヘッダーパイプを連結する筒状のDuplexチャンバーも装備された。
トップブリッジも新作「YOSHIMURA 604 SPL」。中央には“604”のミーリング文字が刻まれる。WIND ARMORスクリーン、PROGRESS1オイルTEMPメーターやYRスロットルホルダーキットなど、現在販売中の製品もふんだんに奢られる。メーターやスポンジベースもリフレッシュ済み。ショーではゼッケン付きのフロントカウルで覆われたがストリート仕様としてその下にはヘッドライトも装着。もちろん点灯する。
前後サスペンションはオーリンズ。フォークアウターはシルバー仕上げでリヤショックもSPLだ。ホイールはJB-MAGTANで、サイズはF:3.00-18/R:4.50-18(デイトナ・レーサーはマービック鋳造マグだ)。ブレーキキャリパーも当時のニッシンからブレンボへ。当時のデザインをオマージュしたサンスター製SPLディスクと組み合わせる。純正スイングアームには'86年型レーサーを範としたスタビライザーが追加されている。
モチーフの'86年型レーサーのデザインに寄せられ「YOSHIMURA 604 SPL」を謳うステップ。当然、現代の視点で素材に置換されている。こちらも油冷エンジンのアイコン、フロントスプロケットカバー上に設置される箱型オイルキャッチタンクも「YOSHIMURA 604 SPL」だ。
新作のフェンダーレスキットのプレートホルダー部には、こちらも新製品の「YOSHIMURA MICRO SIGNAL」が装着されていた。極小のボディにヨシムラブランドマークが付くのもファン心をくすぐる演出。汎用パーツとしてすぐにもリリースでる状態だ。ここに掲載した既存品以外のパーツはあくまで習作として装着したというが、ユーザーの声次第ですぐにでも商品化できるクォリティとなっていたのも印象的。
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