photo by AtsushiSekino

【TRACER9 GT ABS】
ディテール&試乗インプレッション

車体のベースをMT-09と共有するトレーサーが、今回のモデルチェンジでMT-09と同じようにエンジン&フレームを刷新。さらに電子制御サスペンションを新装備し、走りのステージを拡張。元初心者向けオートバイ雑誌編集長の谷田貝 洋暁が試乗レポートする。

1. MTシリーズを感じさせるスタイリング

【全長/全幅/全高】2,175mm/885mm/1,430mm
【車両重量】220kg
【軸間距離】1,500mm
【最低地上高】135mm

全体的なスタイリングは、従来のイメージを踏襲するが、フロントマスクを一新。吊り目が際立つMTシリーズに通じる精悍なフォルムに変更されている。撮影車両が装備しているトップケース&パニアケースはオプション品で、このほかにもフォグライトやヒートシートなど旅を快適にするパーツが用意されている。

【販売価格】
ブルーイッシュホワイトメタリック 2
ビビッドレッドソリッド K
マットダークグレーメタリック A
1,452,000円(税込)

2. シート高が選べるポジション

【シート高】810/825mm

前作比で40mmもシートが下げられ810mm(ローポジション)の低シート高を実現したトレーサー9GT ABS。加えてポジションが25mm変えられる機構も備えており、幅広い身長に対応。さらにはハンドルポジションもクランプの向きを変えることで2ポジションで選べるようになっている。実際の足着き性は座面が幅広なこともあり、810mmでも踵は4cmほど浮く印象だった。

▲シート下のスペーサーの位置を変更し、ラバーパッドを取り外すことでシート高が25㎜アップし825mmになる。

▲ローポジション:810mm

▲ハイポジション:825mm

3. 旅先でスポーツランを諦めない -実走インプレッション-

ツーリングもスポーツも諦めない!二刀流を会得した新型トレーサー

トレーサーシリーズも、MT-09シリーズのモデルチェンジと同タイミングでブラッシュアップ。プラットフォーム戦略車として、エンジンやフレームなど、多くのパーツを共有するのは変わらないが、名前はこれまでのトレーサー900(キュウヒャク)から、トレーサー9(ナイン)へと改められることになった。

一方、MT-09との違い、つまりトレーサーとしての特徴は1500㎜という長いホイールベースだ。キャスター&トレールやタイヤサイズなどは一緒なものの、スイングアームがMT-09比で60mmほど伸ばされており、これがツアラーらしい安定感を創出している。MT-09のコンパクトでキビキビ曲がっていくようなキャラクターに対して、トレーサーはコーナリングで車体にかかる応力がしっかりと路面に伝わり、グリップ感を強く感じられるような味付けになっているのだ。

この安心感の高い接地感の秘密は、エンジンとフレームを連結するエンジンブラケット。ブラケットそのものの剛性はMT-09よりも高められているとのことだが、ホイールベースが70mm長いことで応力がかかりやすく、トレーサーの方がよりしなやかな車体に感じるというワケなのだ。

今回の試乗会は、サーキット内におけるクローズド環境での試乗。本当の意味でのツーリング性能は憶測の域を出ないが、このしなやかな車体からくる安定感と快適性は十分ツーリングでも効果を発揮してくれることだろう。

そんなトレーサーのツーリング性能をさらに高めてくれる機能が、今回新採用されたKYB製電制御サスペンションである。ヤマハとしては初めてソレノイドバルブ式の電制御サスペンションとのことであるが、2種類の異なるセッティングのモードを装備。このモードセッティングによる走りの違いが非常に顕著で面白かったのだ。

試乗する前は、なぜツーリングモデルのトレーサー9GT ABSの試乗会をサーキットで開催するんだ? と思ったりもしたのだが、走り始めてすぐに納得。新型トレーサーは、サーキットレンジでのスポーツランすら楽しめてしまうだけの足回りが与えられているのだ。確かに純然たるスポーツモデルのMT-09に比べれば、車体の挙動もおっとりしており、バンク角などの限界も低いが、それでも少々ペースを上げたところで不安がないのだ。これなら旅先で出会う峠道がとても楽しいはずである。

そして、そこからサスペンションのモードを変更、ツーリング仕様の“2”にしてみる。すると減衰セッティングがソフトになり、一気にツアラーらしい乗り味に変わるではないか。路面のギャップを穏やかにいなしてくれるおかげで、随分と乗り心地がよくなる印象なのだ。

加えてトレーサー9GT ABSには、ライディングモード切り替えも装備している。キビキビとスポーティなフルパワー“1”から、出力を抑えたモード“1”まで、4つのモードを装備し、走行中も切り替えられるようになっている。加えて、グリップヒーターやクルーズコントロールも標準装備され、ツーリング性能は磐石といった様相である。

もともとトレーサーは、ロードスポーツ要素が強めのツアラー“MT-09トレーサー”として登場するも、次年度には出力が抑えられ、“トレーサー900”化した時にはスイングアームが延長されたりといった“ツーリングモデル”への適化が進められてきた。だが今回のモデルチェンジでは、“ツーリング時の快適性”も“峠道でのスポーツラン”も両方きちんと使いこなせる、真の二刀流を会得することになったようだ。

4.ディティール/改変ポイント

エンジン

【エンジン形式/排気量】水冷4ストロークDOHC 並列3気筒/888cc
【最高出力】88kW(120ps)/10,000rpm
【最大トルク】93N・m(9.5kgf・m)/7,000rpm

並列3気筒エンジンのエンジン形式はそのままに、845ccから888ccへと排気量アップ。ピストン、コンロッド、クランクシャフト、カムシャフトなども新設計し軽量化も追求。また従来比50%の小型化、40%の軽量化を実現した6軸IMUも搭載。車両の動きを3次元的に観測しており、トラクションコントロール、ABSなどさまざまな電子制御デバイスの制御に活用されている。

フレーム

今回新しく採用されたアルミフレームはCFアルミダイキャスト技術によって、最低肉厚1.7mmを実現した軽量なもの。MT-09同様、エンジンのハイパワー化に対応し、横剛性に関しては従来比で50%という飛躍的な剛性アップがなされている。ただツアラーとしてスイングアームが伸ばされたトレーサーは軸間距離が1500㎜。よりしなやかな車体とするためエンジンブラケットで剛性を最適化している。

ヘッドライト

精悍な顔つきになった新型トレーサー9GT ABS。今回、6軸IMU連動のコーナリングランプを新装備。ちなみに下がメインのヘッドライト(ロービームは左片側点灯)で、スクリーン下部のライトがコーナリングライトになっている。

LED化が進行

ヘッドライト&コーナリングライト、テールランプやウインカーなど、多くの光源にLEDが採用されることになった新型。ただしナンバー灯のみバルブを採用している。

電子制御サスペンション

減衰力を自動で調整する電子制御サスペンションは、減衰力が強めのスポーツ設定の“1”と、コンフォートで減衰力が弱めの“2”と、2段階のモードを備える。ヤマハとしては初めてモーター式ではなくソレノイド(電磁)式バルブを採用。おかげで非常に応答性がよく、セッティングを切り替えると驚くほどキャラクターがかわり、旅とスポーツの使い分けができる。プリロード調整に関しては、前後ともに機械式の調整機構を備える。

クイックシフター

クイックシフターは、今回からシフトアップ&ダウンの双方向対応になり、セッティングによって機能を停止させたり、アップのみといった設定も可能となっている。ただしクイックシフト時には、アクセルを全閉する必要がある。またフットペグのポジションは上下2段階で変更可能となっている。

走行モード

1~4のドライブモード(D-MODE)を備え、“1”がスポーティなフルパワーのモードで、2、3とエンジンレスポンスが穏やかになり、4がレインモード的な存在で、出力そのものも制限される。

ホイール

“SPINFORGEDホイール”を新採用。
ヤマハ独自の技術で、アルミ鍛造並みの強度と軽さを、コスト面で優れる鋳造アルミホイールで実現可能。前後トータル比で、従来モデルの約700gの軽量化を達成している。

2モードタイプのABS

新型MT-09同様、2種類の介入モードを持つABSを装備。“1”は一般的な介入を行うABSモードで、“2”が、6軸IMUからの情報をもとにコーナリングに対応したABS設定となる。

トラクションコントロール

後輪スリップを抑制するトラクションコントロールに加え、コーナリング時のスライド量を調整するスライドコントロール(SCS)、フロントアップ具合を調整するリフトコントロール(LIF)を装備。各設定は個別に3段階で変更可能だ。

5.ディティール/特徴

3.8インチTFTダブルメーター

【表示項目】
スピード/エンジン回転数/クイックシステム表示/ギヤポジション/ETC表示(OP)/設定アイコン/グリップヒーター表示/シートヒーター表示(OP)/ブレーキ設定表示/時計/モード/オドメーター/トリップメーター×2/平均燃費/瞬間燃費/気温/水温/燃料計/燃料消費量/走行時間/クルーズコントロール速度設定

クルーズコントロール

クルーズコントロールシステムは、ギヤが4~6速時、速度が50-180km/hで使用可能。2km/hごとの増減速、レジューム機能があるのもMT-09SPと同じだが、こちらには設定速度がメーターに表示されるようになっている。

スクリーン

フロントスクリーンは手動スライドによる調整が可能で、設定幅は5㎜、10段階。調整装置はメーター上部にあり、片手での調整が可能だった。

電源

メーター左横には、主電源連動タイプのアクセサリーソケットを装備。携帯電話の充電などに使うことができる。このほか、ハーネスにはDCコネクターやETCコネクターなども装備しており拡張性。

グリップウォーマー

10段階で温度調整が可能なグリップウォーマーを標準装備。メーター内にインジケーターもあり、温度設定も一眼で確認できる。このほかオプションのシートヒーターやETCもセットするとメーター内に表示が出る。

ラゲッジボックス

片側約30Lのサイドケース(69,300円/このほか取り付けステーも必要)や、トップボックス(39L:25,000円/50L:36,300円)などのオプション装備も豊富。たい並みにサイドケースには、専用のダンパー機構が車体側のステーに内蔵され、荷物のフレを防止している。

【燃料容量】17L

燃料はハイオク指定で容量は18L。燃費はWMTCモード値で20.4km/Lで、計算上では370km近く走れることになる。ちなみに、ヤマハお得意のフューエルトリップ(燃料警告時からの距離を記録)も備え、燃料警告灯点当時の燃料残量は、約3.0L。

スイッチボックス


【左】ヘッドライト切り替え&パッシング/ウインカー/ホーン/ハザード/モードスイッチ/クルーズコントロールスイッチ


【右】スタータースイッチ&キルスイッチ/ホイールスイッチ

トレーサー9 GT:現行車種のスペックや新車・中古バイクはこちらから
トレーサー9 GTのスペックや相場、ユーザーのカスタムなど詳細情報を見る
トレーサー9 GTの新車・中古車一覧を見る

この記事にいいねする


コメントを残す

ヤマハ トレーサー9 GTの価格情報

ヤマハ トレーサー9 GT

ヤマハ トレーサー9 GT

新車 81

価格種別

中古車 3

本体

価格帯 139.7~198万円

161.41万円

諸費用

価格帯 4.36~6.44万円

5.95万円

本体価格

諸費用

本体

133.03万円

価格帯 129.8~137.5万円

諸費用

6.14万円

価格帯 4.5~7.83万円


乗り出し価格

価格帯 144.06~204.44万円

167.37万円

新車を探す

乗り出し価格


乗り出し価格

139.17万円

価格帯 137.63~142万円

中古車を探す

!価格は全国平均値(税込)です。

新車・中古車を探す