
水素分子と同じ名の車名「H2」のエンジンを搭載した4輪バギー「HySE X-1」が2024年1月5~19日の日程で開催される「ダカール2024」に参戦する。エンジンは水素仕様となるが、その特徴を開発者に聞いてみた。
理論空燃比の半分で燃焼させると無公害に
国内バイク4メーカーが「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology/ハイス)」の設立を発表したのは2023年5月のこと。対外的な活動の第一歩として「ダカール2024」の新カテゴリー「Mission1000」クラスに参戦する。
ミッション1000クラスは、2024年に新設されるサステナブルのクラス。4輪バギーのHySE X-1は、カワサキH2ベースの水素エンジンで走行する仕様となっており、過酷な状況下での課題を把握し今後の研究テーマにフィードバックすることが目的だという。
エンジンはニンジャH2と同様スーパーチャージャーを搭載しているが、これについてHySEの市聡顕氏(カワサキモータース)は「水素燃料はモーターサイクルに向いています。さらにスーパーチャージャーとは理想的な組み合わせなんです」と語る。
「水素は燃やす温度が高すぎると窒素酸化物(NOx)が出てしまいます。ですが燃料を理論空燃比の半分に減らすと出なくなります。スーパーチャージャーにすると空気をたくさん入れることができるので薄く燃やすことができるのです」と理由を第一にあげる。
ダカール2024参戦車両のHySE X-1とHySEのメンバー。右端が市聡顕氏で2015年にリリースされたニンジャH2の開発責任者としても知られている。現在は先行開発部に所属。
HySE-X1 [HySE] 既存車体をベースに水素燃料タンクや燃料供給系統のレイアウトを変更しバイク用水素エンジンを搭載した。車重は1500kgと発表されるが最高出力は不明だ。
Ninja H2 CARBON [KAWASAKI] 並列4気筒998ccエンジンにスーパーチャージャーを搭載し231PSを発揮。レーサー仕様のNinja H2Rは驚異的な出力310PSを発揮する。
水素エンジンはレスポンスの良さでバイク向き
さらに市氏は「水素はガソリンに比べると燃焼速度が早いのが特徴です。シリンダーの中に先に空気を入れておいて燃料を増やしていくと出力が上がります。スロットルを開けた時に燃料を入れると開けた瞬間にパっと燃えるので凄くツキのいいバイクができるんです」と語る。
H2の水素仕様エンジンは、燃料をポート噴射からシリンダー直噴式に変更しており、ディーゼルエンジンのような燃焼システムとなる。これによりスロットルを開けたタイミングで燃料を送る制御が可能で、バイクに適したレスポンスのいい出力特性が実現できるのだ。
加えてスーパーチャージャーの効果で全開にした時にもたくさん空気が入るので排気量を上げずとも高出力化できる。元々レスポンスに優れるスーチャーに水素のハイレスポンスも加わって「ライダーからするとめちゃくちゃレスポンスがいいということです」と市氏は自信を見せる。
もちろんバイクでは燃料タンクのスペースが限られること、燃焼すると発生する水による影響など課題も少なくない。これらを解決するのがHySEの目的で、プロジェクトは5年計画だという。さらに開発期間を含めると市販は早くて2030年と予想できる。まずは、ダカール2024での健闘を祈りたい。
HySE X-1のエンジンは車両後方に搭載。「SUPER CHARGED」の文字はまさしくH2ベース。750SSのH2にちなんだネーミングが水素分子のH2と一致していたのは偶然だという。
HySEにはトヨタも加わっており、水素燃料タンクや燃料供給系統のレイアウトは水素カローラで開発してきたノウハウをバギーに移植しているという。ドライバーは未発表だ。
こちらは開発中のバイク用の水素エンジンで、変速機などは異なると思われるがHySE X-1と基本は同じ。ニンジャH2用のガソリンエンジンがルーツだ。
ポート部分にインジェクターが残るがその下の青いインジェクターで燃料をシリンダーに直噴している。スーパーチャージャーで空気を送り込み理論空燃比の半分で燃焼させている。
水素エンジン二輪車 [KAWASAKI] H2 SXをベースにした水素燃料に対応した大型バイク。2024年から試験走行する車両として公開された。ヘッドライトはH字形にしている。
スズキのバーグマンはカワサキと正反対のアプローチ
水素エンジンに関してはスズキもバーグマンの試験車両を公開している。バ―グマン400に70MPaの水素タンクと水素エンジンを搭載しており、実際に走行している。こちらの狙いはカワサキのスーパーチャージドエンジンと似ているがアプローチが全く異なる。
「水素は薄くても燃えるのでガソリンでは燃えない薄い領域で回しています。濃いと窒素酸化物(NOx)が発生しますが、これが出ない領域で運転しています。燃えたら水だけが出る状態でマフラーに触媒もついていません」とスズキの開発者は語る。
こちらは自然吸気で燃料もポート噴射と元のガソリンエンジンをなるべくそのままに水素に置き換えている。そのためパワーを上げることが難しく、ガソリンエンジンの半分ほどの出力だという。バーグマン400は29PSなので15PSほどだが、走行には耐えられるという。
薄く燃やして無公害にするという点ではカワサキとスズキの狙いは一致するが両極に振ったアプローチと言える。もちろん、現在のバイクと同じようにマフラーに触媒を装着して排ガスを浄化するのも選択肢だろう。各車の取り組みで最適解が導き出されることを期待したい。
水素エンジンバーグマン(試験車両) [SUZUKI] 燃料電池のバーグマン フューエルセルに続き水素エンジンにもトライ。10Lの水素タンクを積むため200mmほど全長を伸ばしている。
エンジンは水素燃料用にインジェクターに換装。他にも水素は着火性が高いため冷え型のスパークプラグに電気が完全に切れるCDIに点火系を変更している。
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