ヤマハの快速クロスオーバーであるトレーサー9GTに、同社初のアダプティブクルーズコントロールなどを追加した上級版「トレーサー9GT+」が発売開始となった。特にポイントとなるのは世界初のミリ波レーダー連携UBS。クルコンが作動していない状態でも車間にブレーキ入力が不足している場合、ブレーキをアシストしてくれる。この先進システムをテストコースでジックリ体験してきた!


STDの走りに先進の安全装備と上質さをプラスした

MT-09譲りの並列3気筒とアルミメインフレームをベースに、スポーツツアラーに仕上げたトレーサー9GT。2015年にデビューした初代のMT09トレーサーから進化を重ね、2021年のフルチェンジで現行型となり、トレーサー9を襲名した。国内には電子制御サスなどを採用した上級版のトレーサー9GTのみ導入されている。

その魅力は、クロスオーバー系で最軽量の車重とトップクラスの120ps。そして10月、最上級仕様となるトレーサー9GT+が導入された。

開発コンセプトは"The Multirole fighter of the motorcycle with advanced technologies"。これはトレーサー9GTのコンセプトである"Multirole fighter of the Motorcycle"(多用途戦闘機のような二輪車)はそのままに、先進技術を加えたことを意味する。

その独自装備は次のとおり。

・ミリ波レーダーによるアダプティブクルーズコントロール(ACC)
・新型ユニファイドブレーキシステム(UBS)
・7インチ大型液晶メーター
・第三世代クイックシフター
・各種走行モードが一括変更可能に
・専用シート
・KYB電子制御サスの制御をアップデート
・ハンドルまわりなど細部の高級感アップ

特筆すべきは同社初のACCと最新UBSだ。追従式オートクルーズのACCは設定速度で巡航できることに加え、その状態で先行車両に追いつくと一定の車間と速度を自動で保つ。ACCに関してはKTMやドゥカティ、BMWら海外勢が既に導入しており、国産勢ではカワサキのNinja H2 SX SEに続いての採用だ。

そして最大のキモとなるのが世界初のミリ波連動UBS。ACCで追従している際はもちろん、ACCを作動していない状態でもミリ波レーダーが前方の状況を検知し、前車との車間にブレーキ入力が不足している場合、ブレーキのアシストをしてくれる。

例えば前方の車両に接近しすぎた場合、メーターの画面に「!」マークの警告画面が表示され、ライダーにブレーキ操作を促す。

ここでライダーが何も操作しないと自動で減速されず、衝突してしまう。クルマに採用される衝突被害軽減ブレーキは、ドライバーが操作をしなくても自動で減速するのに対し、ヤマハのシステムはあくまで「アシスト」。ライダーに主導権があるとも言える。

IMUによりバンク角や速度もセンシングし、ブレーキのアシスト量を可変。コーナリング中であればアシストを緩やかに、速度が高ければ強めに制動を行う。


介入は最小限、減速アシストは安定して不安なし!

機能が複雑なだけに、ヤマハはプレス向け試乗会をJARIのテストコースで実施。様々な交通状況を再現すべく、同行した車両からインカムでライダーに指示するといった珍しい形での試乗となった。その甲斐あって、十分にレーダー連携UBSとACCを体感できたと思う。

まず体験したのはUBSだ。レーダーが検知する範囲は前方2m、左右2~3m(1車線分を想定)。そこで先行車両にバーを取り付け、バイクで追走するという、安全に配慮した試乗テストを行った。

はじめに前走車、バイクとも60km/hで走行して、バーとの距離が約2mになったら弱めにブレーキをかけるテストを実施。効果をわかりやすくするため、クラッチを切ってリヤブレーキをかけるよう指示を受ける。

車間2mはかなり近い。最初はなかなか接近できなかったが、2mにまで近づくとメーターがライダーの介入を要請する警告画面に! そこで弱めにブレーキングを開始すると、ググッと強めに前後ブレーキアシストが入り、そのまま停止した。

減速アシストはしっかり利いているのに自然で何ら不安感がない。安定した四輪車と違い、転んでしまう二輪車のアシスト機能は繊細かつ高度な制御が求められるが、非常にスムーズかつ安定して自動的に減速してくれたので驚いた。

ピッチング(車体の前後方向への挙動)が穏やかなのも、安定感につながっている。普通のバイクだと、強めにブレーキングすると車体が前のめりになる姿勢変化が起き、車体が不安定になる。一方トレーサー9GT+は電子制御サスを採用。減衰力をリアルタイムで自動調整し、減速時のピッチングを抑えてくれるのだ。

さらに前走車は20km/h、こちらは50km/hで加速し、バーの手前でブレーキ開始するテストも実施。いつもよりやや手前で減速したが、リヤブレーキのみなのでクルマに接近し続け、かなり近づいてもなかなかアシストが作動しない。しかし、これも2m程度まで接近して作動! メーターが一瞬警告画面になり、強く減速アシストが入った。

前車まで2mはギリギリの距離だが、これほどの設定でなければ日常的にアシストが作動してしまうという。つまりライダーの意志やスポーツ性を尊重し、なるべく介入を回避。本当に危険なレベルでは的確にブレーキを補助してくれること目指している。実に知能的なシステムだ。

なお開発者は、追突を防ぐ自動の衝突被害軽減ブレーキも検討したと話す。しかし、ライダー側の状況がわからない状態(例えばハンドルから手を離している等)で、自動減速するとライダーは振り落とされてしまうため、搭載をやめたという。

このレーダー連動UBSはメーター上の設定で任意にオフにすることも可能。サーキットなどスポーツ走行をしたい時などに有効だ。またレーダーはクルマだけではなく、バイクにも同様に反応する。これはACCでも同様だ。


ACCの加減速も自然で違和感がなかった

続いてACCを体験した。スロットルを操作しなくても設定速度で巡航でき、その状態で先行車両に追いつくと一定の車間を保って追従を行う。レーダーが先行車の有無とその車間を検知し、自動的に加減速してくれる。

車間が詰まった際は自動的にエンジンブレーキ、それでも足りない場合は前後の油圧ブレーキで減速させる。ACCの自動減速で間に合わないとバイクが判断した際、メーターが警告画面となり、ライダーへブレーキ操作を促す。この状態でもUBSと同様にライダーが何もしないと、大きな減速アシストは行わない仕組みだ。

試乗は6パターンもの走行状況をテストすることができた。

まず試したのは、ACC作動中に先行車を発見したケースだ。ACCを120km/hに設定し、車間はバー2本(最短から2つ目)、ギヤは5速に。なおメーター上でACCのアイコンが白だと待機状態、グリーンの状態になると作動状態を示す。

先行車から150mほど離れた位置からスタート。80km/hで走る先行車に100m程度まで近づくと対象を捕捉して自動で減速を開始し、追従後は約27mの車間距離をキープしたまま走行していた。

もちろん先行車が加減速すれば、自動で車間を調整してくれる。プラスマイナス30km/hほど強めに前車が加減速した場合のフィーリングをテストしたところ、非常にスムーズかつ安心に自動的に速度をコントロール。ここでも電子制御サスが減衰力をリアルタイムで自動調整して前後方向へのピッチングを緩和し、安心感に貢献していた。

なお「スポーツ」「ストリート」「レイン」および任意設定のライディングモードが用意されているが、ACCで減速する際はモードごとに合わせた減衰設定をわざわざ用意したという。つまりスポーツモードで減速した際は専用のスポーツ寄りの減衰力設定が適用される。実に手が込んでいるのだ。


コーナリングでの加減速は穏やか、乗り手は常に平穏

続いて、80km/hで追従中に車間設定を変更してみた。前述のとおり車間は距離ではなく、「時間」で設定されるのが特徴。前車が通過した地点をどれほどの時間差で通過するか設定できる。これなら速度が上がるにつれて車間も自動に伸び、判断や操作までのマージンを常に稼ぐことができるというわけだ。

車間時間は、左手の人差し指で操作する。最短車間のバー1個だと前車との距離は22m程度。これでも問題ない距離だと感じたが、さらに2個、3個とバーを増やすとさらに7m程度ずつ距離が伸び、最大の4個だと約44mに拡大された。車間が最大だと非常に安心感がある。

追従中に車間設定を変更してもグッと加減速されるわけではなく、気付かない範囲でスッと車間が調整されていた。

次に「追い越し支援」をテスト。ACCで追従していた前走車を追い越し、オートクルーズの設定まで自動で加速するフィーリングを試す……はずだった。しかし走行状況を車両側が「テストコース」と判断すると作動しないため、今回はテストできず。仕向地ごとの通行(右側、左側通行)やサーキットなどの使用を想定した仕様で、公道で15~20分ほど走ると機能が復帰するとのこと。こうした学習機能があるのが面白い。

一方で、追従していた車両が脇道などに逸れていなくなった場合は自動で設定速度まで加速。さらにACCで追従している最中、他のクルマが割り込んできた場合も車間を自動でキープする。この減速もまた自然で、ライダーを慌てさせることがなかった。

さらにACC追従中はコーナリングも検知。コーナーで前走車が加速した場合、直線と同様にACCが加速してしまうと、バイクはアウト側へはらんでしまう。そこでトレーサーはバンク角やIMU、車速センサーの情報を元に状況を判断。直進時と異なり、緩やかに加速してくれる。

同じくACC走行中、コーナーで減速する場合も同様だった。ACC70km/hの設定でコーナーに入り、車体をバンクさせると徐々に車速がダウンし、64km/h程度にまで減速した。バンク中に自動減速した場合、ライダーはヒヤッとしそうなものだが、非常に安心。プロ並みのブレーキングを自動でやってくれる、そんな印象を受けた。




公道で3000kmに及ぶテストを実施し、違和感を消した

これほど人間の感性に合致した制御を行うには相当な苦労があったのでは……と思ったが、案の定。開発者によると合計3000kmに及ぶ膨大な公道テストを実施したという。

ヤマハも昔は公道テストを行っていたが、近年、発売前のモデルで実施するのは異例。街中から高速道路、峠道、首都高など様々なシチュエーションで実走し、プログラムを熟成させたと語る。

シミュレーションだけではライダーをヒヤリとさせない適切なアシスト量にはならず、数パターンのセッティングを出先で変更しながら煮詰めた。また、多彩な公道を走行することでシステムの誤作動を回収したり、学習させたりすることも必要だったという。

特に首都高のように左右から頻繁にクルマが出入りするといった、レーダーのターゲットが沢山ある状況での設定が大変だったとのこと。なお、ごく希に動くものを認識しなかったり、動かないもの(ガードレールなど)を移動体と認識してしまうことがあるという。とはいえ、トレーサー9GT+のシステムが現行バイクでトップレベルに賢いのは確かだ。




右手を(ほぼ)捻らずOK、疲れずに目的地へ到着できる!

自宅から高速道路を経て、目的地まで行くツーリングをする場合、道中で疲れてしまうなんてケースは多い。しかしACCがあるトレーサー9GT+なら楽々と移動でき、余裕を持って目的地にまでたどり着ける。

早朝からのツーリングでは、眠気や疲れで注意力が散漫になってしまうケースもままあるが、ブレーキアシストによって万一の際も命拾いする可能性が高まるだろう。個人的には、ライダーへの警告としてメーター画面だけではなく、スマホのように音や振動でライダーに気付かせるシステムがあってもいいのかではと思った。また将来的には、カメラなどを用いてライダーの状態まで把握し、衝突を防いでほしいとも思う。

こうしたアシストを嫌う人は、標準仕様のトレーサー9GTも用意されているし、GT+では設定でオフにすることも可能だ。

いずれにせよ、このラクチンさと自然な介入は正直、感動モノだった。そして、ギリギリまで介入を避け、あくまで乗り手の意思を尊重する開発陣の姿勢にもライダーとして共感した。ぜひ一度試して欲しい!


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