
久しぶりの400cc並列4気筒エンジン搭載マシンとして話題沸騰中のカワサキ「ZX-4R」シリーズ。今回はスポーツ性能を高めたバリエーション「ZX-4RR」をサーキットで試乗するチャンスがあった! 私は普段250ccのクルーザーに乗っている普通免許ライダー。果たしてこのゴリゴリのSSを乗りこなすことはできるのだろうか?
「あれ、これ250ccですか?」と言いたくなるコンパクトな車体は足つきも不安なし
今年2月に初公開され、7月から国内販売も開始されたZX-4Rシリーズ。国内に導入されたのは、アジャスタブルサスペンションなどのスポーツ装備を搭載した「ZX-4RR」と、スライダーやUSBソケットなどの普段使いに便利な仕様の「ZX-4R SE」の2種。スペックはどちらも変わらず、最高出力77PS/14500rpmを発揮する水冷並列4気筒エンジンを採用。トラクションコントロール「KTRC」やアップ/ダウン対応クイックシフター、オートブリッパーなど、ミドルクラスの域を超えた豪華装備を備える。

ついに発売されたZX-4RRとZX-4R SE。RRはライムグリーン、SEはブラック/ブルーでラインナップされる。

ZX-4RR、SEどちらもSHOWA製SFF-BP倒立フォークを採用。プリロード調節機構を備える。

RRにはZX-10Rと同等(!)のBFRC-liteサスペンションが標準装備。フルアジャスタブルタイプだ。

SEにはスモークスクリーン、フレームスライダー、USB電源ソケットといったユーティリティ装備が充実。
とはいえ、ハイスペックなSSは基本的に乗りづらいものだ、と身長165cmの筆者は考えている。高いシートに重心、遠いハンドル位置が当たり前……という偏見だ。しかし、そんな偏見は実車を目にして消えた。ZX-4RRは、クラス下の兄弟・ZX-25Rと変わらないサイズなのだ。というのもフレーム、ホイール、サスペンションといった基本的なパーツはすべてZX-25Rと共通。サイズ感も当然同じになる(タイヤサイズのみ、横幅が10mm大きい設定)。シート高の数値はZX-25Rから15mm高い800mmとなっているが、実際に跨ってみるとほとんどその差を感じない。足つき具合はつま先が地面に接地、土踏まずは浮いてしまう程度で、駐停車はなにも心配いらないだろう。

またがったのはSE。車体サイズはRRと同じだ。ZX-25Rにもまたがったことがあるが、サイズ感は全く同じで、事前情報がなければ区別がつかないかもしれない。重量感もさほど変わらないのに驚き。
ポジションもやはり250ccクラスと変わらず無理がない。ハンドルはセパレートだがトップブリッジの上でやや高い位置、低すぎて腕が伸びてしまうこともなかった。足をステップに乗せると自然にタンクカバーの滑り止め加工にヒザが収まるため、力を入れずに正しいスポーツライディングのフォームがとれる。ZX-25Rにもまたがったことがあるが、あらためてこのシリーズの設計のよさを体感したという感じだ。おもしろいのは車体の重量もあまり変わらないように感じるところ。ZX-4RRのほうが6kgほど重い189kgあるにもかかわらず、車体を起こすのに力はあまり要らず、ZX-25Rと同じくらいの重量感でしかない。エンジンは設計が変わり、重量バランスも異なっているはずなのにだ。とにかくZX-4RR、「ちょっと大柄な250cc」くらいでしかなく、モンスタースペックを裏切るフレンドリーさがあるようだ。

足つきはつま先、指が全部接地し、土踏まずが浮く。足首が硬いレーシングブーツでこれなので、ツーリングシューズならもっとしっかり足が付くはずだ。

片足をステップに乗せたところ。ヒザは自然にタンクサイドへおさまり、ステップ位置にも違和感なし。ハンドルの高さもやや高めで、体格にはピッタリという感じだ。
77PSにビビる!? かと思いきや、初心者でもイケるでしょ……
さて、ひとしきり取り回しや足つきをチェックしたところで、実際の試乗となる。実は私、このとき結構ビビッていた。だって77PSである。昔のナナハン自主規制がこの数値であったそうで、もちろん普通免許ライダーにとっては未経験の領域。振り落とされやしないか? と内心ビクビクしていた。
ところが、またがった時に感じたフレンドリーさは走り出しても同じだった。並列4気筒機でよく言われる低回転のトルクの薄さはなく、低速から安定して走る感覚は教習車のCB400SFを思い起こさせる。それに安心してアクセルを開けると、らしい甲高い排気音で一気にタコメーターがレッドゾーン(16000rpm)まで! 速度もグングン伸びる……が、気づけばコーナーが間近に迫ってくる。あわててアクセルを戻しシフトダウン、けっこう慌てたというのに、車体はブレることもなく一気に減速する。これはクイックシフターのおかげでもあり、ハイレベルなサスペンションの性能によるものだろうが、まるで自分が上手くなったかのような錯覚があった。そのまま危なげないハンドリングで深いコーナーへ進入し、またアクセルをオン! これは楽しい!
サーキットコースとはいえ、タイヤはスポーツツーリングタイヤで、特にハイグリップではない。それなのにZX-25Rと同サイズの車体はグイグイ旋回してくれ、数周目にはもう膝を出してフルバンクを狙ってしまった。ピークパワーの77PSが何かと話題になる車種ではあるが、実際のところ低回転からなめらかにトルクが沸き上がる感覚のほうが私にとっては嬉しい感覚。これなら、全開でふかし切ることのない公道のワインディングでも、コーナリングを楽しめるのではないだろうか。

低回転から安定したトルクで、なめらかに走り出したZX-4RR。並列4気筒マシンは低速に気をつけて、なんてのは過去の話のようだ。

筆者はさほどスポーツマシンの乗車経験がないが、それでも乗車数分(!)で膝を出せる安定感を発揮。ビッグバイク並みの足回りが成せるコーナリング性能の力。

スロットルを開ければ甲高いサウンドとともに、タコメーターは一気に1万6000回転へ。振り落とされるような加速ではないが、どこまでも伸びる回転と共に77PSの出力を体感!
正直なことを言うと、私はこのZX-4Rシリーズが発表されたとき、「やりすぎだ!」と思っていた。普通二輪免許で乗れる400ccクラスには初心者ライダーも多く、もしかするとZX-4RRが人生はじめての1台になるかもしれない。そこでモンスタースペックのマシンがコントロールできるわけもなく――という不安だ。ところが、そんなイメージは実際に乗ってみると完全に払拭された。とにかくそのパワーが語られがちなZX-4R、とてもフレンドリーで扱いやすいエンジン、多少の操作ミスもカバーしてくれる車体の度量の深さ、そういった特徴はむしろ「初心者にこそピッタリ」なのかもしれない。普段クルーザーに乗っている私でさえ、ほんの1周でコーナリングを楽しみたくなるほどだ!
しかしもちろんビギナーのみに向いているわけもなく、レッドゾーンまで引っ張った時の加速感、緊張感は強烈。並列4気筒ならではの高回転を維持する走りを楽しみたいというベテランも、満足できる性能を持ち合わせている。SSのエントリーマシンとしても、ベテランがやり込むマシンとしても、どちらにしても面白いこのマシンを、400ccクラスで投入してくれたメーカーには感謝を送りたい!

エントリーライダーにもお勧めできる、とにかく安心感が高いZX-4Rシリーズ。しかしスポーツ走行のための牙も鋭く、SSのエントリーにはピッタリの1台ではないだろうか。
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