1996年秋に発売されたホンダのCBR1100XXは、スーパーブラックバードというペットネームが付けられたフラッグシップスポーツ。カワサキZZ-R1100の"世界最速"に"世界最高性能"で対抗した野心作だ。
ホンダの中だけでなく全バイクのフラッグシップとする
CBR1000Fの後継機として企画されたCBR1100XXは、ホンダのスポーツモデル最大排気量のフラッグシップとしていくつかの方向性が検討されていた。最も有力だったのは「ホンダの持つ軽量化技術を前面に出し“操る楽しさ”を主眼に置いたモデルチェンジ案」だったという。
1990年代前半、リッタークラスの大型二輪車においてホンダは高速ツーリングバイクを指向していたこともあり、スーパースポーツの性能面で他社に先行されていた。そこで1992年にデビューしたCBR900RRの軽量化技術をリッタークラスにも応用するアイデアだった。
しかし、当時好評を得ていたZZ-R1100に対抗するための特徴が「軽量化」で果たして成功するのか? という疑問もあり、「世界最高速を持ち、ホンダの中だけでなく全バイクのフラッグシップとする案」に舵を切り、「ザ・グレイテスト・スーパースポーツ」を標榜した。
ホンダは加速力だけでなく運動性能や快適性、安全性においても最高の性能を発揮する真のフラッグシップを目指し、CBR1100XXの開発に乗り出した。これには300km/hを想定した世界最速を目指すことも含まれており、1990年代後半の最速争いの勃発にも繋がっていったのだ。
CBR1100XX SUPER BLACKBIRD [HONDA] CBRの文字が大きくてワイルドな最終スケッチ。軽量なCBR900RRを起点としつつ、高速性能を高めたコンセプトが伺える。
ZZ-R1100(1993年) [KAWASAKI] 「比較は無意味」と最高峰を謳ったカタログ。320km/hまで刻まれたメーターを持つカワサキのフラッグシップがCBR1100XXの仮想敵だった。
CBR1000F(1993年) [HONDA] 1987年以来3度目の改良で国内仕様も登場。前後連動ブレーキを装備するなどの特徴もあったが、233kgのZZ-Rに対し249kgの車重で運動性が難だった。
ホンダ初の2軸2次バランサー搭載エンジンの効力をフル活用
CBR1100XXの開発は、249kgあったCBR1000Fから軽量化することにもこだわり、エンジンはCBR900RRの新世代水冷直4の設計を基本にボアを9mm拡大した1137ccに設定した。さらに、フラッグシップとしての上質さを実現するため2軸2次バランサーも導入している。
出力を向上させるために、ノッキングセンサーによる点火時期の制御や吸入抵抗およびフリクションロスの削減などを実施。CBR1000Fから排気量を拡大しバランサーを装備したにもかかわらず、29PSの出力向上とエンジン単体で10kg以上の軽量化を達成した。
また、低振動化によりコンロッド長を抑えることでエンジンをコンパクト化。エンジンはフレームにフルリジットマウントが可能となり、高剛性でダイレクト感のある操縦特性と安定性を両立した。ちなみにフレームは従来の同クラス車から20%以上軽量化している。
空気抵抗は「600cc並」を目指し、上下2段ヘッドライトで従来比約2倍の明るさとしつつ空力特性に優れたカウルが完成。さらに樹脂パーツには新しい成形製法を採用しフロントフェンダーは軽量化と高剛性化を実現するなど、ホンダの技術をフル投入して最高品質のフラッグシップが完成した。
CBR1100XX SUPER BLACKBIRD(1996年) [HONDA] 164PSというZZ-R1100を17PS上回る最高出力と先進のメカニズムを満載してデビュー。世界中で大きな反響を呼んだ。
1996年秋頃に発売。メインの市場は欧州で車体色も3タイプが用意されたが北米仕様は黒のみでペットネームが付かない。1997年だけで3000台以上が逆輸入車として日本で販売された。
エンジンはCBR900RRに準じる右サイドカムチェーン方式を採用しインレットポートをストレート化した。クランクケースは、シリンダーとケース一体式の軽量オープンデッキ型を採用。
ビリビリとハンドルから伝わる2次振動を打ち消すバランサーを2軸にすることで2次振動が大幅に低減。初採用のXXでは1回目の設計でトラブルが発生し、設計変更の末に完成した。
アルミツインチューブフレームと並列4気筒の基本構成はCBR900RRを踏襲。初期型XXはツインラムエアダクトではなくアッパーカウル内に設置されたオイルクーラーの冷却ダクトだった。
2軸2次バランサーの採用の恩恵でエンジンをリジットマウントさせた。2006年にはカワサキのZZR1400がこれと全く同じアプローチでフレームを軽量化させている。
フロントカウルのロングノーズ化などで空気抵抗係数は0.325とCBF1000Fに比べて約18%も低減し、250ccクラスなみの値を達成。これは上下2段ヘッドライトの恩恵が大きい。
フロントフェンダーにはガスアシスト射出成形という厚肉部の内部に窒素ガスを圧送することにより中空部を形成する成形方法を採用した。高剛性化、軽量化が可能になった。
スピードメーターはなんと330km/hスケールを採用。ZZ-R1100の320km/hを10km/h上回っており、実際ZZ-Rでは届かなかったメーター読み300km/hを超える性能を発揮した。
エンジン幅はCBR1000Fよりもコンパクト化されダイヤモンドフレームに搭載。エンジンは30度ほど前傾させダウンドラフト吸気にしている。写真の1999年型で燃料供給にFIを採用した。
GSX1300Rハヤブサの登場を察知してか、1999年型でFI化とともにラムエアインテークも採用した。最高出力は164PSで変化はないが、ラムエア加圧時のパワーは高まったはずだ。