
2008年に登場したDN-01は、HFTという新たな変速機構を採用したATモデル。前身は1962年のジュノオM85に遡る実に46年越しの新型で、本田宗一郎氏が描いた「夢のスクーター」の現代版だ。
スクーターからクルーザーに姿を変えてHFTを実用化
ホンダ伝統の水冷V型2気筒680ccエンジンを搭載したDN-01は、オートマチックトランスミッション(AT)を搭載して新しいコンセプトを提唱したモデル。国内市場の成熟に伴い高まった、大人の趣味の乗り物としての大型バイクやATモデルへの関心に応えたものだ。
そこで、1962年にジュノオM85に搭載された油圧機械式無段変速機を発展させた新型AT=HFT(Human-Friendly Transmission)を開発しDN-01に搭載。モデルはスクーターからクルーザーへと変化したが、共にイージーな操作を実現するという目的は一致している。
一方DN-01は、スクーターとは異なるオートマチックスポーツの新たな走りの楽しさを具現化。標準の「Dモード」や俊敏な「Sモード」のATモードに加え、「6速マニュアルモード」を設定しスポーティーな乗り味とイージー操作を両立。スポーツクルーザーとして独自の魅力を追求した。
2008年3月に発売されたDN-01の年間販売計画数は3000台。翌2009年はカラーリングを変更し計画数は300台まで減少し生産終了した。短命に終わったのは、税抜118万円と高額だったのと、2010年にはVFR1200FのDCTが控えていたことが影響したと思われる。

DN-01(2008年) [HONDA] 新コンセプトのATクルーザー。2005年の東京モーターショーに参考出品された後市販化されたが、世界同時不況の最中だったことも不人気の要因だろう。

ジュノオM85(1962年) [HONDA] 世界一のスクーターを目指したジュノオM85は、「夢の変速機」と呼ばれた無段変速機を装備したが、高額だった上に当時の不況の影響もあり短命に終わった。

有機的かつ斬新なスタイリングを目指したDN-01は、独特なフェイスデザインを採用。中央にハイビームのマルチリフレクター、左右にはロービームのプロジェクターヘッドライトを搭載。

HFTは通常のミッションと変わらないコンパクトサイズになることから駆動系は一般的なバイクと同じ。DN-01は片持ちのシャフトドライブとなるが、これはE4-01やグリフォンを踏襲している。

エンジンは水冷V型2気筒680ccを採用。2006年に排気量を拡大したNT700Vドゥ―ビルをベースにHFTを組み込んでいる。スティードなどがベースのホンダ伝統のユニットだ。
HFTの特徴とは? ほぼDCTでカバー可能
ホンダは、ジュノオM85に搭載した油圧機械式無段変速機を応用し、1990年には変速機に対してもっとも要求が厳しいとされるモトクロスマシンに電子制御の油圧機械式無段変速機を搭載したRC250MAを開発。全日本モトクロス選手権に実戦投入している。
RC250MAは、ライダーがスロットルワークとブレーキングに集中できることから速さを発揮し、翌1991年に全日本モトクロス選手権でチャンピオンを獲得。この成功を受け量産に向けて研究を開始し、2000年には北米向けのATV(全地形走行車)にも搭載した。
これらの経験からHFTは開発されているが、最大の特徴は「従来のマニュアルトランスミッションとほぼ同等サイズ」にできること。RC250MAのようにMT車をベースにHFTを搭載できる上、「高効率な伝達特性」によりダイレクト感と優れたスロットルレスポンスを実現する。
さらに、「高い制御性」により電子制御で多彩な変速モードの設定が可能となり、DN-01は3つの走行モードを導入しているのだ。まさに"夢の変速機"だが、現在はDCTが普及しているのはコスト面で有利だからだろう。HFTとほぼ同等の機能をプラス10万円ほどで設定しているのだ。

DN-01のエンジンとHFT(手前)。V型エンジンに対して変速機の大きさが通常のマニュアルトランスミッションとそれほど変わらないことが分かる。

HFTは1本の軸の上に発進機能から動力伝達、変速機能まで持つ変速機なので常時噛合式より軸が少ない。DN-01では左が入力で右が出力になるが、1軸追加してシャフトドライブに伝達する。

RC250MA(1991年) [HONDA] セッティングが合えばエンジンブレーキも扱いやすかったと伝えられる。1991年はアルミハイブリッドフレームなどで課題だった重量増を克服した。

TRX500FA(2000年) [HONDA] 過酷な環境に耐える信頼性と様々な地形を走破するためのエンジンブレーキ性能を備えた電子制御の油圧機械式無段変速機を搭載した。
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