1990~2000年代、カワサキのフラッグシップはZZ-RとZXの2つのブランドが存在しており、その両立を試みたのが2003年の東京モーターショーに出品されたZZR-Xだ。速さを追求したZXと異なり快適性も視野に入れたモデルだ。

「最速のカワサキ」をエアーマネージメントで追求

「カワサキと言えば、大排気量のスーパースポーツとスポーツツアラーを思い描かれる事と思います。コンセプトモデルにおけるカワサキのチャレンジは、この二面性を妥協せずに同時に追求した場合、カワサキとしてどのようなものをご提案できるか、というものです」。

2003年当時、ZZR-Xを担当したデザイナーはこう語っている。2000年に登場したZX-12Rはスーパースポーツと同等の運動性能を持った最速マシンを目指して開発されたもので、“二面性”を妥協なく追求したものだが、今度はZZR-Xで新たなアプローチを模索したのだ。

ユニークなのは、ハイスピードツアラーモードとツアラーモード、スポーツモードの3モードの可変ポジションにしているところ。同時に、当時でも排ガス規制が厳しくなってきており、環境にもライダーにも優しくしかも速く走るために「エアーマネジメント」を追求している。

カワサキならではの航空技術を利用した空力で「最速のカワサキ」を目指したのがZZR-X。エンジンパワーではなく「エアーマネジメント」で空力パワーを引き上げたのが新しい。そしてこれは、ZZRシリーズから受け継がれたDNAとも言えるだろう。

ZZR-X(2003年) [KAWASAKI] 同年のミラノショーと東京モーターショーで公開されたコンセプトモデル。こちらは基本となるハイスピードツアラーモードだ。

ツアラーモード。カウルのフラップを開き、スクリーンとダクトの間に隙間があることからウインドプロテクションを向上させ、さらにハンドル位置が高められているのが分かる。

スポーツモードではパニアケースを取り外し、ハンドルとスクリーンはローポジションにセットされている。タンデムシートカバーは起こして背もたれにできるようになっている。

アメリカのデザインを日本で形にした合作

ZZR-Xは、最初からパニアケースを装着したスタイルでデザインされている。実用性を高めるだけでなくパニアケースがあることで面が多くなりデザインの幅が広がる。さらに、リアにパニアケースがあることで整流効果が高まり航空力学上でも有効だという。

もちろんスポーツモードではパニアケースを外して軽快な走りを楽しむことができるが、これもエアーマネジメントの一環となる。さらに各モードに応じてハンドルやステップ位置が変わり、好みのライディングポジションを選択できるようになっている。

またライディングポジションの変化に伴いカウリングが可変したり、フラップが開閉する事でウィンドプロテクション効果を調整可能にしている。フラップはライダーのヒザまわりを風圧から保護するために開くのだが、開いていた方が空力上きれいに流れる効果もあるのだ。

ZZR-Xは、最初のデザイン案をアメリカの現地デザイナーが考案し、それを基に明石のデザイナーと議論を繰り返して形にされたもの。アメリカのデザイナーも来日し明石でみっちりと話し合いが行われた日米合同制作というのもユニークなポイントだ。

アメリカ現地スタッフによるデザインスケッチ。当初から前後片持ちサスペンションで考案されている。エンジンは縦置きV型4気筒をイメージしているのだろうか。

デザイン案のサイドバッグは着脱式ではなく拡張式で布素材を使って容積が増えるように想定されていた。ウインカーは車体の奥に配置されている。

フロントまわりはハブステアの片持ちアームを採用。特徴的なのは円錐状のブレーキディスクで、これによりブレーキの冷却性能が飛躍的に向上している。

マフラーはカウル内に内蔵することでエンジンと共に熱の発生源を集約した。燃料タンクも車体中央に格納されており、マスの集中化も実現している。

「最速」「スポーツ」「ツアラー」コンセプトとZZ-R、ZXネーミングの変遷

ZZ-R1200(2002年) [KAWASAKI] 2000年に最速を目指したZX-12Rがリリースされたことで、ZZ-Rは「ツアラー」として再出発。排気量を1164ccにアップして152PSを発揮した。

ZZR1400(2006年) [KAWASAKI] この時期のカワサキは方向性が安定せず、ZX-12Rの流れを受け継ぎつつネーミングはZZR1400として進化。「最速」と「ツアラー」を融合させた。

ZX-14R(2012年) [KAWASAKI] 「最速」か「スポーツ」か「ツアラー」かという模索は、最終的にZX-14Rが「最速」と「ツアラー」を突き詰めた。2020年にZX-14Rは生産終了した。

Ninja H2(2015年) [KAWASAKI] スーパーチャージャーを世界初搭載して「最速」と「スポーツ」を追求したH2をリリース。2018年には「ツアラー」のH2 SXも追加され模索は今なお続いている。

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