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オーナーこだわりのオーダーメイドを柔軟に取り入れ、二人三脚で作り上げたコンプリートマシン
今なお多くのファンを引き付けてやまない空冷Z系というモデル。しかし、いずれも製造から40年以上が経過するモデルばかりであり、空冷Z系モデルをベースにRCMと呼ばれるコンプリートマシンを多数製作してきたサンクチュアリー本店でも、ここ1~2年で在庫状況が一段と厳しくなってきているのが実態とのこと。つまり、ふた昔前なら少し手直しをすれば乗れる状態の車両を見付けることはできたが、ひと昔前から大部分を刷新しないと安全に乗れないような状態の車両ばかりになり、さらに1~2年前からはかなり劣化した状態ですら入手困難になってきた、ということだ。それゆえ価格は高騰化に一途をたどっており、一般人にはなかなか手が届きにくい存在になっている。
しかし、そんな状況であっても、本当に欲しいと思う人は金額の高低に関わらずオーダーを入れている。サンクチュアリー本店でRCM-558と呼ばれるこのZ1000MkⅡもまた、オーナーが枯渇する危機感を感じながらもぜひRCMを製作したい、と同社にオーダーした1台だ。むろん、オーナーのこだわりを最大限注ぎ込んだ仕上がりをという内容となった。
なお、RCMとは基本的に2タイプが存在する。コンプリートマシンというとショップのお仕着せ仕様で完成した状態を購入する、と思っている人も少なくないだろうが、RCMの場合だとオーナーの希望を最大限沿いつつ製作されるオーダーメイドか、同社メカニック主導で製作されるクラフトマンシップを購入、さらにはクラフトマンシップ車両をベースにカスタムを進めることになる。最近では後者は製作される機会が減っているが、クラフトマンシップはコストを抑えるためもあり、純正流用品や同社で精査した良好な状態の中古パーツも活用して製作されていることがあった。とはいえ中古パーツとは同社または同社を旗艦店とするサンクチュアリーグループで製作された既存RCMの仕様変更時に余ったパーツなどを買い取ったモノとなり、RCM製作時から買い取り時までの使用条件などを把握・管理できているがゆえに使っても問題ないと判断したパーツに限られている。それほど新品以外のパーツに対しては意外なほど過敏な対応を行なっているのだ。それもすべては「かつてのフラッグシップモデルに現代的な走行性能を与える」という高い目標に向かって妥協しない作り込みを行なうがためだ。
ただし、このマシンでは例外的にフロントフォークはオーナー持ち込みの、クリアアルマイト仕様のアウターチューブとなるオーリンズ製フロントフォークが使用された。これはオーナーのこだわりを実現させるゆえ。もちろん同社で状態を確認したうえでの採用となるが、決してショップのお仕着せ以外は認めないわけではないのだ。
RCMとはオーナーとショップが二人三脚で製作されるマシンでもある。サンクチュアリー本店は自社が長年培ったノウハウ、使用パーツを厳選して提案し、オーナーがそれを了承し、納得の上でマシンは製作されていく。Z1000MkⅡに現代的な性能を与えるためには現代のスポーツシーンで最先端・最高峰の技術が込められた前後17インチのハイグリップラジアルタイヤの装着が必須と考え、それに耐えられるようフレームを補強し、車体姿勢の変化を最適化させるスカルプチャー製ブラケットとスイングアームを投入し、それにオーリンズ製フロントフォークとリヤショック、O・Zレーシング製アルミ鍛造ホイールでセッティング。さらにはハイレンジスピードでも車体を自在に制御できるようブレーキパーツもブレンボやサンスターなどハイエンドパーツをふんだんに盛り込んだ。
こうして完成したマシンは最高峰を目指した存在ゆえに特別な存在感を放つ。ここで勘違いしていただきたくないが、RCMが特別な存在感を放つのは豪華なパーツを使用しているからではない。妥協のない作り込みことが完成度を高め、一体感が高いからこその存在感なのだ。それをこのマシンが証明してくれるはずだ。
カスタムポイント
見慣れないオーリンズ製フロントフォークはオーナーが独自に塗装を剥がしてクリアアルマイト仕様にしたモノの持ち込み品。持ち込みだとそれまでの履歴が不明なので性能をフルに発揮できるかも疑わしくなることから同社では基本的に持ち込み不可としているが、オーナーたっての願いということで例外的に採用された。そこにナイトロレーシング製フロントフェンダーなど交換が容易なようセット販売しているE×Mパッケージのパーツを組み合わせた。
カスタムパーツギャラリー

同社はコックピット内のシンメトリーな配置を重視し、かつ極力シンプルなレイアウトを心がけている。ハンドルとハンドルバーエンドはデイトナのRCMコンセプト。同社製ではなくデイトナが独自にRCMをイメージした製品なので全国の量販店でも購入可能だ

クラッチやブレーキマスターはブレンボ製RCSラジアルマスターをチョイス。カスタムシーンで非常に採用例が多いが、引く力が少なくすみ、かつタッチ感がダイレクトに伝わるのでコントロール性にすぐれるなど利点が多い

エンジンはピスタルレーシング製φ71mmピスンとで1045ccにボアアップ。その他にも各種耐久性・信頼性アップのメニューを組み込んだ。とくに目玉はノーブレスト製ハイプレッシャーオイルポンプで、トロコイド式を採用することで純正ギヤ式に比べて油温安定に寄与している

マシンやライダーのスタイルを問わないシンプルな造形で人気を博しているナイトロレーシング製のステップをチョイス。軸受けにはベアリングを内蔵するなどスムーズなも動きも追求した。リヤブレーキのリザーバータンクをサイドカウル内に収納すべくマスターはかなり前向きだ

エキゾーストシステムはナイトロレーシングのフルチタン製。なおエキゾーストパイプの溶接痕はパイプを輪切りにして溶接し直したウェルドクラフト製法によるもの。丸パイプを急角度で曲げると断面がD字になって排気効率を損なうことを防止し、かつエンジンに極力近付けるための手法だ

ブレンボ製4ポットキャリパーとサンスター製"RCMコンセプト"ローター、O・Zレーシング製アルミ鍛造ホイールなど、足まわりには最高峰ブランドのパーツを取り入れる。もちろんここからさらなるハイグレード化もできるが、オーナーの用途などと勘案したこの構成に落ち着いた

オーリンズ製リヤショックはレイダウン処理して装着している。このレイダウンは昔から定番の処理だが、定番=簡単というわけではない。信規マウント部の製作や左右対称にマウントを溶接するなど難易度が高い処理であり、同社でも専用治具を用いて処理されている

オピボット周辺には半端な技術では安易に真似できないザグリ処理を加えて180サイズタイヤに対応するチェーンラインを確保。スプロケットカバーは油圧式への変更やスピード取り出しにも対応する同社製を採用する

スイングアームは空冷Z系の17インチ化時に最適な垂れ角や長さを求めるべく開発されたスカルプチャー製をチョイス。さらにスタビライザーやレーシングスタンドフックを追加工した特別仕様となる。チェーン引きはRCM専用品として特注されているモノだ

現在はレースシーンですらリヤフレーキは積極的に使われている。減速のためだけではなく車体姿勢を変化させるきっかけ作りだったりするが、より自由度の高いライディングを実現すべく、踏みしろを増してリヤブレーキを使いやすく設定。小径ブレーキローターはそのための採用なのだ
「Z1000MkII by サンクチュアリー本店」の主なカスタム内容
エンジン総排気量 | 1045cm3 |
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ピストン | ピスタルレーシングφ71mm |
キャブレター | ヨシムラTMR-MJNφ38mm |
エキゾーストシステム | ナイトロレーシング |
オイルクーラー | ナイトロレーシング |
電装系 | ASウオタニ SPII |
ホイール | (F)O・Zレーシング ガスRS-A 3.50-17 (R)O・Zレーシング ガスRS-A 5.50-17 |
タイヤ | ピレリ ディアブロ |
Fブレーキ | キャリパー:ブレンボ4ポット ローター:サンスター マスター:ブレンボ ラジアルポンプ ホース:アレグリ |
Rブレーキ | キャリパー:ブレンボ2ポット ローター:サンスター マスター:ニッシン |
Fフォーク | オーリンズ |
ブラケット | スカルプチャー |
Rショック | オーリンズ |
スイングアーム | スカルプチャー |
ハンドルバー | デイトナ RCMコンセプト |
シート | デイトナ RCMコンセプト |
ステップ | ナイトロレーシング |
情報提供元 [ カスタムピープル ]
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