カワサキが航空機に替わる戦後の事業を模索していた時代に、飛躍のきっかけとなったのがマッハシリーズだ。最初のモデルH1は二輪世界初の2ストローク3気筒エンジンを搭載し、世界最速に挑んだ。

開発目標は最速! 「絶え間ない性能競争に終止符を打つ」

1967年9月、開発コード「N100」の設計計画が策定された。海外向けに全く新しい強力なモデルをリリースすることを目的とし、当時の大型バイクで主流だった650cc英国車を上回るだけではなく、「絶え間ない性能競争に、終止符を打つ」という高い目標を掲げていた。

基本方針は「500cc級スポーツ車用で、世界最高の性能を狙う。低廉なるべく努力はするが性能第一主義を採り、性能を犠牲にしてまでコストダウンは考えない。スポーツ車として他社の追随を許さぬ革新的にして豪華なものたらしめ、主として米国市場に於ける次期主力製品たらしめる」というもの。

この排気量からN100=マッハ3/500SSのことだということが分かるだろう。性能面だけではなく価格は1000ドル以下(1ドル=360円の固定相場時代)とし、ライバルのトライアンフよりも3割も安い価格設定も条件とされた。これら高い理想を実現すべくカワサキの技術者は奮起したのだった。

マッハIII/500SS(1969年) [KAWASAKI] 1969年4月にアメリカで発売。カタログでも「BUILT TO BEAT THE FASTEST COMPETITION(性能競争に終止符を打つ)」と猛アピールした。

2ストローク3気筒エンジン採用の経緯

マッハ3/500SSの2ストローク3気筒というエンジンレイアウトが決定したのは1967年6月。カワサキにはA1サムライ(250cc)やA7アベンジャー(350cc)といった2ストローク並列2気筒モデルがあったが、あえて3気筒を選んだ理由はトライアンフなどの650ccモデルに対抗するためだ。

まず、最初に決められたのは2ストローク500ccという仕様で、この排気量でトライアンフ650などを上回る性能を出すには、並列2気筒・ロータリーバルブか、並列3気筒ピストンバルブに限られると分析された。ちなみに最高出力はこの時点で50~55PSを想定していた。

カワサキの開発陣は、前例がなくとも断固3気筒を選択。理論予測から吸・掃・排気各ポートの有効面積は倍、出力では31%も3気筒が優位に立つと判断されたのだ。重量では2気筒が有利になるが、軸間距離の減少などの利点もあって3気筒との差は僅少だった。

なお、2ストロークと4ストロークの重量差は絶大で、出力次第では4ストローク750cc級をも上回るパワーウェイトレシオが達成可能と予測されていた。実際にマッハ3/500SSの乾燥重量は174kgと、同年デビューしたCB750フォアの同220kgを46kgも下回っていたのだ。

2ストローク並列3気筒ピストンバルブ498ccのエンジンは比較検討された並列2気筒ロータリーバルブ式よりも高性能という判断から採用された。また2気筒より振動面でも有利とされた。

トライアンフの4ストローク並列2気筒650ccエンジンは、1962年にボンネビルで224.57MPH=361km/hの世界記録を記録。マッハ3の時代には並列3気筒に移行しておりトライデントが60PSを発揮した。

CB750FOUOR(1969年) [HONDA] マッハ3と同年にホンダが並列4気筒エンジンを開発し、英国車を圧倒した。CBに対抗するためカワサキは4ストローク4気筒の計画を加速させたのは有名な話。

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