
こんにちは! 今週の「WebikePlusスタッフが勧める意外といいぞ!」のコーナーです。
安くてカッコいいバイクを買ったので、意気揚揚と仲間に見せたら「ああ……コレ買ったのか……」なんて言われ、その言葉どういう意味!? と思いつつネットで調べたら「壊れやすい」だの「不人気」だのひどい言われよう。

そんな経験ありませんか? だからってさっさと買い替えるのはちょっと待った。キラキラした大人気車ではなくても、どんなバイクも個性の塊。メーカーが「これは売れるぞ!」と意気込んで開発したバイクたちは、それぞれ独特の魅力を持っているもの。
そこで、人気はどうあれいいものはいいぞ! とゴリ押ししていくのがこのコーナー。人気モデルに乗ってりゃエライ時代は過去のもの、現代こそマイナーバイクを全力でお勧めしたい! と「マイナーバイク好き(自称)」のWebike+スタッフ・西田が独断でピックアップしたモデルを紹介していきます!
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目次
忘れがたいカワイイシルエットは”童夢”製
今回紹介したいのは、スズキ「VOLTY(ボルティー)」。このモデルは1994年に発売された250ccのネイキッドで、「LIFE CRUSING BIKE」がカタログのキャッチコピー。生活にとけこむバイクというコンセプト通り、ものすごいパワーや先進技術、圧倒的な走破性などの「すごいぜ!」というポイントは特にありません。しかしなぜでしょうか、そのシルエットはとても印象的で妙に記憶に残るもの。スポーツマシンにしか興味がなかった当時のライダーにも「お、ボルティーじゃん」とはっきり覚えている人が多いのです。

1994年発売のスズキ「ボルティー」丸っこい独特のスタイリングが特徴で、存在感あるデザインを覚えているライダーも多いだろう。

クラシックなスタイリングはスズキによる「生活にとけこむバイク」というコンセプトを実現したもの。威圧的な雰囲気はまったくなく、優しいデザインだ。
その独特のイメージを形作る大きな要素が、ぐにゃーとした実に丸っこい燃料タンクと、クラス以上に大きなシート。タンクが丸っこいのはだいたいのバイクがそうなんですが、ボルティーのそれは風船のように膨らんでいて、フチまでぽてっと柔らかそう。シートは盛り上がったタンクとは対照的に低く抑えられ、幅広で座り心地もいいうえ足つきもとってもラク。このデザインを実現するために、一見ダブルに見えるシートはセパレートとなっています。さらに車体自体がとても小さく、ホイールベースは1325mmと現代のジクサー150(1335mm)よりもコンパクトで、背中を丸めた猫とでもいうべき、実にカワイイシルエット。
この印象的なスタイリングを手掛けたのは、なんとカーデザインで有名な「童夢」でした。1978年に発表された試作車「童夢-零」がスーパーカーファンの心をつかみ、ル・マン24時間レースやスポーツカー選手権への参戦マシンも製作している童夢によって、シンプルな250cc空冷単気筒というカテゴリーのバイクが、クラシックで洒落たデザインとなったのです。

ポッコリしたタンクはボルティーの印象を決定づける重要なファクター。車体のデザインはスーパーカーで有名な「童夢」が手掛けていると聞くと、その完成度の高さにも納得。

ワイドで乗り心地がよいことと、スリムで足つきがいいことは矛盾する要求ながら、ボルティーではセパレートタイプのシートを採用し問題を解決。流れるようなデザインを維持しつつ、実用性を高めた。
性能も装備もオーソドックス。だから誰にでも取り廻せる!
そんなカワイイボルティーなんですが、外見だけのバイクというわけではありません。性能面を見てみると、搭載するエンジンは250cc空冷単気筒SOHCで、ボアストローク72.0mm×61.2mmのショートストローク。出力は20PS/7500rpmでトルクは2.1kgf/6000rpmを発揮します。スペックはソコソコながら、もとをたどるとオフロードスポーツ・DR250Sの搭載モデルがベースのこのエンジンは、TSCC(ツイン・スワール・コンバスチョン・チャンバー=2渦流燃焼室)を実現する4バルブのシリンダーヘッドを持ち、高回転高出力にも耐えるハイスペックな構造。
ここからさらに出力を控えめとし、ギア比やマッピングが見直された結果、燃費が57km/Lと非常に高い数値を発揮することになりました。これがどのくらい高いのかというと、高燃費で名高いホンダ・スーパーカブ100のボルティーと同年式モデルは58.1km/Lとほぼ同レベル。しかも燃料タンクは見た目通り大容量で12.0Lもあるため、リザーブを1Lと考えてもカタログ上では600km以上を走る計算! しかも250ccですから高速道路にも乗れ、長距離走行も可能なのでした。

エンジンはハイパワーではなく、ミッションも5速で高速走行やスポーツライディングは苦手。しかし丈夫で高燃費なため、ボルティーののちにも「グラストラッカー」「ST250」など幅広いモデルにも採用された。

コクピットはシンプルな単眼で、スピードメーターのみ。インジケーターもニュートラルランプとウィンカー、ハイビームのみだ。メカっぽくないのだが、ボルティーにはそれがとても似合う。
車体構成は非常にコンパクト&軽量で操作性抜群。ボルティーに乗ったライダーの感想ではよく「思った通りにコントロールできる」という言葉があるのですが、実際メーカーはそれを意図して開発を進めたようで、ボルティーの名前の由来も馬術においてコンパクトに馬を旋回させる「巻き乗り(Volte)」からとられたもの。
アップハンドルとポッコリタンクのために背が高く見えるのですが、先にも述べた通りホイールベースはとても短い1325mmで、この数値はオフロードやトライアルバイク並みで、オンロードモデルでここまで短い250ccモデルはほぼありません。それでいてフロント18インチのホイールで安定した直進安定性を持ち、車体重量は乾燥125kg。これらの要素が、どんなライダーにでも操れる操作性能を実現していたのでした。

ボルティーには多くのメッキパーツが使用されており、価格の安いモデルながら高級感は高い。重量感もたっぷりで落ち着いた雰囲気を演出する。

コントロール性の高さはツーリングにも初心者にも、女性にも熟練者にも、さまざまなライダーに愛される要素だ。
かつては人気だったため、今でも入手しやすい状況に
このような実用的性能に加え、ボルティーは新車でも非常に安い価格で販売されていました。なんと定価29万8000円。全体的にバイクの価格が低かった当時としても30万円以下の250ccというのは最安クラス。扱いやすく手頃というボルティーの人気が出ないわけがなく、1994年の発売から2003年まで、9年の間販売が続けられるヒットモデルとなりました。
「じゃあマイナーバイクじゃあないのでは?」というのは実際間違いではなく、印象的なデザインと長期間のラインナップで知名度の高いモデルあるボルティー。ところがそのおかげで、現在も空冷シングルの中ではかなり手頃に入手することが可能! というのが今回取り上げた理由です。排ガス規制の強化などにより続々と姿を消したこのカテゴリー、クラシカルでシックなデザイン、扱いやすい性能などから需要はまだまだあり、中古相場はかなり高めになっているのが現実。
例えばカワサキの「エストレヤ」もそのうちのひとつですが、2023年2月現在、中古価格は平均74万円。ヤマハ「SR400」は平均87万円、ホンダ「CB223S」は平均46万円と、お手頃とは程遠い価格帯に……(価格はいずれもWebikeバイク選びより)。ところが、ボルティーはなんと平均30万円。新車価格より高いのは絶版車の常ながら、このカテゴリーでこの価格をキープしているのは非常に魅力的。なおかつ、スポーツライディングやカスタムベースには不向きであるため、ノーマルの姿のまま、機械的にもヤレていない車体が多いのも素晴らしいのです!

カワサキ「エストレヤ」もボルティーと同じく、クラシックな空冷単気筒250ccながら近年人気が過熱。中古相場は強烈に上がっており、プレミアムなモデルになってしまった。
つまり意外といいぞ「ボルティー」
ボルティーにはド派手な性能やスゴイ伝説があるわけでもなく、絶版車の中では存在感がさほどありません。しかしだからこそ、現在も入手しやすく、気軽に楽しめる素敵なモデルとなったのです。
まとめるとボルティーは、

・「童夢」デザインのクラシカルな独特のデザインは唯一無二
・空冷シングル高騰の中でも、入手しやすい数と価格
という魅力を持っています。
ライディングやメンテナンスの基本を知りたい初心者にも、のんびりクラシカルなカワイいバイクを運転したい女性ライダーにも、あるいはロングツーリングのお供を探している人にも、様々な人に知ってほしい名モデル。それがボルティーなのです。
ボルティー(1994)主要諸元
・型式:NJ47A
・発売年:1994
・全長 ×全幅×全高 (mm):2005×765×1075
・ホイールベース (mm) :1325
・乾燥重量 (kg):139
・原動機種類:空冷4ストロークOHC4バルブ単気筒
・排気量 (cc):249
・内径×行程(mm):72×61.2
・圧縮比(:1):9
・最高出力(PS)/(rpm):20/7500
・最大トルク(kgf・m)/(rpm):2.1/6000
・燃料タンク容量 (L) :12
・変速機形式:リターン式5段変速
・ブレーキ形式(F):油圧式シングルディスク
・ブレーキ形式(R):機械式リーディングトレーディング
・タイヤ(F):3.00-18
・タイヤ(R):120/80-17
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