
文/Webikeスタッフ:アキヒト
目次
【カワサキ ZH2】
ディテール&試乗インプレッション
2019年の東京モーターショーで発表されてから早半年。Zシリーズの新たなフラッグシップモデルとして2020年4月4日に発売されたZH2は、「H2」の名の通りスーパーチャージドエンジンを搭載したネイキッドモデルです。ストリートファイター戦国時代とも言える現代において、Zシリーズ伝統の「SUGOMI」デザインとH2シリーズのスーパーチャージャーが合わさったZH2は、このクラスの新たな時代を予感させる1台と言っても過言ではありません。
しかも驚きなのはその価格。メーカー希望価格:1,892,000円と決して手軽に乗れる価格ではありませんが、1馬力あたりの価格は単純計算で9,460円とコスパ抜群。一昔前には「1馬力1万円」なんて言われていましたが、それを下回る価格で200馬力を味わえます!
今回はそんな発売前から話題の絶えなかったZH2の走りとディテールや装備についてインプレをお届けします!
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SUGOMI&Minimalist
【全長/全幅/全高】
2,085mm/810mm/1,130mm
【車両重量】
240kg
ZH2のデザインコンセプトは「SUGOMI&Minimalist」。「SUGOMI」とは、低いヘッドライト、塊感のあるタンクやエンジン、跳ね上がったシートまでのボディラインから「低く構えた猛獣」を連想させるZシリーズに共通したデザインのことを指します。さらに、左側にレイアウトされたスーパーチャージャー用のエアダクトが、他のZシリーズには無い強烈な存在感を放ちます。「Minimalist」の言葉の通り、機能部品に余計な装飾は施さず、あらゆるデザインをシンプル化しています。
独特の存在感を放つグリーンのトレリスフレームは、一見するとH2と同じものと思われがちですが、実はZH2の専用設計となっています。スイングアームも片持ちタイプではなく、Ninja ZX-10RRの技術をフィードバックしたものを採用しています。これにより、ハイパワーエンジンを支える高剛性と軽快なハンドリングを生み出すしなやかさを両立させています。
足つき
【シート高】
830mm
【足つき】
シート高830mmはスーパースポーツ並みの高さになりますが、身長173cmのスタッフでは両足のかかとが少し浮くくらいで支えられました。
155cmのスタッフだとステップの位置がちょうど足を真っすぐおろしたところにあり、ステップを避けたことで両足だとつま先立ちでギリギリ。車重もあり、この状態だと支えるので精一杯とのことでした。
ステップに足を掛けた状態を見てもらうとわかると思いますが、ニーグリップをしようとするとタンクを挟む前にフレームに膝が当たってしまいます。ポジションを意図的に変えることでタンクを挟むことができますが、自然なポジションになるとフレームを挟むことになるので、ホールドしにくいと感じるかもしれません。
実際に走り込んでみた
せっかくのZH2なので、今回は街乗り、高速道路、ワインディングと様々なシチュエーションで走り込んでみました。
街乗りは思った以上に得意!?
実は今回、1番衝撃を受けたのは街乗りだったかもしれません。
車両の押し引きや初めて跨った時はさすがに240kgの重さを感じましたが、支えること自体はそれほど苦になりませんでした。初走行時は内心200馬力とスーパーチャージャーに少しビビっていたので、ライディングモードを「ロード」にセットしてからスタート。ところが、いざ走り出してみるとクラッチの繋がりは非常にマイルドで、低回転で走ってもギクシャクすることなくスムーズに走り出しました。街中でも6速まで上げて走ることができ、60km/hの回転数は2,500回転でスーッと走り抜ける感じです。もちろんスロットルを開ければそこからしっかりと加速していきます。これは全てのシチュエーションで言えるのですが、メリハリのある走りをするのであれば、3~4速を使うのが1番気持ちよく走れました。
エンジンの扱いやすさだけでなく、操作系もアシスト&スリッパークラッチが採用された油圧式クラッチと電子制御式スロットルにより、各種操作が非常に軽くライダーへの負担も少なくなっています。
狭いところやストップ&ゴーは大きな車体柄乗っていて疲労感はありますが、そこはビッグバイクならどれも同じ話。「パワーがありすぎて扱いづらい」「低回転がギクシャクする」ということは無く、むしろ余裕あるパワーにより、低回転の走行も不満はありませんでした。
高速巡航性能は抜群!しかし快適ではない…
低回転での走行がメインだった街乗りからシーンを変えて、いよいよスピードが出る高速道路での走行に移ります。とは言っても120km/hまでの速度域となりますが、街乗り以上に回転数が上がるので期待が高まります。
本線合流の際にワザと1速のまま加速したのですが、ここでスーパーチャージャーが本領発揮!6,000回転あたりから一気に上がる回転数と、体が車体から引き剥がされるような猛烈な加速で、1速のままあっという間に100km/hに到達。不意に体感したこの加速は、思わずヘルメットの中で「これはヤバい」と口に出すほどの衝撃でした。「ヤバい」の意味は、このまま本気で走ったらどうなってしまうのかという恐怖心と、それ以上に高回転でブースト圧をかけて走り続けることがあまりにも気持ち良すぎて、このままでは免許がヤバいと言うのが正直な感想です。
街乗りでもスロットルを戻せば「ヒュルルルゥ」というスーパーチャージャー特有の過給圧を生み出すインペラの回る音が聞こえてきますが、高回転域になると加給圧により一気に送り込まれた空気で大きくなる吸気音と加速が、改めてスーパーチャージャーに乗っていることを思い知らせてくれました。
もちろん、ただパワフルなだけでなく、6速で走れば4,000回転ほどで100km/h巡行できるので、常に強烈な加速に備える必要もありません。しかもクルーズコントロールも備わっているので、長距離ツーリング時には重宝すること間違いなしです。
ただ、ストリートファイターが故に仕方ないことですが、当然体に風圧をもろに受けるのでパワーや機能は高速巡行に申し分ないものの、ライダーにとっては快適という訳ではなさそうです…
ワインディングは苦手じゃないけど気を遣う
低速域、高速域での走りをざっと確認したところで、今度はコーナリングを中心に試してみました。
コーナー自体は倒しこみ非常にスムーズで、特に曲がりにくいということもなく車体のホールド感も良い感じです。連続したコーナーが続くと車重相応に切り返しの重たさを感じますが、許容範囲と言ったところ。
ただ、気になったのはコーナー侵入よりも立ち上がりでした。バンク中でもスロットルを開ければ容赦なくスーパーチャージャーによる加速が待っています。連続したコーナーではこれが逆にギクシャクして走りにくかったり、意図しない急な加速でヒヤッとしたりと気を遣う場面が多々ありました。
6軸センサー(IMU)によるトラクションコントロールに助けられるシーンも何度かありましたが、すべての電子制御がZH2を操る為に必要な装備であることを教えてくれる瞬間でもありました。
200馬力のハイパワーを体感できるエンジン
Ninja H2と同様にスーパーチャージャーを搭載するZH2は、200psのハイパワーを発揮します。
エンジンは水冷・DOHC4バルブ・並列4気筒・998ccながら、カワサキ独自のバランス型スーパーチャージャーとそれを制御する電子制御により、あらゆる回転域で力強い加速感を得ることができます。
ちなみにこのスーパーチャージャーはカワサキの2輪部門だけでなく、航空宇宙システム、エネルギー・環境プラントの各部門と技術開発本部の共同開発によって設計されています。まさに「川崎重工業」の技術の結晶と言えますね!
さらに、スーパーチャージドエンジン特有の作動音と吸気音を楽しめるようにサウンドチューニングまで施してあります。
マフラーはこれから導入されるEURO5排ガス規制に対応するため、構造の最適化が行われています。
ハイパワーを自在に操る電子制御
スーパーチャージャーと200馬力についつい目が行きがちですが、搭載されている電子制御も充実しています。
ZH2に搭載されいてる電子制御について一挙紹介します。
・カワサキコーナリングマネジメントファンクション(KCMF)
6軸慣性計測装置(IMU)を活用したカワサキ独自の高度な車体マネジメントシステムの総称です。
これにより各種電子制御を高い次元で操ることができます。
・カワサキインテリジェントアンチロックブレーキシステム(KIBS)
前後ホイールの速度差だけでなく、ブレーキキャリパーにかかる油圧やECUの情報を解析し、通常のABSよりも細かいコントロールが可能となります。
・カワサキローンチコントロールモード(KLCM)
発進時にエンジンパワーを制御することにより、最も効率良く発進・加速するための機能です。主にレースのスタートで使われる機能となり、クローズドコースでの使用が前提となります。今回は実際に試す機会がありませんでした。
・カワサキトラクションコントロール(KTRC)
今ではバイクにも浸透してきたタイヤの空転を抑制するシステム。主にコーナリング立ち上がりなどでリアのグリップが失われた時に作動します。ホイールの空転だけでなく、IMUによる車体姿勢も加味した制御を行います。
・パワーモード
フルパワー・ミドルパワー・ローパワーの3種類からエンジンの出力特性を設定することができます。
ミドルはフルパワーモードの約75%、ローでは約50%エンジン出力を制限します。
・ライディングモード
パワーモードとトラクションコントロールを組み合わせたモード。スポーツ・ロード・レインと好みの組み合わせが可能なライダーの4種類から選択が可能です。
・カワサキクイックシフター(KQS)
アップとダウンに対応したクイックシフターです。2,500rpm以上から作動するので、街中でもクラッチ操作無しでシフトチェンジが可能となります。
・エレクトロニッククルーズコントロール
左スイッチボックスで任意のスピードに設定することで、スロットル操作を行わずに速度を維持してくれる優れもの。特に高速道路の長距離巡航時には重宝します。
SUGOMIデザインの灯火類
ZH2のフロントには、スーパーチャージドエンジンを搭載したモデルにのみ装着が許された「リバーマーク」が印されています。灯火類は全てLEDを採用し、ヘッドライトや「Z」を表したテールライトのデザインなど、他のZシリーズと同様にSUGOMIデザインを取り入れたものとなっています。
【ヘッドライト】
【テールライト】
新型TFTメーター
最新のフルデジタルTFTメーターは、2種類の表示から選択が可能です。画像の表示モードは、車体にかかるGとバンク角がリアルタイムで表示されるだけでなく、スーパーチャージャーのブースト圧までも目視で確認することができます。
ディスプレイの表示機能は以下の通り。
スピードメーター、タコメーター、シフトインジケーター、シフトアップインジケーター、オドメーター、デュアルトリップメーター、燃料計、航続可能距離、瞬間/平均燃費、外気温度、水温計、時計、エコノミカルライディングインジケーター、IMUインジケーター、KIBSインジケーター、ブースト圧、ブースト温度など、多彩な情報を必要に応じて表示させることができます。
さらに、専用のスマートフォンアプリ「RIDEOLOGY THE APP」をインストールすることで、車体とスマートフォンを連動させることができます。各モードをスマホで設定するだけでなく、走行記録までも確認することができるので、ツーリングの記録にも役立つ優れものです。
程よいポジションのハンドル
ハンドルの高さはそこまで低くなく、ストリートファイターにしては上半身の前傾もそこまでキツくありませんでした。
各種電子制御やメーターの表示は基本的に左スイッチで操作し、ディスプレイの設定は右スイッチよりメニュー画面を開いて行います。スロットルは電子制御式のライドバイワイヤとなります。
左右のマスターシリンダーは、H2ではブレンボ製のマスターを装備していましたが、ZH2ではニッシン製のラジアルタイプを装備しています。
ハンドル周辺で気を付けないといけないポイントとして、ハンドルバーにスペースが無く、スマホホルダーなどが取り付けにくいこと。メーターはハンドルクランプ上に設置されており、その左右はリザーバータンクによってスマホホルダーを付けるスペースがありませんでした。
軽快なハンドリングを支える足回り
【ブレーキ】
フロントは320mm径ダブルディスクとブレンボ製M4.32モノブロックキャリパーを装備。リアキャリパーはニッシン製となります。H2のブレーキが330mm径5.5mm厚のディスクとブレンボ製「Stylema」キャリパーを装備していることから、ZH2のグレードダウン感は否めません。それでもKIBSの搭載により、日常域でのブレーキ性能に不満はありませんでした。
【サスペンション】
フロントにはSHOWA製のSFF-BPを搭載。左フォークで減衰、右フォークでプリロードの調整が可能です。リアサスペンションも同じく調整可能なSHOWA製を採用しています。
ボリューム感のあるタンクデザイン
タンク容量:19L
ボリューム感のあるタンク容量は19Lと比較的多い方です。今回の試乗ではエンジンを回す機会が多かったこともあり、実燃費は約14Lほどでした。
ツーリングや街乗りがメインであれば燃費ももう少し伸びてくると思いますが、巡行距離は300km前後が目安となりそうです。
スーパースポーツ譲りのシート
シート形状はスーパースポーツモデルと同じデザインとなり、前方が絞られて後方が広くなっています。前方が絞られていることにより、シート高や幅の割に足つきは良くなっています。
タンデムシート下には標準装備のETC2.0が収納されています。
気になる販売価格は!?
メーカー希望小売価格(消費税10%込み)
1,892,000円
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まとめ
Zシリーズの新しいフラッグシップモデル「Z H2」はいかがでしたか?
スペックや装備、走りについて紹介してきましたが、あらためて思うのが「コスパ最高」の一言です。くどいようですが、語弊を恐れずに言うなら200馬力とスーパーチャージャーに最先端の電子制御がついて200万円以下はお買い得と言えるでしょう。今どきの最先端スーパースポーツなら国内メーカーでも200万円を超えていきます。個人的にこれまで乗ったバイクの中でも上位に入る楽しさがありました。
ただ、今回試乗していてネガティブに感じたのが「このバイクはどこで活躍するのか?」です。
スーパーチャージドエンジンと電子制御を存分に発揮させられるシーンは限られていますし、公道で気持ちよくエンジンを回せば間違いなく免許が無くなります。ツーリングも積載性や空気抵抗を考えると日帰りがメインとなりそう。ワインディングも思っていた以上に走るとは言え、足回りはH2と比べるとグレードダウンは否めません。巨体なだけにある程度走っていると足回りが気になりだします。それでも実際に乗ってみないとわからない楽しさがありました。
「サーキットはあんまり行かないけど、パワーのあるバイクで走りを楽しみたい」「とにかく目立ちたい」「200馬力って言いたい」「スーパーチャージャーついてるって言いたい」といった、ありとあらゆる自己満足を満たしてくれることは間違いありません。そんなバイクを探していた方には間違いなくオススメの1台です!
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