
2001年に公開されたホンダ R&D アメリカ (HRA) のコンセプトモデル「New American Sports(NAS)」をご紹介。見所は、VTR1000FのV型2気筒エンジンを搭載したイタリアンなスタイルだけではなく、前後片持ちの足まわりが超独特だった。
高度な技術が新しいスタイリングコンセプトに結実
1999年の冬にプロジェクトがスタートしたNASは、「オートバイの新しい方向性を示し、スポーツバイクにおける美しさを追求」したコンセプトモデル。従来のレーサースタイルのスポーツバイクを求める顧客とは異なる層に向けて徹底的に造りこまれている。
デザイナーのマーティン・マンチェスター氏が、「このマシンのすべてのハードウェアは美学のために設計されている」と語る通り、全てがデザイン優先で形作られており、生産性やコストなどは考慮されていない。それだけに、型破りな魅力に溢れているのだ。
中でも特に目を引くのは、フロントの片持ちサスペンションだろう。実際に作動するかは分からないが、極太のステアリングヘッド内にダンパーとスプリングが内臓されているという。HRAはこれをモノアームサスペンションと表記しており、その佇まいはあまりにも独特だ。
しかも、ブレーキディスクはビューエル以前にリムマウントを採用しバネ下重量を軽減、さらにWキャリパー(と言えばいいのか)で制動力を強化している。極めつけはリアラジエターを採用することでエンジンまわりがすっきりした外観になっている。
パフォーマンス以上にメカニズムの美しさを追求したNASは、芸術作品レベルのコンセプトモデルだ。

New American Sports(NAS) [HONDA] アメリカで製作されたコンセプトモデルで、2001年に公開。エンジンはVTR1000Fで、ピボットレスフレームもVTRから踏襲している。

アンダーカウルのような造形のマフラーもかなり斬新。前後ホイールはアルミ削り出しによるもので前後片持ち懸架のスタイルは唯一無二。

公開された2001年には、イタリアベネリのトルネード トレがリアラジエターで発売されていたが、それでもレアなメカニズムだ。

モノアームサスペンションは、カーボンファイバーとアルミニウムのハイブリッド構造でバネ下重量を軽減している。

ステアリングヘッドにはダンパーとスプリングによるサスペンション機構がセットされている。加えて可変キャスターまで装備していた。

ステアリングヘッドにはステアリングダンパー機構も内蔵されており、ソフト~ハードの調整もトップブリッジでできるようになっている。

右側のダクトはエンジン用と思われ、カートリッジ式のエアフィルターをセットする。反対側のダクトはテールカウルに内臓されているラジエターへ導かれる。

クラッチは乾式に換装されている。クラッチの前方にはウォーターポンプがあり、ラジエターホースはメッシュカバー付きとしてドレスアップしている。

VTF1000F [HONDA] 日本ではファイアーストーム、北米ではスーパーホーク996という名称で発売。ピボットレスフレームを採用し、前後長を詰めるためサイドラジエターを採用していた。
日本では、XAXIS(ザクシス)として東京モーターショーに出品された
NASは、2001年10月に開催された東京モーターショーでXAXIS(ザクシス)というネーミングで参考出品された。紹介文は下記の通り。
「4灯プロジェクターヘッドライトをコンパクトにまとめたフロントカウル、ラジエーターをビルトインしたテールカウル、アンダーカウルを兼ねたマフラーなど、機能美を追求した斬新なスタイリング。
“アダルト層のユーザーに、造形美とハイテクノロジーを融合した独特のスポーツスタイルを提供する”ことを目的に、HRA(ホンダ・リサーチ・オブ・アメリカ)が製作したコンセプトモデルです」。
ザクシスは発売も期待されたが結局ウワサは立たなかった。当時のホンダは、エイプやズーマーに加えてバイトなど、若者中心の開発チーム「Nプロジェクト」の作品が次々とヒットを連発していた。

当時のプレインフォメーションにはザクシスとエリシオン(奥)が並べられていた。エリシオンは2004年に4輪の高級ミニバンになって発売されたが、ザクシスは市販されなかった。
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