
現在、特にロードスポーツバイクにおいては、冷却水を循環させてエンジンを冷やす「水冷方式」が一般的となり、走行風でエンジンを冷やす「空冷方式」は少数派になってきている。
そしてもうひとつ、最新の現行車からは姿を消してしまった冷却方式がある。
「油冷」だ。
1980年代、各社が空冷から水冷の開発を進める中でスズキが独自に開発した「油冷方式」のエンジンと、それを搭載したスズキの名車達を忘れないでいただきたいのだ。
スズキの油冷エンジンは、1985年にデビューした初代GSX-R750に初めて搭載され、2008年に生産終了したGSX1400に至る20年余りにわたって採用され続けた。
他社がエンジンの水冷化を目指す中、レースで勝つことを目指してスズキがぶちあげた当時の目標は「出力100馬力、乾燥重量176キロ」というものだった。出力は問題無いと思われたが、400ccクラス並みの軽さにするにはラジエーターなどを持つ水冷エンジンでは不可能と判断したスズキが開発したのが、独自の油冷システム(SACS: Suzuki Advanced Cooling System)だ。
これはエンジンオイルを潤滑だけではなく冷却にも積極的に活用し、高温になるシリンダーヘッド周りにオイルを吹き付けることで冷却するという発想が元になっている。
初代GSX-R750の完成は、アルミのツインダブルクレードルフレームに油冷エンジンを積み、軽量、コンパクト、ハイパワーで、後のスズキを代表するレーサーレプリカが誕生した瞬間となった。
以来、油冷エンジンは多くのモデルに搭載され「ゴリゴリっとしたトルク感」「細かなフィンを刻む美しいエンジンのデザイン」「高い耐久性」という特長と合わせて、未だに多くのファンがいる。
新車で買える車体はほとんどないが、2000年以降に登場した中古車は数が多く比較的選択肢は豊富だ。
レーサーレプリカに始まる油冷エンジンだが、ネイキッド、ツアラー、オフロード、クルーザーなど多くのタイプに採用された。今回取り上げる4車種のほかには次のようなモデルがある。
長らくスズキのフラッグシップとして君臨したGSX-R1100、ネイキッドのGSF1200と後継のバンディット1200、そこから派生したINAZUMA1200/750/400、単気筒エンジンのGoose350250、ビッグオフの元祖とも言えるDR800、オフロードのジェベル250、Vツインクルーザーで後ろ側の気筒が油冷となっているイントルーダー1400などがある。
油冷エンジンにスワップ、もしくは油冷モデルの外装を交換した「油冷カタナ」も定番のカスタムとなっている。いずれもスズキの強烈な個性が詰まったモデルばかりだ。
まさに「唯一無二」の「油冷」というエンジンでバイクを選んでみても面白い。
目次
SUZUKI GSX-R750 新車・中古車をさがす
2013年、シリーズ累計100万台を記念してGSX-R1000の特別仕様が1985台限定で発売されたが、GSX-Rの歴史は1985年の初代750に始まる。
乾燥重量179キロという車重は当時のライバルの平均の約20キロマイナスという軽さで、出力は100馬力(海外仕様)のエンジンは130馬力にまで耐えられるよう設計されていた。
誰もが買うことのできるレーサーレプリカの先駆けとも言えるマシンだった。
88年にフレームが一新され、翌年にレース用のキットを組み込んだシングルシート仕様のGSX-R750RKが登場、今でも高い希少価値を持つ。
一方、GSX-R1100は86年に登場したが、こちらはスズキのフラッグシップとしてより公道志向、ツアラーとしての性格が強い。
92年に最終モデルが登場し翌93年からは水冷化されたため、GSX-Rシリーズにおける油冷の役割はここで終わった。
SUZUKI Bandit1200 新車・中古車をさがす
レーサーレプリカであるGSX-R750と1100が水冷化された後も、油冷エンジンは他のモデルに引き継がれた。
1200ccに拡大された油冷エンジン搭載マシンとして最初に登場したのが95年のGSF1200/GSF750である(1100ccのネイキッドとしてはGSX1100Gが先に登場している)。軽量(乾燥で208キロ)、ショートホイールベースで「暴れ馬」と評され、ジムカーナ用として使うライダーも多く白バイにも採用された。
GSF1200はBanditの名前でヨーロッパに輸出されていたが、これをより穏やかな特性として欧州のツーリング志向のライダー向けに開発されたのがバンディット1250だ。
2006年にはよりシャープな外観となり、マイナーチェンジされたのだが、翌年に最終版のファイナルバージョンが発売され、水冷化したバンディット1250へと移行した。
美しい油冷エンジンはカウルの中に収めておくにはもったいない。魅せる心臓としてバンディットやINAZUMAのようなネイキッドモデルにうってつけなのだ。
SUZUKI GS1200SS 新車・中古車をさがす
INAZUMA1200をベースに、2001年「男のバイク」のキャッチコピーで登場したこのバイク(GS1200SS)の一番の特徴は、レトロな耐久レーサーの外観だろう。
80年の鈴鹿8耐で優勝したGS1000Rをモチーフとしており、21世紀とは思えないルックスが話題となった。
オリジナルに倣ってリアサスペンションはツインショックとなっているが、別体式のタンクがシートカウルの中に収められ、圧側の減衰力を調節できるようになっている。
トップブリッジ下にセットされたセパレートハンドルとレーサーの外観を持ちながらも、低いシート高(770mm)のおかげで前傾姿勢になりすぎず、大柄なスクリーンはツアラーとしての快適性を高めている。
01~03の各年にブラック、赤黒ツートン、青白ツートンがリリースされたが、その3年間しか生産されず、絶版後10年が経った今でも中古相場も高めに推移している。
SUZUKI GSX1400 新車・中古車をさがす
国内他社がCB1300SF、XJR1300、ZRX1200Rというリッタークラスのスポーツネイキッドの看板モデルをリリースしていた時代、スズキはGSX1400を2001年に登場させた。
メッキシリンダー、鍛造ピストンを採用した、新設計の専用油冷エンジンを搭載しており、油冷モデルは唯一のインジェクション方式の燃料供給となっている。
国産最大排気量のネイキッドながら「スポーツ性」にこだわって設計されており、1401ccという排気量を活かして12.8kg-mという大トルクでゆとりをもって走ることができる。
車体はコンパクトでCB1300SFよりも小さく、XJR1300に近い。乾燥重量はCB1300SFより23キロも軽い228Kg。
2005年には特別仕様の「GSX1400Z」が登場した。エンジン、マフラー、スイングアーム、フロントフォークのアウターチューブなど外装を全てを黒一色にし、ゴールドのホイールを装着する。マフラーはSTDの左右2本出しに対して、集合タイプの極太メガホンタイプとなっている男臭いバイクである(後にSTDも1本出しとなっている)。
最後に発売された比較的新しい油冷モデルであるため、このモデルをベースにカタナの外装を取り付けた油冷カタナもカスタムショップのオリジナルとして販売されている。