ヤマハは、2015年にバイク用の自律走行ロボ、2017年に自立バイクを発表してきた。これらの技術を活かした新たな運転支援システム「AMSAS」(アムサス)を公開。5km/h未満での走行時に制御を行い、立ちゴケや握りゴケを防いでくれる夢のようなシステムだ。

 シンプルな構造が特徴で、既存バイクへの装着も容易なのがポイント。果たして市販化できるのか? 価格はどうなるのか? 注目だ。

文/沼尾宏明
※当記事は2022年11月7日に「ベストカーWeb」に掲載されたものです。

前輪とハンドルを制御し、停まっていても倒れない!

 クルマに比べ、バイクの安全技術は遅れている。搭載スペースに限りがある上に、二輪という不安定な特性から複雑精緻な制御が必要だからだ。

 そんな中、ヤマハ発動機が11月11日、都内で「安全ビジョンおよび技術説明会」をプレス向けに実施。代表取締役社長の日高祥博氏と、技術・研究本部長の丸山平二氏が会見を行った。

 ヤマハは、人と機械を一体化させることで悦びや興奮を生み出す「人機官能」をモノづくりの大きなテーマに掲げてきた。その強みを活かし、新たに「人機官能×人機安全」を同社の安全ビジョンに制定。運転支援などの「技術」、安全教室の拡充といった「技量」、クラウドを活用した「つながる」の三本柱で、2050年の交通事故ゼロを目指すという。

 中でも注目は、初公開された「Advanced Motorcycle Stability Assist System」(AMSAS=アムサス)と名付けられた独自の二輪安定化支援システムだ。

 前輪とハンドルにアクチュエーターを装着。6軸IMU(慣性センサー)の情報を基に、モーターによる前後移動の駆動力と、ステアリングの操舵力で自動的に車体バランスを取り、自立する仕組みだ。

 5km/h未満で作動し、立ちゴケやフロントブレーキのロックによる転倒(いわゆる握りゴケ)を防止。Uターンのように極低速での旋回でも倒れることがない。なお停止中も自立をキープするため、足を下ろす必要さえないのだ。

 一方、5km/h以上の速度ではアシストが入らないので、バイクならではの操る楽しさを損なうことがない。

 会場に展示された車両は、ガソリンエンジンのYZF-R3をベースに電動(EV)化した研究段階のモデル。エンジンにもAMSASは搭載できるが、より制御のタイムラグが少ないEVの方が自立には向いているという。

YZF-R3をベースにAMSASを搭載した研究開発段階の車両。カウルの「04」は、自立バイク3号機のモトロイドに続く車両を意味する。バンパーは実験用で、なくても自立可能

AMSAS搭載車が走行している動画。デモ用に遠隔操作しており、5km/h未満なら無人でも倒れない。もちろんライダーが乗車しても同様だ

シンプルな機構のため、既存車両への対応にも期待できる

 これまでヤマハは、2015年に自律走行ロボの「モトボット」、2017年に自立バイクの「モトロイド」という実験車両を発表してきた。

 モトボットは、無人運転ロボットが通常の車両を運転するもので、車両を操作&運転する人側の情報の可視化や、車両挙動の関係性を解明するのが目的。2017年にはVer.2に進化し、200km/h以上でのサーキット走行も実現した。  

 モトロイドは、低速や停止時の自立を可能にしたモデル。メインフレームに沿って後輪につながった軸を回転させることで重心をコントロールしている。

 今回のAMSASには両者の技術が活かされている。モトボットからは走行状態の技術が、モトロイドからは停止状態での技術が活用され、長年の研究の集大成とも言えそうだ。

 そしてAMSASは構造がシンプルなため、フレームへの変更が最小限で済み、既存車両に後付け可能なのがポイントだ。

 モトロイドは大がかりなシステムで、バイクの根本から作り替える必要がある。なお、ライバルのホンダは後輪をスイングさせることで自立させる「ライディングアシスト2.0」を2021年11月に発表したが、こちらも車体後半を入れ替える必要がある。

 また、モトロイドやホンダのシステムは制御が強く、大きな力を加えても倒れない。一方AMSASは、これらに比べるとアシストする力が弱く、故意に倒そうとすれば倒れてしまうが、実際のシチュエーションでは有効。その分、軽量シンプルかつコストを抑えられ、後付けが可能というメリットがある。

 ちなみに、電力はそれなりに必要だが、バッテリーの増設がマストかどうかは「ノーコメント」。システムは前輪ではなく、後輪でも搭載OKと自由度も高い。

2017年10月の東京モーターショーで公開されたモトロイド。自立したまま低速で自動走行するEVだった。中心軸が回転すると下部のバッテリーが左右に振られ、バランスを取る

自立システムのホンダ・ライディングアシスト2.0は、車体後部にサーボモーターを搭載。ステアリングに影響を与えにくく、20km/h以上では制御が介入しないため、ライダーの動きをジャマしない

ライディングアシスト2.0は前輪の操舵を自動制御すると同時に、後輪&車体を左右にスイングさせることでバランスを保つ。ただしスイングアームほかリヤまわりを全て入れ替える必要がある

現時点での市販化は困難ながら「+5万円」を目標にしたい

 現時点でのシステムは非常に高価で、残念ながら市販化に関しては未定。ヤマハの日高社長は「さらに小型軽量化、シンプル化が必要。コストの問題がクリアできれば、今すぐにでも市販したい。私の感覚では(通常車両から)+5万円程度なら市場に受け入れてもらえる」とし、「四輪のアイサイトのようにAMSAS仕様が一番売れるようつくりこんでいきたい。期待してほしい」とコメントしていた。

 「+5万円」は、一昔前の二輪用ABSの感覚。市販化されれば、特に免許取り立てのビギナーや、足着きに不安な人に有効だろう。+5万円なら欲しい人は相当数存在すると思われる。

 ベテランにとっても300kg越えの大型クルーザーなど重量級モデルで大いに恩恵があるはず。やはり価格が課題になるだろう。

トップブリッジ下にアクチュエーターを搭載。5km/h未満の走行中はハンドルの操舵力でバランスを取る。タンク上部の膨らみは充電用のソケットだ

前輪には駆動用のアクチュエーターを装着。停止状態では意外にもステアリング制御は不要で、前後にタイヤを動かすことで自立をキープする

代表取締役社長の日高祥博氏(左)と、技術・研究本部長の丸山平二氏

ヤマハから世界初のブレーキ連動レーダーが2023年にも発売!

 一方で、世界初のバイク用ミリ波レーダー連携ブレーキシステムの市販化が決定した。

 搭載されるのは、11月のミラノショーで発表されたスポーツツアラーの新作、トレーサー9GT+。ヤマハ初のレーダーで前方の交通状況を探知し、他メーカーでも採用が始まっているアダプティブクルーズコントロール(ACC)が使用可能に。前方車両の速度に応じて車両が自動で速度をコントロールし、一定の車間を保ってくれる。

 さらに世界で初めてレーダーを利用した自動ブレーキ制御を採用。ミリ波レーダーとIMUが感知した情報を基に、ライダーのブレーキ入力が不足している場合、前後配分を自動調整しながらブレーキ力をアシストする。

 さらに電子制御サスも連動し、違和感なく安全に減速できるのがバイクならではのポイントだ。なお、ブレーキ入力が全くない場合はメーターの画面で警告。そのままブレーキングしない場合、自動停止はしない。

 レーダーの基本デバイスはボッシュ製だが、前後ブレーキの制御や電子制御サスとの連動システムはヤマハが独自開発している。

 ヤマハの発表によると、日本での発売は2023年夏以降の予定となる。

発表会場に展示されたトレーサー9GT+。下部ヘッドライトの間にミリ波レーダーが設置されている

トレーサー9GT+は、大画面7インチのカラーTFTメーターを新採用。前方車と接近しすぎた場合は画面で警告する。また、スマホとのブルートゥース接続が可能になった

世界的にバイクの死者数は増加中、ミスを防ぎ、事故後のケアも研究する

 日高社長によると、主要34か国で四輪の交通事故死者数が1990~2020年までの30年間で減少している一方、二輪の死者数は増加傾向と話す。

 また、同社の調べでは、二輪車が関連する事故原因として、四輪ドライバーの認知ミスが41%、判断ミスが14%を占め、二輪ライダーのミスは32%という。

 さらに二輪車事故の70%は「事故のきっかけが生まれてから2秒以内」に発生しているとのデータも。しかしバイクはとっさの回避操作が困難という問題がある。

 加えて、近頃の国内バイクブームで増えている若いライダーの安全意識が高いことが、今回の安全ビジョンを示す契機になったと話す。

 これらの状況を踏まえ、事故を減らすための運転支援を検討。ミリ波レーダーやAMSAS、無線通信による高度道路交通システム、安全教室などを導入していく。さらに車載および着用エアバッグ、事故自動通報システムも研究中で、万が一の事故に備える「被害軽減」にも取り組むという(導入時期や車種は未定)。

 ――バイクは操る楽しさが醍醐味である一方、四輪と違いバランスを崩しやすい。そのため、自動運転や安全支援、自動介入の導入は難しい側面がある。コスト面でも電子制御を搭載すると価格上昇を招き、普及価格帯のモデルで歓迎されない場合が多い。

 とはいえ、事故を回避したいという思いはメーカーもユーザーも同じ。技術の進歩を待ちながら、上手い落とし所を見つけ出したいところだ。

ヤマハによる資料。ストックホルム宣言は、世界保健機関(WHO)とスウェーデン政府が共催し、世界140か国の関係者が集った会議で発表された

高度道路交通システムを用い、二輪ライダーだけでなく、四輪ドライバーの認知&判断ミスを減らすことで、バイク事故を減少できる

事故のきっかけが起きてから「1秒以下」「1~2秒」で70%のバイク事故が起きている。人力による緊急の回避操作が困難なケースが多い

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