
11月11日、ヤマハが都内で「安全ビジョンおよび技術説明会」を開催。ミラノショーで初公開された新型トレーサー9GT+に搭載されたレーダーセンシングを活用したブレーキ制御技術とともに、二輪安定化支援システムを新たに発表した。
ライダー不在でも転ばない技術がより現実に近づいた
今回のヤマハの発表は、新型トレーサー9GT+の世界初のブレーキコントロール(BC)を先に知ると全体像が掴みやすい。トレーサー9GT+のBCはレーダーを装着することで実現した技術で、前方を走る車との車間距離が近づいた際にライダーのブレーキングが足りないとバイク側でこれを支援する。
バイクは減速するほど不安定になる乗り物なので、BCを強めるとバランスを崩しやすい状況になるのは想像に難くない。そこで、将来的な実用化を目指してヤマハが開発しているのが、Advanced Motorcycle Stability Assist System=AMSAS(アムサス/二輪安定化支援システム)だ。
アムサスは、歩行時とほぼ同じ5km/h以下の低速時に車体姿勢を安定化させるためのアシスト技術で、駆動力と操舵力の制御機能を搭載することにより、バランス取りを支援し低速での安定性を高めている。つまり、本来ライダーが行うアクセルとステアリング操作をサポートするメカニズムになる。
アムサスの特徴としては、フレームへの変更を最小限に抑えることができ、既存モデルへの適応性を高めていること。これが将来的にトレーサー9GT+に搭載されるとすると、停車するまでBCの介入を強められる可能性もある。ヤマハが世界初採用したBCにはさらに続きがあることを示しているだろう。

AMSAS [YAMAHA] YZF-R25にアムサスを装着した研究車両は無人で自立できるほどバランス操作が上手。チェーンがないことから研究車は駆動アクチュエータのみで走行しているのが分かる。

アムサスは、ライダーが手を放した状態でも操舵アクチュエータがステアリング操作を自動で行うためバランスを崩さず走行できる。

研究車は駆動アクチュエータで前輪駆動するメカニズム。実用の際は電子制御スロットル付きのエンジンでも可能になるだろう。

2023年型トレーサー9GT+ [YAMAHA] 世界初のブレーキコントロールは、前方に照射したレーダーの情報を元に必要であれば自動でブレーキをアシストする。

MOTOBOT [YAMAHA] ヤマハが2015年の東京モーターショーに出品したバイクを操縦するロボット。YZF-R1Mをモトボットが操縦し、V・ロッシに勝つことを目指したが、アムサスはこれの発展版とも言える。

2018年にBMWが公開した無人で走行するR1200GSアドベンチャー。既存の車両を利用しておりアムサスに近い例になるが、コンパクトさではアムサスの方が実用に近づいている。
ヤマハは「人機官能×人機安全」を開発思想に制定し、事故の無い社会を目指す
ヤマハには「人機官能」という開発思想があり、「人」と「機械」を高い次元で一体化させることで「人」の悦びや興奮を生み出している。そして、新たな「人機安全」とは、「人」と「機械」が、相乗作用で高度な安全を実現し、事故のない社会を目指すことを意味している。
ヤマハの開発思想に「人機安全」という新たな要素が加わることにより、アムサスが今後の製品化に結びつけられることは確実と言えるだろう。なお、「人機官能×人機安全」には、つながる機能が含まれており、2023年型からスマートフォンと連携するモデルをヤマハが急速に増やしているのはこれの一環だろう。

11月11日、アムサスと記念撮影に応じるヤマハ発動機の日髙祥博社長。

2023年型トレーサー9GT+やアムサスは3本の柱うちの「技術」にあたる。つながるは、ヤマハが車両をスマホと連携させることで、走行データを収集して解析することも含まれるだろう。
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