
1990年に発売されたEZ-9(イーズィーナイン)を覚えているだろうか? 1970年代にモンキーやダックスでホンダが切り開いたレジャーバイク市場に向けて新たに放った意欲作で、フルカバードの外観やオートマチック変速でより気軽にオフロードた楽しめるモデルだ。
これがダックスのイメージスケッチやダックスをベースにした研究車と共通点があり、EZ-9やEZSNOW(イージースノー)の原型になっていた??
目次
新しいスタイルで誰でも簡単に操作ができるオフロードモデル
EZ-9は1980年代中頃、「アウトドアをもっと楽しみたい」というアメリカのファミリーや若者たちのニーズに応えて開発がスタートしたモデル。速さよりも楽しむことに主眼をおいた新しいユーザーのために、従来になかったスタイルで誰でも簡単に操作ができるオフロードモデルを目指していた。
この開発要件は、アメリカでヒットしたモンキーの次のモデルとして開発されたダックスに似ており、本田宗一郎氏の「もっと取っつきやすく、機械を感じさせない、シンプルなデザインをつくれ」という指示と一致している。デザイナーの森岡實氏はこれに応えるよう「世界に類を見ないバイクを目指した」と語っている。
「ガソリンタンクもサスも見えない。できるだけいろんなモノをシンプルにしました。フレームも成型にしてしまえばシンプルな形になりますし、生産もしやすい(森岡氏)」。こうして、描かれたダックスのデザインスケッチが20年後のEZ-9に繋がったような気がしてならない…。
EZ-9(1990) [HONDA] EVのように見えるが1990年型ということに驚く。エンジンはスクーターと同じVマチック無段変速オートマでマフラーまでボディに内蔵していた。
EZ-9は、日本でも発売された。キャッチコピーからファミリーで楽しむレジャーバイクとしてのコンセプトが伝わってくる。当時価格は24万9000円。
ダックス(1969年)が発売される1~2年前に描かれたデザイン画。初期の構想ではアルミモノコックボディとラバーサスで未来的かつすっきりした外観のオフロード車だった。
砂漠でも雪上でもどんなところでもバイクを楽しみたい
実は、旧ダックスには日の目を見なかった研究車があった。1970年に発売されたATC90という3輪バギーの超低圧タイヤを装着した仕様で、森岡氏によるとビーチバイクとしての利用を想定していたという。元となったATC90は世界初の超低圧タイヤ付きのオフロードモデルで、全地形走破車(All Trarrain Cycle)がそのまま車名になっている。
超低圧タイヤ採用の狙いはスノーシーズンでの販売促進で、雪面を走破するにはタイヤを柔らかくして接地面圧を下げる必要があったのだ。さらにタイヤのエアボリュームを大きくしたのが、ATC90用の超低圧タイヤとなる。これをあえてダックスに履かせたのは、砂地だけでなく冬の販促を狙っての開発だったと思われる。
そして、約20年後の1991年に登場したのがEZSNOWだ。ホンダの弱点は冬にあり、ヤマハのようにスノーモービルを持たないラインナップを拡充させるためにEZ-9をベースに開発された。幻に終わったダックスの超低圧タイヤ仕様が、EZSNOWになって発売されたような気がしてならない…。
ダックスをベースに超低圧タイヤを履いた仕様がこれ。販売店会議にも出品されたが販売には至らなかった。タイヤの材質はゴムのみでリムとタイヤは一体成形だった。
ATC90(1970) [HONDA] アンフィキャットという水陸両用車のタイヤに着想を得た超低圧タイヤを履いた世界初の一人乗りオフロードモデル。1975年型でタイヤとリムが別体になった。
EZSNOW(1991) [HONDA] EZ-9をベースにバイク感覚の自由度の高い操縦性を実現し、ウインターレジャーを楽しめるように開発された。当時価格は35万円。
EZ-9のパッケージを今出すならEVでやるのが合理的
そして、EZ-9に話を戻すと凄さはそのパッケージにある。ダックスの場合はさすがにエンジンとマフラー、サスペンションをボディの外側に出さざるを得なかったが、EZ-9は全てボディ内に収めてしまったのだ。
特にマフラーをボディ内に収納するために、エンジンの強制空冷の風を再利用する構造としている。一度エンジンを冷やすのに使った風をシート下に内蔵したマフラーに送ることで、アイドリング時にもマフラーの冷却が可能となっている。
エンジンはVマチック式でベルトコンバーターを採用するが、これの前後長を86mm短縮して搭載し、後輪をスイングアーム&チェーンドライブにすることでオフの走破性能を高めている。機構としては、2001年のヤマハTMAXを先取りしていたのだ。また、ベルコンを冷やすための冷風をメインフレームから導入するなど、随所にコンパクト化の工夫が施されている。
理想的を追求したEZ-9だが、EZSNOWとも販売は振るわなかったと伝えられる。しかしこのコンセプトは、部品点数の少ないEVでこそ活きると思われるので、ホンダが2024年以降に出すというファンEVとして復活することを期待したい!
フロントフォークはスクーターで一般的なボトムブリッジ1点締結としてフロントまわりをスリム化している。また、ノーズ部分には小物入れスペースも確保している。
スクーターのようにベルコン無段変速なのにユニットスイングではなくスイングアームを装備して運動性を向上させている。リアはモノサスとして車体の重心にセットしている。
燃料タンクは軽量化を追求するため樹脂製としてボディ内に内蔵している。フットペダルだけでなく左レバーでもリアブレーキが作動するように二系統のリアブレーキを採用した。
マフラーをヒートガードで覆いその隙間を冷却風が通るようにしている。エンジン用の冷却ファンを利用する合理的な設計だ。
リード90よりも86mm短縮されたベルトコンバーターを開発して搭載した。エンジンは空冷2ストロークで7.8PSを発揮した。
ベルトコンバーターの冷却風はヘッドパイプ部分からメインフレーム内を通って導入される。エンジン幅はリード90より100mmも短縮された。
こちらは新型ダックス125。ボディ内にタンクなどを詰め込んですっきり見せるレイアウトはダックスが先例。新型ダックス125もタンクやエアクリーナー、バッテリー、ABSモジュールなどを詰め込んでいる。
ホンダが9月に発表したEVモデルの戦略によると2024年以降に右端の子供(KIDS)向けモデルが発売予定。オフロードモデルのシルエットをしているが、ホンダならではの新コンセプトに期待したい。
1990年型EZ-主要諸元
・全長×全幅×全高:1680×755×990mm
・ホイールベース:1200mm
・シート高:750mm
・車重:85kg
・エジンン:空冷2ストローク単気筒 89.7cc
・最高出力:7.8PS/6250rpm
・最大トルク:0.92㎏-m/5500rpm
・燃料タンク容量:3.6L
・変速機:Vマチック無段変速
・ブレーキ:F=ドラム、R=ドラム
・タイヤ:F=100/90-12、R=130/90-10
・当時価格:24万9000円
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