ホンダが9月13日に開催した二輪事業説明会の続報をお届け。トピックは2024~2025年にかけて中間排気量帯のファンEVを3モデル発売すること。3車のシルエットも公開されており、期待が高まる。

ここでは、本田技研工業の竹内弘平副社長と二輪分野の責任者である野村欣慈氏が、「電動化を中心としたカーボンニュートラルの実現」について語った内容から、ホンダの趣味バイクの戦略を他社の取り組みとも比較してお知らせしたい。

カーボンニュートラルを目指すためにバイクにはEVを全面採用

ホンダの野村欣慈氏は、「メインは電動車というのが、二輪のカーボンニュートラルに向けた戦略」と言い切る。カーボンニュートラルとはCO2(二酸化炭素)排出量を削減し、政府が掲げた方針では2050年までにプラスマイナスゼロにする取り組み。電動車(EV)以外にもハイブリッド車など選択肢は多数存在する。

ライバルのカワサキは、2021年10月の事業説明会でホンダと同じように2025年までに10機種の電動バイクを市場に投入する計画を発表している。その中にはハイブリッド車(HEV)も含まれているが、野村氏は「EVの方が二輪に対して親和性が高いので、現状ではHEVは選択肢に考えていません」と語る。

ホンダの戦略はEVにあり、勝負の切り札は全個体電池だ。「ホンダの強味は、四輪などの先進技術を二輪でも使えるところです。全個体電池はリチウムバッテリーの半分程です。逆にいうと同じ量では倍ほどの能力があります。二輪車はバッテリーが大きくなってしまうと利便性が損なわれてしまいますので全個体電池と相性がいいと思います」という竹内副社長のコメントから、実用に向けた開発が順調に進んでいることがにじむ。

ホンダは、2024年春に約430億円をかけてラインを立ち上げ、2020年代後半には全固体電池を搭載したEVを発売する目標を掲げている。野村氏も「現在四輪用に研究所が開発中の全固体電池の二輪での導入も目指していきます」と語っており、開発が間に合えばシルエットが公開された3モデルが二輪で世界初採用する可能性もあるだろう。

FUN EV [HONDA] 9月13日にホンダが公開したFUN EVのシルエット。コミューターだけでなく趣味バイクでも2024~2025年に中間排気量帯クラスの3つのカテゴリーのEVを発売することを明らかにした。シルエットからスクーター、ネイキッドスポーツ、クルーザーあたりか?

説明会ではホンダの二輪事業の収益性の高さも強調されていた。その一例としてプラットフォーム戦略の成功も寄与しており、FAN EVもこのような1エンジン3モデルのような方法を採用しそうだ。

本田技術研究所は約10年前から全固体電池の基礎研究に着手しており、ホンダはこれをEV戦略の中核に据えている。コンパクトで劣化しにくく熱に強いなど、リチウムイオン電池の欠点を克服した次世代バッテリーだ。

水素エンジンに対し、ホンダは「非常に難しい」と判断

カワサキやヤマハなどが開発を進めている水素を燃料とするエンジンについて、野村氏は「水素エンジンないしFCV(燃料電池車)の二輪への適応については、現状では課題が多いので、(優先)順位としてはそれほど前の方には置いていません。価格を度外視したとしても、パッケージとして乗る楽しさを残しながらこれを実現するのは非常に難しいという認識です」と述べた。

一方、カワサキは2021年10月に、H2のエンジンをベースとした二輪用直噴エンジンを公開し、この9月にはこれを搭載した研究用オフロード四輪車のデモンストレーション走行を行っている。998cc並列4気筒エンジンをベースに、水素燃料のシリンダー内直噴仕様へ変更し、海外で販売しているオフロード四輪車をベースに、水素燃料タンクや燃料供給系統を設置したものだ。

内燃機関を生かしながらカーボンニュートラルを目指すカワサキと、全個体電池を解決策とするホンダとのアプローチの違いが明確になった形だ。

研究用オフロード四輪車 [KAWASAKI] 9月のスーパー耐久レースでトヨタの豊田章男社長がデモ走行した研究車。カワサキは、「内燃機関の魅力と水素の特性を組み合わせた水素燃料エンジンならではの新しい価値の創造を目指す」としている。

水素エンジンに必要な直噴技術を研究する「二輪用直噴エンジン」はH2のユニットを改造してシリンダーに燃料を直接噴射している。2021年10月時点では実際には稼働していないとの説明だったが、走行可能な段階になったようだ。

ヤマハの水素エンジンはレクサス・RC-Fなどに搭載される5LのV8ガソリンエンジンを改良したもので、445PS/6800rpm、55kg-m/3600rpmを発生する。インジェクターや燃料パイプ、シリンダーヘッドなどを水素エンジン用に開発したものだ。

内燃機関の今後は「CO2を排出量を増やしながらの高出力化はない」

ホンダは二輪事業においても2040年代半ばまでにカーボンニュートラルの実現を目指しており、2030年には350万台のEVの販売を目指している。これは、全体の15%の比率で残り85%の2000万台は内燃機関を積んだモデルになる計算だ。

今後もしばらくは主流となる内燃機関の進化について野村氏は、「燃費は当然よくして、かつ走りの部分はお客様の常用の領域においての楽しさ、性能の高さということは進めていこうと思います。昔ながらの高性能(高出力化)ということはないです。CO2排出量を増やしながら高性能化していく過去の高性能とは違うということです」と語った。

こうした観点からも、スズキは2022年限りでモトGPや世界耐久選手からの撤退を表明しているが、「ホンダにとってレース活動は一番のDNAです。人材育成や訴求という面も含めて根幹の部分なので続けていくと考えていただいて結構です」と野村氏はレース活動の継続を表明した。

ICEとは内燃機関のこと。2030年以降急速に電動車と入れ替わっていくイメージだ。いつの時点で電動車が完全にエンジンと入れ替わるかは、ホンダでも現状予見できていない。

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