
あこがれの形を別ベース車を活用して実現する
このマシンはよくよく見るとエンジンのシリンダーヘッドカバーが丸型だ。つまり、角型のシリンダーヘッドカバーを採用するZ1000MkⅡではなく、その前々モデルとなるZ900をベースにカスタムをしたマシンなのである。
わずか2年しか製造されなかった希少性に加え、鋭角的なシルエットで今なお根強い人気を誇るZ1000MkⅡ。すでに中古市場にそのまま乗れる状態の個体があればラッキーなほど枯渇し切っており、文字どおりの高嶺の花となった。強いあこがれを抱いていても、コストに見合わないと判断している人も少なくないだろう。
ただ、Z1000MkⅡに対して強いあこがれを抱いている人のなかでも、個々人それぞれで重視する点は異なるだろう。見た目がZ1000MkⅡであればいいのか、それともフレームがZ1000MkⅡであればいいのか。そこでカスタムを前提とするならば、その個々人が重視する点以外はZ1000MkⅡ純正である必然性は低いわけだ。そして空冷Z、そして角型外装の見た目にウエイトを置くのであれば、ベースモデルがZ1000MkⅡである必然性すら低くなる。Z1000MkⅡ以外の空冷Zをベースにするという選択肢も生まれてくるわけだ。
ゆえにコストがまだ比較的安価になるZ900をベースに、外装をZ1000MkⅡへと変更することで雰囲気を楽しむことを優先させたいという思いが、このマシンが生まれるきっかけとなった。そしてオーナーは自身が所有するZ900にZ1000MkⅡ外装を装着し、前後18インチのカスタムマシンとして一度製作し、今回は現代に通用する前後17インチマシンへのリメイクをサンクチュアリー本店に依頼したのだ。
とはいえZ900も1970年代生まれであり、一度はカスタムマシンとして製作されたとしても、現代でも通用する高い走行性能を志向したカスタムコンプリートマシンRCMとしてしっかり走れるように各部は徹底的に見直された。外装はそのままだが、それ以外は新しくカスタムをスタートさせるのとほぼ同様の手順で作業は進められている。まず車体は全バラにされ、フレームのレーザー測定と歪み修正、再塗装やフレーム補強など各種加工をほどこした。そして現代的な走行性能は現代主流のハイグリップラジアルタイヤによってもたらすことを前提にホイールの前後17インチ化に着手するが、そのために車体姿勢がくずれないよう、各寸法が最適化されたスカルプチャー製ブラケットやスイングアームを採用し、それを支えるショックアブソーバには高い性能発揮で定評あるオーリンズ製を中心に採用。さらに運動性能を大きく左右するホイールはMotoGPでの普及率も高いO・Zレーシング製アルミ鍛造製を用いる。もちろん高い運動性とはライダー個々が制御できて初めて発揮できるものであるから、制動装置たるブレーキまわりはブレンボやサンスターといった定評あるブランドで固めている。吸排気もこのマシンではミクニTMRキャブレターとナイトロレーシング製フルエキゾーストでパワフルかつフレンドリーな出力特性へと整えている。
この過程ですでに採用されていた各種パーツも流用しているが、細かい話をするならブレーキホースやプラグコードの配線レイアウトに至るまで、まったくリメイク前と同様ということはなく、まさしくフルリメイクという内容だったとのことだ。
基本的にRCMとはコンプリートマシンと称されているが、これはサンクチュアリーの提示するお仕着せそのままを購入するしかない、という意味ではない。サンクチュアリーならではのスカルプチャーやナイトロレーシングといったパーツは外せないが、それ以外のブレンボやオーリンズといったパーツは変更可能だ。もちろん高性能を追求するという同社の理念から得体のしれない・裏付けのないブランド品は拒否される可能性も高いが、先に何度も”定評ある”と書いたような、レースシーンなどでその実力が示されているメーカー製であれば採用可能だ。RCMとはカスタムを楽しむためのカスタムプランの提示でもあり、どれもこれも同じパーツ、同じスタイル&カラーリングというわけではないのだ。
ただし、よくよく何台か見てもらえばRCMの車体姿勢はかなり似通っていることに気が付くだろう。これは同社ですでに理想とする『空冷Z系を前後17インチ化した際の車体姿勢』が存在し、それは過去20年以上にわたり通算で500台以上製作されたRCMのノウハウによって裏付けされているからだ。立ち姿の美しさはその内面を表しているとも言われる。サンクチュアリー本店が生み出すRCMが美しいと称されることが多いのは、単なる彩色の問題ではなく、その佇まいがバイクとしての完成度の高さを示しているから。「これは速く走れそうだ」と思わせる風格。それはRCMに共通するものであり、ベース車は問題ではないのだ。
カスタムポイント
サンクチュアリー本店・中村博行代表は「エンジンこそが空冷Zの根幹」と捉えている。そこでZ900エンジンはフルオーバーホールされたうえでボアアップなどチューニングを実施。吸排気も変更することで、ストリートレベルでは必要十分にパワフルな特性を得ている。
カスタムパーツギャラリー

同社では古い個体の灯火類にLEDを使わないことも多かったが、近年では信頼できるメーカー製が定着したことからLEDヘッドライトバルブも積極的に採用する。このマシンもスフィアライト製をヘッドライトバルブに採用

ハンドルバーはデイトナが開発したRCMコンセプト。これは全国のデイトナ取扱店でも購入可能なので、RCMでなくともRCMの雰囲気を楽しめるパーツとして人気を博している。メーターは信頼性重視で純正のリビルド品とした

ラッチとブレーキマスターはともにブレンボ製RSC。クラッチもブレーキもバイクに乗る限り必ず操作するパートであり、その操作性は非常に重要。そこでレースシーンでも定評あるパーツで改善。もはや定番チョイスだ

フロントフォークはオーリンズ製だが、同社ではフロントフォーク交換に伴い交換が必須となるフロントフェンダーやフェンダーステーなど周辺パーツをセット販売するE×Mパッケージを展開中。同社でもかなりのヒット商品だ

どんなにパワフルな特性を得ようと高い路面追従性があろうと、車速を自在に制御できてこその恩恵だ。そこで同社ではブレーキパーツにはカスタムシーン最高峰のブレンボ製キャリパーとサンスター製ローターの使用率が高い

ステップはシンブルな造形で高い人気を誇るナイトロレーシング製。ちなみにマスターが前傾しているのはサイドカウル内にフルードカップを隠すため。1990年代初頭から同社が採用する方式だ

クラッチの油圧化とワイドホイール化に対応するためフロントスプロケット周辺もリビルド。スプロケットカバーにはスピード取り出し用のステーも追加されるほか、分割式で後方のみカラー変更にも対応

マフラーはナイトロレーシング製のフルチタン。サイレンサーは複数のタイプと仕上げ方式があり、好みで選別できる。同社では砲弾タイプとハーフポリッシュが定番人気となっているそうだ

スイングアームは空冷Zの17インチ化に最適化した長さや剛性を持たせたスカルプチャー製だが、市販品と異なりRCM専用のチェーン引きとし、スタビライザーやメンテナンススタンド用フックを増設したスペシャルモデル

リヤブレーキは今や重要な制動装置だが、純正のようにコントロールの幅が狭いままでは使いずらいため、ローターの小径化とブレンボ製キャリパーへの変更で踏みしろを増し、踏み込んでからの制御を容易にした
「Z900 by サンクチュアリー本店」の主なカスタム内容
エンジン総排気量 | 1045cm3 |
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ピストン | ピスタルレーシングφ71mm |
キャブレター | ミクニTMRφ36mm |
エキゾーストシステム | ナイトロレーシング |
オイルクーラー | アクティブ |
電装系 | ASウオタニ SPⅡ |
ホイール | (F)O・Zレーシング ガスRS-A 3.50-17 (R)O・Zレーシング ガスRS-A 5.50-17 |
タイヤ | ピレリ ディアブロ |
Fブレーキ | キャリパー:ブレンボ ラジアル4ポット ローター:サンスター マスター:ブレンボ ラジアルポンプ |
Rブレーキ | キャリパー:ブレンボ2ポット ローター:サンスター |
Fフォーク | オーリンズ |
ブラケット | スカルプチャー |
Rショック | オーリンズ |
スイングアーム | スカルプチャー |
ハンドルバー | デイトナ RCMコンセプト |
シート | デイトナ RCMコンセプト |
ステップ | ナイトロレーシング |
情報提供元 [ カスタムピープル ]
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