
目次
アフリカツインの乗り味を生かしたロードスポーツ
「HAWK 11」はアーキテクチャー シリーズ プロジェクト (ASP)として開発された日本市場専用モデルである。これは既存モデルを活用しつつ新たな位置づけの派生モデルを作り上げる手法。社内提案から生まれたアイデアをASPで具現化したもので、グローバルな流行を取り入れて大量生産される従来のモデルとは異なるものだ。そう考えると、一風変わったデザインにも合点がゆく。
コンセプトは「若い頃からバイクを乗り継いだベテランの“上がりのバイク”」であり、「アフリカツインのエンジンでワインディングを楽しみたい」ライダーに向けたモデルという。具体的な表現としては「革ジャン姿が似合う大人のスポーツモデル」 をイメージしたのだとか。ユニークなのは「速くない、でも少し速い」という自虐的とも思えるキャッチフレーズ(笑)。 目指したのは「凄いバイク」ではなく、半日の自由を楽しむための「楽しいバイク」という。世界一の2輪メーカーであるホンダとしては、ずいぶんと肩の力の抜けたバイクを作ったものだと思う。
NT1100をベースにディメンションを最適化
HAWK11は「NT1100」をベースに、よりワインディングを楽しめる方向でディメンションを最適化したロードスポーツモデルだ。エンジンと車体は共通で、前後サスペンションのセッティングを変更。キャスター角をわずかに立てた(NT1100比で1.5°) 25°に設定し、ライディングポジションもセパレートハンドルを採用し前傾姿勢としている。ただし、フレーム自体は元々アフリカツインなのでステムの位置は高めで、前傾度もスーパースポーツなどに比べるとだいぶ緩め。雰囲気としてはスポーツネイキッドと大差ない感じかも。
エンジンは水冷4ストOHC(ユニカム)4バルブ直列2気筒でNT1100やアフリカツインと同じものだ。駆動系ではミッションは共通だがファイナル(2次減速比)はキャラクターに合わせて最適化され、フューエルタンクとエアクリーナーも新設計となっている。
電子制御パッケージも共通で、走行モードはSPORT、 STANDARD、RAIN、USERの4種類。モード毎にパワー(P)、エンエンジンブレーキ(EB)、HSTC/ウイリーコントロール(T)の制御レベルを最適化してくれる仕組みも同じだが、HAWK11には有段式オートマのDCT仕様はラインナップしていない。
優等生から脱却した振り切ったデザイン
HAWKのネーミングは昭和世代のライダーには懐かしい響きがある。ホンダの並列2気筒スポーツモデルに冠されたネームで、自分が18歳で中免を取ったときの教習車両がHAWKⅡ(ホーク・ツー)だった。“やかんタンク”と揶揄されるなど、当時から高性能の代名刺だったCBに比べると日陰の存在だったが、めちゃくちゃ乗りやすかった記憶がある。今年の春にホンダの内見会で初対面したHAWK11は、なんとも不可思議な形をしていたのでピンとこなかったが、11のロゴがⅡ(ツー)に見えた途端、懐かしさが蘇った。
スタイリングは個性的だ。開発者によると趣味性の高い大人のバイクを象徴する意味でレトロチックなロケットカウル仕様とすることは最初から決めていたそうだが、それも単なる懐古主義的なカフェレーサーとは異なるアバンギャルドな雰囲気でまとめられている。ボディラインも水平方向をメインとしつつも車体前後を真ん中で分割するように縦のラインが見える。ボリューム感を持たせた丸みのあるフロントとは逆にシュッと窄まったリアセクションに鋭く尖ったタンクエッジなど、その独創的なデザインをどう解釈したらいいのか、マシンを前に考え込んでしまうのだ。ただ、悪い気はしない。というか逆にクリエイティブな感性を刺激してくる。良きにつけ悪しきにつけ“優等生”と言われ続けてきたホンダをして「よくぞやってくれた!」とニンマリしてしまうのだ。アフリカツインを素材に自由な発想でカスタムしたらこうなった、という感じ。国産車としては珍しく、思い切りデザイナーに仕事をさせた作品と言える。
流すだけで気持ち良く、スポーツしても手の内感がある
さて、乗り味は素直で走り出した瞬間からすっと馴染む。クラッチも軽くつながりもスムーズで発進もしやすい。右手を捻ると、柔らかくもタイムラグなしにエンジンが反応し、粗粒な鼓動感とともに加速する。弾けるトルクが路面を蹴り出す感じは、勝手知ったるアフリカツインのそれ。丸型のシンプルな液晶メーターを読むと回転計が5000rpmとちょうど真ん中あたりを指している。まさに4000~6000rpmがイイ感じで、そのレンジでも十分速いし、ちゃんと美味しいところを使って走っている実感が持てる。さらには2000rpmで高めのギアでドコドコ流しているのが気持ちいい。普段は絶対に使うことがない1万rpmを超えたところにピークがある4気筒の高性能エンジンのように、フラストレーションを抱えながら走らなくて済む。
ハンドリングは軽快でしっとり感がある。スーパースポーツのように低速で頑固なところがなく、低い速度でもバタッと寝てクルッと曲がるし、そこそこ飛ばしても手の内感がある。サスペンションも前後ともしなやかで普通に走っていても動きを感じやすく、強烈すぎないブレーキとともに扱いやすい。まさに、「速すぎず、凄すぎず」というコンセプトどおりの印象だ。
リアステア感があの名車に似ている
しばらく乗っていると、「何かに似ている」気がしてモヤモヤしてきた。頭の中で記憶を辿っていくうちに、ふとVTR1000Fを思い出した。向こうはVツインでこちらはパラツインだけど、270度クランクの柔らかなパルス感がまず似ている。ライディングポジションもスリムな車体とカウル付きセパハン仕様なのにハンドル高めで楽な姿勢。ロングタンクでやや腰を引いた構えで、後輪を軸にして軽やかに曲がっていくリアステアの感覚など、日常域での扱いやすさや操る楽しさを自分主役で引き出していける感じがよく似ているのだ。もちろん、96年デビュー当時のVTRはVツインスーパースポーツを標榜した専用設計モデルだったのに対し、HAWK11はアフリカツイン系がベースと出自は異なるが、25年もの歳月が進化の方向を収れんさせたとしても不思議ではないはずだ。VTR1000Fの北米での呼び名がSUPER HAWK 996(スーパーホーク996)であることにも偶然以上のつながりを感じる。そんなことを言うと、またオジサンの戯言と言われそうだが、自分にとってのHAWK11は懐かしさを呼び起こすバイクでもあったのだ。
ケニー佐川のインプレッション
主要諸元
通称名 | HAWK 11 | |
車名・型式 | ホンダ・8BL-SC85 | |
全長×全幅×全高 (mm) | 2,190×710×1,160 | |
軸距 (mm) | 1,510 | |
最低地上高 (mm)★ | 200 | |
シート高 (mm)★ | 820 | |
車両重量 (kg) | 214 | |
乗車定員 (人) | 2 | |
燃料消費率※4(km/L) | 国土交通省届出値 定地燃費値※5(km/h) |
33.5(60)<2名乗車時> |
WMTCモード値★ (クラス)※6 |
21.2(クラス3-2)<1名乗車時> | |
最小回転半径 (m) | 3.4 | |
エンジン型式・種類 | SC84E・水冷 4ストローク OHC(ユニカム)4バルブ 直列2気筒 |
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総排気量 (cm3) | 1,082 | |
内径×行程 (mm) | 92.0×81.4 | |
圧縮比 ★ | 10.1 | |
最高出力 (kW[PS]/rpm) | 75[102]/7,500 | |
最大トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | 104[10.6]/6,250 | |
燃料供給装置形式 | 電子式<電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)> | |
始動方式 ★ | セルフ式 | |
点火装置形式 ★ | フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
潤滑方式 ★ | 圧送飛沫併用式 | |
燃料タンク容量 (L) | 14 | |
クラッチ形式 ★ | 湿式多板コイルスプリング式 | |
変速機形式 | 常時噛合式6段リターン | |
変速比 | 1 速 | 2.866 |
2 速 | 1.888 | |
3 速 | 1.480 | |
4 速 | 1.230 | |
5 速 | 1.064 | |
6 速 | 0.972 | |
減速比 (1次★/2次) | 1.717/2.470 | |
キャスター角(度)★/トレール量(mm)★ | 25°00´/98 | |
タイヤ | 前 | 120/70ZR17M/C(58W) |
後 | 180/55ZR17M/C(73W) | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ダブルディスク |
後 | 油圧式ディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式(倒立サス) |
後 | スイングアーム式(プロリンク) | |
フレーム形式 | セミダブルクレードル |
情報提供元[ Honda ]
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