
GASGAS(ガスガス)ってどんなメーカーだろう? 一般にはあまり馴染みがないが、知る人ぞ知るスペインを代表するオフロードの名門。特にトライアルでは世界タイトルを何度も獲得するなど存在感を示してきた。2019年からはKTMファミリーの一員となり体制を強化、ニューマシンの開発を加速させている。最近では2022年、つまり今年のダカールラリーではいきなり優勝を果たすなど注目度も急上昇。
そして、今回スペインで国際ローンチが開催されたのがSM700とES700の2機種。GASGAS初のストリートモデルである。
エンジン&車体は共有、足まわりでキャラ分け
SM700とES700はエンジンと車体の大部分を共有する双子の兄弟車だ。SMはスーパーモタードでESはトラベルエンデューロという位置づけ。ともに公道を走れるストリートモデルである。エンジンは水冷4スト単気筒OHC4バルブ排気量692.7ccから最高出力74ps(55kW)を発揮。
一方、車体は軽量なクロモリ鋼のトレリスフレームにWP製前後サスペンションを装備。電制も2種類のライドモードとリーンアングルセンサー付きのABSとトラクションコントロール(以下、トラコン)に加えスリッパークラッチも共通の装備とするなど、シンプルながらツボを押さえたパッケージとなっている。
違いは主に足まわりで、サスペンションは同じWPでもSMはオンロード寄り、ESはオフロード寄りのセッティング。ホイールもSMは前後17インチのキャスト(合金)タイプに対して、ESは前後21インチ/18インチのワイヤースポークタイプ。タイヤも各々にキャラクターに合わせて最適化されている。
【SM700】「ワインディング最速!?」のかっとびモタード
まず見た目がカッコいい。ブランドカラーの深紅の外装をまとい、これでもか、と大きく目立つGASGASのロゴ。やる気満々のイメージだ。そもそもGASGASとは「もっとガスを!アクセル開けていけ!」というような意味。マルケス兄弟やエスパロガロ兄弟しかり、気が付くと最近のMotoGPを席巻しているのもスペイン勢だ。そのやんちゃな元気の良さをそのままカタチにしたようなマシンである。
ホイールベースが1475mm、シート高も898mmとけっこう大柄だが、跨ると車体がスリムで足が真下に伸ばせるため足着きは見た目ほど悪くない。身長179cmの自分でヒザが少し曲がるぐらいだ。
新世代のLC4エンジンは、高圧縮のビッグシングルらしいソリッドな鼓動感がありトルクフル。それでいて、ショートストローク化されて1万rpm近くの高回転まで軽々と伸びていく。6速ミッションはシフトタッチも節度感があってスムーズ。アップ&ダウン対応のクイックシフターのおかげで走行中はほぼクラッチいらずの快適さだ。
乗り味はしっかり&しっとり。鋼管トレリスフレームの骨格は剛性感があって欧州の高速道路でもカチッと安定している。場所が許せば150km/hオーバーでのクルーズも可能なほど。ハブセンターにマスを集中させたキャストホイールのおかげでハンドリングも軽快。ちょっと足が長めの軽くてスリムなネイキッドといった感じだ。そして、同クラスのロードバイクより段違いに機敏。ワインディングではスーパースポーツと張り合えるし、ショートサーキットでは車重150kgを切る軽さと瞬発力を生かして無敵レベルかも。
とはいえ、見た目こそ過激だが実に素直で乗りやすいバイクでもある。ハンドル切れ角も十分でUターンも苦にならないレベル。乗りこなしのコツをちょっと耳打ちしておくと、前後サスのストローク量が多い分、加減速でのピッチングモーションも大きめに出るが、その特性を生かして心持ちゆったりめというか、“タメ”を作ってやると倒し込みや切り返しもしやすくなる。
一歩突っ込んでみたい上級者にはモード2がおすすめ。いわゆるSuperMotoモードでリア側のABSが解除されてトラコンが最小限になる。さらにエキスパート向けにスイッチひつでABSとトラコンの全解除も可能。
ちなみにGASGASのインストラクターはロングウイリーにジャックナイフ、進入スライドetc.のスゴ技をこれでもかと披露していた(笑)。つまり、腕さえあれば多彩なトリックを存分にキメられるというわけ。自分も含め普通のライダーには縁遠い話かもしれないが、それがまさにモタードの魅力でもある。
【ES700】アクセル開けるだけですべて解決のビッグオフ
オフロード寄りに作られたESはさらに大柄でモーションも穏やか。これが正解。700ccのビッグオフがダートで神経質な動きをしたら怖くて乗れないだろう。このサイズとパワーを生かした味付けになっているのだ。
まずは高速道路からワインディングへと向かったが、WP製の前後サスとコンチネンタル製のブロックタイヤも含めて極めて安定した路面グリップとスタビリティを発揮。アスファルトでもしなやかな長い足が路面の凹凸を滑らかにいなしてくれるので快適だ。そう、ESはたしかにオフ寄りではあるが、目指すところはストリートで楽しく距離を伸ばせる多目的マシンなのだ。
しばらくして横道に逸れて山深い林道コースへと分け入るが、見るからにヤバそうなガレ場やフロントを取られそうなサンドセクションでも、スロットルさえ開けていれば弾けるトルクと安定感抜群のシャーシによって何事もなかったように乗り越えていける。ヒザ下あたりまで浸かる川を何本か渡ったが、長くしなやかな足に任せてバランスのキープに集中すれば易々とクリア。これには正直驚いた。こんな芸当は流行りの巨大アドベンチャーモデルでもなかなか真似ができないだろう。やはり単気筒エンジンならではの軽量でスリムな車体だからこその身のこなしなのだと実感した。
自分もESと共通の祖先とも言える2010年型KTM690エンデューロRに乗っていたので進化の跡がよく分かるのだが、極低速から粘るしスムーズで高回転までよく回るようになった。足場の悪い斜面をゆっくり登るときや、足を出しながら半クラッチを使ってクルリと回るタイトコーナーなど、特に低い速度域を使うことが多いオフロードではこの領域での扱いやすさが命と言ってもいい。
その点、ある意味“雑に扱っても”ちゃんと応えてくれる懐の深さがGASGASにはある。万人向けとは言えないかもしれないが、本気で林道ツーリングにハマりたい人にはおすすめの1台だ。
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