こんにちは! 今週の「WebikePlusスタッフが勧める意外とイイよ」のコーナーです。意図せずしてビッグシングル二週目となりましたが、私は空冷単気筒至上主義者でもありませんのであしからず。

安くてカッコいいバイクを買ったので、意気揚揚と仲間に見せたら「ああ……コレ買ったのか……」なんて言われ、その言葉どういう意味!? と思いつつネットで調べたら「壊れやすい」だの「不人気」だのひどい言われよう。

(人気ないってマジかよ……だから安かったのかっ!?バイク屋はいいバイクって言ったのに……)

そんな経験ありませんか? だからってさっさと買い替えるのはちょっと待った。キラキラした大人気車ではなくても、どんなバイクも個性の塊。メーカーが「これは売れるぞ!」と意気込んで開発したバイクたちは、それぞれ独特の魅力を持っているもの。

そこで、人気はどうあれイイものはイイぞ! とゴリ押ししていくのがこのコーナー。人気モデルに乗ってりゃエライ時代は過去のもの、現代こそマイナーバイクを全力でお勧めしたい! と「マイナーバイク好き(自称)」のWebike+スタッフ・西田が独断でピックアップしたモデルを紹介していきます!

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WebikePlusでは、試乗インプレの他に新車・中古バイク検索サイト「ウェビック バイク選び」に掲載されているバイクに関する情報を発信中!


当記事は2021年10月29日に「Webikeマガジン」に掲載されたものに加筆・修正したものです。

国産車離れした風貌はまるで1950年代のノートン・マンクス!

ビッグシングル代表として知らぬ人のいないヤマハ・SR400が2021年3月にファイナルモデルとなり、入れ替わって4月に国内発売されたホンダ・GB350。チラホラと街中でも見かけると、ビッグシングルの世代交代を感じるこの頃。その中で今回紹介したいのは、一見するとBSAかノートンか!? と思ってしまうようなカンペキな外見を持つ「スズキ・テンプター」です。

バイクの原型ともいえるシンプルなスタイルはビッグシングルのならではのもので、これからも魅力的なカテゴリーとして愛されるでしょう。そんなビッグシングルは多くがオフロード譲りの空冷エンジンにカウルレスのシルエット、17~19インチの大き目なホイールを採用しており、これはビッグシングルのデザインのベースに、伝統的なブリティッシュスタイルのクラシックバイクがあるからともいえます。


1997年発売のテンプターは396ccのビッグシングル。ほとんど垂直な巨大シリンダーの存在感に目が行きますが、セルモーター搭載でシート高はSRよりやや低く、かつ27PSの出力はSR400・GB350のどちらよりハイパワー。

単気筒のメリットである車体の細さがきわだつ。車体幅は730mmだ。

そんな中でテンプターは、ロングタンク、直立するシリンダー、低めに構えたハンドルの雰囲気はまさしくカフェレーサー……というより、クラシックなノートンやトライアンフなどのマン島レーサーを彷彿とさせるシルエット。メーカーもそれをシッカリ狙っていたのか(?)、初期モデルでは「SUZUKI」のエンブレムがなく、タンクには「TEMPTER」のエンブレムのみが装着されていました。おかげで国産車っぽさがないどころか、メッキパーツを多用した細部からもチープさが全くみあたらず、「どこのバイクですか?」と聞かれること間違いなし。

細かく見ると、ディスクブレーキが当たり前の時代に「あえて」搭載した前後ドラムブレーキや、クラッチカバーに沿うように丁寧に曲げられたエキゾーストパイプ、そしてOHCながら4バルブで性能を追求したエンジンなど、独特の美学が見て取れる部分があります。

直立するエンジンに目が行くものの、ゴチャゴチャした配線やメカが見えないスッキリしたエンジンまわりは特有のもの。エキゾーストパイプもエンジンに沿って美しく曲げられている。

この車体ではハンドルバーがハリケーン製のフラットハンドルにカスタムされている。このちょっとしたカスタムでグッとカフェカスタム感が出るのは、ノーマルデザインも直線基調で完成されているから!

メーターはシンプルな2連式。スピードメーターは180km/h、タコメーターはレッド7500rpm、9000rpmまでを表記。メーターまわりにもメッキを多用してあり、必要最低限ながらチープさを感じさせない重厚さ。

テンプターは羊の皮をかぶっていた!レトロな外見の裏に隠していたのは・・・

テンプターの見た目に反して力強いのはまずエンジン。27PSのパワーは、24PSのSR400よりも一段上。1978年登場のSRに対して、年式が新しい分だけ技術力のアップを感じます。そんなハイパワーは理由があり、燃焼効率を最適化できる4バルブを搭載しています。

もっとも、スズキはシングルモデルでも高性能エンジンとするコンセプトで1991年にグース350をリリースしており、これがセールス的に不発だったことから次は本格派クラシックスタイルのテンプターでリベンジを図ったと言えるかも知れません。

直立したバーチカルシングルエンジンは、トラディショナルなデザインながら燃焼効率に直結するバルブ数を4バルブに高性能化し、27PS/7000rpmのハイパワー。DR600などのオフロードマシンの技術を活かしています。

歯切れのいい音を立てて走るテンプター。ノーマルマフラーとはいえ、現代よりも厳しくない騒音規制に対応したモデルなので、力強い低音が響く。

「直線は退屈だ、グース。」という衝撃的なキャッチコピーで1991年に登場したスズキ・グース350。車名はマン島TTコースのグースネックコーナーからきており、ビッグシングルカスタムに新風を巻き起こそうという狙いは明確だった。

しかし、テンプターで語るべき最大のポイントはブレーキなのです。どうしても高性能化せずにはいられないスズキの開発陣は、それでもレトロな外観をコンセプトとするテンプターに超強力なメカニズムを採用しました。

フロントブレーキに搭載されたデュアルツーリーディング方式は、GPレースにさえドラムブレーキ車が参戦していた時代の技術。Wディスクに相当する左右に独立したドラムブレーキを装備し、ブレーキシューを動かすカムをそれぞれ二つ備えるという、最高峰のドラムブレーキなのです。

それを現行として持ってくる技術的逆転もさることながら、ドラムブレーキの欠点である熱対策のためにわざわざフィンを設置するのも、スポーツ性を捨てていないこだわりを感じるポイントです。

異様でさえある巨大なドラムブレーキは、性能とレトロさを両立させたデュアルツーリーディング方式を採用。ブレーキシューを押し広げるように作動するドラムブレーキのパワーを上げるために、カムを2本配置する方式はSR400でも採用されていたが、デュアルにまでして搭載するのが「そこまでやるか!」というスズキのこだわり。国産販売モデルでは1971年発売のGT750/550に一時装備されていたのみだ。

正面から見るとブレーキ作動のためのレバーが左右についているのがわかる。熱対策のためのフィンも確認できるが、ここまでやっているドラムブレーキ装着車はものすごく貴重だ!

斜め上の角度で「SR400には絶対負けない!」と力を注いだグース350、そして、過剰とも言えるこだわり装備を持って作られたスズキ・テンプター。こちらも販売台数は多くはなく、2000年には生産終了していることからなかなか見かけない車種ではありますが、ブリティッシュスタイルに高性能メカニズムを詰め込んだ立ち位置は面白さに並ぶものなしです。

語らずにはいられないテンプターのベース車

最後に、テンプターの兄貴分ともいえるモデルを紹介します。1986年発売のサベージも、他のどんなクルーザーにも似ていない個性的なスズキの意欲作でした。テンプターのエンジンはこのサベージのものを流用したものだったのです。

本格的なクルーザーといえばVツイン、というイメージに一石を投じるサベージは、アップハンドルにベルトドライブを搭載(ちなみに、スズキのベルトドライブ初搭載車はこのサベージです)したクルージング性能追求型。しかしシングルの強味である構造の簡単さから、取り回しよく扱いやすいという評価を得ました。国内では1990年代で販売されなくなったものの、北米では2019年までラインナップされていた長寿モデルです。

テンプターのエンジンは専用設計ではなく、ベースは1986年発売のLS400サベージ(写真は1992年モデル)搭載のもの。スタンダードなクルーザーはVツインだ、という固定観念をぶち壊す直立シリンダーは一度見たら忘れられない。

つまり意外とイイよ「テンプター」

というわけでテンプターがいかにカッコいいスタイル&メカニズムを擁するかを語ったわけですが、要するにテンプターは

・完成されたブリティッシュ(風)カフェスタイルで個性直立!

 

・やりすぎのこだわりブレーキを見よ!

 

・意外と多いぞビッグシングルファミリー!

という素敵バイクなんです! ところが、こんなにカッコいいテンプターですが、生産年数の短さからも現存する車両はぜんぜんなし! 「Webikeバイク選び」での掲載台数はなんとゼロ!(2022年06月現在) それなのに「車両インプレッション」がやたらと多いところからも、一度手に入れたファンは熱烈に愛好している様子。「マイナー」というより「レア車」になってしまったテンプター、ピンときたら即入手が吉でしょうか!?

テンプター諸元(1997)

全長 (mm) 2110
全幅 (mm) 730
全高 (mm) 1040
シート高 (mm) 780
重量 (kg) 173
エンジン種類 空冷4ストロークOHC4バルブ単気筒
総排気量 (cm3) 396
最高出力 (PS/rpm) 27/7,000
最大トルク (k-gm/rpm) 3.0/5,000
燃料タンク容量 (L) 12L
変速機形式 5速/リターン式
タイヤ 100/90-18
130/80-17
ブレーキ 機械式ダブルリーディングトレーディング
機械式リーディングトレーディング
写真
撮影協力:RED BARON
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コメント一覧
  1. 名無しのギィ より:

    実は知人が所有してたことがあり、何度か乗ったことがあります。
    実車はかなりカッコイいですよ。
    乗り味はまぁ想像通りなんだけど、意外と振動が少なく、ポジションが絶妙だと感じたのを覚えてます。
    スズキってこういうところ上手なんだよなーと。

  2. オッサンバイカー より:

    後輩の愛車でした。
    確かに振動が少なく、ライポジも良く、流して走るのが最高に気持ちいい、そんなバイクでした。
    130スピードポイントで高速コーナーに突っ込んだら、さすがにフレームの限界を感じましたが、普段使いにも丁度よい、いいバイクでした。
    サベージ650のようなバイクが出たら、是非乗ってみたいですね。

  3. カフェレーサーに憧れるロートル より:

    サベージもビッグシングルに対するスズキの解答みたいな所がありましたがこの熱いリポートが無ければテンプターというマシンを理解できませんでした。あったことさえ忘れていました。グースは何かジレラサトゥルノっぽい所が好きでしたがこのテンプターは他のチャラチャラしたやつ乗りたかったらそっちにしたらいいでという無骨な媚びを嫌う面構えが渋いです。スズキらしい頑固さ(?)のよく表れた燻し銀のような長年付き合って良さが分かるような良マシンの気がします熱いリポートをありがとうございました。

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