
▲photo by Atsushi Sekino
目次
【MT-09/SP ABS】
ディテール&試乗インプレッション
モタードの遺伝子を組み込んだ異色のネイキッドモデルMTシリーズきってのじゃじゃ馬MT-09ABSがフルモデルチェンジ!
スタンダードが8月26日。上級仕様のMT-09 SP ABSが7月28日に発売される。この発売に先立ち、ヤマハは袖ヶ浦フォレストレースウェイにてメディア向けの試乗会を開催。元初心者向けオートバイ雑誌編集長の谷田貝 洋暁が試乗レポートする。
1. シリーズ共通のモノアイになったスタリイング
【全長/全幅/全高】2,090mm×795mm×1,190mm
【車両重量】189[190]kg
【軸間距離】1,430mm
【最低地上高】140mm
※[]はSP
今回のフルモデルチェンジでは車体とあわせて外観も一新。フロントマスクは、これまでの左右ニ眼タイプから、MT-25/3で採用されているプロジェクタータイプのモノアイ化。さらにヘッドライドが車体側へと寄せられたことでより凝縮感を増している。全体的には従来のエッジの効いたデザインから丸みを帯びたデザインに変更されている。
【販売価格】
MT-09 ABS:1,100,000円(税込)
カラー:パステルダークグレー/ディープパープリッシュブルーメタリック C/マットダークグレーメタリック 6
MT-09 SP ABS:1,265,000円(税込)
カラー:ブラックメタリック X
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2. 5mmアップのシート高825mmのポジション
【シート高】825mm
モタード由来のアップライトな幅広ハンドルは車体を自在に操るためのもの。車体の抑え込みをしやすくするため、トップブリッジの位置が若干下げている。シート高は従来モデル比5mmアップの825mm。身長172cm 75kgの筆者で踵が若干浮く程度で足着き性はいい。サスペンションが違うSPもほぼ足つき性は変わらない。
3. 4kg軽くなった新車体 -実走インプレッション-
フルモデルチェンジで じゃじゃ馬感マシマシ!
2014年の初代MT-09が登場したとき“とんでもないモデルが登場した”と思った。その頃はまだヤマハのラインナップに並列3気筒がなく、並列3気筒のダイレクトなパワー感になれていなかったこともあるだろうが、それにしてもパワフル。恐ろしく凶暴なマシンに仕立て上げられていることに驚いたのだ。STDに加え、AとBの3種類走行モード切り替えられ、STDに対してダイレクトなスロットルレスポンスの“A”を選ぶとかなり過激な加速を中低速から味わえた。特に初代のモデルは、現代のハイパワーバイクの必須アイテムであるトラクションコントロールを備えていなかったこともあって、ずいぶんアクセルワークに気を使わされた記憶がある。乗り手を選ぶじゃじゃ馬だった。
その後、2016年モデルから制御カットのオフに加えて介入具合が変えられる2モードのトラクションコントロールを装備。2017年には外観を一新するとともに、シフトアップ対応のクイックシフターを装備するとともに、トラクションコントロールをはじめとする電子制御の具合を高度化。この2017年モデルでは、最高出力がそれまでの110psから116psへとアップ...したのだが、乗ってみると電子制御の緻密さを増していると同時に、ずいぶん扱いやすくなっていることに驚いたものだ。稀代のじゃじゃ馬が、ずいぶん躾けられて大人しくなってしまった、そう感じたのだ。
そして2021年。初のフルモデルチェンジが行われたMT-09。ヤマハとしての公式発表はないが、ユーロ5への規制対応ありきのモデルチェンジであることは明白である。排気量を888ccにアップして、規制対応による馬力ダウンを補ったという図式だろう。
しかし乗ってみると、それ以上にパワフルさが増したように感じる。最高出力が116psから120psへとアップしているのだから当たり前といえばそうなのだが、中低速の加速に、初代のじゃじゃ馬感が戻ってきたような印象を受けたのだ。しかも、電子制御が最新のスーパースポーツ並みに進化している分より洗練されている。初代は正直、アクセルの開け方次第ではちょっとどこへ飛んでいくかわからないような危うさがあったが、新型なら積極的にアクセルを開けていけるのだ。
車体もより軽くコンパクトなり、振り回しやすくなった印象を受けた。実際、フレームとリヤアームで2.3kg。全体で約4kgもの軽量化が行われているということだが、素早く車線変更をするときのようなアクションでその軽さがダイレクトに感じられるのだ。
“Torque&Agile”をキーワードに進化してきたMT-09。途中2017年のモデルチェンジで一度は扱いやすさに舵を切ったものの、今回のフルモデルチェンジで原点へと立ち返ったというわけである。なにせ今回のMT-09の開発コンセプトは、“The Rodeo Master”である。横文字でカッコつけてはいるが、日本語にすればようは、“じゃじゃ馬”。しかし、乗ってみればまさにコンセプトどおり、高揚感が体感できるマシンに仕上がっていた。
4. ディティール灯火器&メーター
・灯火器
ヘッドライトがLEDプロジェクタータイプになるとともに、ウインカーもLED化。これで電球を採用するのはナンバー灯のみになった。
・メーター
基本画面
フルカラーTFT3.5インチのメーターを採用。表示項目は多岐にわたり、基本情報からギヤポジション、クイックシフターの作動状況なども表示する。サーキット走行時に便利なラップタイマーも備えるほか、オプションのETCやグリップヒーターのインジケーターもメーター内に装備する。
▲サーキット走行に便利なラップタイムモードに表示を変更すれば、パッシングスイッチでラップタイムを計測できる
▲シフトインジケーターの作動回転数を任意の回転数に変えられる
【表示項目】
スピード/エンジン回転数/クイックシフター/ギヤポジション/ETC(OP)/グリップヒーター(OP)/ブレーキコントロール/時計/ライディングモード/オドメーター/フューエルトリップ(残量2.8Lで作動)/トリップメーター×2/平均燃費/瞬間燃費/気温/水温計/燃料計/燃料消費量/走行時間/ラップタイマー(周回数/ラップタイム/最新ラップタイム)
5. ディティール 走行性能
・エンジン
【エンジン形式/排気量】水冷4ストローク DOHC4バルブ並列3気筒/888cc
【最高出力】88kW (120ps)/10,000rpm
【最大トルク】93Nm (9.5kgf.m)/7,000rpm
1番の特徴である並列3気筒エンジンは845ccから888ccへと排気量アップ。ボア78mmはそのままにストロークを3mm伸ばし、圧縮比は11.5と従来同等を確保。今回のモデルチェンジでは、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、カムシャフトなども新設計し軽量化も追求。フレーム刷新にあたり搭載位置も従来の47.5度から52.3度へと若干立てられた。また吸気音などのサウンド作りにもこだわっており、エアクリーナーボックスのファンネルは3本出しを採用している。
・フレーム
▲エンジンを従来モデルの47.5度から52.3度へ立てて搭載。インジェクターは前作より距離が取られ燃料の霧化を促進している。
▲フレームも刷新。エンジンのパワーアップに合わせて横剛性は従来比で50%アップ。同時に縦剛性、捻り剛性も高められた。
▲一番薄い部分はメインフレームが幅広になるあたりだが、他の部分もつかんでみると実際かなり薄い。
▲ヘッドパイプ位置を30mmさげて前輪荷重をかけやすくし、よりひらひらと自在に操れるキャラクターに。
CFアルミダイキャスト技術によって、最低肉厚1.7mm(従来は薄さ3.5mm)を実現した軽量アルミフレームを採用。これにより縦・横・捻りといったフレーム剛性の最適化。横剛性に関しては従来比で50%という飛躍的な剛性アップをおこなって、エンジンのハイパワー化に対応している。またヘッドパイプの位置を従来比で30mm下げたことでトップブリッジ位置を下げ、フロント荷重をかけやすくしたとのことだ。
・足まわり
【タイヤサイズ】フロント:120/70ZR17/リヤ:180/55ZR17
フロントフォークはインナーチューブ径41mmの倒立タイプ。プリロードを15mm幅で変えられ、減衰調整は伸/圧とも11段階。リヤショックは今回、リンク方式を変更し、従来モデルよりもピッチングを抑える方向でセッティングされている。ただ足回りでの今回最大のブラッシュアップポイントはホイールである。アルミ鍛造ホイール並みの強度と軽さを鋳造アルミホイールで実現するヤマハ独自の“SPINFORGEDホイール”を採用したことで従来モデルの前後トータル比で約700gの軽量化を達成。コスト面でも非常に優れるため今後採用が進んでいくと思われる。タイヤは専用開発のブリヂストン バトラックスハイパースポーツS22。
・ブレーキ
【フロント】対抗4ポット/ダブルディスク
【リヤ】片押し1ポット/ディスク
フロントはダブルディスクで、モノブロックキャリパーをラジアルマウントでセット。ブレーキ関係で面白いのはABSの制御モードが2パターンあることだ。一般的なABSと、6軸IMUによるコーナリング制御に対応したABSモードの2パターンを備えており、設定メニュー画面で切り替えられるようになっている。
・自社開発6軸IMU
2015モデルのR1への搭載以来、国内4メーカーで6軸IMUユニットを自社開発しているのはヤマハだけである。新型MT-09に搭載されるIMUは、50%の小型化、40%の軽量化を実現。車両の状態、動きを3次元的に観測しており、そのデータは、ブレーキ、トラクションコントロールなど、さまざまな電子制御デバイスのコントロールに活用される。
・シート
前部を大きく絞り込むことで足つき性をよくした前後一体型のシートを採用。シート脱着のためのキーシリンダーはフェンダー裏にある。シート下スペースはほぼないが、別売のETCを収納、コネクタで接続できるようになっている。
・ステップ
ラバーレスタイプのスポーティなステップは、ボルトの差し替えで2ポジションが選択可能。写真のノーマルに対し、バックステップポジションは上方14mm、後方4mmとなる。また今回から上下両方対応になったクイックシフターは、セッティングで、オールカット、アップのみ、ダウンのみなどの設定が行える。
・マフラー
ユーロ5への適合はもちろんのこと、サウンドチューニングにも徹底的にこだわり、1.5段膨張室を採用。加速時には駆動力と排気音がリンクするような工夫が盛り込まれ、排気口を下方に向けることで、地面からの反射音がライダーへと跳ね返るようにしている。
・ハンドル
モタード由来のバーハンドル&アップライトなポジションは、リーンウイズはもちろん、リーンインからリーンアウトまで自在なポジションで操作できるのが特徴。位置変更も可能でノーマルに対し上側4mm・前側9mmの2ポジションが選べる。
・ドライブモード
ドライブモードは、1から4まであり、走行中もスロットルオフで変更可能。1から3まではスロットル操作に対するバタフライバルブの動きが変わり、数値が小さくなるほどレスポンスがアクセル操作に対してダイレクトになる。4はいわばレインモード的存在で、過渡特性だけでなく出力も抑えられている。
・TCSモード
システムオフ、1、2に加えて任意でパラメーター設定が変えらるM(マニュアル)モードを装備。トラクションコントロール(TCS)、スライドコントロールシステム(SCS)、リフトコントロールシステム(LIF)のそれぞれで個別にパラメーター設定が行える。ちなみにトラクションコントロールとスライドコントロールシステムの違いは、トラクションコントロールが直進時の駆動力制御なのに対し、スライドコントロールシステムは車体の後輪振り出し量をIMUでみながら駆動力の制御を行っている。
6. ディティール ユーティリティ
・燃料タンク
【燃料容量】14L
圧縮比は前作同様11.5で燃料はハイオク指定。タンク容量は14Lを確保し、スペック上のWMTCモード燃費値は20.4km/L。燃料警告灯は残量2.8L以下になると点灯するので、それまで計算上230kmほど走れることになる。
・荷掛けフック
ヘルメットホルダーやタンデムステップに荷掛けフックがあるものの、後部にはフックポイントはないので積載性はイマイチ。ただし、アクセサリーのトップボックスステーを装着するためのボルトがある。大荷物を積載するつもりなら、キャリアが必要になりそうだ。
・スイッチボックス
▲【左】パッシング&ヘッドライト切り替え/ウインカー/ホーン/ハザード/モードスイッチ/モードパドルスイッチ
ドライブモードの切り替え、トラクションコントロールの設定切り替えなどは左スイッチボックスのモード&パドルスイッチで行う。左のホイールスイッチはダイヤル操作およびプッシュ操作が可能で、メーターのカーソル移動と決定に使う。複雑そうに見えるが、マシンセティングの操作手順はシンプルなのですぐに慣れるだろう。
7. 上級仕様のSP
【MT-09SP ABS】
【販売価格】
MT-09 SP ABS:1,265,000円(税込)
カラー:ブラックメタリック X
●走行インプレッション
スタンダードのMT-09とSP仕様でエンジン出力的な仕様の違いはないが、車体はほぼ別物と言っていいいだろう。乗り比べてみれば、サスペンションの味付けが全く異なっているのをはっきりと感じる。SPはしっとりと落ち着いた動き方をする感じで、スタンダードに対して加減速時のピッチングモーションが少なくなる。おかげでMT-09のじゃじゃ馬“感”は減るものの、明らかにペースアップがしやすいと感じた。
●ディティール STDとの違い
▲インナーチューブはダイヤモンドライクコーティングを施し摺動性をアップ。
▲プリロード調整が15mm幅なのは変わらないが、伸側減衰調整は26段となり、圧側減衰調整に関しては高速(5回転半)と低速(18段)で個別にセッティングが行える。
▲リヤショックは専用開発のオーリンズ製フルアジャスタブルサスペンションをセット。
▲調整幅はプリロードが無段階の8mmとなり、減衰特性は伸び側30段、圧側20段となっている。
▲SP専用装備として、4-6速時に使え、速度が50-180km/hで作動するクルーズコントロールも追加される。
▲クルーズコントロールのメーターへの表示はインジケーターのみで、設定速度の表示はなし。設定速度は2km/hごとの増減速が行え、レジューム機能も備えている。
▲単色のSTDに対し、塗り分け塗装が施された高品位なタンクを採用している。
▲スイングアームがバフがけ&クリア塗装となり、スプロケットやハンドル、レバー類なども専用のブラック塗装が用いられている。
▲前後のブレーキのリザーバータンクがスモーククリア処理となる。
8. まとめ
ただ高級なだけじゃない!STDとSPはキャラが違う
フルモデルチェンジだけあって、前作から大きく進化した感のあるMT-09とSP。2台を試乗して感じたのは、MT-09とSPではかなり足回りのキャラクターというか、目指す方向性が違っているということだ。スタンダードの方はサスペンションの動きに、モタードDNAを受け継ぐ柔らかめのセッティングが施され、ピッチングの大きなMT-09らしさが演出されている。一方、SPは上級仕様という意味合いもあるのだろうが、より落ち着いたロードスポーツ的な味付けがなされている。もちろん、クルーズコントロールシステムの有無など、装備面の違いもあるが、車体のキャラクターが大きく違うことにまず驚かされた。じゃじゃ馬感を楽しみたいならSTD。サーキットでタイムを突き詰めたいならSPという選び方になる。
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