
ドゥカティの2021年新型ムルティストラーダV4Sが日本でも発売された。今回はテストコースでの試乗会が実施されたので、そのインプレッションをお届けしたい。新型ムルティV4Sは全てが刷新されているので、語る上での切り口があまりにも多い。ここでは、まずバイクで世界初採用のアダプティブクルーズコントロールを中心に取り上げたい。
アダプティブクルーズコントロール(ACC)は、従来のクルーズコントロール(CC)と何が違うのかというと、速度が自動で調整されることで前車との車間距離を一定に保ってくれること。文字にするとこれだけだが、そのインプレッションはまさに「新感覚!」。思わすヘルメットの中で「おー!」と叫んでしまうくらいなのだ。
もう一人のライダーがバイクの中にいる感覚!
テストコースの約2kmの高速周回路がACC体験の場となり、前の車やバイクと連なって走る機会が用意された。ACCのスイッチをオンにし、バイクが前車を捉えるとそこから追尾がスタート。前のクルマが減速や加速をわざと繰り返してくれたが、ムルティV4Sはきっちりと追尾してくれた。
ライダーはバイクに跨がって前方に注意を払い、カーブが来たら体重移動するだけ。バイクが自動で電子制御スロットルを操作して加減速、さらに減速度が高い時はブレーキもかけてくれているフィーリングも伝わってくる。こんな感覚は全くの初体験で、バイクに乗り始めて30年の自分にとって「時代が変わった」と思わされた瞬間だった。まさに未来である。
▲ACCのスイッチを入れるとメータ右下にバイクと車間距離のインジケーターが出現。前車を捉えると車が出現しグレーから緑に色が変わる
ACCの運転は完全無欠とまでは言えないがそれなりにスムーズ。この体験を分かりやすく伝えるなら、もう一人のライダーがバイクの中にいる感覚。40代後半より上の世代であれば「ナイト2000」と言えば分かるだろう。将来のモデルチェンジでAIを搭載して話しかけてくれるようになることに期待しつつ、こちらから「浜松までよろしく!」と話しかけてしまいそうだ。
ACCはカーブでも追尾を続けてくれるが、その際は慣性計測センサー(IMU)がバイクの傾きを検知し、50度を超えると機能が解除される。他にもブレーキ操作やアクセルを強く戻すなどした際もACCは解除。クラッチが一定時間以上握られた場合も解除になるがギアチェンジ程度の短時間なら継続。またクイックシフターも併用できるので幅広い速度域でACCを使用可能だ。
注意したいのは、30km/h以下(正確には5km/hのマージン分も入れて25km/h)でACCが解除されること。緊急ブレーキ機能は搭載されていないのでライダーがバイクを停止させる必要があるのだ。実際にACCテスト時にバイクを停止させたが、30km/h程度までバイクが減速しているので、ブレーキの引き継ぎはスムーズに移行できた。ただし、実際には急ブレーキを要する交通状況も考えられるので油断は禁物だろう。
▲中央の黒い装置がIMUで、バイクの傾きなどを検知する。左はブレーキを操作する装置でABSの機能も持っている
レーダーを搭載することによってACCが実現、価格はおよそ12万円
ACCの実現にはこれまでにないメカを導入する必要がある。それがバイクでは世界初採用となるレーダーセンサーで、バイクの「目」の役割を果たしてくれる。前方レーダーの検知範囲は160mで、カメラのように直接見る代わりに、ミリ波という電波を発信し反射を受信することで周囲の物体をセンシングする。
ミリ波は、対象物に電波が当たった時に透過しずらく反射しやすい。また反射した対象物の状況(大きさ、形、距離や角度といった位置情報、相対速度など)を高精度で検知しやすい。さらに天候等の環境変化に強いというメリットがある。レーダーセンサーは車で使用されているものと同じだが、バイクでの実用化にあたっては製造メーカーのボッシュが国内でもテスト走行を実施している。
ムルティV4Sでは、30~160km/hの速度域でACCが設定できるので、高速道路に乗ってしまえば状況次第でアクセルもブレーキも操作せずに出口まで到着することもできるだろう。感覚的には自動運転に近く、実際にACCは国土交通省が定めた車の自動運転区分のレベル1にも盛り込まれているのだ。もちろんバイクでは自動運転を目指す訳ではないが、ライダーの負担を軽減することで事故抑止に繋がるだろう。これが、オプション設定上の差額で算出すると12万円(ACCには使用されないリアのレーダー込み)で追加できるのだ。
▲右側がフロント用のセンサーでACCに使用する。左はリア用で死角検知に使用。前後合わせてのオプション価格が12万円だ
▲新型ムルティストラーダV4Sのフェイス部分。この鼻にあたる部分にフロントのレーダーが設置されている。泥などはこまめに拭き取る必要がある
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