
▲photo by AtsushiSekino
目次
【ヤマハ トリシティ300】
ディテール&試乗インプレッション
前2輪の3輪構成という独特のジャンルを展開しているヤマハのLMW(リーニング・マルチ・ホイール)。“トリプル(3つ)”と“シティ”の造語が示す通り、シティーコミューターとしてのキャラクターが強いトリシティシリーズは、現在125cc、155cc、300ccの3種類がラインナップ。今回は長兄のトリシティ300をピックアップして元初心者向けオートバイ雑誌編集長の谷田貝 洋暁が試乗レポート。なかなかツーリングも楽しそうな1台だぞ!
1.唯一無二な前2輪スタイリング




【全長/全幅/全高】2,050mm/815mm/1,470mm
【車両重量】237kg
【軸間距離】1,595mm
【最低地上高】130mm
前輪が2つある。それだけでもはや大きな個性だが、トリシティシリーズの中でも大柄なトリシティ300の迫力はシリーズ随一。実際車格も全長2,050mm、軸間距離1,595mmと大きく、見た目のサイズ感は250ccクラスのビッグスクーターよりもひとまわり大きい印象がある。駐輪場所もやはり前2輪のぶん少し広めのスペースが必要だ。
【販売価格】
ブルーイッシュグレーソリッド4/マットグレーメタリック6/マットダークグレーメタリックA:957,000円(税込)
※2021年1月現在
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2. ゆったり大柄なポジション


【シート高】795mm
シート高の数値そのものは795mmとそれほど高いものではないのだが、シート部分が幅広なため、両足を着こうとすると踵が5cmくらい浮く印象で、足つき性はいいとはちょっと言えない。ただし、そんな不安を払拭してくれるのが、新採用のスタンディングアシストだ。なお、シートなどの車体後部はXマックスと共通でシート形状も同じ。ライダーは身長172cm/75kg。
3.もはや転ぶ気がしない!? -実走インプレッション-
LMWの世界観は唯一無二!
なにはなくとも語るべきは、最大の特徴である前2輪、LMW機構の特性だろう。トリシティ300は、トリシティ125、トリシティ155、ナイケンに続く、第4のLMWモビリティであり、ATモデルのトリシティシリーズの最大排気量のモデルとなる。125cc、155ccと徐々に排気量をアップしてきたトリシティシリーズは、その名のとおりシティーコミューター的な要素を大切にしてきた。ところがこのトリシティ300は、車体をみるとかなり大柄。ホイールベースは1595mmと長めで、走り出せば高速ツアラーのような大きな乗り物を操っている感覚が味わえる趣味性の高さが最大の特徴となっている。
走って驚くのは、やはりLMW機構ならではの強烈な接地感だ。バイクは車体を傾けてコーナリング(リーン)するという特性から、その安定性は路面とのグリップ具合に頼らざるを得ない乗り物である。しかし、前輪が2つあるだけでここまで安心感が強くなるのか?と思うくらい安定している。考えてもみよう。左右に2つの車輪があれば、片輪が濡れたマンホールや浮砂を踏んでも、片輪はグリップし続ける。つまり一発でずるっと滑ることがないから、雨の日のウエットコンディションや落ち葉溜まりがあるようなワイディングでも、路面状況に左右されにくく、安心して走れてしまうという特性が最大の特徴なのだ。この他、横風にも強く、幹線道路にありがちなアスファルト路面の凹凸にも左右されにくかったり、二人乗りなどがしやすいといった特性を持っている。
トリシティ300はそんなLMW由来の特性を持ちながら、さらに長めのホイールベースとしなやかな車体が与えられたおかげでコーナリング時のフィーリングがものすごくいいと感じる。安定感があるだけでなく走っていて単純に楽しいのである。開発責任者のプロジェクトリーダーいわく、安定感としなやかさのために、強度と剛性バランスを最適化したとのことだが、コーナリング中にググッと遠心力で応力がかけられるため、余計路面への接地感が強く感じられてマシンを操る感覚がものすごく強い。トリシティシリーズはシティコミューター的なイメージが強く、ファンライドは二の次のようなイメージが強かったが、なかなかどうしてツーリングも楽しいマシンに仕上がっているのだ。
そんな持ち前のLMWらしい特性に、ブレーキのかけすぎによるスリップを防ぐABS、そしてアクセルの開けすぎによる後輪の空転を防ぐトラクションコントロールも装備しているのだから、もはや鬼に金棒である。そんな路面、どんな天候...なんて言ったらちょっと言い過ぎだが、大抵の路面状況は楽しく走れてしまうことだろう。
4.LMW&スタンディングアシストシステム
LMWとは、Leaning Multi Wheelの略で、二輪車と同じように“リーン(傾斜)”して旋回する“3輪以上”のヤマハ車のことだ。内部には、平行にレイアウトされた桁のようなパラレログラム機構を持つのが特徴で、左右の車輪の動きを連動させている。またトリシティ300には、スタンディングアシストシステムという、パラレログラムをロックする機能を新採用。停止中に使えばマシンを自立させることができる。
左右のフロントフォークを連結しているパラレログラムリンク。この2本の平行な桁のようなパーツは、バイクの傾きに合わせて平行四辺形に変形することでタイヤが路面を追従する。その特徴はフロント2輪ならではのグリップ力と安定感、路面の凹凸や横風などの外乱要素の強さが挙げられる。
LMWの最大排気量モデルのナイケンにも採用されるアッカーマンジオメトリは、二つある前輪のトレッド幅によって起こる、内輪差の影響/変化を補正することがその目的。おかげでコーナリング中にもハンドリングの変化が少なく、軽やかなコーナリングが可能だ。ちなみに左右のトレッド幅が大きくなるほどアッカーマンジオメトリによる補正が必要になるため、125、155のトリシティにはこの機構はない。
単純に左右に設置面が分かれるだけで路面状況の影響を受けにくくなる。例えば片輪が濡れたマンホールを踏んでもいきなり滑りだすことはないというワケ。弱点は左右のトレッド幅が大きいおかげで水はねが多いくらいか。
ヤマハ車として初採用のスタンディングアシストシステムは、パラレログラムの動きを機械的に固定することで車両の自立を“アシスト”するシステム。あくまでアシストなので補助ではあるのだが、停止中に地面から両足を離すなんてことも慣れれば可能だ。


スタンディングアシストシステムは、1.アクセル全閉、2.エンジン回転数2,000回転以下、3.車速10km/h以下の条件を全て満たしたときに使用可能となり、メーターのインジケーターが点滅してそれを知らせる。この時に左スイッチボックスのレバーを引くと、スタンディングアシストシステムがパラレログラムの動きをロックする。
スタンディングアシストシステムの使い方、特徴を動画で解説。停止-発進の流れで足をつかずに使用できるかも試してみたぞ!
【Webikeモトレポート】試乗インプレッションムービー
5.ディティール メーター&灯火器
・灯火類




ヘッドライト、ブレーキ、テールランプの光源はLEDを採用。ひと目でトリシティシリーズとわかるスタイリングは、前2輪のLMWだからこそのボリューム感だ。
・メーターパネル


【表示項目】
スピード/エンジン回転数(バーグラフ式)/燃料残量/時計/オドメーター/トリップメーター×2/フューエルトリップメーター/エンジンオイルトリップメーター/エンジンオイル交換表示/Vベルトトリップメーター/Vベルト交換表示/瞬間燃費/平均燃費/トラクションコントロールシステム表示/外気温計/電圧計
モノクロタイプの液晶パネルを採用。表示要素は非常に多く、消耗品であるエンジンオイルやVベルトの交換時期を教えてくれる機能は通勤通学などで乗りっぱなしになりがちなデイリーユースで便利だろう。このほか、トラクションコントロールシステムのON/OFFもメーターを見ながら行う。
6.ディティール 走行性能
・エンジン
【エンジン形式/排気量】水冷4ストローク OHC単気筒/292cc
【最高出力】21kW/7,250rpm
【最大トルク】29Nm/5,750rpm
249ccのXマックス(17kW/7,000rpm)のエンジンと同型でストロークが違い、トリシティ300は排気量が292ccが確保されている。当然その分パワーもトルクも上乗せされているが、前2輪機構のLMWは総じて車体が重くなりやすくトリシティ300は車両重量で237kgもある。日本国内では車検制度的に250ccの方がセールス的にも有利なのは間違いないが、それをしなかったということは車両重量が重めでエンジンパワー的にちょっと無理があったということだろう。
・ハンドル
ハンドル幅795mmでフルカバードされたスクーターらしいハンドル回りだが、コンソールデザインはヘッドライト側(外側)と足側(内側)の境をなくすトリシティならではのシームレスデザインを踏襲している。ハンドルは、スクーターで一般的なラバーマウントではなく、リジットマウントを採用しダイレクト感のあるスポーティなハンドリングを追求。大径ステアリングシャフトを採用し捻り剛性を高めている。
・足まわり




【タイヤサイズ】フロント:120/70-14/リヤ:140/70-14
フロントフォークは片側2本で合計4本。他社製の3輪バイクとは違い、ダブルウィッシュボーンやボトムリンクタイプではなくテレスコピックサスペンションを採用していることがハンドリングの軽さの秘密だ。タイヤはブリヂストンとLMW専用に設計&共同開発したバトラックスSCを採用。一般品とは違う剛性バランスやコンパウンド特性を持っており、更なるグリップ性、耐摩耗性、ウエット性能が追求されている。
・ブレーキ


【フロント】ニッシン片押し1ポット/ディスク×2
【リヤ】ニッシン片押し1ポット/ディスク(パーキングブレーキ:ドラム)
タイヤが前後3つあるという特性上、ブレーキング時のストッピング性能もLMWは非常に高く、制動距離が一般的なバイクに比べて短くなる傾向にある。しかもトリシティ300には、3輪独立制御のABSに加え、左レバーを握れば前後輪のブレーキの効き具合を最適にバランスさせる前後連動ブレーキ(ユニファイドブレーキシステム)も搭載。3輪ならではの強烈なブレーキング性能を誰もがレバーを握るだけで味わえる。
・マフラー
高い燃費性能が追求されたブルーコアエンジンを搭載するトリシティ300。二人乗りでの定地走行では38.4km/L、WMTCモード値では31.5km/Lを実現。実際に100km弱走行したときのアベレージ燃費は28km/Lぐらいだった。
・トラクションコントロール
トリシティシリーズとして初めてトラクションコントロールシステムを搭載。フロントタイヤのグリップ力を稼ぐLMWと、ブレーキロックを防ぐABS、そして後輪のスリップダウンを防ぐトラクションコントロールシステムの組み合わせは鬼に金棒。少なくともウエット路面への恐怖感がものすごく少なくなるのは確かだ。ちなみにトラクションコントロールシステムはオンオフも可能となっている。
7.ディティール紹介 ユーティリティ
・燃料タンク
【燃料容量】13L
燃料タンクの容量は13Lで、スマートキー解錠式の給油口を備える。ちなみに燃料計の最後のバーが点滅しだした時点での残量は2.4L。また燃料残量が少なくなるとフューエルトリップメーターが作動し、燃料警告時からどれだけの距離を走ったかがわかるようになっている。
・シート
シートヒンジから後ろのパイプワークやフレームの構成部品は、250ccスクーターのXマックスと共用。バックレストはちょっと日本人には遠いイメージだが、表皮の滑り止め加工も効果的でホールド感もいい。オプションでマイナス40mmシートを低くする『ローダウンシート』もワイズギアから発売されている。
・フロアボード


他のトリシティシリーズとは違い、フロアボードがオールフラットのステップスルー式ではなくセンタートンネルがあるのは、スポーティな車体構成である証だ。また、前2輪という構造上、フロアボードの長さ確保が難しいLMWだが、トリシティ300はしっかりと前後に長くスペースが確保され窮屈感も少ない。大柄なライダーでも足の置き場が窮屈と感じることはないだろう。
・シート下


LEDライト付きのシート下スペースは45Lの容量が確保され、ヘルメットなら2個収納可能。ヘルメットが1つだけならA4サイズのビジネズバッグが収まるようになっている。スマートキー解錠式のシートヒンジはダンパー付きで動作も滑らかだ。
・スマートキー
乗車からハンドルロックまで、いちいちキーをポケットから取り出すことなく、イグニッションオン/オフ、シート下&給油口の解錠が行えるスマートキーシステムを採用。イグニッションのオフし忘れ防止してくれる警告アラーム機能や、駐輪場で愛車を探すときに便利なアンサーバック機能も付いている。
・アクセサリーソケット/パーキングブレーキ


ハンドル下には、右に12V 1Aのアクセサリーソケット、左にパーキングブレーキがある。レバーを引くとリヤタイヤ中央のドラムブレーキを作動させる仕組みだ。
・センタースタンド
サイドスタンドに加えてセンタースタンドも装備。スタンディングアシスト機構を使うと苦手な人が多いセンタースタンドがけも非常にしやすくなる。ちなみに台風などの強風時には、サイドスタンドとスタンディングアシストシステムを併用するとサスペンションによる揺り戻しが少なくなり、横倒しの被害に遭いにくくなりそうだ。
・スイッチボックス


【左】ヘッドライト切り替え/パッシング/ウインカー/ホーン/スタンディングアシストスイッチ
【右】スターター&キルスイッチ/ハザード/メーター切り替え&設定ボタン
シンプルな構成で、スイッチ類は直感的に操作が可能。メーター周りにボタンはなく、トリップの切り替えやリセットは右スイッチボックスの「SEL/RES」 ボタンの長押し、短押しで行い、トラクションコントロールのオンオフなどもこのスイッチを使って切り替える
8.まとめ
通勤通学などの日常使いと休日のツーリングがこれ1台で
趣味のツーリングと日常遣いの1番の違いは、ツーリングは雨ならやめることができるが、通勤通学では悪天候でも走らなければならないということだ。LMWはそんな路面状況の変化に強く、トラクションコントロールを備えるトリシティ300なら、春夏秋冬どんな路面でも安心して走ることができる。しかもスクーター族としてシート下には45Lの“濡れない”ラゲッジスペースが元から備わっている。ビジネスツールの運搬はもちろん、たまの休日には旅行鞄を放り込んでツーリングにも出かけられるというワケ。ただちょっとお値段が税込957,000円と高めなのがたまにきずだ。
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