【ケニー佐川:Webikeニュース編集長】

歴史に埋もれた「失われた技術」

ロストテクノロジー(失われた技術)というものがある。と聞くと、SF小説に出てくる超古代文明のことかと思う人もいるかもしれないがちょっと違う。ロストテクノロジーとは過去に実存した優れた技術のことで、何らかの理由により後の世に伝えられず失われてしまったものだ。

たとえば、戦艦「大和」の分厚い装甲をリベット留めする技術や、電子部品を一切使わない昔の機械式計算機など。それらは、時代とともに無用の長物になってしまったり、その後に登場した新素材やコンピュータにとって代わられ、現在ではその製造技術を継ぐ者もなく再現は不可能とさえ言われる。

前置きが長くなったが、そんな思いが頭をよぎった出来事があった。先日、レッドバロン主催のメディア向け中古車試乗会があって参加してきた。「譲渡車検」という同社独自の厳しい安全基準できっちりと検査・整備された中古車を乗り比べる機会があったのだ。ある意味で新車当時のコンディションに限りなく近いと言える中古車だ。

30年以上前に存在した直4スーパースポーツ

さて、ここからが本題なのだが、何台か試乗した中で特に印象に残ったのがCBR250R(MC19)だった。水冷並列4気筒DOHC4バルブ249ccエンジンは最高出力45ps/15,000rpmを実現。今ではMotoGPマシンにしか使われていない高価なカムギアトレーン方式(カムシャフトを通常のチェーンでなく歯車で動かすハイメカ)に、高剛性5角断面アルミツインスパーフレーム&アルミスイングアームとプロリンク式リヤサスペンションを採用……。
スペックだけを聞いていると「え、ホンダから新型250ccスーパースポーツが出たの!?」と勘違いしてしまいそうなぐらいの凄さだが、実は1988年製。今から30年以上も昔のマシンなのだ。

知っている人は知ってると思うが、今も4スト250cc史上最強との呼び声が高いCB250RR(MC22)の先代に当たるマシンだ。主な違いはフレーム構造とフロントブレーキがRRはダブルディスクになっていることぐらい。エンジン性能などは同等で特にこの2型はレーサーレプリカらしい見た目もほぼ共通である。
ちなみにRはシングルディスクだが、これはバネ下重量低減とメンテナンス性向上などの利点も多く、けっしてダブルディスクに劣っていないことは、現代の250ccスポーツが皆シングルディスクであることを考えれば納得できるはず。その意味では、見栄えより実益をとった名車とも言えるかも。

F1テクノロジーを搭載した2万回転の咆哮

乗り味もまた独特で、現代の250ccスポーツとはまったく異なるものだった。まずシートの低さに驚く。データではCBR250R(MC19)のシート高は720mmで、現行モデルのCBR250RR(MC51)の790mmに比べてもその低さは歴然だ。
車体も当時のモデルはスリムかつコンパクトで、4気筒にもかかわらず車重も154kgと同比較で10kg近く軽い。

つまり、足着き性に優れ、取り回しも楽ということ。当時のホンダの製品リリースにも「スポーティさと扱い易さを両立させたスーパースポーツ」とコンセプトを記してある。そして、ピークパワーは45psと現在クラス最強を誇るCBR250RRの38psを大きく突き放す。F1マシンのテクノロジーが投入されたと噂された、2万回転近くも回る超高性能な直4エンジンの高周波サウンドは、まさに昇天する気持ち良さだ。

現代のマシンとは異なる走りや楽しさがある

走り方も今のマシンとは異なっている。サーキットでの試乗だったが、サスペンションはソフトでブレーキも甘めなのでコーナリングでは突っ込まず、立ち上がり重視のスローイン・ファストアウトを守った伝統的な走り方に自然となる。かといって遅いわけではなく、パワーがあって車体も軽いので、スロットル全開にできるストレートでの速さは圧倒的だ。
また、シートが低くマシンの重心も低いので、コーナーの切り返しなども缶ジュースを転がすようにコロッと寝かす感じ。これも慣れると意外とラクで省エネな走りが楽しく、地面も近いので安心感がある。

一方、現代の250ccスポーツはもっとフロント荷重が高く重心も高めで、ガチッとした車体と足まわりによって急減速して、バタッと倒し込んで、クルッと旋回するような走り方になる。運動性能はもちろん進化しているが、一方でマシンが発する声というか、限界がつかみづらい部分もある。
昔のマシンはサスペンションもフワフワ、タイヤもズルズルなので、常に探りながらコーナリングしている感じがあった。30年以上も前と今のマシンではいろいろな意味で比較にならないとは思うが、実際に乗り比べてみると、それぞれに個性や良さがあることが分かってくる。

ワクワクする感じ、そこにヒントがあるかも

2輪マーケットの変容や排ガス規制その他もろもろの理由もあるし、本当の意味でのロストテクノロジーではないことは承知の上。各メーカーとも「温故知新」をテーマとした研究開発に余念はないと思っているが、あらためて昔のマシンに投入された優れたテクノロジーや“乗り味”について、掘り起こしてみると面白いと思う。

何故なら、昔のマシンに乗ってみると不思議と新鮮でワクワクするから。そこに何かのヒントがあると思うからだ。

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