
先日、カワサキの試乗会でW1に乗れる貴重な機会を得ました。通称“ダブワン”の名は何となく聞いたことがあるという人も多いと思います。でも実際に乗ったことがある人は少ないのでは。ましてや初期型となれば……。
メグロが原型となって生まれたW1
正式名称「カワサキ650 -W1」は1966年に誕生しました。でも、それには誕生にまつわるストーリーがあります。当時は英国車が全盛で、その代表格だったBSAの並列2気筒、通称バーチカルツインの大型スポーツモデルを真似て作ったのが「メグロ」でした。メグロは当時まだホンダをはじめとする国産メーカーがまだ小排気量車を作っていた1950年代に、すでに威風堂々たるビッグバイクを製品化していたのは驚くべきことです。
▲W1発売当時のカタログ写真。北米市場をターゲットにしていた
戦闘機メーカーの血が入った
その後、メグロはカワサキに吸収合併される形で消滅してしまいましたが、その基本設計はW1に受け継がれました。今回の試乗会で関係者から聞いた話ですが、当時のメグロは第二次大戦で戦闘機を作っていた川崎重工(当時は航空機メーカーだった)のエンジニアからしてみれば、「なんとも雑な作り」だったとか。でも、それはそうだろうと思います。日本のバイクメーカーの多くが街の修理工場から始まり、英国車を見よう見まねでコピーしていた時代です。川重ではメグロのウィークポイントを徹底的に洗い出し、次々に改良していったそうです。
今でこそNinja H2などの最先端マシンは航空機テクノロジーからのフィードバックと言われますが、今から半世紀以上も前から同じことをやっていたわけです。そう考えると、やはりカワサキって凄いですよね。
キヨさんが出した実測181km/h!
試乗会にはカワサキの元ファクトリーライダーとして国内外のメジャーレースで活躍したレジェンド、キヨさんこと清原明彦さんもいらしてましたが、実は彼もテストライダーとしてW1の開発に携わっていたそうです。
当時、世界最速を目指して開発されたのがW1です。キヨさん自身、実測でトップスピードはなんと181km/hを記録したというから驚きです。自分もカワサキが用意してくれた完璧にレストアされたW1に試乗させてもらいましたが、車体は鉄の塊のようにずっしりと重く、コーナーでもなかなか寝てくれないし、ブレーキもまったく効かない(失礼、今の感覚からすると)という手強さ。普通の人間だったら、とても怖くてそこまでスロットルを開け続けることなどできないでしょう。
その意味でもやはり昔の職業ライダーは凄い!最近では死語に近いですが、“命懸け”という表現がリアルに響いてくるのでした。ちなみに、今でもキック一発でW1を始動させるなど、キヨさんは元気な姿を見せてくれていました。
▲W1に火を入れるキヨさん。カワサキの開発ライダー兼ファクトリーライダーとして世界で活躍した腕前はさすが
鉄でできた機械仕掛けの乗り物
さて、前置きが長くなってしまいましたが、頑固オヤジにも似たW1の乗り味は本当に最高でした。燃料コックをひねって、タンクの左下に隠れているメインスイッチをONに、ハンドルに付いた工芸品のように美しいチョークレバーを引いて、空キックをかませてから……。と、エンジン始動までに手間がかかるのですが、その儀式が「さあ、乗るぞ!」という気分を盛り上げてくれます。
アイドリング音はシュポシュポと蒸気機関車みたいだし、走り出すと重いクランクが弾み車のように回って元気に加速していきます。「ドコドコ」というより「バタバタ」に近い独特の空冷並列2気筒サウンドがまた強烈で、4速踏み込み式のシフトペダルが右側に付いて、左側がリヤブレーキというメグロ譲りのレイアウトなどすべてが新鮮。ステアリングセンターに見慣れない“取っ手”が付いていると思ったら、なんとフリクションダンパーなんですね。つまり、締め込むことで摩擦力によってハンドルの動きを抑える昔のステダン(笑)。等々、当時の一生懸命な工夫が詰まっているのです。
W1 エンジン音
その後のCB750FOURやZ1へと続く、国産大型スポーツモデルの先駆けとなった名車W1。それはライダーの魂を震わせる、鉄でできた機械仕掛けの素晴らしい乗り物でした。半世紀前の最速マシンに、皆さんも是非思いを馳せてみてください!
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