
エンジンマウント部分にゴムブッシュを使用するラバーマウントは、細かい振動を吸収して快適な乗り心地を提供します。しかし走行距離の増加や経年劣化でブッシュが摩耗するとエンジンの揺れの原因になり、場合によってはエンジンハンガーを曲げることもあります。
エンジンマウントダンパーは中古車整備でもまずチェックされないポイント
カワサキW650の前側のエンジンブラケットを取り外すと、エンジンのクランクケースにダンパーゴムが圧入されている。このゴムがエンジンの不快な振動を吸収してライディング時の快適性を向上させている。
エンジンの振動によりダンパーゴムが痩せたことでフランジ付きのダンパーゴムはクランクケースとの間に明らかな隙間ができ、手で引っ張るだけで簡単に抜けてしまった。まだゴム成分が残っているのである程度振動は吸収するが、新車当時の性能とはいかない。自動車のエンジンマウントでは、鉄製のフレームに焼き付けられたダンパーゴムが経年劣化によって破断してしまうトラブルも発生することがある。
古いダンパーゴムは、リブの山部分が低くなりゴムならではの弾力性が低下している。左右からブラケットで挟み込まれているので、ダンパーゴムの劣化によって即座にエンジン本体がグラグラ揺れるようなことはないが、細かい振動が伝わりやすくなったりエンジン搭載位置が下がることはあり得る。
新たなダンパーゴムをクランクケースに装着する際は圧入が必要なので、長ボルトとワッシャーとナットで即席の圧入工具を用意した。
古いダンパーゴムを外す時とはまったく異なる抵抗感があり、本来はしっかり圧入することで振動を吸収していることを実感。
自分の愛車のエンジンがリジッドマウントかラバーマウントかなんて、多くのライダーは気にすることはないでしょう。マウントボルトとナットの締め付け具合を確認して緩みがなければ、エンジンがしっかり搭載されていると判断して間違いないでしょう。
確かに、メガネレンチやソケットでボルトナットを回せば緩みの有無は分かりますが、ラバーマウント車のマウントダンパーの劣化までは分かりません。ラバーマウントとはその名の通り、エンジンの振動をフレームに伝えないようにマウント部分にゴムダンパーを組み込んだ機種のことを指します。
有名なところでは、ハーレーダビッドソンスポーツスターの2004年モデル以降のラバーマウントフレームがあります。リジッドフレームと呼ばれる2003年までのモデルに対して、ラバーマウントのスポーツスターはアイドリング時にフレームの中でエンジンだけが揺れているのが大きな特長です。
バイクの場合はリジッドマウント車とラバーマウント車が混在していますが、自動車のエンジンはすべて振動を減衰するゴムやダンパーなどを用いたラバーマウントを採用しています。
ラバーマウントは快適性向上にとって有効な武器になりますが、時間の経過によってそれ自体の性能が低下する弱点があります。ブラケットやステーを介してフレームとエンジンをダイレクトに締結するリジッドマウントに対して、ラバーマウントには常に振動が加わるのだから劣化しても不思議はありません。
何年、何万キロで性能が低下するのかは一概には言えませんし、定期交換部品にも指定されてはいませんが、加減速時の慣性やエンジンの自重によってダンパーゴムが変形し弾性も低下します。
その結果、ラバーマウントが吸収できなくなった振動はフレームやライダーに伝わり、さらに劣化が進行すると加減速の際にエンジン自体が前後に動いてしまうこともあります。たいていのエンジンマウントはエンジン前後にあり、すべてラバーマウントなら劣化した際にエンジン全体が揺れるだけで済みますが、中にはラバーマウントとリジッドマウントを併用しているエンジンもあり、この場合はラバーマウントの劣化がリジッドマウント部分に悪影響を及ぼすことがあります。
具体的には、ラバーマウントの劣化によってエンジンが新車時より大きく動くようになり、その振動によってリジッドマウント部分のボルトやエンジンブラケットやボルトが曲がる例もあります。
フレームからエンジンを取り外すレストアのような大がかりな作業時にはチェックすることもあるでしょうが、通常整備の範囲でラバーマウントのコンディションを確認することはまずないでしょう。しかしリジッドマウントでない以上、ラバー部分は確実に劣化することを認識しておいた方が良いでしょう。
- ポイント1・エンジンとフレームをつなぐマウント部分には、両者をダイレクトにつなぐリジッドマウントと、衝撃を吸収するダンパーを内蔵したラバーマウントの二種類がある
- ポイント2・ダンパーゴムは定期的に交換する部品ではないが、ゴムの劣化によって振動吸収性が低下するなどの悪影響が生じる場合がある
ドライブスプロケットのダンパーゴムの劣化は特に要注意
エンジン後部左右のダンパーゴムはエンジンブラケットに圧入されている。このダンパーは前後左右すべて同じ部品を使用している。
ブラケットに新品ダンパーを圧入する際はバイスで押し込む。交換後はハンドルに伝わる振動は角が取れたまろやかなものになり、ダンパーゴムの効果を再確認できた。ダンパーゴムをジュラコンなどの硬質樹脂やアルミ素材に変更してリジッド化することで、エンジンが一体化してフレーム剛性が上がるメリットがあり、サーキット走行時などではその差が明確に感じられる機種もある。ただしライダーに伝わる振動は増加する。
中古車として購入した絶版車がラバーマウントだった場合、長く乗るつもりならダンパーゴムを交換しておくのは良い判断と言えるでしょう。具体的な不満や不具合がなくても、10年、15年を経過したラバーマウントは相応に硬化し、劣化していてもおかしくありません。
エンジンとフレームをつないでいるマウントを切り離すとなると、エンジンが落ちるのでは!?と心配になるかも知れませんが、一度にすべてのマウントを外さなければ大丈夫です。ただしブラケットやマウントボルトを外したり抜くことで、エンジン自体は大きく下がろうとするので、オイルパン下部をジャッキで支えておくといった準備は必要です。その際にクランクケース下部にマフラーがレイアウトされている機種では、マフラーを取り外してからジャッキを当てるようにしましょう。
ここで紹介するカワサキW650の場合、クランクケース前側はケース自体に円柱状のラバーが圧入され、後ろ側はエンジンブラケット側にラバーが圧入されています。クランクケースに圧入されている前側のラバーを外す際も、ブラケットがラバーの外側に被さるため、フレームからプレートを取り外さなくてはなりません。
エンジン下部をジャッキで支えながらブラケットを外すと、ダンパーゴムはクランクケースの穴でスカスカに遊んだ状態で、簡単に引き抜くことができました。新品のダンパーゴムを入れるためには即席の圧入工具が必要だったので、ゴム自体がそれだけ痩せていたことになります。
後部マウントも同様で、ブラケットに圧入されているはずのラバーは簡単に抜け、経年劣化による摩耗が確認できました。この後部マウントは、加速や減速で大きな力が加わるドライブスプロケットのトルク変動を受け止めているため、特に注意が必要です。ドリブンスプロケットに装着されたハブダンパーが痩せるのと同じように、ドライブチェーンがエンジンを引っ張ろうとする力はエンジンマウントにも加わっているのです。
W650は走りを前面に押し出した機種ではありませんが、ラバーマウントを採用した4気筒スーパースポーツモデルの中には、ダンパーゴムの劣化によってフレーム剛性の低下が実感できるものもあるそうなので、たかがエンジンマウントと侮らない方が良いかも知れません。
- ポイント1・エンジンマウントを取り外す際は、エンジンが落下しないようクランクケース下部をジャッキで支持する
- ポイント2・ドライブスプロケットに近いダンパーゴムはドライブチェーンによる駆動力によって劣化が進みやすいので要注意
この記事にいいねする