
精密部品のベアリングは、組み込む際にも、抜き取りの際にも、大切な約束事がある。また、交換のためにベアリングを抜き取る際にも、ベアリングを組み込む相手の部品=精密加工されたベアリング圧入孔にダメージを与えないように、作業進行しなくてはいけない。ここでは、相手の部品にダメージを与えることなく作業できる「ベアリングリムーバー」の使い方と、ベアリングを圧入するときにあると便利な「ベアリングドライバー」を再確認しておこう。
目次
セット購入すると後々便利なリムーバー
30年以上前は、正直、完全なるプロユーザー向けの商品であり、そうは簡単に手出しできない価格帯の商品が数多かった。しかし、ハンドツールの普及と同時に特殊工具も裾野が広がり、廉価な商品が続々登場している。そんな状況と比例するかのように、サンデーメカニックも数多く増えている。一般的に「規格サイズベアリング」の内輪内径寸法に合わせた商品開発されている。例えば、ホイールベアリングの内径=アクスルシャフト径は、Φ12/15/17/20/25mmが多いが、このセットは、それらのサイズを網羅している。
ベアリング内径と同寸ピースをセット
ここで作業実践している80年代のカワサキ用リアホイールは、アクスルシャフト径Φ17mmだった。つまりベアリング内径はΦ17mmなので、ベアリングリムーバーのΦ17ピースを手に取り、ベアリングに差し込んでみた。すり割りが入っているので、先端がスーッと入っていく様子を指先越しに確認することができる。先端が僅かに太くなっているので(内輪に引っ掛けるため)、差し込む途中に先端の出っ張りがベアリングを通過すると、スーッと軽くなる感覚も得られるはずだ。ピースを差し込んだら、すり割りを開くプーラー本体ボルトを軽く指締めして、Φ17mmピースを持ち上げた時に、先端の出っ張りがベアリング内輪に引っ掛かる部分で、拭き取りセットアップを進めよう。
すり割りを開いて確実に内輪をホールド
↓↓↓ ウエイトをスライドさらてガツッと引き抜く特殊工具
Φ17mmピースに本体ボルトを指締めしたら、ピース側の六角をオープンエンドレンチでホールドし、本体締め付けボルトの六角部分をレンチでしっかり締め付ける。この増し締めの際には、ピース先端の引っ掛かりが、ベアリング内輪エッジへ引っかかるようにセットするのが作業のコツだ。すり割りのストレート部分で増し締めしてしまうと、引き上げ時にピースが滑ってしまい作業性が悪くなってしまう。先端が引っ掛かっていることを確認しながら、リムーバー本体にコの字型フレームをセット。ベアリングホルダー端面にコの字の脚を押し付けながら、リムーバー本体上端のナットを締め上げ、ベアリングを徐々に引き抜くといった具合だ。今回のように、ホイールハブのベアリングを引き抜くにはスペースがあり作業性が良いが、コの字型部品をセットできる余裕が物理的に無い場合は、内輪にセットしたピースをスライディングハンマーで抜き取るのが良い。程度が良く感じるベアリングでも、一度引き抜いたベアリングの再利用は原則NGなので、メンテナンス事前に新品ベアリングは必ず準備しておこう。
様々な場面で使えるベアリングドライバー
ベアリング外輪を押し込む円盤状ピースをグリップシャフトに差し込んで利用するのがベアリングドライバーである。円盤部品はいい加減にサイズ設定されているのではなく、規格ベアリングの外径に対して僅かに小さく設定されているのが特徴だ。作業の際には、ベアリング外周に潤滑オイルやグリスを薄く塗布し、ベアリングが水平に落ち着くまで外周を平均的に叩き、水平になったと確信できたところで力強くまっすぐ叩こう。ベアリングの水平をキープできていれば、スムーズに圧入できるはずだ。
「グリップの倒れ」に注意しながら叩く!!
叩き込みの際には、ドライバーグリップが倒れやすく、倒れることで部分的に強く叩いてしまい、ベアリングが斜めに傾いてしまうことが多い。最後まで気を抜かず、シャフトの倒れに注意しながら叩き込もう。円盤部品は規格ベアリング外径に対して僅かに小さいので、しっかり叩き込んでもスムーズに抜き取ることができる。ここでは、ベアリング外径を叩く実例でご覧いただいたが、ベアリング内輪をシャフトに圧入したい際は、各種太さの金属パイプを利用することもできる。ただしその際には、ベアリング内輪の外径以上に太いパイプは利用しない方が良い。何故なら、シールベアリングの樹脂シールや金属シール側面を叩いてしまい、変形させてしまうことがあるからだ。
- ポイント1・ベアリングの抜き取り時に叩いて無理な作業を行うと、ベアリングホルダー側にダメージを与えてしまうので要注意
- ポイント2・ベアリングホルダーの利用時に、突っ張り(コの字型フレーム)がセットできないときにはスライディングハンマーを併用してみよう
- ポイント3・ベアリングドライバーで外輪を平均的に叩く際は、ドライバーグリップの倒れをチェックしながら作業進行しよう
グリス切れ=ノーメンテナンスが影響し、カサカサに乾燥していたり、ダメージがあるベアリングは(指先にゴロゴロ感が伝わる)、叩き出しで抜き取っても良い。叩き出すのが手っ取り早いため、そのために開発販売されている使い易い特殊工具もある。現実問題、物理的に、叩き出す以外に良い取り外しに方法が無いケースもある(周辺部品に覆われていてベアリングリムーバーが入らない)。
しかし、ホイールベアリングやクランクケースに圧入されたミッションベアリングなど、側面が完全に露出しているベアリングの場合は、特殊工具の「ベアリングリムーバー」を利用することで、スムーズかつ確実に、さらには、大切な部品にダメージを与えることなく抜き取ることもできる。叩き抜き作業では、慎重な作業を心掛けたつもりでも、いつしかベアリングが傾いてしまい、気が付いた時には斜めになっていることも多い。傾きに気が付かずに作業を進め「ベアリングホルダーにバリが出てしまった……」といった経験の持ち主も、なかにはいるはずだ。
クランクケースベアリングの場合は、クランクケースをヒーターで温めることで特殊工具を使うことなく、「クランクケースを逆さまにしただけ」で、ベアリングがスーッと抜け落ちることもある。それとは逆に、ベアリングの挿入時にベアリングドライバーを使わず、クランクケースを温めることで、冷えているベアリングがスーッと、吸い込まれるように挿入できることもある。ただし、この温度差作戦でベアリングを挿入した場合は、クランクケースや部品が冷えた際に、再度、ダメ押しでベアリングドライバーを使い、ベアリング外輪を叩いてセット状況を確認しよう。
過去の経験だが、温度差を利用してセットしたベアリングは、部品が冷える時に外輪を締め付ける作用が発生し、セット状況が甘くなる=ベアリングが浮き上がり状況になりやすいのだ。極わずかな外輪の浮きとは言え、エンジン組み立てにあたっては、ミッション軸の回転不良や渋さにつながることがあるので、組み付け前には必ずベアリングのセット状況を確認するように心掛けよう。
ベアリングドライバーを上手に利用することで、ベアリング外輪を平均的に叩くことができる。軸方向に対してドライバーのグリップが傾いていないか?前後左右を確認しながら作業進行するのがコツである。また、油圧プレスを利用する際にも、このベアリングドライバーがあると大変便利なので、特殊工具箱の中に、必ず揃えておきたい。
タイヤ付きホイールハブベアリングの交換時には、これらの特殊工具があると作業性は圧倒的に良くなる。サンメカレベルの高まりと比例して、これらの特殊工具は、間違いなく利用頻度が高まるので、是非とも、各自所有してほしい。
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