雨水が入って錆びたり入れっぱなしのガソリンが変質したり、ガソリンタンクのトラブルにはさまざまなパターンがあります。燃料キャップの口金部分からガソリンがジワリとにじむのも、旧車のタンクでしばしば発生するトラブルのひとつです。そんな時に頼りになるのが、施工が簡単で効果の高いエポキシ接着剤の充填です。

50年前のガソリンタンクなら経年劣化も仕方なし


機種を問わずタンク本体と口金部分は別々に製造した部品を接合しているが、口金部分が飛び出したタンクの中には内側でロウ接しているものもある。母材自体を溶かして接合する溶接に対して、ロウ接は母材を溶かさずロウ材自体の密着力に頼るため、経年劣化によって剥がれる可能性もゼロではない。このタンクは55年以上前のバイクの部品なので、今さら文句を言っても始まらない。


再塗装するなら口金部分も剥離剤やサンドブラストで下地を作ることができるが、オリジナルの塗装を生かしたい場合はエポキシ接着剤を塗布する周辺に限定してワイヤーブラシを掛け、パーツクリーナーで脱脂洗浄を行う。

絶版車あ旧車の人気が高いのはバイクでも自動車でも同じですが、年式が古くなるほど懸念されるのはサビの問題です。自動車であればボディの内側がグサグサに錆びる、バイクならガソリンタンクの底が抜けるのは当たり前。

オーナーにとってはたまったものではありませんが、メーカーにとっても製造から数十年後までも生き残っているとは思いも寄らないはず。素材の進歩や新たな製法の実用化によって、金属部品の耐用年数は飛躍的に伸びていますが、少なくとも1960年代から70年代にかけては、まだ進歩の途中だったということです。

バイクのガソリンタンクは複雑なデザインを形にするため、いくつかのパーツを接合しています。接合方法には溶接とろう接が使い分けられ、上面と底面の接合にはシーム溶接という手法が多く使われてきました。重ね合わせた母材を電極となるローラーで挟み、電流を流すことで連続的に溶接を行うシーム溶接は、スポット溶接に対して合わせ面の気密性が高いのが特長で、ガソリンタンクの製法として最適です。

しかし溶接部分に熱が加わり続けることで、母材が酸化しやすい=錆びやすいという弱点もあります。その弱点を克服するために素材や製法の工夫が重ねられましたが、その過程では、新車から時間が経つと必ず溶接部分が内側から錆びてくるという、持病のような症状を発生する機種もありました。

それを仕方ないと片付けてしまうのは、オーナーにとっては納得できない話かも知れませんが、屋外保管や長期放置など、使用状況によって劣化が促進される面もあるので判断が難しいところです。1980年代のバイクブームの頃なら、次から次へと登場するニューモデルをどんどん乗り換えるユーザーも多く、保有期間の短さから弱点に気づく機会が少なかったかも知れませんが、絶版車の人気が高まり1台のバイクを長く所有するようになると、さまざまな不具合に直面する機会も増えてきます。

POINT

  • ポイント1・製造時に溶接熱が加わった部分からサビが発生することは避けられない
  • ポイント2・絶版車の人気が高まり車両の保有年数が長くなることで、短期間のうちに乗り換えが行われていた時代とは異なる不具合の事例も発生するようになっている

はんだよりも準備が簡単で周囲への影響も少ないエポキシ充填


主剤と硬化剤を混合した際の化学反応によって硬化するエポキシ樹脂は、パテやサーフェーサーやパウダーコーティングの材料に使われるほど耐久性が高く耐薬品性も優秀。製品ごとに指定されている混合比で均一になるまで混ぜ合わせる。硬化までの時間が短い接着剤の場合、口金に掃除機を貼るなどの準備はあらかじめ済ませておく。

旧車ならではガソリンタンク関連の不具合のひとつに、口金部分からの漏れや滲みがあります。前項でタンクの製法について少し触れましたが、1960年代のバイクの中には口金部分を溶接ではなくロウ接で接合しているものがあります。ロウ接とは簡単にいえばハンダのようなもので、母材を溶かすことなく銀ロウや黄銅ロウなどのロウ材を接着剤として母材を接合します。

ここで紹介するタンクのように、中心で溶接された左右のパネルに口金を付ける際に鈑金成型された口金部品をロウ接で付けるのは、1960年代当時には珍しいことではありませんでした。ロウ接自体は、自転車やバイクのフレームパイプの接合にも使われる技術であり、それ自体が溶接に対して劣ることはありません。

しかし、長い時間を経過すれば話は変わってきます。例えば昔の電気製品の不具合の原因のひとつであるハンダ割れは、プリント基板の銅箔からハンダが割れて剥がれたり、ハンダが割れて素子が浮いて接触不良を起こしたりします。

それと同じように口金部分のロウ接部分にクラックが入ったり隙間ができることで、タンク内のガソリンが染み出すことがあります。ほとんどの場合、最初はタンクキャップのゴムシールの劣化を疑いますが、ゴムを交換しても症状が改善せず。よく観察するとタンクに差し込まれた口金の根元からにじんでいたというパターンで気づくことが多いトラブルです。

口金部分はタンクの内側でロウ接されており、底板を剥がさなければ直接接合部分には届きません。そこで補修はタンク表面側から行いますが、口金とタンクの隙間をハンダで埋めるとなるとフラックスやハンダの熱が周囲に与える影響を考慮しなくてはなりません。タンクが再塗装前提であるならかいまいませんが、当時物のオリジナル塗装をいじりたくないという場合には別の手段が必要です。

ここでお勧めなのが透明エポキシ樹脂接着剤の充填です。エポキシ樹脂は耐久性や耐薬品性に優れた性質を持ち、塗料の原料にも使われます。また金属や木材、ガラスへの密着性が高く接着剤としても多用されています。この特長と性質は、金属製のガソリンタンクの接着にとっても好適です。密着性を上げるための下地作りは必要ですが、透明の接着剤を選べば見栄えに対する影響も最小限に抑えることができます。

POINT

  • ポイント1・ガソリンタンク本体と口金部分の接合にロウ接を用いている場合、経年劣化で接合部が剥がれてガソリンが染み出すことがある
  • ポイント2・耐久性や耐薬品性に優れたエポキシ接着剤によって、ロウ接割れを塞げる可能性がある

接合部の隙間に積極的に充填するためのひと工夫


エポキシ接着剤を塗布する部分の塗装を剥がし、口金に掃除機のホース先端を貼り付ける。圧力の調整は燃料コック部分で行うので、隙間なくしっかり貼って良い。


ガソリンタンクと掃除機をつないだおかしな光景だが、接着剤を充填しながらホースの先端を口金に当てようとしても、ホースがずれたり脇から空気を吸い込んだりして失敗しがちなので、確実に吸えるようあらかじめ貼っておくのがおすすめ。


掃除機で吸い出すとタンク内は減圧する一方なので、燃料コックを外して吸い込めるようにしておく。掃除機を作動させながら入り口を指で塞いだり開いたりすることでタンク内の圧力にムラを作り、その脈動で接着剤の流れ込みを助けるのも有効だ。


掃除機でタンク内の空気を吸いながら、口金とタンクの隙間にエポキシ接着剤を塗布する。大量に塗っても入っていかないなので、ピックツールなどで少しずつ塗布するのがポイント。タンク内部からガソリンが滲み出てくるということは小さくても確実に隙間が存在するので、その隙間を狙って充填するイメージで作業する。


この接着剤の場合、混合して30分後から硬化が始まり、23℃の環境下で1時間で硬化する。温度が低すぎると硬化反応に時間が掛かるので、適度に加温すると良い。隙間に充填されて完全硬化すれば、ガソリンの滲みや漏れは完全に止まる。

エポキシ接着剤は主剤と硬化剤を混合して使用します。硬化までの時間は製品によって異なりますが、早い物だと10分程度で固まり始めます。口金からの漏れを防ぐには、タンク本体と口金の隙間にしっかり浸透させることが重要ですが、接着剤には粘度があるためガソリンが染み出してくるように簡単には流れ込みません。

そこで掃除機を使ってタンク内の空気を負圧にすることで、硬化が始まるまでの僅かな時間で接着剤が流れ込む手助けをします。この時、口金部分にビニールテープなどで貼り付けた掃除機を回しながら、燃料コックの根元を指で開閉して圧力を変動させてやることで、圧力の強弱によってより効果的に流れ込むことが期待できます。

またエポキシ接着剤は、可能であれば粘度が低いタイプを選ぶと良いでしょう。業務用のエポキシ接着剤には用途に応じて低粘度タイプの製品が設定されていますが、個人ユースには容量が大きいのが難点です。DIY向けの接着剤で粘度の低さを特長にしている製品はなかなかないようですが、ホビー用の中には低粘度タイプもあるようです。

エポキシ接着剤がうまく浸透すると、口金部分からのガソリン漏れは見事に止まります。垂れたガソリンがタンクを汚すのがイヤで満タンにするのを避けているのであれば、エポキシ接着剤を充填してみることをお勧めします。

POINT

  • ポイント1・エポキシ接着剤の粘度を選べる場合、低粘度タイプを選択する
  • ポイント2・掃除機でタンク内圧を変動させると狭い隙間に接着剤を流し込むのに効果的

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