メンテナンス系の記事を見ていると良く出て来るキーワードに『チェーンの張り調整』という言葉があります。
チェーンには張り調整が必要という話は聞いた事があるし、調整していないと変な音がしたりガクガクしたりするので嫌でもチェーンの張り調整しなきゃ!という気にもなります。
しかーし!
記事を見ていると調整はなんだか大変そうだし、調整に失敗して張りすぎてしまうのも心配ですし、タイヤを固定しているシャフトを緩めるのは勇気が要りますよね。
自分で調整する事に躊躇している方も多いでしょう。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回は「もしチェーンの張り調整に失敗して張りすぎてしまったらどうなるのか?」についてです。
読んで怖くなったらチェーン調整を!自分でやる自信が無ければバイク屋さんにチェーン調整を依頼しましょう!
目次
チェーンが伸びてくるとどうなる?
こうなる前に調整を!!
チェーンは張り調整をせずに使い続けるとダルダルに伸びてしまう物です。
※極めて稀に張ってくる事もありますが、それは超特殊な例、しかも末期症状です。
一応説明しておくと、張ってくるのはチェーンのリンクが固着して曲がったまま伸び切らなくなった場合です。
コマ同士が真っすぐにならないのでチェーン全体の周長が短くなるのが原因。
これは潤滑用の油分が無くなって固着するほど状態が悪いという事なので、いつ切れても不思議ではない超危険な状態です。伸びとか関係無しに即交換してください。
さて、話を普通の例に戻します。
普通に使っていてチェーンが伸びて来た時、最初に気付くのはアクセルON/OFFした時に発生する大きな駆動ショックだと思います。
減速でエンジンブレーキを効かせている場面から加速のためにスロットルを開けた際、「ガクッ」とか「ドンッ」みたいなショックが大きく出て乗りにくくなるはずです。
チェーンはだんだん伸びてくるので毎日乗っていると変化を感じにくく、気付いた時にはデロデロに伸びていたりするので要注意。
なぜ駆動ショックが大きくなるか?
これは弛んでいるチェーンの張りが減速時と加速時で逆になった際に、「緩んでいる → ピンと張る」の差が大きくなるからです。
わかりにくいですねー。
もうちょっと具体的に書くと、減速時はチェーンの下側に(マイナス方向の)駆動力が掛かるのでピンと張り、上側は駆動力が掛からないので弛むのですが、スロットルを開けた途端にこの駆動力が逆になるので、今度は上側がピンと張って下側が弛む事になります。
この時のピン!と張る時のショックが大きくなるので、それがドンツキとして体感出来てしまうという事です。
乗りにくいだけなら我慢すれば良さそうですが、ショックがあるという事はその度に駆動系に衝撃が加わっている事になります。
衝撃はハブダンパーやクラッチダンパーで吸収しようとするのでそれらが無駄に痛みますし、吸収しきれなかった衝撃はミッション内部、スイングアームピボット、最終的にはエンジン心臓部にあたるクランクシャフトまで伝わり、愛車の寿命を少しづつ縮めてしまいます。
このように伸びたまま乗り続けていると長期的にはチェーンやスプロケットが痛むだけでは済まないので、愛車のためにもしっかりチェーンの張りは調整しましょう。
- チェーンが伸びてくるとアクセルON/OFF時のショックが大きくなる
- 最終的にはチェーンやスプロケットが痛むだけでは済まない
張り調整で多少の遊びが必要なのはなぜ?
チェーンの遊びの量は各車ごとにメーカーから指定されています。
弛まないようにビンビンに張れば良いというものではありません。
車体ごとに多少の差はあれど、基本的にチェーンには必ず遊びの量として20mm程度が指定されており「遊び無し=0mm」という車両は存在しません。
(厳密には極少数存在しますが、物凄く特殊な例なので今回は無視します)
でもチェーンが伸びて緩む事でショックが大きくなるのだったら、最初から緩みなんか無ければ、つまり最初からチェーンが張ってあれば一番良いはずなのに何故わざわざ遊びを設けて弛ませるのでしょうか?
それは前側スプロケット軸、スイングアームピボット軸、後ろ側スプロケット軸(アクスル軸)の3点が常に一定距離でないからです。
3点が常に等距離ならチェーンは緩みなく張っておくのが最も効率が良いのですが、残念ながらバイクはそういう構造になっていません。
サスペンションの動きに合わせて変わってしまう軸間距離のうち、最も距離が長くなる位置(一般的にサスペンションが3/4ほど縮んだ位置)で最適なチェーン張りに調整すると、通常時は弛んでしまう……というのがチェーンの遊びの正体です。
軸間距離がどれほど変化するのかは車種によって異なり、スイングアームの長さや角度、スイングアームピボットの位置や距離などで変わってきます。
車種ごとにチェーンの遊び指定値が違うのはこのためです。
ちなみに3点の軸位置は「アンチスクワット」という超重要な車体構成要素の為に設定されています。
物凄く難解な話ですが物凄く大事な要素なので、ハンドリングに興味のある方は関連記事をぜひご覧ください。
- 車体設計の関係上、チェーンの掛かるスプロケットの距離はサスの動きによって変化する
- チェーンの張りが最初から多少緩いのは、スプロケット距離の変化をチェーンの張り具合で吸収するため
張りすぎるとどうなる??
チェーンは緩み過ぎるとショックが出て車体のあちこちが痛む、しかし車体構造上どうしても遊び(弛み)を作っておかねばならないという事は理解していただけたと思います。
では今回の本題、もしも調整を失敗してチェーンをビンビンに張りすぎてしまったらどうなるのか?です。
これまでの説明を読んでいただいているので簡単に想像出来ると思いますが、サスペンションが縮んだ時に大問題が発生します。
本来であればチェーンの遊びで吸収するべき軸間距離変化が吸収できないので、チェーンの関わる駆動系に物凄い力が掛かってしまうのです。
チェーンそのものにも物凄い力で伸ばそうとする力が掛かり、ピンやローラーなどの摩耗が劇的に進行します。
最悪切れてしまう可能性もあり、そうなると切れたチェーンが大暴れするので何を破壊するかは神のみぞ知る状態。
クランクケースを叩き割るかもしれませんし、飛んで行った先に歩行者でも居れば全力でチェーンで殴ったのと同じ事になります。
当たった人がどうなるかは想像したくもありませんね……。
チェーンが頑張って切れなかった場合も大問題で、今度はスプロケットに物凄い力が掛かってしまいます。
スプロケットの歯は縦方向には簡単に曲がるものではないので瞬間的に破壊される事はないですが(少なくとも私は聞いた事がありません)、ゴリゴリに減ってしまうのは確実。
さらに!オフセットスプロケットを使った車両ではシャフトとの連結部分に物凄い力で「捻り」が加わる事になるので、良くてスプロケット破損(縦方向ではなく横方向へ力が入るため)ですし、シャフトとスプロケットの勘合部(スプラインという溝が掘ってある部分)がメチャクチャに摩耗します。
スプロケットの嵌るシャフトは非常に高価なうえ、交換にはエンジン分解の必要があるので物凄い工賃が掛かります。
たかがチェーンの張り過ぎでエンジン分解整備!!恐ろしい……。
見えにくい部分ではベアリングの破損もあります。
スプロケットやスイングアームの軸を支えているベアリングにも強大な力が掛かる事になるので、物凄い打痕が付いてゴリゴリになったり、最悪は内部のボールやニードルが破損してバラバラに分解してしまいます。
交換修理にはこれまた大掛かりな分解整備が必要になるので莫大な工賃が掛かります。
因みに「私はサスペンションが縮むような体重じゃないし~♪」とか、「俺はジャンプとかできないから……」などは関係ありません。
バイクという乗り物は普通に走るだけ、普通に曲がるだけでサスペンションが縮むように出来ている乗り物なのです。
サスペンションが良く動いているからこそタイヤがグリップしていられる、その事を忘れてはいけません。
- 張りすぎると大変な事になる!!
ワザとチェーン張りすぎ状態にしてみた事がありますが……
スイングアームが完全に伸び切った状態で遊びを0mmにしてみたら……
筆者は若い時にチェーンに遊びが必要な事に疑問を抱き、運良く様々なベテランライダーの方から教えを乞う事が出来ました。
でも、話を聞いて脳内ではチェーンの遊びについて理解しましたが、納得はしていませんでした。
だって僅かなチェーンの引き代如きで本当にそんなに変化するものなのか?って思いません??
私は思いました、大げさに話してるけど現実にはそこまで変化しないのではないかと。
それに、サスペンションが縮むとチェーンの張りが増すのであれば、もしも最初からビンビンにしていたらサスペンションが縮まないのではないか?と思いました。
たかがチェーンを張っただけだし、いくら何でもそんな事にはならないんじゃないかと。
……というわけで早速実験してみました。
サスペンションが伸び切った状態でチェーンをピシッと張って、どうなるのかを試してみたのです。
しかし実験結果は衝撃的でした。
まず、チェーンの張り調整の終わった車体を地面に接地させると……、サスペンションが全く沈みません。(汗)
「いやまぁ車重が軽いから多少はね……」と思って跨ってみたのですが、ビクともしません。(汗)
リヤサスペンションが縮んでいないのは足付き性が悪化している事でも明らか。
これはヤバい……と思いつつちょっとだけ近所を走ってみようとしたのですが、マズイ感触がてんこ盛り過ぎて10mも行かないうちにUターンしてすぐに帰宅!
大急ぎで正しい張りに調整し直しました。
もしあのまま近所を1周していたら、間違いなく何かが壊れていたと思います。
張りすぎてしまっている時の症状
張りすぎるとチェーン以外の部分にも多大な負荷が掛かるので、音と金属粉には要注意!
もちろん目視が一番で、ビンビンに張っていたら要再調整!
さすがに限界パツパツの状態までチェーンを張ってしまっている例は稀ですが、明らかにチェーンを張りすぎている車両はチョイチョイ目撃します。
他人のバイク、しかもチェーンを触らずになぜそんな事がわかるのか?
それは、チェーンを張りすぎた車体からは下記のような症状が発生するからです。
その痕跡を見たり聞いたりすれば、その車両のチェーンが張りすぎだと判断できます。
- チェーンとスプロケットから強い圧力で擦れているゴリゴリ音がする
- 走行中のチェーン下側が全くブレておらず常にピンピン
- 停車中のチェーンの下側がビンビンに張っている
- ホイールに金属粉が付着している
- ホイールベアリングからキーキー音がしている
- 走行中のチェーンが左右にブレる
「ベアリングからのキーキー音」と「ホイールに付着する金属粉」はオーナーであればすぐに気が付くはずです。
例えば洗車時にホイールを拭いて、ブレーキダストの黒い粉ではない金属粉があったらかなりの確率でチェーン張りすぎです。
スプロケットかチェーンか、あるいは両方かが削れており、既に大ダメージを受けてしまっています
すぐにバイク屋さんに行って症状を伝えましょう。
尚、チェーンの張り具合が場所によって違ってムラがある事がありますが、そのほぼ全てがチェーンリンクの一部が固着しているのが原因です。
稀にスプロケットの真円度が悪くてブレている事があるものの、圧倒的にチェーンリンク固着が原因です。
すぐにチェーン交換しましょう!
今回はチェーンを張りすぎるとどうなるのか?という話なのでチェーンの張り調整のやり方には記載していません。
自分で張りを調整しよう!と思った方は下記の記事リンクを読んでみてください!
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