
走る、曲がる、止まるの基本3要素には、様々部品が役割分担し、絡み合っているのはご存じの通り。例えば、フロントフォークの動きが極めて悪く「リジッド状態=作動しない棒のような状態」に近いと、スムーズな走りを得られないばかりか、路面のギャップを強く受けてしまい、乗り心地は最悪になってしまうこともある。また、フロントフォークが作動しないと、コーナリング時のきっかけをつかみにくく、スムーズなコーナリングもできなくなってしまう。フロントフォークの分解メンテナンス時も、フォーク構造やタイプによって使う道具が異なるが、正立フォークでも倒立フォークでも、共通して使うことができる「便利な工具」もある。ここでは、フロントフォークの分解メンテナンスに注目してみよう。
目次
フォークシールドライバー利用時は「適合インナーチューブ径」をまずは確認
フロントフォークの減衰力を決定づけるのがフロントフォークオイル。オイルシールリップが摩耗したり、インナーチューブに発生したサビやキズの影響を受け、シールリップにダメージが発生……。そんな要因からフォークオイルが漏れたり、滲んでしまうことがよくある。そんな際にはオイルシールを交換するが、新品オイルシールを打ち込む際に必要不可欠なのがフォークシールドライバーだ。このタイプは打ち込みピースの位置をドライバーで調整してから作業を始めよう。
インナーチューブを滑らせながらコツッ、コツッ!!
このタイプは打ち込みピースが3分割されている商品が多いので、固定ボルトをドライバーで緩め、位置関係をインナーチューブに対して120度に振り分けて固定しようるインナーチューブの太さ違いに対応した作りなのだ。半割りになったハンマーウエイトを合体して、インナーチューブに沿って動かし叩いてオイルシールを平均的に圧入する。
様々な場面で大活躍するのがシリンジ
ブレーキフルード交換時のエアー抜き作業でも、威力を発揮するのが樹脂製シリンジだ。このシリンジとリング座を組み合わせたのが、フロントフォークオイルの「油面調整ツール」である。リング座面に測定パイプをセットして、規定の油面高さにパイプ位置を調整。フォークオイルを作動させ、エアー抜き後にフロントフォークをフルボトムにセット。その状態でインナーチューブ端面にリング座を当て、シリンジでインナーチューブ内のオイルを引き抜くことで、パイプ先端の規定油面以上のフォークオイルを吸い上げる仕組みだ。左右フォークの油面の高さ合わせでも、威力を発揮する。このタイプのシリンジは、作業中に引き上げ過ぎてスッポ抜けることがなく使い易い。
オイル量ではなく油面の高さならこれ!!
一般的に小排気量モデルや80年代前半以前に登場したモデルの場合は、フォークオイルは「油量」で指示されている。一方、現代のモデルやスポーツバイクの多くは、オイル量ではなく「油面の高さ」で注入量を指示している例が多い。リング座に調整パイプをセットしたら、メーカー指示の油面高さにパイプの突き出しを調整して固定する。メーカーのサービスデータは、フォークスプリングやインナーカラーを入れずに、フルボトム状態でオイル油面を測定する状況の数値だ。指示値は組み立て時のもの=左右フォークのオイル量合わせのデータと考え、車体に組み込んでからは、コンプリート状態の油面高さを測定し(フロントフォークを伸び切り固定で測定)、そのデータに対して「油面を◎ミリ上げて作動時の硬さを高める」とか「油面を◎ミリ下げて、動き始め初期を柔らかくしよう」などなど、セッティングツールとしての利用価値も極めて高いのがこの商品だ。バイクの大きさや排気量に関わらず、サーキットユーザーなら必ず欲しいのが、フロントフォークの油面高さゲージだろう。
一般的にオイル量で調整するのが旧車のフロントフォークだが(量で調整する際にはメスシリンダーが必要)、オイルを規定量注入後に、油面の高さを測定することで、標準油面データを知ることもできる。サスセッティングをライダー自身の好みに合わせたいときには、油量管理ではなく、油面の高さで調整した方が、後々便利なことが多い。
- ポイント1・フロントフォークを分解メンテナンスする際には、各構成パーツのコンディションを徹底的に確認しよう
- ポイント2・新品オイルシールの圧入時には、フォークシールドライバーを必ず利用しよう
- ポイント3・オイル量調整ならメスシリンダー、油面高さ調整なら油面調整シリンジを利用。いずれも使用前にはオイルのエアー抜きを実践
「まだ大丈夫かな!?」などと思いながら、フロントフォークオイルを交換。すると、交換前にはオイル漏れしていなかったはずのオイルシールから、驚くほどの量のフォークオイルが「ジャバジャバ漏れ出して……」そんな経験をしたことがあるサンデーメカニックも、なかにはいるはずだ。書く言うワタクシ自身も、過去にはそんな経験をしたことがあった。フォークシールが手元に無かったが、フォークオイルだけ交換しようと実践。古いオイルを抜き取ると、そのオイルからはドブのような異臭が……。しかも、想定していたオイル量よりも明らかに少なかった……
メンテナンスビギナーには、その先に起こる出来事など、想像できるものではない。サービスマニュアルに記載されていたフォークオイル量を注入し、作業終了後に試運転。自宅に戻ってフロント周りを見ると、ボトムケースはもちろん、タイヤサイドまでオイルまみれ……。転倒しないで良かった。スタンドを跳ね上げ、ブレーキを握って、フロントフォークを上下に作動させると、まるで間欠泉かの如く、オイルシール部分からフォークオイルが勢い良く吹き出していた。
仕方ないので、オイルシールを注文。すぐに納品されたので、翌週休日には、ジャッキアップで前輪を取り外し、フロントフォークを抜き取り、さらにフロントフォークを全バラに分解。フロントフォークシールを抜き取り、新品オイルシールを組み込もうと思ったが、フォークシールドライバーが手元に無かったので、バイクいじりの先輩からお借りして、新品オイルシールを叩き込むことができた。お陰様で作業完了後は、オイル漏れなど一切なく、以前以上に、スムーズな走りを体感できるようになった。ちなみに新しいオイルシールの上に古いオイルシールを被せる(載せる)ことで、古いオイルシール越に新オイルシールをボトムケースに叩き込むこともできるが、ひとつ間違えるとインナーチューブに傷を付けてしまうため、この方法はお勧めできない。
2度手間になってしまったオイル交換作業だったが、フロントフォークシールを交換した際、一週間前に交換したはずの「新しいフォークオイル」が、すでに「まっ黒に汚れていた!?」ことに気が付いた……。どうやらその理由は、オイル交換せずに乗り続けられた結果、劣化したスラッジが様々な部分に堆積。フロントフォークシールのリップ部分にも大量のオイルスラッジが堆積していたため、以前はオイル漏れを起こさなかったようだ。オイル交換前にトップキャップを取り外せる機会があるなら、内部のニオイをクンクンしてみるのも良い。明らかにドブのような臭いニオイさがあったなら、オイルシールを準備したうえで、フロントフォークの分解メンテナンス&オイル交換に挑むのが良いだろう。中古車を個人売買で購入した際には、こんなこともあるので注意しよう。
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