見るも無惨に荒れ果てた車体を分解し、部品をひとつずつ修復して組み立てるレストアは、旧車好きにとって止められない楽しみ方のひとつです。一連の作業の中でハイライトと言えるのがエンジン搭載ですが、原付でも大型車でもフレームとエンジンに傷をつけない配慮が必要です。もし足周りまで外してフレーム単品状態になっているなら、エンジンにフレームを被せてみると想像以上に簡単に搭載できることに驚くはずです。

車体分解時よりエンジン搭載時の方が数段慎重な作業が必要


汚れやサビがひどかったスイングアームピボットより下を補修するため、全バラ状態にした1960年代のプレスフレーム車。スーパーカブなども同様だが、フレームの内側にコテコテの油汚れが堆積しているプレスフレーム車は多く、部分的に再塗装を行う際はスイングアームやエンジンを外してしまう方が、部分的に脱脂洗浄したり細かくマスキングするより仕上がりが良くなる場合が多い。

長期間乗らずに放置していたバイクや、乗り続けていたとは言え扱いが粗雑だったバイクをリフレッシュするレストア作業は、バイクいじり好きのライダーにとってやりがいのあるテーマです。

保管場所の環境に左右されますが、多くの放置車両はガソリンタンクやシートなど上半分はそこそこきれいでも、エンジン下面やステップ周りはサビやオイルで悲惨な状況というパターンが多いもの。特にチェーンのメンテナンスで洗浄なしでチェーンオイルを重ね吹きし続けたバイクは、ドライブスプロケットカバーの裏側やエンジンマウント周辺に粘土状になったオイルが堆積していることも少なくありません。

分解時はサビや汚れがあって当然で、エンジンを降ろす際にフレームに当たったり擦れてもさほど気になりませんが、汚れを落としたエンジンと再塗装仕上げのフレームを合体させる時には慎重さが必要です。バイクのフレームにはプレスフレームやパイプフレーム、パイプフレームの中にもダイヤモンドフレームやダブルクレードルフレームなどいくつかの種類があります。そしてどのタイプであっても、エンジンは数本のマウントボルトで固定されています。そのため、エンジン搭載時にはマウントボルトとマウントステーの穴位置を合わせるため、多少なりともエンジン位置の調整を行います。

この調整作業はエンジンを持ち上げた状態をキープしながら行うため、特に一人で作業している時には注意が必要です。ここで紹介しているようなダウンチューブのないプレスフレームであっても、穴位置の上下と前後を調整している間にエンジンでフレームを傷つけてしまうことがあります。それがダブルクレードルフレームに4気筒エンジンを搭載するような場合、ゴムホースやウエスでダウンチューブを入念に養生したつもりでも、エンジン位置を調整している間にフレームを「ガリッ」と擦って意気消沈してしまうこともあります。

POINT

  • ポイント1・きれいに仕上げたフレームを傷つけないようにエンジンを搭載するには、取り外す際より数段上の慎重さが必要

フレームまで全バラなら最初に取り付けるのはセンタースタンド


汚れやサビを落としてパウダーコーティングで再塗装したセンタースタンドを、天地を逆さまにしたフレームに組み付ける。マフラーを取り付ける前ならスタンドのストッパーより跳ね上げた位置で組み付けできるため、スプリングを引かなくてもスタンドのピボットシャフトを挿入できる。


このバイクのセンタースタンドスプリングはプレスフレームの縦壁の中にセットされているので、エンジンやスイングアームを組み付けた後で引っ張るのは至難の業。途中まで組み立ててセンタースタンドに気づいたなら、面倒でも一旦フレーム単体まで戻ってスタンドを取り付けておいた方が良いレベルだ。


センタースタンドを出すことで、3点で接地するためフレームが安定する。この状態ならスイングアームの仮組みも容易。

レストア作業でフレームにエンジンを搭載する際、フレーム単体まで分解するのであれば、足周りを取り付けて車体を立ち上げる前にエンジンを積んでしまうのが得策です。それについては後ほど説明しますが、エンジンより先にフレームに取り付けておきたいのがセンタースタンドです。

今どきはサイドスタンドのみという機種の方が多いですが、1980年代以前のオンロードモデルには当たり前のようにセンタースタンドが装着されていました。スイングアームピボットより下に取り付けられたセンタースタンドにはきわめて強力なリターンスプリングが組み込まれています。

フレームに足周りを取り付けてエンジンまで搭載した状態からセンタースタンドを取り付けようとすると、当然ながら車体が直立した状態=車体下部に手を突っ込んでスプリングを引かなくてはなりません。この体勢はスプリングに対して力を加えづらく、スプリングフックも外れやすくとても危険です。

そこでフレーム単体の状態で、まず最初にセンタースタンドを取り付けてしまうのです。これならスプリングが引きやすいようフレームの向きや位置を自由に変えられますし、マフラーをスタンドストッパーにしている機種なら、スタンドをより高い位置まで跳ね上げられるため張力が低くなる位置でスプリングを掛けることも容易です。またセンタースタンドを先に取り付けることで、フレーム単体でも安定して自立できるようになるため、足周りパーツを組み込む作業も容易になります。

エンジンマウントボルトとセンタースタンドピボットシャフトの位置関係などで、先にスタンドを取り付けることができない機種もありますが、スタンド取り付け後にエンジンが搭載できるのであれば、センタースタンドを先行させるのが良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・全バラ状態にした車体を組み立てる際、フレームに最初にセンタースタンドを取り付ける

ダブルクレードルフレームなら横倒しのエンジンにフレームをかぶせる


原付クラスのエンジンでも、下から持ち上げながらエンジンマウントボルトを差し込むのは苦労することがある。ダブルクレードルフレームの場合は、傷付きと転がりを防止するための毛布などを敷いて、エンジンを横倒しにしておく。


フレームの干渉を確認しながら、エンジンの上に被せていく。この写真ではフレームのマウント穴にボルトを差し込んでいるが、およその位置関係を確認したらボルトを抜き、改めて差し込み直す。エンジンを持ち上げながら搭載する方法では、1本目のボルトを通して2本目を差し込む際にエンジンの高さを微妙に調整する必要があるが、軽いフレームを被せるやり方なら高さ合わせも容易にできる。この機種の場合、作業台に載せたエンジンにフレームをセットして、センタースタンドを出してリアホイールを取り付け、スタンドとリアタイヤで直立させた後にフロントフォークを組み付ける順序で車体を立ち上げることができた。

さて本題のエンジン搭載方法ですが、フレームに足周りが付いていないのであれば、作業台などに置いたエンジンにフレームを被せるのがお勧めです。理由としては、エンジンとフレームの重量の違いが挙げられます。単気筒の原付バイクでも、多くの場合はフレーム単体よりエンジンの方が重量が重く、フレームに搭載するには持ち上げる動作が必要です。

作業台やジャッキにエンジンを置いて、その上からエンジンより軽いフレームを載せるようにすれば、作業者の腰の負担も軽減され、エンジンマウントボルトとステーの穴位置の調整もしやすくなります。

ダブルクレードルフレームの場合は、エンジンを横倒しにしておけばフレームを被せることができます。これはバイクメーカーが製造ラインで車体組み立てを行う際にも採用されていたやり方で、横倒しエンジンにフレームを被せてマウントボルトを差し込んでから車体を立てて次工程に送ります。ダウンチューブの片側がボルトオンで着脱できる機種もありますが、その場合も正しい向きに置かれたエンジンに外れる側のダウンチューブを取り付けておき、そこにフレームを被せてマウントボルトを締め付けます。

絶版車好きにはよく知られた話ですが、カワサキZ1/Z2のシリンダーヘッドやシリンダーはフレームに載ったまま着脱できるため、重量軽減と傷つき防止のためフレームにエンジンを搭載する際にクランクケースだけを先に積んで、その後でシリンダーとシリンダーヘッドを組み込むことができます。ヘッドとシリンダーを外しておけばエンジン全高はかなり低くなるため、フレーム内で位置を調整するのも容易です。

ところがホンダCB750Kシリーズはエンジンがフレームに載った状態でシリンダーヘッドが外せない=エンジン搭載時はコンプリート状態にしておく必要があります。ヘッドまで付いたエンジンを持ち上げて傷つけないようフレームの中に収めるには、エンジンの左右から何人かで作業しなくてはなりません。このような機種では、横倒しエンジンにフレームを被せる方が体力面でも心理的プレッシャーの面でも大幅に楽になります。

足周りを外す必要がない場合には使えない手法ですが、フルレストアを行う際にはエンジンにフレームを被せる発想の転換が有効です。

POINT

  • ポイント1・エンジンとフレームの重量差を考慮すれば、エンジンを持ち上げるよりフレームを持ち上げてエンジンに被せる方がフレームの傷を防止でき作業者の腰への負担も軽減できる

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