
バイクを長期間乗らずに保管、放置してしまった際に、ディスクブレーキがロックして貼り付いてしまうことがあります。ブレーキキャリパーとキャリパーピストン間のフリクション増大が原因である場合、キャリパーのオーバーホールが必要です。この時、必ずチェックしておきたいのがピストンシールとダストシールが収まるキャリパー側の溝。変質したブレーキフルードが堆積している時は、徹底的なクリーニングが必要です。
長期放置で固着したキャリパーピストンを抜く際は急な飛び出しに要注意
マスターシリンダーやブレーキホースを外す前なら、ブレーキフルードやそれに代わる水道水でキャリパーピストンを押し出すのがもっとも安全で確実。コンプレッサーの高圧エアーを使う際は、突然抜けて飛び出すことがあるのでピストンの前に指を入れないなどの安全に配慮する。
ピストンの汚れとピストンシール、ダストシールが一体化している時(手前側のピストン)は、ヒートガンやオーブンで加熱すると固着症状が改善することがある。2ポット以上のキャリパーの場合、動きの悪いピストン以外にはあらかじめ脱落防止措置を施しておくと良い。
十年以上の放置期間を経て完全に固着していたブレーキキャリパー。保管場所の湿度や保管前のキャリパーの状態(乗りっぱなしだったのかピストン揉み出し直後だったのか)によって劣化の進み方は異なるが、フルードが吸湿してゲル化していたらオーバーホールは必須。
吸湿性に富むブレーキフルードは2年ごとの交換が推奨されていますが、走行距離が少なくパッドの摩耗が少ないとつい交換が疎かになりがちです。250cc以上のバイクであれば2年ごとの車検が交換のきっかけになりますが、そうした明確な目安がない車検なしのばいくだと「前に交換したのはいつだっけ!?」となることも珍しくありません。
何年間か乗らずに保管、または放置した場合、金属部品のサビやタイヤの劣化など各部に影響が及びますが、ブレーキもまたダメージを負ってしまいます。ブレーキフルードを2年で交換しなくても、日常的に使用しているバイクならまだしも、乗らずに置いてあるブレーキキャリパーは、劣化したブレーキフルードにより想像以上に状態が悪くなっていることもあります。
しばらく動かしていないバイクを押して移動させ、うっかりブレーキレバーを握ったが最後、前輪がロックしてビクともしないという経験をしたライダーもいることでしょう。ディスクブレーキは、ブレーキフルードで押し出されたキャリパーピストンが、ゴム製のピストンシールの弾性変形によってキャリパー内部に引き戻されることでパッドがローターから離れます。
しかしブレーキフルードが空気中の水分と結合して、ダストシールやピストンシールの周辺にまとわりつくと、フリクションロスが増大してキャリパーピストンがキャリパー内に戻れなくなり貼り付き症状が発生します。このような場合にはキャリパーのオーバーホールが必要です。
具体的にはフロントフォークからキャリパーを取り外し、パッドを外してピストンを抜き取ります。マスターシリンダーが機能するようなら、ブレーキフルードや水道水をブレーキラインに流し込み、強制的にピストンを押し抜きます。通常であればブレーキ系統に水分は厳禁ですが、キャリパーピストンが固着して抜けないようなコンディションであればマスターシリンダーもブレーキホースもクリーニングが必要でしょうから、塗装にダメージを与えないためにはブレーキフルードより水道水の方が安心です。また、ピストンと押し出すためだけにフルードを使うのはもったいないため、水で充分です。
一方、マスターシリンダーのシールもすでに抜けている、キャリパーからホースを外してしまっているような時は、コンプレッサーがあればエアーで押し出すのが常套手段です。メンテナンスが行き届いているキャリパーなら、フルードの入り口からちょっとエアーを吹き込むだけで、ピストンがスムーズに動いて抜けてきます。しかしシールとピストンががっちり固着しているような場合、エアーガンの先端を押しつけてもピストンはビクともしないことがあります。
こんな時、意地になってエアーを送り続けるのはとても危険です。キャリパーを手で握りながらエアーを入れて、突然ピストンが抜けると大きな怪我につながる原因になります。とはいえキャリパーピストンツールでもビクともしない時、頼りになるのが「熱」です。キャリパー全体をまんべんなくヒートガンで加熱するか、オーブントースターで加熱することで硬化したゴムシールが柔軟性を取り戻して、エアーによって動き出すことが期待できます。その場合でも、ピストンがキャリパーから勢いよく飛び出さないよう、ピストンを押し戻すセパレーターや木片をキャリパーに差し込んでおきましょう。
- ポイント1・ブレーキキャリパーのピストンシール周辺に付着したブレーキフルードが水分と結合することで結晶化してシール溝に堆積し、キャリパーピストンのスムーズな動きを妨げる
- ポイント2・キャリパーからピストンを抜けづらい場合、キャリパーを加熱することで固着が剥がれることがある
シール溝の汚れが残るとピストンの動きに影響が出る
一般的な公道用キャリパーは2本のシールを使用しており、奥がピストンシールで手前がダストシールとなる。ピストンシールはキャリパー内のブレーキフルードが常時触れているため、劣化したフルードが固まりシール溝に詰まりやすい。この生成物がシールを裏から押し上げるので、手前のダストシールが溝から押し出されてしまうこともある。
シール溝の汚れを掻き出す専用工具(ここではストレート製“キャリパーホジ郎”)はシール溝の形状に合わせてエッジが鋭く、なおかつ平面部分もあるので、溝の底面と角部分の汚れを効果的に除去できるのが特長。対向ピストンキャリパーは分割できるタイプ(センターシールが交換できるタイプ)であれば使えるが、非分解タイプだと最大限の効果が発揮できないこともある。
10年近く半地下の駐車場に止めっぱなしだったというだけあり、画像のキャリパーの劣化はかなりのレベルです。ピストンやシールは取り外せたものの、キャリパー内部は変質したブレーキフルードがカチカチになってこびりついています。
キャリパー内部のフルードが液体、またはゲル化した状態であれば、中性洗剤を混ぜたお湯を入れたバケツの中でブラッシングすることで汚れを除去できることがあります。しかしさらに状態が悪いキャリパーには、強制的に汚れを取り除くことが有効です。
ここで使用したいのがキャリパーシール溝の汚れを掻き出す専用工具です。シール溝は角断面のシールがはまるよう壁と底面が直角に加工されており、キャリパー内部のフルードを外に漏らさず、なおかつせり出したピストンをキャリパー内部にスムーズに戻すだけのフリクションが掛かるようにクリアランスが設定されています。
角部分と溝の底部の汚れを落とすため、ピックツールやマイナスドライバー、割り箸や竹ひごなどを使うこともありますが、キャリパーを引っかいて傷つけたり、逆に汚れ落としの効果が低い場合もあります。シール溝は精密に加工されているので、固形物があればシールを通じてピストンに余計な圧力を加えてしまいます。そもそもシール溝に異物があることは正常ではないので、完全に取り除くことが必要です。
シール溝のクリーニングツールはエッジが鋭い角断面で、スクレーパーのようにシール溝角部の汚れを掻き取ることができます。固い汚れが詰まっている場合でも、このツールである程度汚れを削り取った後にキャリパーごとお湯に漬け込むことで、汚れ落としが楽になるので、古いバイクをいじる機会が多いDIY派は所有しておくと重宝するはずです。
- ポイント1・キャリパー内部の汚れが軽度なら、中性洗剤を溶かしたお湯で洗浄すれば汚れが落ちる場合もある
- ポイント2・吸湿性に富むブレーキフルードがピストンシール溝で結晶化した場合は、ピストン溝クリーニングツールで汚れをかき落とす
キャリパー内部の汚れはホーニングツールでクリーニング
電動ドリルや卓上ボール盤に取り付けて使用するホーニングツールでキャリパー内部の汚れや異物を磨きながら取り除く。ツールサイズによってホーニング可能なシリンダー内径が異なるので、キャリパーピストン径に適したサイズを選択する。
目の細かい砥石で、スプリングによるプリロードを低くした状態からホーニングを開始する。防錆潤滑剤をスプレーしながら磨くと、内面の汚れが見る間に落ちて美しく輝き始める。
キャリパーピストンが収まるキャリパー内面、ピストンシールとダストシールが収まるシール溝の汚れを完全に取り除いたことで、このキャリパーは再び使用可能となる。1980年以前の絶版車だけでなく、1990年代から2000年前後の中古車の注目度が高まる中で、不動車や放置車両のキャリパーメンテナンスの必要性も高まっている。
位置はピストンシールより外側とはいえ、キャリパーピストンにサビが発生していた。キャリパーピストンは高硬度なハードクロームメッキ仕上げだが、湿度の高い場所で放置されると目に見えないメッキの孔から水分が入り込み、素材から腐食が始まることがある。こうなる前にメンテナンスを行えば、ピストン交換費用を節約できる。
シール溝をクリーニングしたら、次はピストンが収まるシリンダー内部の清掃を行います。汚れがそれほどひどくなければお湯と洗剤で洗浄できますが、頑固な汚れが残ってしまう場合は電気ドリルで回すホーニングツールを使用することでシリンダー内壁を整えることができます。
ホーニングツールは、桁状の砥石をスプリングの力で円筒内に押しつけつつ回転させることで内壁を研磨します。砥石の目の粗さや押しつけるスプリングの強さによって研削力が増減し、シリンダー内径によって適切なツールのサイズも変わります。
エンジンのシリンダー内にうっすらサビが発生している場合にもホーニングツールが活躍しますが、鉄製のシリンダーライナーに比べてアルミ製のキャリパーは柔らかいので、なるべく目の細かい砥石を使用し、砥石を拡張させるスプリングのテンションもできるだけ弱くして回し、汚れが落ちないようなら徐々に強く押し当てるといった配慮が必要です。
目の細かいサンドペーパーを指先で押さえつけて磨いてもキャリパー内部の汚れは落ちますが、内壁に均等に圧力を掛けながら、隅まで砥石が当たるという点ではホーニングツールにはかないません。とはいえキャリパー側に深い傷を付けてしまっては台無しなので、充分な注意が必要です。
こうしてキャリパーが復活しても、キャリパーピストンが腐食していたため新品部品への交換が必要でした。アルミ製のキャリパーに対して、ハードクロームメッキ仕上げとはいえピストンの素材は鉄なので、目には見えないメッキ層の孔やクラックから浸透した水分によってメッキの下から腐食が進行してしまうのです。
大がかりな補修作業を回避するには、日頃からブレーキキャリパーのメンテナンスを行うのが最も効果的です。また年単位で乗らずに置いておくような場合は、できるだけ乾燥した場所で保管するよう心がけることで、数年後のブレーキのコンディションには大きな差が付くことを知っておくと良いでしょう。
- ポイント1・ホーニングツールがあるとブレーキキャリパー内部の汚れをきれいにクリーニングできる
- ポイント2・キャリパー内部を傷つけないよう、ホーニングツールは目の細かい砥石で低いプリロードから使い始める
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ホース外す前に油圧で抜けばエアより圧力がかかるし安全なのに。けっこう固着してても外れる。