激しいチューンドエンジンはバルブクリアランス調整がシビアで……といった話を聞いた事はありませんか?
ハイチューンとは無縁のノーマルエンジンでも、長い期間乗ってエンジンが調子を崩して来るとエンジンに詳しい先輩などから「バルブクリアランスが大きくなっているかもしれない」と言われた事は?
ありますよね!

しかーし!そんな事言われたってバルブクリアランスを完全に理解してるわけじゃないし、クリアランスが広くなったからってどうしろと……って思いません?
でも大丈夫!世の中の大多数の人はバルブクリアランス調整なんか出来ません。
そもそも本当にバルブクリアランスが広がっているかもアヤシイですし。

皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回はバルブクリアランスの調整方法……ではなく、バルブクリアランスとは何か?長年乗っていると広がるのか狭まるのかと、なぜクリアランスが変わるのかの理由、そしてどんな症状が出るのか、この辺りを解説します。

調整は自分で行う事も出来ますし、それはそれで楽しいのですが、整備に自信の無い方はバイク屋さんに調整をお願いしてしまえば良いのですよ!

バルブクリアランス調整が必要になる症状とは?

難しいメカの話は後回しにして、まずはどんな症状が出るのか?から。

バルブクリアランス調整が必要となる状況で最初に気付くのはエンジン音の変化です。
と言っても排気音が変わるわけではなく、エンジン本体から出ているノイズが変化します。

具体的にはエンジン始動中にシリンダーヘッド付近から「カチカチカチ……」という音が聞こえるようになってきます。

この音はエンジン回転数に比例して早くなるので、高回転まで回すと連続音になってしまって判断が難しくなります。
ですので、最も聞き取りやすいのはアイドリング中という事になります。
以前とは何か違うカチカチ音が聞こえたら要注意!

慣れた人ならアイドリング中のエンジンノイズを聞いただけで判断できます。
因みにこの音には名前があって、タペットノイズ(タペット音)と言います。


普段からエンジンの音をよく聞くようにしていると発見が早い

気付かないまま症状が進んでいくと……

うるさいレース用マフラーを装着していたり、アイドリング中のエンジン音に無頓着だったり、音楽や通話に夢中で普段から車体から発する音に注意しておく癖が無いと、アイドリング中のタペット音の変化には気付かないかもしれません。

そんな方でも気付く症状が、誰もが大嫌いなパワーダウン。
末期だとかなり明確にパワーダウンするので、誰でも「何か調子悪い?!」と感じるはず。
このように最初は音がするだけですが、最後はパワーダウンしてしまいます。

エンジントラブルで似たような音を出すトラブルは他にも有る

バルブクリアランス以外で似たような音を出すトラブルは、重大なエンジントラブルに発展する可能性が高いものが非常に多いです。
ピストンが摩耗してシリンダー内で傾いている、何か異物を噛み込んでいる、ギアが欠けている、などなど……。
どれも致命的なトラブルに発展しがちなので、カチカチ音がしているからといって安易にバルブクリアランスだ!と決めつけない方が良いです。

その音が本当にバルブクリアランスが原因なのか?、それとも他の場所から出ている音なのか?、音の発生源をある程度特定するための専用工具も売られているくらいですので侮ってはいけません。


重大なトラブルの前兆となる音をバルブクリアランスの音だとカン違いすると大変な事になるので、決めつけない方が良い

POINT

  • シリンダーヘッドからカチカチ音が聞こえて来たら疑う
  • もっと重大なトラブルが発生している音の可能性もある

調整の必要性や効果は?放置しているとどうなる?

カチカチ音がシリンダーヘッドからしていたなら、バルブクリアランスに問題があって発生しているタペット音と考えてほぼ間違いないでしょう。

ただ、このタペット音は基本的にはある日突然に発生するものではなく、徐々に音が大きくなって来た事にある日気が付くといった類のものです。
つまり、それまでオーナーですら異変に気付かず普通に動いていた事になりますよね?
……という事は?
急に発生するものではなく、急に悪化もしないという事です。
やったぜ。


突然エンジン停止してしまうようなものではない

このようにバルブクリアランスは急に悪化して急にエンジンブローしたりはしません。
しかし、取り敢えず動くからといって安心していてはいけません。
カチカチ音は一旦気付いてしまうと乗る度に気になりますし、症状が進んでいると明確にパワーダウンもするので、気付いた時点でしっかり調整するのがベスト。
放置していても絶対に自然に回復したりはしません。

逆に急に壊れないなら別にイイやと放置していると、症状はどんどん悪化していきます。
この時の悪化していく速度は思っている以上に早いです。

例えば10万kmでタペット音がしはじめたけど僅かに聞こえる程度で音も大きくなかったとします。
優しく使えば15万kmくらいまでは大丈夫なのではないか?というイメージを抱きがちですが残念ながらそんな事は無く、一旦タペット音が出始めると加速度的に症状が悪化していきます。
自分の感覚だと、一旦音が出だしたらそれまでの100倍のスピードで悪化していくイメージです。

一旦隙間が出来ると出来た隙間の分だけ衝撃が大きくなったり、隙間の分だけバルブがジャンプしたりして、一気に悪化していくのではないか?と想像しています。
チェーンのスプロケットが少し減ると、それまでと違って加速度的にボロボロになって行くのに似ているかもしれません。


隙間が衝撃を生んで凹む事で更に隙間を生み、隙間がどんどん広がっていく?

バルブクリアランス調整とは長期間乗って疲れたエンジンコンディションを回復させる作業ですので、正しく再調整すればエンジンノイズは減るしパワーアップするし良い事ずくめ。
エンジンからのカチカチ音に気付いたら放置しないで早めに再調整しましょう。

POINT

  • すぐに壊れる事は稀なので、音に気付いても緊急停止する必要はない
  • しかし自然治癒する事もない

バルブクリアランスとはどこの隙間の事?

「バルブ」の「クリアランス(隙間)」なんだからエンジン内部のどこかという事はわかると思います。
でもエンジン内部の構造を熟知していたり、断面図やカット模型を見ただけで各パーツの動きを完全に脳内再現できる人など稀でしょう。

というワケなので物凄くザックリと説明すると、エンジン内部にある「バルブ」の先端と、そのバルブ先端を押してバルブを押し下げる役目のパーツとの間にある「隙間」の事です。
ようするにバルブ先端にある隙間の広さを調整するのがバルブクリアランス調整と思っていただければOK!
因みにバルブクリアランスの事はタペットクリアランスとも言い、どちらも同じ意味です。


カムシャフトが直接バルブを押し下げるエンジンの場合


ロッカーアームを介してバルブを押し下げるエンジンの場合

POINT

  • バルブ先端とバルブを押すパーツの隙間の事をバルブクリアランスという
  • バルブクリアランスとタペットクリアランスは同じ事

広がる(クリアランスが大きくなる)だけとは限らない

ここまでバスブクリアランスは広がるもの、大きくなるもの、なぜなら長年の使用で各部が減るから……という話をしてきました。
世の中にあるバルブクリアランス調整について書いてある大多数の話も同じで、クリアランスは広がる、大きくなる、だから調整して正しい値に縮める、詰めるという話です。

基本的にそれは正解で、隙間が広がるからこそタペット音(=打音)が大きくなるワケでです。
しかし何事にも例外はあるもので、場合によって(非常に稀ですが)バルブクリアランスが狭くなってくる事もあります。

その理由の一つは、バルブの傘が接触しているバルブシートという部品が減るから。

高速で動いているバルブが激突する部品なのでもともと減るのが前提の部品ではありますが、その消耗スピードがバルブ先端の接触で減る勢いよりも勝ると、バルブクリアランスが減ってしまうのです。
最悪ではバルブクリアランスが0mm(隙間なし)になり、エンジンの熱膨張などによってバルブが閉じきれなくなる事もあります。
もしバルブが閉じきれなくなると燃焼室内のガスを密閉できなくなるのでパワーダウンに直結します。

タペット音(カチカチ音)はしないけど、吸気通路にカーボンが溜まって真っ黒……などが典型的な症状です。
エアクリーナーを外してファンネル仕様にしてあるなど、砂粒を吸い込みやすい状況だと発生しやすいようです。
症状に思い当たるフシがある人はすぐにバイク屋さんに相談しましょう!

尚、滅多に無い話ですが、中古車では前オーナーがバルブクリアランス調整に失敗してクリアランスが0mmどころかマイナスになっている事もあります。
隙間が無いのでカチカチ音は全くしませんが、こうなると常にバルブが僅かに開いている事になるのでエンジンの調子がメチャクチャ悪くなります。
特に始動時やアイドリング時は強烈に不調になりますが、これをキャブレターのセッティングミスだと判断するといつまでも解決しないドロ沼にはまります。


吸い込んだ砂が研磨剤の役割を果たしてバルブシートの減りが加速するのかも?

調整にはエンジンを開ける必要があるが……

バルブクリアランスを調整する為には必ずエンジンの一部を開ける必要があります
バルブはエンジン内部のパーツなので、ソコを調整するにはどうしたってソコまで辿り着かねばなりませんから仕方ありません。

一部とはいえエンジンを開けるとなると躊躇してしまう人が大多数でしょう。
なので、無理に自分で調整する必要はありません。
素直にバイク屋さんにお願いするのが最善です。

ただ、エンジンというのは使っているうちにバルブクリアランスが変化するのが前提です。
だからどんなエンジンもバルブクリアランスが調整しやすいように設計されています。

調整しやすいように設計されているという事は、自分で調整する事に挑戦しやすいという事でもあります。
興味のある方はぜひ自分で調整してみる事をオススメします。
もちろん初めて調整作業をすると簡単には行きませんが、そういうのもバイクの楽しみの一つだったりしますよ!


ロッカーアーム式で、タペット調整がネジ式のエンジンではカバーを開けるだけで容易に調整可能である事が多い

最新型ではそうそう減るものではない

今回のバルブクリアランス調整ですが、そもそも普通は滅多に行うものではありません
特殊な改造を施した一部のエンジンならともかく、普通のノーマルエンジンであれば数万kmで初調整……といったレベルのものです。
車種によっては10万km未調整でも何の問題も無い事すら多々あります。
特に最近の車両は材質や設計の進歩が著しく、新車購入から廃車まで一度も調整しないまま終わる事もあるでしょう。

逆に旧車、特にハイパフォーマンスが売りだった空冷エンジンなどでは思いっきりクリアランスが狂っている事が多いです。
小排気量で常にエンジン性能を限界まで使っているような場合もバルブクリアランス調整の為の期間が短くなりがちです。

ゆっくりジワジワとクリアランスが変化するものなので、日頃からエンジン音に気を付けておき、カチカチ音が聞こえて来たような気がした時が調整の時期です。

意外と簡単、でも極めるのは困難

ここまでの話をまとめると、

まとめ

  • バルブクリアランスとはタペットクリアランスと同じ事
  • 長期間乗っていると各部が擦り減ったり変形したりして隙間が広がるとカチカチという打音が出る
  • 音が大きくなったら調整しましょう
  • 稀にクリアランスが減る事もあるので、パワーダウンを実感したら要注意
  • 普通に乗っていれば1万km程度で調整が必要になる事はない

……という話なのですが、これは本当に基本の話であり、例外事例は唸るほどあります

例えば、空冷のハイチューンドエンジンなどでは、高回転高負荷の高熱でバルブが熱膨張して伸びる事を見越して最初から非常に過大なバルブクリアランスが与えられている事があります。
こういったエンジンでは始動直後は大きなタペット音がしますが、高回転高負荷で実力を発揮している時は最適なクリアランスとなっているのです。

逆にバルブよりもシリンダーヘッドそのものの熱膨張の方が大きい場合、冷えている時は極端にバルブクリアランスが狭い場合もあります。

チューンとは無縁なノーマルエンジンではメーカー指定のバルブクリアランスが必ず指定されていますが、これは膨大なテストの結果から導き出された最適な隙間です。
広くても狭くても良い事は何も無いので、マニュアルに記載されているバルブクリアランスに調整するのが基本です。

しかし、再調整する際には様々なパーツが既に消耗している事を見越してアレンジを加える事もあります。
関係部品を全部新品に交換してメーカー指定値にするのが最適ですが、予算の都合でまだ使えるパーツを再利用すると、もうメーカー指定値が最適値ではない事になるからです。
こうなると最適な隙間に調整するのは職人技で、おいそれと真似できるようなものではありません。

ある程度距離を走った際にバルブクリアランスを調整するのは当たり前の事なので、作業がやりやすい様に設計されていて、調整作業そのものは意外と簡単に出来ます。
できれば自分自身で調整する事に挑戦してみる事をおすすめします。
しかし、簡単な調整作業も極めようとすると難易度が急激に上がる事も知っておくと、バイク屋さんを見る目が変わるかもしれませんね!


熟練のバイクショップには独自のノウハウがあったりする

完全に余談ですが、極めようとすると難易度が急激に上がるのは何もバルブクリアランス調整だけに限った話ではありません。
単なるオイル交換作業ですら「自分で交換できる素人」と「熟練のプロ」では、見ているポイントが全く異なっていたりします。
作業前にチラッと車体を眺めたその瞬間から違っている事は、自身も有る程度の熟練側にならないと解りません。
だから普通の人には永久に理解不能です。
しかし極めたプロはそういうものなので、本物のメカニックに巡り合えた方は自動的に幸せになれます。

POINT

  • 調整するように設計されているので調整作業は比較的簡単にできる
  • しかし極めようとすると実は至難
  • バイク屋さんはエライ
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