高年式モデルなら純正部品は入手可能なケースが多い。しかし、90年代以前のモデルとなると、すでに販売中止になった部品は数多く、特に、外装パーツなどはほぼ無いと考えた方が良い。標準的な規格部品以外は、すでに販売中止になってしまってしるケースがほとんどだろう。ここでは、1960年代前半には姿を消してしまったエンジンのオーバーホールやレストアを通じ、部品が見つからない場合の「応用」やその「ヒント」をリポートしよう。

オイルシールは「内径×外径×厚さ」が基本



クランクシャフトやミッションシャフトなどなど、オイル漏れを防止するオイルシールがすでに販売中止になっていて困ってしまう例は数多い。ベアリングに関しても同様だろう。純正部品としての供給は無くなっていたとしても「標準規格部品」として取り扱われているオイルシールやベアリングは意外と多い。ただし、すべてのサイズに一致した規格品があるとは限らないので、そのあたりは覚悟が必要なのと、柔軟な考え方も必要だろう。ここでは、寸法的に同寸だった標準規格品オイルシールを使ってみた。もちろんそのすべては自己責任である。ミッション系は相手がオイルなので比較的安心だが、クランクシャフトの場合は、相手が混合気なので、耐ガソリン性能も考えた上で流用しなくてはいけない。

Oリングも標準規格品を流用



オイルシールやベアリングだけではなく、Oリングが見つからないケースも多々ある。ここでは標準Oリングをカタログ(現代はオイルシールメーカーのWebカタログが強い味方になる)で確認。重要なのはOリングの断面径とサイズだ。細長い輪ゴムのようなOリングだったので、断面径が同じで、できるだけ大径なOリングを数個購入。失敗を覚悟の上で「ニコイチ」「3個イチ」でOリングをつなぎ合わせ、接着自作した。海外では、太さが異なるヒモ状のゴム素材を接着して作る「Oリング製作キット」なる商品が販売されていたこともあった。接着には瞬間接着剤を利用することができるので、どうにもならない時には自作チャレンジしてみよう。このロータリーディスクカバー外周のOリングも自作して組み立てた。クランクケース側のシール面には耐ガソリン性液状ガスケットを薄く塗布し、組み立て時の滑りを高め、乾燥後はシール性向上を狙ってみた。

ガスケット紙から切り抜き自作もできるが……



クランクケースの合わせ目、左右クランクケースのセンターにガスケットが入るエンジンと、そうでないエンジンがあるが(ホンダ4ミニはセンターガスケットが入る構造を採用。設計上、左右クランクケースを一体加工していないのでガスケットが入る)、ガスケットが入らないエンジンの場合は、液状ガスケットを併用しよう。2ストエンジンの場合は、一次圧縮室の液状ガスケットに「耐ガソリン性」を利用しよう。4ストエンジンや2ストエンジンでもミッション室側のシールならシリコン系液状ガスケットを使うことができる。ここでは、2ストクランクケースなので耐ガソリン性液状ガスケットのパーマテックス製モトシール1を利用した(ミッション室側も同様)。クラッチカバーやタペットカバーなど、紙製ガスケットが純正指定されている箇所でガスケットが無いときには、シリコン系液状ガスケットだけでシールできる例もある(あくまで自己責任でトライする価値はある)。この際には、接触座面の汚れを落としとオイルストーン掛けをしっかり行ってから組付けよう。クラッチカバーをシリコン系液状ガスケットだけでシールしているバイクが手元にあるが、すでに5年以上、オイル漏れは発生していない。あくまで苦し紛れの策だったが、どうにかなってしまうものだ。あくまで自己責任に於ける作業方法である。

イザという時のために所有しておきたいベース紙

80年代以前はエンジンチューニングの材料としても重宝したのが、厚さ違いの紙製ベースガスケット製作キットだった。現在でもデイトナには商品ラインナップがあるのでありがたい。ガスケットを自作するときのコツは、いきなりハサミやカッターでガスケット紙を切り出すのではなく、コピー紙などで型紙を作ってから転写することである。

切り欠きには意味がある



クランクシャフトのエンドカバー用ガスケットが見つからないので、ベースガスケット紙の0.5mm厚を利用し、自作ガスケットを作ってみた。カバーの内側には切り欠きがあったが、これはクランクベアリングに混合ガソリンを流し込む潤滑ポートとなっていた。ガスケットを自作する時には、接触座面の両側形状を確認しながら切り出そう。

POINT

  • ポイント1・オイルシールが見つからない時には寸法ベースで規格品から見つけてみよう
  • ポイント2・液状ガスケットは紙ガスケット代わりに利用することもできる
  • ポイント3・ベースガスケットシートを利用することで紙ガスケットならDIY自作することもできる

ここで組み立てているヤマハYA5の混合ストロークエンジンは、1960年代初頭に設計されたものだ。このエンジンは、国産量産車初のロータリーディスクバルブエンジンを搭載。その原型エンジンはドイツ製との記述資料があるが、いずれにしても、技術的過渡期に設計されたもので、このエンジンは発展することなく、後に(ヤマハYA6では)、まったく新設計のロータリーディスクバルブエンジンに進化している。そんな経緯のあるエンジンだけに、流通部品は数少なく、逆に適合部品があったとしても、それを欲するユーザーはほとんどいない。このエンジンのオーバーホール中に、流通在庫(個人所有など)で見つけた部品は、難なく容易に入手することができたが、なかなか見つからない部品は「とにかく見つからない」というのが印象だった。

オイルシールやガスケットに関しても、エンジン腰上の需要があったガスケット以外は、ほぼ見つけることができなかった。そんな状況を察していたので、ボロボロエンジンを分解した際には、オイルシールはできる限り壊さないように取り外し、寸法確認できる状況にした。また、後々、部品探しで混同しないように、取り外したオイルシールには荷札を取り付け、そこには利用箇所と寸法関係(オイルシールなので内径×外径×厚さ)を明記しておいた。イラスト入りのパーツリストがあれば、周辺部品のレイアウトや部品番号から検索捜索することができるが、当時のヤマハ製パーツリストは、バラした部品を写真撮影し、部番の明記もあったが、残念ながらその後に部番表記が変わってしまったので、そのパーツリストはほぼ参考資料にならなかった。

以上の理由から、オイルシール探しは困難を極めた。実寸法から適合部品を探し出す方法になったからだ。それでも執念深く探した結果、寸法的には適合する部品を探し出すことができた。しかし、2ストエンジンなので、一次圧縮室には混合気が充填されるため、耐ガソリン性に関する良否は不明。仮に、純正部品であっても、生涯部品では決してないので、個人の判断と経験ですべてのオイルシールは流用使用している。写真解説にも記したが、オイルシールメーカーの標準規格品であれば、簡単に購入することができる(機械部品商経由やネット通販にて)。また、バイクメーカーの垣根を越えて同一サイズのオイルシールを見つけることもできた。

紙製ガスケットに関しても、ほぼすべてのガスケットを部品現物から切り出し自作することにした。自作時にはコピー紙を使って石刷りで形状を起こし、それを切り出した後にスプレーのりでベースガスケット紙に添付。輪郭部分はカッターで切込み(スーッと刃で切り流すイメージではなく刃をグッグッと押し付けて切るイメージ)、ボルトの締め付け穴は円抜きポンチをハンマーで叩いて抜き取った。

補修部品が見つからない旧車エンジンのオーバーホール時には、アイデアと経験が物申すことが多い。そんな苦労があるからこそ、60年代以前の旧車いじりは、楽しむことができるのだ。

この記事にいいねする

今回紹介した製品はこちら

コメントを残す

今回紹介したブランドはこちら