USB電源やドライブレコーダー、気温が低くなればホットグリップや電熱ジャケットなど、快適なライディングを支える電気系アクセサリーを取り付けているライダーも多いはず。しかし取り付け場所や取り付け方法によっては、危険な車両火災を引き起こす原因になりかねないので充分な注意が必要です。
バッテリー直結よりイグニッションスイッチ連動の方がスマートだが……
イグニッションスイッチを操作した際にニュートラルランプが点灯したり消えたりするので、車体側のメインハーネスとスイッチハーネス接続部のコネクターを確認すると熱により溶けかかっている。
最も焼損がひどいのはイグニッションスイッチ側の茶色の配線。これはバッテリーからスイッチを通過した電流が車体各部に流れる電源線となる。スイッチオンで通電するため、後付けした電気アクセサリーをキー連動にする際に一般的に使用する部分だ。
小排気量車から大型車まで、多くのバイクが何らかの電気アクセサリーを取り付ける例が増えています。その代表といえばUSB電源を備えたスマホホルダーです。日常生活に不可欠なスマートフォンをバイクでも使いたいと考えるのは当然で、ハンドルやメーター部分でスマホの地図が表示されているだけで安心というライダーも少なくないようです。
充電用のUSBケーブルや普及率が高まりつつあるドライブレコーダー、高速道路の必需品であるETC、冬期のライディングで重宝するヒーター機能付きハンドルグリップや電熱ウェアなど、バイクのバッテリーを電源とするアクセサリーは増加する一方です。そしてこれらの電気アクセサリーを取り付ける際には、どこから電源を取るかが悩みどころであり、いじり好きにとってはセンスの見せどころとなります。
何でもかんでもバッテリーのプラス端子に直接繋いでしまえば簡単ですが、イグニッションスイッチオフでキーを抜いてもアクセサリーの電源が入るのが問題です。バイクに乗るたびにドライブレコーダー電源を手動でオン/オフ操作するのは面倒だし、たまたまスイッチを入れ忘れた時にアクシデントに遭遇してしまったら宝の持ち腐れです。ETCだって同様で、カードを抜いた後も本体電源が入りっぱなしなのは意味がありません。つまりほとんどの電気アクセサリーは、イグニッションスイッチオンで通電する回路から電源を取り出すのが良いと言うことになります。
ほとんど、というのは、一部のUSB電源ケーブルにはバッテリー充電ケーブルの役割を持つ製品があるためです。自宅保管時には途中のコネクターを取り外してバッテリー充電器を接続できる製品の場合は、電源ケーブルをバッテリー直結としておく必要があります。補充電のたびにバッテリー端子に充電器のクリップを繋ぐ手間が省けるため人気がありますが、スイッチオフでもUSBポートまで電気が来ているので注意が必要です。
- ポイント1・電気系のアクセサリーの取り付けは配線をバッテリー端子に直結すれば簡単だが、イグニッションスイッチ連動とした方がスマート
- ポイント2・バッテリー充電ケーブルを兼ねた配線を使用しているアクセサリーは、イグニッションスイッチ連動ではなくバッテリーに直接配線する
割り込み先のヒューズ容量とカプラー部分の過熱に注意
フレームのヘッドパイプ下のコネクターが溶けたのは、ここからグリップヒーターの電源を分岐していたためと推測される。キャブレター仕様のトリッカーは20Aのヒューズが1本だけ付く仕様で、どこから分岐しても同じだろうと考えたが、消費電流が大きいため端子部分に熱が溜まったようだ。配線がショートすればヒューズが一発で切れるが、切れないまでも負荷が大きくなった状態というのもジワジワとダメージを与えてしまう。
電気アクセサリーをイグニションスイッチと連動させることで、不用心にバッテリーを上げる心配はなくなります。しかし車体側の既存配線からアクセサリーの電源を新たに取り出すとなると、割り込ませる配線への負荷を考慮しなくてはなりません。
バッテリー直結の場合、過電流や配線ミスによるショートは取り付けるアクセサリーに取り付けられたヒューズが受け持ちます。しかしイグニッションスイッチに連動する配線に追加のアクセサリーを割り込ませると、元の配線のヒューズの負荷が増加します。ここで紹介しているヤマハトリッカー(キャブレターモデル)のヒューズは車体全体で20Aが1個だけです。400ccクラスになるとメインヒューズとは別にイグニッション、ヘッドライト、テールライト、ウインカー、アクセサリーなどの系統別に設定されることも多いです。
一方、アクセサリー側の消費電力はあるETC車載器だと12V80mA、USB電源だと最大出力時で1A、急速加熱時のグリップヒーターの中には3~4Aの電流が流れる製品もあります。家庭用であってもヘアードライヤーやホットカーペットなど熱エネルギーを発する電気製品は消費電力が大きい傾向にあるので、グリップヒーターの消費量が大きいのは致し方ありません。
車体の配線からアクセサリーの電源を分岐して取り出す場合、その配線がどれだけの容量のヒューズにつながっているかを確認します。多系統ヒューズの場合、容量の大きなメインに対して、各負荷は5A、10Aと小さくなっているはずです。しかし1本しかヒューズがないトリッカーの場合、ヘッドライト配線から取り出してもブレーキスイッチから取り出しても、ウインカーリレーの電源側から分岐しても、結局はメインヒューズの20Aだけを通ります。
こうした単系統ヒューズの車両では、追加した電気アクセサリーがボディブローのようにジワジワと車体側の配線にダメージを与えることがあります。赤いコネクターはメインハーネスとキーシリンダーの接続部のもので、溶けかかった茶色の配線はバッテリーからイグニッションスイッチを経由し、ヘッドライトやイグニッションコイルなどすべての電源をまかなっています。
車体側にヒューズが1本しかないためどこから電源を取っても同じと考え、ここからグリップヒーターの電源を取っていましたが、イグニッションスイッチの動作が不安定になったため確認したところ、ギボシ端子は焼損しコネクター本体も溶けかかっていました。この場合、明確に配線がショートしたわけではないのでヒューズか切れていませんが、車体側の20Aの容量を超えないレベルで追加したグリップヒーター分の電流が流れ続けたことがトラブルの原因と考えられます。
同じようなことは家庭内でも起こり得ます。キッチンのレイアウト上、炊飯器と電子レンジのプラグを同じコンセントに差し込まざるを得ないことは珍しくありません。そして両者を同時使用することで、数年後にコンセントが焼損することがあります。併用することで明らかに1500Wを超えればブレーカーが過電流を遮断しますが、ギリギリのレベルでなおかつ連続的に大電流を消費する家電品はジワジワと影響を与えることがあるのです。
- ポイント1・イグニッションスイッチオンで通電する配線からアクセサリーの電源を分岐する場合、アクセサリーの消費電力に要注意
- ポイント2・電気を多く消費するアクセサリーを追加すると、ヒューズ切れを起こさず端子部分の接点がダメージを負うことがある
消費電力の大きいアクセサリーを取り付ける際は専用リレーを追加したい
溶解した純正の赤色コネクターはハーネスとセットで単品では入手できないので、デイトナ製コネクターセットと純正色ハーネスでリペアする。
純正端子を切断して、配線を延長した上で新たな端子をカシメてコネクターに挿入する。延長部分ははんだ付けした部分を熱収縮チューブで絶縁しておく。特にバッテリー電圧が常時加わる赤色の絶縁は入念に。
コネクターの色が異なり熱収縮チューブが追加されているため純正とは異なるのは明白だが、大きなトラブルを回避できた。キャブ仕様のトリッカーだけでなく、キャブ時代のSR400もヒューズは1本しかないので、電気アクセサリーを追加する場合は電源取り出しに注意が必要だ。
話を単系統ヒューズのトリッカーに戻すと、こうした機種でもETC車載器やUSB電源など消費電力が少ないアクセサリーであれば、どこから電源を取っても大きな問題にはならないでしょう。しかし熱を発生するアクセサリーの取り付けは、スイッチにリレーを追加して本体の電源はバッテリー直結で取り出した方が無難かも知れません。
考え方としては、リレーを介してバッテリーと消費電力の大きなアクセサリーを直結して、イグニッションスイッチオンで通電する回路からリレーを作動させる電源をアクセサリーのスイッチに接続するのです。こうしておけば、追加アクセサリーのスイッチを割り込ませた配線に流れる電流はごく僅かで、アクセサリー本体を作動させる大電流はバッテリーから直接供給されるため、車体側の配線に大きな負荷は掛かりません。
これはヘッドライトやイグニッションコイルの電源をリレーを介して供給する、いわゆるバッ直リレーと同じ考え方です。
同様の発想で、複数の電気アクセサリーの電源を一カ所から取り出せる電源ユニットがデイトナから販売されています。この製品を使用すれば、車体の配線に割り込ませることなく複数のアクセサリーの電源を同じ場所で配線でき、なおかつそれぞれの追加アクセサリーに対して専用のヒューズが追加されるため、単系統ヒューズの機種でもイグニッションスイッチ連動で多系統ヒューズの安心感が得られます。
便利な電気アクセサリーの恩恵を受けながら、車両火災などの災難に遭わないために、電源の取り方には充分に注意したいものです。
- ポイント1・消費電力が大きいグリップヒーターや電熱ウェアを使用する際は既存配線への割り込みではなく専用リレーを装着したい
- ポイント2・単系統ヒューズの車両にアクセサリーを装着する場合、専用の電源ユニットを使用することでイグニッションスイッチ連動の多系統ヒューズ回路ができる
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