
ガソリンエンジンを動かすには、スパークプラグに発生する電気火花で燃焼室内の混合気に着火しますが、いつ火花を飛ばすか=点火時期の設定が重要です。その確認方法には静的、動的の2つのやり方があり、実際にエンジンが動いている状態の点火時期を把握するためのツールがタイミングライトです。
エンジン回転数に応じて変化する点火時期。基準はアイドリング時のFマーク
ポイント点火車でもトランジスタ点火車でも、イグニッションコイルからスパークプラグに電気が流れた瞬間にストロボが発行して正確な点火時期を示すタイミングライト。点火時期が任意に調整できるポイント点火車だけでなく、部品の取り付け位置が決まっているトランジスタ点火でも点火時期の確認ができる。
ハイテンションコードに流れる電流とシンクロして点滅するストロボ光を照射することで、回転するフライホイールやローターが止まって見える。常に動かないクランクケース側の基準に対してローター外周のFマークがピッタリ合っているのか、それともずれているのかによって点火時期が分かる。
スパークプラグには、燃焼室に充填された混合気に着火して爆発的燃焼を発生させる重要な役割があります。プラグから発生する火花が大きいほど燃焼力も強くなるため、プラグ本体やプラグコード、点火装置などの強化品も販売されています。確かにそうした部品は有効ですが、もっとも重要なのはエンジンにとって適切なタイミングでプラグから火花を飛ばすことです。
エンジンにとって適切なタイミングとは、着火された混合気が燃焼し一気に膨張する過程と、シリンダー内のピストンの位置関係を適正にすることです。シリンダー内を往復しているピストンに対して、上死点を越えて下死点に移る段階で下向きの大きな力を加えることで、勢いよく下降するであろうことは理解できると思います。逆に、上死点に向かってシリンダーが上昇している途中に大きな圧力を受ければ上昇するスピードは鈍り、場合によっては押し下げられてしまうかも知れません。
混合気が燃焼して圧力が最大になるタイミングを活用するには、さかのぼって混合気にいつ着火するかが重要であり、これが点火時期となります。回りくどい説明になりますが、点火時期は燃焼して最大に膨張した混合気とピストン位置を合わせるために設定されていると理解すると良いでしょう。上死点と下死点の間を往復するピストンを押し下げる際には、ピストンが上死点後10°の時点で力を加えると最も効率が良い、つまり大きなトルクとして取り出せるとされています。
自転車で坂道を走る時、坂の頂点に向かう上り坂よりも上り切って下りに差し掛かった時の方が漕ぐ力は軽く、速度も出しやすいことは想像できるはず。
エンジンをメンテナンスする際に、フライホイールやタイミングローターなどの「T」マークと「F」マークを使ってバルブタイミングなどを調整します。ピストン上死点を示すTマークの手前で点火時期を示すFマークがあるのは、混合気への着火は上死点より手前で行われていることを示します。ピストンがまだ上昇中であるにも関わらず混合気の燃焼を開始するのは、燃焼室内の混合気が燃え広がり圧力が最大になるには一定の時間が掛かるためです。
アイドリング時の点火時期は機種によって異なりますが、上死点後10°で燃焼圧力が最大になった時に最大トルクを得られるのは物理的に共通しています。つまり点火時期が機種によって異なるのは、燃焼室やピストントップの形状によって異なる混合気の燃え方に対応し、上死点後10°で最大圧力を得るためなのです。
そう考えると、点火時期調整が重要であることが分かります。例えば1200rpmでアイドリングしているエンジンのクランクシャフトは1秒間に20回転します。4ストロークエンジンの燃焼はクランクシャフト2回転に1回なので、混合気は1秒間に10回着火されていることになります。アイドリング時ですら1秒間に10回、正確に上死点後10°で最大圧力になるよう着火しなくてはならないと考えると、点火時期調整の重要性とデリケートさが理解できるでしょう。
- ポイント1・スパークプラグの点火時期は機種によって異なるが、燃焼した混合気の圧力がピストン上死点後10°で最大になるよう設定されている
- ポイント2・点火時期が適正値から外れると、エンジンのパフォーマンスに大きな影響を与える
タイミングライトは市販品だけでなく電気工作が得意なら自作も可能
2ストロークのポイント点火車はクランクシャフトの角度ではなく、ピストンの位置によって点火時期が指定されていることもある。この場合上死点前■mmと指定されるので、ダイヤルゲージでピストン上死点を0mmとしてクランクシャフトを逆転させて、指定値まで下がった時点でポイントが開くように調整する。
Fマーク近辺でクランクシャフトを回転させ、Fマークは合うと同時にポイントが開くようポイントベースの位置を調整する。ポイントはポイントカムに押されて徐々に開くため、目視だけでは判然としないこともある。その際はポイント接点に電球やブザーを取り付けて、光や音を頼りに接点の断続を判断することもできる。
レーシングエンジンのセッティングマニュアルには、気温や気圧によって点火時期を調整する方法が記載されていることがありますが、その際の調整範囲は1°刻みとシビアなことも珍しくありません。
市販車の中でも絶版車でしか見ることのなくなったポイント点火では、点火時期のFマークと同時にコンタクトポイントが開くように設定します。その際、閉じたポイントが僅かに開く瞬間とFマークを合わせるのが肝心ですが、慣れないとなかなかうまくできません。とはいえ目見当で調整して設定値から数度ずれれば、点火時期が早すぎても遅すぎても良くありません。先ほどから何度も繰り返しているように、点火時期はピストン上死点後10°で燃焼圧力が最大になるよう設定されているからです。
またエンジン回転数を上昇させたさいに点火時期が早まる=進角するエンジンでは、アイドリング時の点火時期のずれが高回転時にも反映されてしまうため、始動時だけでなく全域で調子が悪くなることもあります。
タイミングライトはそうした不安を一掃するために有効なアイテムです。スパークプラグに流れる電流と連動してストロボを発光させて、フライホイールやタイミングローターのFマークを照射することで、エンジン側の基準と回転するFマークの位置関係を確認できます。先に紹介した1200rpmでのアイドリング状態の時、クランクシャフトで点火時期を判別するエンジンでは1秒間でスパークプラグに20回着火します。混合気が燃焼するのは1秒間に10回ですが、排気上死点でも火花は飛んでいるからです(ポイント点火車や単純なトランジスタ点火の場合)。
タイミングライトのストロボ光は1秒間に20回オンとオフを繰り返すことで、見かけ上Fマーク位置を固定します。これとエンジン側の基準位置を比較すれば、点火時期が早いか遅いかが分かり、必要であれば調整して再度確認できます。目視で調整したポイント点火車をタイミングライトで確認すると、想像以上に点火時期がズレていることもあり、静的確認と動的確認の違いを認識できます。一方調整要素がないように思われるトランジスタ点火車の場合も、フライホイールやローターに対するピックアップの位置や距離によって点火時期が若干変化する可能性があるので、メンテナンス時にタイミングライトで確認するのは有効です。
ちなみに、ここでは工具ショップで販売しているタイミングライトを掲載していますが、インターネット上ではカメラ用のストロボを流用した自作情報も数多く掲載されているので、電気工作に興味があれば参考にしてみるのも良いでしょう。
- ポイント1・フライホイールやタイミングローターのFマークをエンジン側の基準と合わせることで正確な点火時期となる
- ポイント2・ポイント点火車はFマークと同時に閉じたポイントが開くよう調整してタイミングライトを照射する
他機種用のローターやピックアップを流用する際は要注意
タイミングライトには、本体に内蔵した電池を用いる製品と車両のバッテリーから電源を取る製品がある。車両のバッテリーを使う製品は電池切れの心配はないが、大半が12Vバッテリーに接続するためバイクが6V電装の場合は別途12Vバッテリーの用意が必要。
タイミングライトのリード線でハイテンションコードをクランプすることで、点火タイミングに応じてストロボが発光する。ポイント点火の4気筒エンジンの場合、1/4プラグと2/3プラグが同時点火になるので、ポイント調整は2回行う。
タイミングライトがあればポイント式でもトランジスタ式でも正確な点火時期を知ることができます。ただしそれはエンジンと点火装置がマッチしていることが前提となります。ポイントが標準装備の絶版車の中には、例えばカワサキZ系のように基本設計が同じで年代によってアップデートを行っている機種があります。
こうしたモデルでは、ローターやピックアップがクランクシャフトやクランクケースに物理的に取り付けできても、点火時期が正しく拾えないことがあります。そればかりか、エンジン全体の要である上死点マークの位置が正しくない場合すらあります。エンジンの年式に適合した部品を使用する場合はさておき、他機種用の部品を流用したり同系列でも年式が異なる機種の部品を転用する場合は、Fマークより先にTマークが本当に正しい位置にあるか否かを慎重に確認して、その上でFマークを確認しましょう。
ただし先に説明したように、ピストンや燃焼室形状など混合気の燃えやすさを左右する要素によって適正な点火時期は変化します。カワサキZ1とZ2の1500rpm時の点火時期を比べると、Z1は上死点前20°ですがZ2は上死点前5°で大きく異なります。またエンジン回転の上昇に伴い早まる点火時期もZ1は2350rpmで上死点前40°に達するのに対してZ2は3000rpmで上死点前40°となります。
点火系のモディファイを行った際は注意が必要ですが、上死点を合わせておけばタイミングライトを使って実際の点火時期を知ることも可能です。
- ポイント1・他機種用の点火システムを流用する際は、上死点や点火時期の仕様を確認することが重要
- ポイント2・タイミングライトを活用すれば、詳細な仕様が不明な点火系部品の特性を知ることもできる
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プラグホールにダイヤルゲージ入れる場合は、スパークプラグの角度が垂直である場合のみ可能ではないでしょうか?