
2ストでも4ストでも、キャブレターでもインジェクションでも、2気筒以上のエンジンの吸気系を分解、メンテナンスした際にはスロットルバルブの同調を取らなくてはなりません。同調調整では吸気系の負圧を測定するバキュームゲージがよく知られていますが、エンジンが吸い込む空気量を合わせる調整方法もあります。その際に使用するのがエアフローメーターです。
吸気系の同調を合わせる意味とは?
4ストローク4気筒エンジンの同調調整で一般的なのが、4連バキュームゲージを用いた方法。4つのゲージはそれぞれ1~4シリンダーのマニホールド負圧を測定しており、スロットルバルブ開度の調整により増減する負圧を揃えることで、スロットルを開けた時に同じ量の空気が吸い込まれるようになる。その結果、4つのシリンダーで均等な燃焼が起こりスムーズな回転上昇につながる。
画像のケーヒン製CVKキャブレターはキャブ本体に負圧が取り出せるニップルが付いており、バキュームゲージのホースを差し込むだけで測定できる。
右手のスロットル操作によってエンジンが吸い込む空気の量が増減し、燃焼室に流れ込む混合気の量が変化してエンジン回転数が変化するのは、2ストでも4ストでも、キャブレター車でもインジェクション車でも同じです。エンジンが単気筒であればスロットルはひとつですが、大半のバイクは2気筒以上になるとシリンダーごとにひとつのキャブレターが装着されます。
4ストローク並列4気筒エンジンを例に挙げれば、1969年に登場したホンダCB750フォアK0の初期モデルは4つのキャブレターのピストンにそれぞれ1本ずつケーブルがつながっていました。これに対して1972年にデビューしたカワサキZ1は、4つのキャブのピストンがメカニカルリンクによって機械的に連結されていました。そしてどちらの機種もスロットル部分につながるケーブルは1本で、CBの場合は途中で4本に分岐されて各キャブレターにつながり、Z1は4つのキャブを連結するスロットルシャフトにつながっています。
キャブレターのメンテナンスにはいろいろな手法がありますが、2気筒以上のキャブのまとめとして需要なのが同調の調整です。これはスロットルを操作した際に複数のスロットルバルブが同じように開閉するよう動きを揃える作業です。
スロットルから右手を離している間、スロットルバルブはエンジンがアイドリングできる最少量の空気が通る分だけ開いています。エンジンは常にシリンダーが吸えるだけの空気を吸おうとするものなので、アイドリング時はスロットルバルブで空気の通路を大幅に遮断した状態になっています。従ってスロットルを少しでも開けると、シリンダーは勢いよく空気を吸い込もうとします。このとき隣同士のキャブの同調が合っていないと、ひとつのキャブは他のキャブより多くの空気が流れ込んだり、逆に他のキャブより少ししか空気が吸えない状態になる可能性があります。
4気筒エンジンの4個のキャブが吸い込む空気量がバラバラでは、エンジン全体としてバランスが取れません。そして特に敏感に同調が効いてくるのは、スロットル全閉状態からちょっとだけ開いた、遮断された空気が流れ込もうとする低開度領域とされています。逆にスロットル開度が大きくなれば空気の流量が多くなるので、スロットルバルブの開度が多少ずれていても低開度でのずれほど大きな影響はありません。
スロットルバルブの動きがシンクロせず、例えば4気筒エンジンのうちキャブ1個だけが遅れて開くと想像してみましょう。アイドリングから走り出しは3気筒で、途中から4気筒になるようではエンジンコンディションが良くないことは明白です。
これは4気筒だけではなくキャブレターを2個装備した2気筒エンジンでも同様ですし、キャブレターだけでなくフューエルインジェクションのスロットルバルブも同調調整が必要です。
- ポイント1・スロットル全閉時、キャブレターやインジェクションのスロットルバルブから吸気バルブ間の負圧は最大になる
- ポイント2・2気筒以上のエンジンのスロットルバルブ開度をシンクロさせることで、吸入空気量を合わせるのが同調調整
負圧が取り出せなければ吸入空気量でも判断できる
エアーフローメーター、シンクロテスターなどの名称で販売されている画像のゲージは、下の黒い部分をキャブレターの吸入口に押し当てて、太鼓型の胴体のスリットから吸い込む空気量を測定する。1970年代からソレックスやウェーバーといった4輪用のチューニングキャブの調整用として使われてきた。
キャブレターに押し当ててエンジンを始動すると、メーター外周部分の針が動いて吸入空気量を示す。エアクリーナーのダクトを外してキャブに直接取り付けることで、空気の流量や吸入負圧はエアクリーナー装着時とは異なるが、キャブ同士の相対的な比較なので問題にはならない。
アイドリングからエンジン回転数を上げていくと、吸い込まれる空気が増えるためメーターの数値も大きくなる。2気筒エンジンでアイドリング回転数を1500回転に合わせていても、スロットルストップスクリュー位置の違いによって吸入空気量が大きく異なる場合もある。マフラー出口に手を当てると、スロットルバルブ開度が大きい方が排気が力強く感じられる。これを頼りにスロットルストップスクリューを調整して同調を合わせることもできるが、メーターがあれば同調しているか否かを目で見て判断できる。
スロットルバルブの開度を合わせる同調作業には、バルブ開度を目視で確認する方法と計測機器を使う方法があります。キャブレターでもインジェクションでも、空気の流量をバタフライバルブで調整している吸気系では、吸気が流れるベンチュリーとスロットルバルブの僅かな隙間を目で見て比較して揃えます。
この方法でもある程度はあわせられますが、テスターやゲージを厳密な調整にはかないません。4ストロークエンジンの同調作業で最も多用されるのはバキュームゲージでしょう。これはキャブレターからシリンダーヘッドの吸気バルブ間の通路に発生する吸入負圧を測定して比較、負圧の大きさを揃えることで複数のスロットルバルブの動きを同期します。
スロットルバルブを閉じたアイドリング状態のエンジンは、混合気を吸いたくてたまらない状態にあって、キャブから吸気バルブの間の負圧は最大になっています。そこで負圧を測定しながらスロットルバルブを開くと、バルブ開度が大きいシリンダーほど多くの空気が流れ込み、その分だけ負圧が低下します。4気筒エンジンで4連バキュームゲージを使用する場合は、負圧の絶対値よりも各ゲージの針の位置を相対的に比較しながら微調整することで、同じ量の空気が流れる=マニホールド負圧が揃うようにスロットルバルブ開度を合わせます。
スロットルバルブからシリンダーヘッドの吸気バルブバルブまでの間で、負圧をどこから測定できるのかは機種ごとに異なります。キャブレター自体に負圧を取り出せるニップルが付いている機種もありますし、シリンダーヘッドにボルト止めするゴム製のアダプターにニップルが付いている機種もあります。またシリンダーヘッド自体に雌ネジが切ってあり、ここにアダプターをねじ込んで負圧を取り出す機種もあります。いずれにせよ、バキュームゲージによって同調を合わせることができます。
これに対して、キャブにアダプターにもシリンダーヘッドにも負圧を取り出せる場所がないエンジンもあります。そんな時に役立つのがエアーフローメーターです。シンクロテスター、シンクロメーターといった名称でも呼ばれるエアフローメーターは、キャブレターの空気取り入れ口に装着して、太鼓型の本体を通過する数値として表示します。空気取り入れ口なので、手で塞ぐような吸入抵抗を与えればエンジンが止まってしまいますが、このメーターはエンジン回転が落ちるほどの吸気抵抗にはならず、通過する空気量を示すのが特長です。
4連バキュームゲージのように、同時に複数のキャブの吸入空気量を測定できないのが弱点ですが、メーターの針が示す数字を合わせることで同調調整が可能です。またエアークリーナーボックス付きの機種で、キャブの入り口にメーターを取り付けられない機種も使えません。ただしインテークダクトが容易に着脱できるのなら、測定時だけダクトを外して調整し、終わったらインテークダクトを再度取り付けるという方法もあります。エアークリーナーの有無によってキャブレターに掛かる負圧の大きさは変わりますが、同調調整において重要なのは負圧の絶対値よりも相対値なのです。
キャブとエアークリーナーボックスの位置関係によってエアーフローメーターがダイレクトにセットできない場合は、アダプターを介して測定することも可能です。この場合、複数のキャブで吸入抵抗に差が出ないよう、同じアダプターを使って測定を行います。
- ポイント1・スロットルバルブからエンジンの間にマニホールド負圧を取り出せるニップルがあればバキュームゲージを使った同調調整が可能
- ポイント2・キャブレターやスロットルボディの吸気側に取り付けるエアーフローメーターによってエンジンが吸い込む空気量を測定でき、吸気量を合わせることで同調が取れる
2気筒以上のピストンバルブキャブはスロットルストップスクリューの扱いに要注意
スロットルストップスクリューがトップキャップに取り付けられているツインキャブの場合、左右のアイドリング開度を合わせてからスロットルケーブルの遊びも調整する。
キャブレター周辺のレイアウトによっては、エアーフローメーターを直接キャブに取り付けられない場合もあるので、アダプターを活用して測定する。アダプターによって吸入空気の抵抗や流量が変化する可能性があるので、アダプターを使う際はすべての測定をアダプター付きで行う。
1960~1970年代の2ストロークツインやトリプルにありがちなのが、それぞれのピストンバルブキャブにスロットルストップスクリューが取り付けられているパターンです。スロットルストップスクリューはエンジンのアイドリング回転数が決めるだけでなく、同調調整にとっても重要です。
並列でもV型でも、2気筒のエンジンに2つのキャブがある場合、キャブ同士が機械的に連結されていなければスロットルストップスクリューはそれぞれのキャブボディに付き、アイドリング回転数をそれぞれ調整できます。両方のスロットルバルブ開度が同調すれば、スロットルを開け始めた瞬間から2つのシリンダーに同量の混合気が流れ込み、同じ爆発力を生み出します。しかし一方が他方に対してスロットルストップスクリューが高い位置にあれば、スロットルを開け始めた段階で2個のシリンダーに流れる混合気量に差が生じてしまいます。
2ストは4ストと違って、負圧を取り出せるニップルを持たないエンジンが多いため、1960年代の2気筒車の取扱説明書やサービスマニュアルには、同じ量の空気が入ればエンジンの爆発力も同じという理由で、アイドリング時に2本のマフラー出口に手のひらを近づけ、排気ガスの圧力に差を感じるか否かで調整を行うよう指示されていることもありまずが、キャブの入り口側で空気の流量を測定するエアーフローメーターが重宝します。
またスロットルケーブルでピストンバルブを引き上げる際に、ケーブルの遊びが均等であることも重要です。スロットルストップスクリューでアイドリング回転数が決まっていても、スロットルを開いた際にケーブルの遊びの違いでピストンの動き出しが異なれば、エンジンフィーリングに影響を与えます。
スロットルバルブの同調が取れているか否かは、特にスロットルの開け始めのスムーズさを左右します。4気筒エンジンでは、同調をドンピシャに合わせたことで回転上昇がスムーズになりすぎて、多少ずれていた方が力強さの演出材料になる場合もあります。とはいえ多気筒エンジンにとってはスロットルを開けば同じ量の空気が流れ込むのが望ましいのは間違いありません。バキュームゲージはよく知られていますが、吸入空気量を計測するエアーフローメーターを活用することで、マニホールド負圧を取り出す方法のないエンジンでも計測器を使った同調調整が可能になることを知っておくと良いでしょう。
- ポイント1・スロットルケーブルでスロットルバルブを開閉する2気筒以上のキャブレターは、スロットルストップスクリューの位置でアイドリング回転数と同調が調整できる
- ポイント2・スロットルケーブルの遊びの差によってスロットルバルブの動き始めがばらつくと、スロットル開け始めで同調がずれる原因になるので要注意
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