シリンダーヘッドから吸排気バルブを取り外したら、バルブの当たり確認を行う前にバルブの傘部分をしっかりクリーニングしよう。そして、組み立て復元前にはバルブシートの当たり確認や擦り合わせを行うのが原則だ。ここでは、吸排気バルブの当たり確認方法や擦り合わせ方法、そしてバルブを組み付ける手順をリポートしよう。

「タコの吸盤」のような棒がタコ棒



バルブの傘サイズに合わせて様々なサイズ(外径)のタコ棒が販売されているが、極小バルブサイズのタコ棒は物理的に吸着しにくく使いにくい。サンメカなら様々なサイズのタコ棒を所有したいものだ。燃焼室側の傘表に吸盤を押し付け、バルブを上下回転させながら擦り合わせや当たり確認を行う。傘表が汚れていると吸盤が吸着しにくいので、しっかり擦り合わせするためには汚れ落としクリーニングが必須なのだ。

バルブコンパウンドはバルブフェースに塗布

タコ棒の吸着力を高めるためにも重要なのが、バルブの傘表=燃焼室側のクリーニングである。カーボン汚れが残ったままでは、タコ棒をしっかり吸着させることができない。繰り返すが、これは極めて重要なことだ。クリーニング済みのバルブフェース部(バルブ傘のバルブシートと密着する外周面)にバルブコンパウンドを少量塗布したら、バルブステムをバルブガイドに差し込み、タコ棒で回してガリガリッとバルブフェースをバルブシートに擦り合わせる。この作業を繰り返し行ったら、バルブフェースとバルブシートのコンパウンド汚れをウエスで拭き取り、さらにパーツクリーナーでしっかり洗浄しよう。この洗浄時には、バルブコンパウンドがバルブガイド内に混入しないように要注意!! ガイド内にコンパウンドが流れ込んでしまうと、バルブステムに傷を付けてしまうからだ。洗浄を終えたら、少量のオイルで解いた光明丹粉末を綿棒で混ぜ、そのままバルブフェースに少量塗布しよう。

バルブシートのアタリ幅を確認する



光明丹を塗布したバルブをバルブガイドへ差し込む。タコ棒でバルブを回転させながら上下させてシートへ当てる。バルブシートへカチカチと当たっていることを確認したらバルブを引き抜く。バルブフェースに塗布した光明丹をウエスで拭き取ったら、再度復元してタコ棒でクルクル回そう。その際に、シリンダーヘッド側のバルブシートに付着した光明丹が、再びバルブフェース側へ付着する。そんな光明丹の、行ったり来たりで、アタリ幅やアタリ具合を確認することができる、アタリが悪いと部分的に光明丹の線が細くなっていたり、完全に当たらない部分があったりなどなど、そのエンジンのコンディションによって結果が異なる。そんな不具合のリカバーに必要不可欠なのが、バルブフェースの研磨加工やバルブシートカットである。これらの作業は内燃機加工のプロショップへ依頼しよう。

吸排気ポートの洗浄とオイル塗布後に復元



バルブ周りを仕上げた時には、バルブコンパウンドはもちろん、光明丹もしっかり洗浄してからエアーブローを行おう。新品バルブステムシールを取り付けたら、バルブガイド内にエンジンオイルを塗布してから吸排気バルブを差し込んで復元しよう。組み立てペーストを利用しても良い。いずれにしても、オイル塗布を忘れてしまうと、初期作動時にバルブが引っかかり作動不良を起こし、バルブの傘をピストンが叩いてバルブを曲げてしまうことがある。細軸バルブステムのバイクほど要注意だ。

スプリングシートの紛失に要注意



吸排気バルブを復元する時には、アウタースプリングのバルブスプリングシートを紛失しないように要注意だ。そもそもバルブスプリングを分解した際に、アウタースプリングのベース部分に、カチッとハマっているスプリングシート(ワッシャーのような部品)を紛失しないようにマグネットで吸い寄せ取り外しておこう。

コッターセットツールがあったので……



バルブスプリングを組み込む際には、分解と逆の手順でスプリングコンプレッサーを利用する。バルブスプリングを圧縮してからコッターをリテーナーへセットするが、ここではバルブコッターセットツールを利用して組み込んだ。リテーナー中心のコッターセット部に2分割のコッターをセットした状態で、スプリングの上にリテーナーを載せる。その状態をキープしながらセットツールでスプリングを押し込むことで、自動的にコッターがカチッとはまる便利な工具だ。ホンダ4ミニ用でこのような特殊工具(社外工具)はあるが、ちなみに他のモデル用でこのような特殊工具は見たことが無い。スプリングが柔らかいからこのような工具が登場したのだろう。

コッターの座りを確実に!!



バルブスプリングの組み付け時にもっとも重要なのが、バルブコッターのセット状況である。噛み合わせが悪いとロッカーアームがタペットを押し込んだときに、コッターが外れてしまうことがある。そうなるとバルブが落ちてエンジンブローに……。そんな経験を持つサンデーメカニックも中にはいるはず。そうならないためにも、組み込んだコッターの座りを確実にしなくてはいけない。そんなときには、細いTレンチの柄や細い平ポンチを利用して、バルブステムエンド=タペットスクリューで押される部分をハンマーでコツッ、コツッと軽く何度か叩き、コッターの座りを確認しよう。

ロッカーアーム摺動面とタペット調整スクリュー



ロッカーアーム摺動面とカムシャフトのカム山が摩耗で減っていないか?また、タペット調整スクリューのバルブステム摺動部が偏摩耗していないか?必ず確認しよう。これらの摩耗はエンジン性能の良し悪しに直結し、摩耗があるとメカノイズも相当大きくなってしまうはずだ。意外と気がつかないのがタペット調整スクリューの摩耗なので、分解したときには必ずチェックしておこう。新品スクリューに交換したら、イヤなメカノイズが消えた例もある。

POINT

  • ポイント1・バルブコンパウンドは擦り合わせの状況で粗目、中目、細目を使い分けよう
  • ポイント2・バルブコンパウンドはバルブガイド内やバルブステムに付着しないようにしっかり洗浄しよう
  • ポイント3・バルブコッターを組み込んだ際には、スプリングの反発でコッターが外れないように、ステムエンドをコツン、コツン叩こう
  • ポイント4・

エンジンの分解メンテナンス時には「基本」がある。まずは、エンジン内部、外部に関わらず、汚れた部品を徹底的に洗浄する作業だろう。キレイに洗ってから組み立て直せば良い、というものではないのがメンテナンスやオーバーホール。各部品をキレイに洗い終えたところで、初めて「メンテナンスのスタートライン」に立つことができると考えよう。例えば、汚れたままの部品では、正確な部品寸法や摩耗状況を厳密に確認測定することができない。また、汚れたままの部品では、亀裂やクラックの状況を確認することすらできない。つまり部品が汚れたままでは、何もできないので、まずはクリーニングする作業がすべての「基本」だと考えよう。

4ストエンジンの吸排気バルブ周辺を分解する際にも、まずはカーボンが堆積した旧排気バルブの汚れ落としから始めよう。
カーボン除去を終えたら、次はバルブフェースとバルブシートのアタリ確認だ。このアタリ確認にも様々なノウハウがあるが、ここでは一般的な方法を紹介しよう。
バルブ表(燃焼室側)とバルブステム側(軸側)に密着したカーボンを除去し終えたら、バルブフェースのアタリ面の全面にバルブコンパウンドを少量塗布しよう。
この際の注意点は、ステム軸にコンパウンドは付着させないこと。ステム軸へのキズや摩耗は、性能低下の第一歩となってしまうからだ。
バルブフェースにコンパウンドを塗布したら(粗目、中目、細目コンパウンドの使い分けは状況=コンデイションで変える)、バルブ表にタコ棒を吸着させてバルブガイドにステムを差し込み、バルブシートにフェースを当ててゴリゴリッと回転させながら、カンカンッとフェースをシートへ繰り返し当てる。この作業を繰り返しながら、コンパウンドの摺動感が無くなったら古いコンパウンドをウエスで拭き取り、新しいコンパウンドを塗布して再び作業を繰り返す。この際には、コンパウンドを拭き取ったウエスでステムを拭き取らないこと!!ウエスに付着したバルブコンパウンドでステムを拭ってしまうことになるからだ。

バルブコンパウンドでアタリ部分を磨いたら、光明丹を使ってアタリ具合とアタリ幅を明確にしよう。リング状にしっかりアタリが出ていても、アタリ幅が広い際には、内燃機加工のプロショップでシートアタリ幅の調整作業を依頼しよう。バルブの傘径によって数値は異なるが、一般的に小径バルブの場合は0.8~1.0mmが標準アタリ幅で、1.5mm以上は明らかに修正限度に達していると考えよう。このアタリ幅やバルブフェースのアタリ位置には様々なノウハウがあることも知っておくと、レーシングチューンの際にはいろいろ試すことで、その違いを実感できることもある。今回は、旧排気バルブともに1.0mm弱のアタリ幅で、全周キレイにあたっていたので、このまま組み立て復元することにした。

吸排気バルブとスプリングを組み合わせ、リテーナーとコッターでバルブを固定したら、バルブステムエンドを軽く叩いてコッターの「座り/すわり」をしっかり確認しよう。コッターの座りが悪い状況でエンジン始動したことで、コッター&リテーナーが外れてしまい、バルブが落ちて「燃焼室がぐちゃぐちゃに……」なんて経験をしたことがあるメカニックもいるはずだ。排気量を問わず、バルブン見立て直後のステムエンド叩きは必ず実施しよう。先端の太さが違う平ポンチ (ピンポンチ) セットがあると便利だ。「間違えてもコッターやリテーナーは叩かないこと!!」。あくまで叩くのはバルブステムエンドのタペット部分である。

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