決してコンディションは悪くなく、調子よく走っているバイクでも、よく見るとキャブレター周りが汚れで真っ黒になっていることがある。汚れの原因は、ガソリン滲みや吸入時の吹き返しによるものが多いが、そんな汚れも溜まりにたまれば、エンジン不調の原因になることもある。ここでは、初歩的「キャブ洗浄の手順」をリポートしよう。
目次
ガソリンの滲みが汚れの原因
大気開放のブリーザー通路やフロートチャンバーガスケットからの毛細管現象がキャブ汚れの原因だと思われる。こんな状況を放置し続けると、交換しなくて良い部品まで交換しなくてはいけなくなってしまうケースがある。原因の元を断つことも大切だが、まずはパーツクリーナーやキャブクリーナーケミカルを使い、車載状態のキャブを洗浄してみても良い。ウエスをキャブの下へ突っ込み、クリーナーを吹き付けて不要になった歯ブラシなどで外観の汚れをゴシゴシ磨き、さらにパーツクリーナーで洗い流せはよいだろう。キレイになったら、再びしばらく走り、どの部分から汚れが始まるのかを確認できれば、その箇所の部品交換(例えばフロートチャンバーガスケット交換)によって、著しい汚れの進行を止めることもできる。
分解時にはスロットルケーブルも点検
単気筒エンジンのように、キャブレターを取り外す際にスロットルケーブルが邪魔にならない際には、ケーブルを取り付けたままでキャブ取り外するがよい。取り外したら、その状態でスロットル操作を行い、スロットルバルブが操作に対して追従しているか? 加速ポンプ機能付きキャブレターの場合は、スロットル操作に対してブシューッ!!とガソリンがしっかり吹き出すか、確認してみよう。例えば、加速ポンプの吹き出しが悪いときには、ポンプ本体の不具合やノズルの詰まりなど、トラブルが考えられる。
まずは分解前に外観洗浄
キャブレターの分解前に、ボディ外側が汚れているときには、まずは汚れ落としから始めて、それからキャブ分解に取り掛かろう。ドロだらけで汚れたエンジンを分解するのと、同じ考え方だ。外部がおおよそキレイになってから、各部の分解に取り掛かろう。
フロートチャンバー内の様子は重要
フロートチャンバーを取り外したら、チャンバー内に溜まったガソリンを流し出そう。その際に要注意なのがフロートチャンバーの底に、粉になったサビやゴミが沈殿していないか確認することだ。この確認作業は極めて重要だ。せっかくキャブレターを分解したのだから、様々なコンディションを確認把握しておこう。サビ粉が出てきたときには、ガソリンタンク内のサビ発生を疑い、早めにサビ処理することをお勧めしたい。
インナーパーツは小袋に
フロートチャンバー内から、メインジェット、スロー(パイロット)ジェット、フロートバルブとバルブシートを取り外す。さらにスローエアースクリューやパイロットスクリューを取り外したら、それらの金属パーツをチャック付き小袋へ入れ、その中にキャブクリーナーケミカルの「泡タイプ」を吹き付けよう。10分程度経過したら、指先でビニール袋をもんで、ケミカル液を指の熱で温めることで、各パーツのクリーニングスピードが早まる。また、エアースクリューもしくはパイロットスクリューを取り外した際に、スクリュー先端の奥に小型Oリングや平ワッシャーが挟まったままになっていることがあるので、極細のピックツールであらかじめ取り出そう。不用意にエアーブローなどすると、フッ飛ばして無くしてしまうので、後々面倒だ。
ボディ洗浄後はエアーブロー
ボディ洗浄を終えたら各通路をエアーブローしよう。この際にあると便利なのが小型コンプレッサーやエアーガン、また、エアーガンの先端を交換することで取り付けられる極細ノズルだ。ノズルが細いとキャブボディの各通路を間違いなくエアーブローすることができる。
復元時には静的油面調整を行う
ここで分解洗浄しているケーヒン製PC20キャブレターは、油面の高さデータが21mm±0.5mm程度。フロート支点ピンを上にキャブを真横にした際に、フロートバルブを押す舌がフロートバルブ先端に触れて停止する。その際に、フロートバルブ内に組み込まれたスプリングの張力でフロートは反発力を受けている。このフロートバルブのスプリングが伸びていて、舌がバルブを押す部分に触れているときの油面の高さを測定するのだ。測定箇所は円筒型のフロートの外周。一般的にメインジェットと同一線上が測定ポイントになる。左右のフロートが歪んでいるときには同一に補正し、油面高さを調整する際には、舌の付け根をプライヤーや細いマイナスドライバーで僅かに曲げて調整しよう。油面の高さを調整し終えたらフロートチャンバーを復元し、チョークアームの作動に合わせてチョークが上下作動することも確認しよう。
- ポイント1・ キャブレターを分解洗浄する際に、キャブ外観が汚れているときには外観洗浄から始めよう
- ポイント2・ エアースクリューやパイロットスクリューを取り外した際には、ネジ部分の奥にOリングやワッシャーが無いか確認しよう
- ポイント3・ 油面の高さ調整はフロートバルブのパネが反発している位置(伸びきっている位置)で測定しよう
明らかに性能低下していたり不具合があるキャブレターを分解洗浄したりオーバーホールする際には、あらかじめ交換部品を準備しておく必要があるが、特に性能的には問題無くても、明らかに汚れていたり、このまま使い続けると何かが起こりそう!?そんな思いがあるときには、外部からでもキャブ本体を洗浄しておこう。一度でもクリーニングしておけば、次に汚れが再発した際には、その原因を特定しやすいからだ。完全コンプリートのまま、外側からパーツクリーナーを吹き付け、ガソリン汚れを洗い流すだけでも良い。さらに一歩踏み込むとしたら、スロットルケーブルを接続したままキャブ本体を取り外し、スロットル操作に追従してスロットルバルブが作動しているかも確認するのが良い。例えば、スロットルを戻したときに、ワンテンポ遅れてバルブが下がるような際には、スロットルケーブル(スロットルワイヤー)の作動不良やスロットルバルブの作動性が悪いと考えられる。
目視確認で動きが良くないと感じた時には、トップキャップを外してスロットルバルブとケーブルを分離し、まずはキャブ本体に対してスロットルバルブがスムーズに動くか確認してみよう。スムーズに動かずネバリ感があるときにはパーツクリーナーでスロットルバルブとボディ側の摺動部をパーツクリーナーで洗い流してみよう。仮に、洗浄によって動きが良くなったときには、スロットルバルブとケーブルを組み合わせて、組み立て復元してみよう。再確認してスムーズに作動していれば良いが、また動きが渋いときには、トップキャップの締め付け過ぎに要注意だ。強く締め付け過ぎることで(ねじ込みキャップ式の場合)、ボディが歪んでしまい、スロットルバルブの作動性が悪くなってしまうことがある。トップキャップは、指先のチカラだけでクイッと締め付けるのが正解であって、プライヤーなどでしっかりグイッと締め付けるものではない。時折、グイッと締め付ける場面を見ることがあるので、締め付けトルクオーバーには要注意だ。
強く締め付け過ぎたことでボディが変形してしまうと、ボディとスロットルバルブを洗浄しても動きが渋く回復しないことがある。そんな時に、ボディ側内径やスロットルバルブをサンドペーパーで擦り合わせ、作動性を良くするのは大間違い!!そんな状況に気がついた時には、ボディの歪みを疑おう。ボディにピストンを挿入したら、様々な角度からシャコ万でスロットルバルブ周辺を「軽く優しくつまみ」、スロットルバルブの作動性を確認しながらボディの歪みを補正し直すのが最善の修理方法なのだ。これはプロの修理テクニックでもある。
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