定規やノギスで測定できないような狭い隙間を、薄い金属片で1/100mm単位で計測するのがシックネスゲージです。隙間ゲージと呼ばれることもあるこの測定工具は、4ストロークエンジンのメンテナンスで重要なバルブクリアランスの点検や調節に不可欠で、工具箱に必ず1セットは持っておきたいアイテムです。

シックネスゲージのリーフの厚みは測定内容に応じて揃えておく


作業内容や測定場所に応じてさまざまな長さのリーフがあり、先端から根元まで同じ幅のリーフがA形、先端が細くなっているものがB形と呼ばれる。

エンジン、車体のどちらにも、回転や摺動部分には組み立て時に適正な隙間=クリアランスを確保することが重要です。隙間の測定は定規やノギスでも可能ですが、1/100mmレベルの測定が必要な場合はシックネスゲージが必要です。

シックネスゲージはあらかじめ厚さが決まっているリーフと呼ばれる金属製の薄い短冊状で、測定部分にどの厚さのリーフが通るかによって隙間を判断します。測定する隙間が一種類だけであればリーフは1枚で済みますが、実際の測定ではさまざまな隙間が存在するので、厚さが異なるリーフを何枚も束にしたセット品として揃えておくのが一般的です。

組み合わせゲージを購入する際には、作業内容に応じたリーフの厚みを選択することが重要です。JIS(日本工業規格)の規格ではシックネスゲージのリーフの厚みは0.01mmごと、0.05mmごと、0.10mmごとの3種類が認められています。測定しようとする隙間が0.10mm単位であれば0.10mm飛ばしのリーフを揃えれば良いですが、これでは0.05mmの隙間は測定できません。一方、リーフが0.01mmずつ揃うセットは精密な測定が可能ですが、広い隙間に対応できない場合もあるので注意が必要です。主にエンジンのメンテナンスで使うのであれば、0.03~0.30mmぐらいの範囲をカバーしている0.01mm刻みのセット品があると良いようです。

隙間の広さによって1枚のリーフでは測定できない場合、リーフを重ねることもあります。例えば0.03~0.10mmまでが0.01mm単位で、0.10mmの上が0.15mmの組み合わせゲージで0.13mmの隙間を測定する際は、0.05mmと0.08mmのリーフを重ねて作業します。ただし2枚のリーフの隙間に異物や油分があると、重ねた際の厚みが増して信頼性が低下するので、合わせ面の汚れを拭き取ってから重ねることが重要です。またリーフを重ねる枚数が増えるほど測定結果の正確性が低下するので、セット品を入手する際は1枚で測定できるようなリーフの組み合わせになっているものを選ぶと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・シックネスゲージはノギスや定規が使えない狭い隙間を測定するためのアイテム
  • ポイント2・リーフと呼ばれる金属片の厚さはゲージセットによって異なるので、測定内容に応じて選び分ける

4ストエンジンのバルブクリアランス調整の必需品


ホンダ横型エンジンの場合、バルブクリアランス測定はタペットキャップを外してスクリュー先端とバルブステム端部の隙間にシックネスゲージを差し込む。0.05±0.02mmが規定値なので、0.05mmのゲージが入れば調整不要。0.05mmが入らなくても0.03mmが入れば限度内だが、中央値の0.05mmに再調整しておく。


調整する際はロックナットとアジャストスクリューを緩め、リーフを挿入してスクリューを締めて挟んだ状態を作る。スクリューの微妙な回し具合でリーフがスカスカに抜けたりガッチリロックして動かなくなるので、アジャストスクリューとバルブステムに挟まれたリーフを引く際にやや抵抗感を感じる程度の締め具合にする。アジャストスクリューが動かないよう保持しながらロックナットを強く締め込むが、この時スクリューも同時に締めてしまうことが多いので、ロックナットを締めた後でリーフの抵抗感を確認する。


バルブステムに被さるタペットとカムシャフトの間に入るタペットシムの厚さによってバルブクリアランスが決まるタペット調整タイプのエンジン。バルブクリアランスを測定する際はバルブが完全に閉じた状態、すなわち圧縮上死点で行う。このシックネスゲージのリーフは0.01mm単位だが、0.05mm単位のリーフの場合、0.05mmが入って0.15mmが入らなければ標準値0.05~0.10mmの範囲に収まっていると判断できる。シムの厚さが0.05mm単位なので、0.01mm単位のリーフで実測値が0.06mmであることが分かっても、1ランク薄いシムで0.11mmとする理由はないからだ。


バルブシートカットやバルブフェース修正などの内燃機加工によって、バルブとバルブシートの位置関係が変化することで、バルブクリアランスが大きく変化する場合がある。そんな時は現状のシムに対して0.05mm単位で厚みの異なるシムを入れて測定する。バルブクリアランスが広がる方向にずれた場合はシックネスゲージで隙間を測定できるので交換用シムを選定できるが、カムとシムが密着したクリアランスゼロ状態の場合、何ランク薄いシムで適正なクリアランスになるかは、実際にシム交換してみないと分からない。

4ストロークエンジンにとって、吸排気バルブとカムシャフトのクリアランスはエンジンパフォーマンスを正しく発揮させるための重要な要素です。バルブクリアランスはエンジン冷間時に測定しますが、規定値より狭い場合はエンジンに熱が加わった際に各部の膨張によって隙間が狭まり、バルブが閉じなくなることが考えられます。逆に隙間が広ければカムがバルブを開く際のノイズが大きくなり、バルブが全開になった時のリフト量が不足するため混合気や排気の流量が制限されてパワー不足などにつながる可能性があります。そうした不具合を防ぐために、バルブクリアランスの測定と調整を行うのです。

現状の隙間を測定するには、カムとタペット(またはロッカーアーム)の隙間にシックネスゲージを挿入した際に緩すぎずきつすぎないリーフを選択します。これがノギスやマイクロゲージなどによる測定とシックネスゲージとの大きな違いです。0.01mm単位のリーフを使用している場合、0.07mmは完全に入らないが0.06mmはギュッと押し込めば入り、0.05mmは滑らかに入るといったように、1ランクの違いはどうにでもなることもあります。この時、隙間が0.05mmなのか0.06mmかを判断するのに迷ってしまいがちですが、実際のバルブクリアランスにはだいたい5/100mm程度の幅があるので、下限と上限の間に収まっていれば1/100mmまで神経質になることはありません。

測定の結果調整が必要な場合、バルブクリアランスをアジャストスクリューで調整するのか、タペットシムを使っているのかで作業手順が異なります。ホンダ横型エンジンに代表されるアジャストスクリュータイプの場合、測定部分にシックネスゲージを差し込んだ状態でスクリューを回し、挟まれたゲージに感じる抵抗感でクリアランスを決定します。横型エンジンの一例として、ジョルカブの場合は吸排気バルブとも0.05±0.02mmが規定値なので、0.05mmのリーフを抜く際にやや抵抗感を感じる程度までアジャストスクリューを調整して、ロックナットを締め込みます。

同じアジャストスクリュータイプでも、ヤマハトリッカーの標準値は吸気バルブが0.05~0.10mm、排気バルブは0.10~0.15mmとなっているので、調整作業を行う際はサービスマニュアルなどで愛車のクリアランスデータを把握しておきましょう。

一方、コイン状のタペットシムでクリアランスを決めるエンジンの場合、調整手順が若干異なります。タペットシムは多くの場合、厚みの設定が0.05mm単位となるため目標とするクリアランスにピッタリ合わせられないことがあります。

カワサキZ1の場合、吸排気バルブとも標準タペットクリアランスは0.05~0.10mmです。走行距離が増えるにつれてバルブとバルブシートの当たり面が摩耗するため、タペットクリアランスは減少していきます。シックネスゲージによる測定値が下限である0.05mmより狭い場合はタペットを交換しますが、この時に選択できるシムは0.05mm単位です。例えば測定値が0.03mmだった場合、現状より1ランク薄いシムを選択すると計算では0.08mmのクリアランスになります。

4気筒エンジンなら可能であればクリアランスを揃えたいのが心情ですが、可能性としては最大0.05mm単位のバラツキが生じることもあるわけです。メーカーとして0.05mmの幅を持たせているため、この差はエンジン性能に影響を与えることはありませんが、ドンピシャを狙いたい場合でも難しいことがあることを知っておきましょう。

POINT

  • ポイント1・エンジン性能を左右するバルブクリアランスを測定するため、シックネスゲージは不可欠
  • ポイント2・バルブクリアランス調整をアジャストスクリューで行うのか、タペットシムで行うのかによって作業手順が異なる

ピストンリングやコンタクトポイントの合い口隙間の測定でも活躍する


フライホイール奥のコンタクトポイントがどれだけ開くかによって点火時期が変化することもある。特にコンタクトブレーカーで点火時期が調整できないことが多い原付クラスのバイクでは、ポイントギャップが重要な役割を持つ。


ポイントカムがポイントを最大限に開いた時の隙間=ポイントギャップは、機種を問わず0.3~0.35mmに設定されていることが多い。フライホイールのF(点火マーク)でポイントが開き始めるタイミングを調整しながら、最大限に開いた際のギャップが0.35mm前後になっているかどうかを確認する。

バルブクリアランスは4ストエンジンだけの測定調整項目ですが、ピストンリングの測定は2スト・4ストを問わず必要です。爆発的燃焼による圧力を受け止めながらシリンダー内を往復するピストンリングの外周は徐々に摩耗し、合い口の隙間が広がります。この隙間が広がると圧縮圧力がピストンとシリンダーの隙間からクランクケース内に抜けてしまい、パワーダウンやブローバイガス増加の原因になります。

そのためサービスマニュアルには、ピストンリングの合い口隙間の標準値や使用限度が記載されています。ホンダジョルカブのリングの使用限度はトップとセカンドが0.5mm、オイルリングのサイドレールは1.1mmです。ヤマハトリッカーの場合はトップリングの標準隙間が0.19~0.31mmで使用限度は0.60mm、セカンドリングの標準値は0.30~0.45mmで使用限度は0.60mm。オイルリングの標準値は0.10~0.35mmとなっています。どちらの場合もシリンダーにピストンリングを単体で挿入して、合い口の隙間をシックネスゲージで測定してまだ利用可能なのか交換時期なのかを判断します。

1970年代以前に製造された絶版車では当たり前のポイント点火の調整でもシックネスゲージが活躍します。クランクシャフトやカムシャフトの回転と連動して開閉するコンタクトポイントは、開いた瞬間にイグニッションコイルに一次電流が流れてスパークプラグから火花が発生します。ポイントが最大に開いた際の隙間をポイントギャップと呼び、この隙間をシックネスゲージで測定しながら調整します。

シックネスゲージを使った測定は、1/100mmレベルの薄い金属片を用いた作業者の手の感覚に頼る部分も大きい作業です。しかしエンジンにとって最重要部分のメンテナンスや調整にとってシックネスゲージは不可欠なので、機会があるごとに積極的に活用して使いこなせるようになりたいものです。

POINT

  • ポイント1・ピストンリングの合い口隙間を測定することでエンジンコンディションを把握できる
  • ポイント2・ポイント点火のエンジンはポイントギャップを正しく調整することで本来の性能を発揮する

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