
紫外線や経年劣化で透明度が低下しくすんだスクリーンは、バイク全体のイメージを低下させてしまいます。新品部品が入手できない場合、なんとなくそのまま使い続けてしまいがちですが、ダメモト覚悟で磨いてみると想像以上の効果が得られることもあります。純正スクリーンの素材に使用されるポリカーボネート(PC)は、極細目の研磨フィルムと超微粒子コンパウンドで優しく磨くことが重要です。
スクリーンのカサカサが表面だけにとどまっていれば復活の望みあり
スモーク色なのが幸いしてくすみ感はやや目立たないが、手で撫でるとカサカサなGSX250Sカタナ用スクリーン。大きな傷や破損がない分、このまま捨てるには惜しい状態。絶版車にはこのようなコンディションのスクリーンが多いはず。
自動車のヘッドライトやバイクのスクリーンなどの透明樹脂が劣化すると、車体部品がワックスやコーティングで輝いていても、全体的なイメージが一気にくたびれて見えてしまいます。スクリーン用の素材として使われることが多いポリカーボネート(PC)は透明性、耐熱性、耐衝撃性が高く、転倒時などの衝撃で大きく変形してもバリバリに割れるようなことが少ないのもバイクに適した特長です。
ただし柔軟性がある分表面の硬度はそれほど高くなく、乾いたウエスで擦る程度でも細かな磨き傷が入ることがあり、露天保管や屋外での長期放置による紫外線でも表面に膜が張ったような劣化が生じることがあります。
このような時に透明度を回復するため、さまざまなケミカルを使いたくなるものですが、有機溶剤を含むケミカルはPCをさらに変質させてしまうので注意しなくてはなりません。自動車のフロントガラスに塗布する撥水剤をバイクのスクリーンに流用する際は、撥水剤の成分を確認することが必要です。本物のガラスは溶剤への耐性がありますが、樹脂であるPCは溶剤で劣化が進行してしまうのです。
経年変化などで表面が曇りカサカサになってしまったスクリーンを何とかしたい。そんな時にトライする価値があるのが表面研磨です。塗装部品表面の小キズや劣化を解消する際にポリッシャーとコンパウンドで研磨しますが、同じことをスクリーンでも行うのです。ただし、スクリーンは塗装面と違い向こう側が透けて見えるので、作業には細心の注意が必要です。最初は粗いペーパーで擦っておいて、徐々に番手を細かくしていけば大丈夫だろう……と作業を始めると、いつまでも深い傷が消えずに後悔する可能性が高くなります。
- ポイント1・スクリーンやヘッドライトなど、透明な樹脂部品の経年劣化は車体全体のイメージに大きく影響する
- ポイント2・スクリーン用素材として一般的なポリカーボネートは透明性や強度は高いが傷が付きやすい
サンドペーパーで深く傷つけたら終了。削れる感覚がないほどの精密仕上げフィルムを使用する
鈑金修理の現場ではポピュラーがバフレックス研磨材。研磨材を塗布した薄いポリエステルフィルムは素材表面の凸凹に追従して均一な研磨が可能。研磨材は粘着剤付きなので専用のパッドに貼って使用する。
バフレックスは#2000相当の研削力なので素材を深く削るほどの能力はなく、傷つきやすいポリカーボネートに対しても安心して使える。削るというより、スクリーン表面に均等の擦り傷を付けていくようなイメージで作業する。
先述したように、耐衝撃性は高いものの硬度はさほど高くないPCは傷つきやすく、サンドペーパーで手荒に擦ると深い傷が入ってしまいます。ここで紹介するスズキGSX250Sカタナ用のスモークスクリーンの場合、最初の研磨を#2000のフィルム状の研磨材で行っています。
目の粗さが#2000というと通常の塗膜研磨であれば仕上げも仕上げレベルで、擦ってみても表面が削れている感触はとても希薄で、削るというよりスクリーンを撫でているうちに表面が磨りガラス状に曇っていくような感じです。しかしこのソフトな研磨がPCの透明度回復にとって有効なのです。
実際のところ、スクリーンの状態によっては#2000では表面のガサツキが取れないこともあります。そんな時は#1500、#1200と目を粗くして削れ具合を確認するのも有効ですが、粗い研磨材を使うとその目を消す手間が増えることを覚悟しなくてはなりません。研磨材で下地を作った後は液体コンパウンドで磨きますが、研磨材の目が細かく傷が浅いほどコンパウンド磨きを短時間で終えられます。PCはエポキシと並び耐熱温度が高い素材ですが、ポリッシャーを使うことで熱が加わるため、無用に長く磨き続けない方が無難です。
フィルム状の研磨材は精密研磨フィルム、ラッピングフィルムなどの名称で販売されており、それらの多くが薄いポリエステルフィルムの上に目の細かい研磨材を塗布したもので、薄く柔軟性が高いのが特長です。そのため平面を研削する際はバックアップ用のスポンジパッドに貼り付けて使用します。紙やすりにも#1000、#2000といった目の細かいものはありますが、フィルム状の研磨材に比べて裏側が硬いので、スクリーンに対する当たり方の強弱のムラが出やすいのが弱点です。素材自体が柔らかいPC製スクリーンの場合は、スポンジに貼り付けた研磨フィルムを使った方が、ムラなく均一に磨きやすいためお勧めです。
- ポイント1・表面がカサカサに劣化したスクリーンは、#2000クラスのフィルム状研磨材で表面をならす
- ポイント2・フィルム状研磨材は紙やすりより柔軟性が高くスクリーンの研削に適している
全面磨りガラス状になったらコンパウンドで磨き上げる
極細目の液体コンパウンドを目立たない場所に塗布して試し磨きを行い、クリアに仕上がるようなら広範囲を磨く。ペーパー目が消えないようなら、研磨力を上げるためコンパウンドをもう一段階粗めにして様子を見る。
今回は#2000のバフレックスと極細目コンパウンドの組み合わせで透明度が回復したので、ポリッシャーで全面を磨く。一カ所に集中すると素材に熱が入ってしまうので、ポリッシャーは常に動かしながら作業すると良い。
カサカサの上にコーティングするのではなく、下地から磨き直すことで素材本来の透明感を取り戻すことができた。素材の内面に細かい線状の傷が入るマイクロクラックなど、元の段階でさらに劣化が進行しているスクリーンはこれほどの仕上がりにならない場合もある。それでも、研磨材とコンパウンドによってザラザラの表面をツルツルに磨くことはできる。
フィルム状の研磨材でスクリーン全面を研磨すると均一なすりガラス状に仕上がりますが、透明にするにはコンパウンドを使った研磨が必要です。#2000で研削した表面を研磨するには、それに適した極細目、超微粒子といった粒度の細かい製品を選択します。粗めのコンパウンドを使ってしまったら、せっかく細かい目で下地を作ったのに新たな深い傷を付けることになりかねません。
コンパウンドの表記にはメーカーや製品によって極細目、超微粒子、鏡面仕上げなどさまざまな表現方法がありますが、選び方のポイントとしては「何番のペーパー目を消せるか」という表記を参考にすると良いでしょう。例えばあるメーカーの極細目コンパウンドには「#1500~#2000のサンドペーパーのスクラッチ傷を取り除く」との但し書きがあります。この製品であれば#2000のフィルム状研磨材の傷を消すのに適していると考えられます。一方他メーカーには超ミクロンコンパウンドという製品がありますが、これは塗装面の洗車傷やコーティング剤の下地処理が主目的なので、研磨材で擦った痕の研磨には不適当かも知れません。
研磨材とコンパウンドの組み合わせは無限にありますが、使用した研磨材の番手は分かるので、その傷を消せるコンパウンドを選択するようにしましょう。
液体コンパウンドを使用する際は、基本的にポリッシャーを使います。手磨きでも不可能ではありませんが、作業時間の短縮と均一な仕上がりを求めるのなら機械を使うのが賢い選択です。研磨専用のポリッシャーがあればベストですが、充電式の電動ドリルドライバーに研磨用アタッチメントと研磨スポンジを取り付けても磨き作業は可能です。電動ドリルドライバーは磨き以外にもメンテナンス作業や日曜大工のDIYでも使える工具として、所有しているライダーも多いのではないでしょうか。
ここでは電動ポリッシャーにφ180mmの研磨パッドを取り付けて、極細目コンパウンドで磨きましたが、スクリーンにポリッシャーを押しつけすぎて熱を加えないように注意しながら作業します。一気に広範囲を磨くのではなく、カウルに取り付ける下部など目立ちづらい部分を先行して、傷が消えて透明度が回復するにはどの程度磨けば良いのかを試してから全面を磨くようにすれば失敗を減らせます。
スクリーンの劣化具合は千差万別で、絶対に成功する唯一の方法が存在するわけではありません。だからこそ鈑金塗装のプロ向けの研磨材やコンパウンドにも無数とも思われるバリエーションが存在するわけです。ここで紹介したスクリーンに対しては、#2000のフィルム状研磨材と極細目コンパウンドの組み合わせが効果があったと参考にしていただければ幸いです。
- ポイント1・研磨材の磨き傷を消すには、使用した研磨材の傷を消せる適切な粒度のコンパウンドを選択する
- ポイント2・スクリーンをムラなく均一に磨くためには、手磨きよりポリッシャーを使いたい
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