上下に分かれる4気筒エンジンのクランクケースとは異なり、左右に分かれるクランクケースが単気筒エンジンの特徴である(一部のモデルには上下割りクランクケースの単気筒エンジンもあった)。クランクケース内には、クランクシャフト、ミッションシャフト2本、シフトドラム、キックシャフトなどで構成されているが、なかにはバランサーシャフトを組み込むエンジンもあった。そんな単気筒レイアウトのなかでも、2ストエンジンの場合は、4ストエンジンと比べてさらに構造がシンプル。ここでは、そんな2スト旧車エンジンの腰下組み立てに的を絞り、その様子をご覧いただこう。

オーバーホールなら軸受けベアリングは交換

クランクケースにベアリングを圧入する際には、冷間時に組み込むのではなく、脱脂洗浄後のクランクケースを温める(高温乾燥機を利用すると便利)ことで、ベアリングは圧入感ではなく、スーッとベアリングホルダーへ吸い込まれる感じで組み立てることができる。ケース温度が下がったらベアリングドライバーを利用し、外輪を叩くもしくは押し込むことでベアリングがホルダー部の底にはしっかりまっていることを確認しよう。純正部品として取り扱いが無いベアリングは、ベアリング側面に記してある規格番号を参考に購入することもできるが、モデルによっては、標準ベアリングに追加工を施し、専用ベアリング化している例もあるので、そんな例があることも知っておこう。

ベアリングキャップガスケットは手作り



左右クランクケースを締め付け一体化した後にケースボーリングを行い、クランクシャフトやミッションシャフトのベアリングホルダーが加工されている。このエンジンはクランクシャフトホルダーにカバーを締め付け固定する構造だが、専用ガスケットが手持ち部品に無かったので、コピー紙と鉛筆で石擦りを取り、それを参考にガスケット紙から切り出し自作することにした。

カワサキの特徴的特殊工具





クランクシャフトを組み込む際は、クランクベアリング内輪に対してクランクシャフトは低圧入状況になる。この時代のカワサキ(60年代初頭以降)は、精度が出ているクランクシャフトを痛めないように、コンロッドを跨ぎつつクランクシャフトにクサビのようなスペーサーを押し入れ、歪みが発生しにくい状況下でクランクシャフトを打ち込むための特殊工具があった。コンロッドを跨いで専用工具をクランクウェブの隙間にセットしたら、ベアリングにクランクシャフトを差し込み、反対側からパイプ状の特殊工具をセットしてクランクを低圧入する。この際は、ガツンガツン叩き込むのではなく、ハンマーの重さだけで軽く叩くことで、クランクシャフトを組み込んだ。

ミッションユニット組み込み後は作動確認



このエンジンは右側クランクケースにクランクシャフト、ミッションユニット、キックシャフトを組み込む仕様。クランクシャフトをセットし終えたら、シフトドラム&シフトフォークをセットしたミッションユニットを同時にセットする。ベアリングやドラムホルダーが落ち着いたら、キックシャフトをセットしてシフトドラムを指先で回してみよう。この段階でも、各ギヤがスムーズにシフトできることを確認しよう。また、キックギヤがしっかり噛み合うかも、この段階で確認しておこう。

オイルスプレー塗布とクランクセンター確認



ミッションの入りやキックギヤの噛み合いを確認できたら、クランクベアリングやコンロッドのビッグエンド、ミッション各部やベアリングにオイルスプレーをしっかり塗布。昔ならオイラーを使ってオイルを注いでいたところだが、今は高性能オイルスプレーがあるので使い勝手が良い。オイル塗布を終えたら、クランクケースの合わせ目を脱脂して、溶剤系液状ガスケット(耐ガソリン性液状ガスケット)を塗布し、左右のクランクケースを合体する。この際に、クランクケースのセンダー合わせとコンロッドのセンターがほぼ一致していることを確認しつつクランクケースを締め付けよう。

ベアリングキャップの締め付けは対角かつ平均的に



左右クランクケースを規定のトルクで締め付けたら、クランクシャフトやミッションがスムーズに作動するか再確認しよう。クランクシャフト回転が今ひとつ重かったり、渋く感じるときには、左右のクランクシャフトのエンド部分をプラスチックハンマーで叩き、ベアリングの座りを再確認してみよう。この作業でクランク回転がスムーズなることが多いのだ。回転抵抗が変わらない時には、クランクシャフトの単品精度を再確認しなくてはいけない。ミッションシャフトも同様で、ケースをしっかり締め付けた状態でスムーズなシフト操作を確認しよう。渋いときにはミッションシャフトエンドを平ポンチなどで軽く叩き、ベアリングやシフトフォークを落ち着かせてみよう。各シャフトがスムーズに動くことを確認したら、ガスケットを挟んでクランクエンドキャップを対角に締め付け(平均的に締め付けつつトルク管理)、再度クランクシャフトの回転を確認してから次の作業へ進もう。

POINT

  • ポイント1・クランクシャフトを組み込む際には、クランク単体の組み立て精度が狂わないように要注意
  • ポイント2・ガスケットが無いときにはDIY自作で対応しよう
  • ポイント3・組み立て時には先を急がず、ひとつひとつの作動性を確認しながら作業進行しよう

2スト旧車の単気筒エンジンに限らず、クランクケースが「左右2分割」構成のエンジンは多い。現行最新モデルでも、ほぼ同じ部品構成となっている例は多い。2気筒エンジン以上のマルチシリンダーエンジンの場合は、部品の生産性や組み立て性を考慮し、一体構造のクランクシャフトを上下クランクケースに挟んで組み立てる仕様が多いが、単気筒エンジンの場合は、相変わらず組み立て式クランクシャフトを採用。左右クランクケースに挟み込むようにクランクシャフトやミッションパーツを組み込む例が多い。

そのようなエンジンをオーバーホールする際は、左右クランクケースに打ち込んであるベアリングを抜き取り、新品ベアリングへと交換する作業を行う。そんなときに利用すると良いのが「熱」である。以前なら(現在でも通用します)、洗浄し終えたクランクケースをストーブの上に置き、クランクケースが全体的に温まったところで、オイルを薄く塗布した新品ベアリングをベアリングホルダー部へセット。クランクケースが冷えていると、ベアリングは圧入しないと入らないものだが、ある程度以上の温度に温まると、クランクケースが膨張して、ベアリングが実にスムーズに「スポッ!!と入る」ようになる。この「クランクケース温め作戦」を体験し、目の当たりにすると、改めて熱膨張の凄さを思い知ることができる。

熱膨張を利用してクランクケースにベアリングを挿入したら、指先だけでベアリングが抜けなくなるまで=クランクケースがある程度冷えるまで、待とう。ベアリングが安定したら、クランクケースを台の上に置き、ベアリングドライバーを使ってベアリング外輪を平均的に叩こう。ベアリングホルダーにベアリングを挿入したつもりでも、実は熱収縮で(冷える段階で)ベアリングが締められ、ホルダーから僅かに浮き上がってしまうことが多いのだ。

クランクシャフトをベアリングにセットする際には、クランクシャフトを叩いてベアリング内輪へ挿入するのは厳禁。せっかく芯出し振れ取りを行ったクランクシャフトが歪んでしまう可能性があるからだ。現在はクランクシャフトエンドを引っ張り込む専用工具があるが、この時代のカワサキは、クランク幅を維持しながらベアリングへセットする(軽く叩き込む)特殊工具があり、このエンジンの組み立て時には、そんな当時のメーカー純正特殊工具を使用し組み立てた。現在なら、右側クランクシャフトのネジ切りエンドを利用し、クランクシャフトクランクケース外側から引き込むアッセンブリーツールなどを利用すれば、クランク単体精度を保ったまま、クランクケースに組み立てることができる。

左右クランクケースを組み合わせる際には、クランクシャフトやミッションシャフトがスムーズに回転するか?特に、ミッションはスムーズにシフト操作できるか?指先で回しながら確認しよう。その後の組み立て進行を急がず、必ず、クランクケースを組み合わせた段階でシフト具合は確認しておこう。この作業を忘れて組み立て進行し、後々、再度全バラに……なんて経験をしたことがあるサンデーメカニックも数多いはず。左右クランクケースを締め付けトルク通りに組み立てたら、クランクエンドを指先で回してスムーズに回転するか?ミッションがニュートラルから、カチッカチッ!!と各ギヤへシフトできるか、ミッションシャフトを回しながらシフトドラムを回してみよう。ベアリングの座りが悪いと動きが渋くなるので、そんなときには各シャフトエンドをプラスチックハンマーでコツッ!!と叩くことで、渋い動きを解消できることが多い。

2ストロークエンジンの場合は、一次圧縮室に混合気(ガソリンとエンジンオイルと空気を混合したもの)を吸い込むため、クランクケースの合わせ座面には「耐ガソリン性液状ガスケット」を利用するのが原則。クランクケースの合わせ面に液状ガスケットを塗布する際には、2ストエンジンなら「耐ガソリン性」を利用し、4ストエンジンなら通常の「シリコン系液状ガスケット」が良いだろう。

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