
バイク仲間から、ピストンリング交換をしたい、といったお話を聞きつけたので、エンジン腰上の分解と同時に、周辺部品の点検を行ってみた。ここでは、ピストンリングの交換時に必ず行いたい「カーボン除去方法」にクローズアップ。ピストントップのカーボン汚れは、磨き落とすもの、ではなく「ケミカルで汚れを溶かして美しく仕上げる」のが正解だ。
目次
小型エンジンは降ろす⇒作業性が良い!?
ベテランメカニックやプロメカニックは、修理したい部位への「アクセスが良いエンジン」を好む。それは当然の傾向だろう。交換したい部品へのアクセスが早ければ、作業時間を短縮できるからだ。そんな意味では、エンジンを降ろさなくては、シリンダーから上、通称「エンジン腰上」を分解することができないのがホンダ4ミニ「縦型エンジン」は、車載状態でエンジン腰上を分解できる横型と比べて「整備性」は今ひとつ。スーパーカブやモンキーの横型エンジンの方が「整備性が良い」と言われるのは、まさにこんな部分にあるとも言える。しかし、仮に横型エンジンでも、腰上分解時にはエンジンを降ろしてしまった方が、圧倒的に作業性は良い。逆に、エンジンを降ろすことで、普段はなかなかできない部分の点検清掃などなど、そんな機会に同時に行うのも良い。サンデーメカニックなら、尚更そう考えるべきだろう。
腰上分解は比較的容易だが……
シリンダーヘッド周りの部品を分解した後に、シリンダーの抜き取り作業に入るが、取り外した部品は部位ごとに整理整頓しよう。例えば、カムシャフト周りなど、パートごとに分別してトレイに分けよう。部品の納品待ち時などは、ビニール袋に分解部品を保管するなど、組み立て時に部品所在を探さなくて済むようにしよう。ホンダ縦型エンジンの場合は、カムチェーンテンショナーなど、シリンダーに組み込まれた部品は敢えて分解する必要はない。しかし、カムチェーンテンショナースリッパーが劣化硬化しカムチェーンの痕が摩耗している場合は、分解して新品部品に交換しよう。
ピンクリップのフッ飛ばし紛失に要注意
ピストン分解時には、ピストンピンクリップの片側を取り外す。そして、ピストンピンを反対側から押し出す。ピストンピンを引き抜くことで、をコンロッドからピストンを取り外すことができる。ピストンピンのコンロッド摺動部が焼けて色変わりしていないか?要チェックだ。
シリンダー内壁も目視確認
シリンダーを抜き取ったら、外光や蛍光灯にシリンダー内壁をかざして、部分的な摩耗やキズの有無をしっかり確認しよう。
広げたウエスの上でピストン分解
セッティングが決まるまでの紆余曲折を反映したかのように、ピストントップはカーボンで真っ黒になっていた。セッティングが決まったコンディションで走り続ければ、このような真っ黒ではなく、せいぜいこげ茶色。排気バルブ側は、廃棄熱でうっすら白くなる感じだろう。
カーボン除去ケミカルが効果的
デイトナ製のガスケットリムーバーをピストントップへしっかり吹き付け、巻き付け梱包用のラップでピストンをグルグル巻きにした。暖かい夏場は反応が早く作業性は良好だが、寒い冬場はケミカルの反応がどうしても今ひとつ。そんなときにラップを巻き付けたり、ビニール袋の中にピストンを入れて、反応促進するのが良い。ケミカルを吹き付けてラップで巻き、柔らかいブラシで擦って……、これを2~3回繰り返したら、ピストントップのカーボン汚れは完全に除去することができた。
ピストンリングの合口隙間を確認
取り外したピストンリング=トップ・セカンド・オイル×2本をシリンダースリーブ内へセットし、ピストンを使って水平に押し込む。シリンダー内でピストンリングの合口隙間を測定してみた。ボアサイズΦ57mmなら、リングの合口隙間は0.20~0.35程度で、0.50mm以上は要交換だろう。このピストンリングは、いずれも実測0.3mmだったので規定範囲内である。それでも新品ピストンリングで測定すると0.05mmほど合口隙間が狭かったので、今回は、新品ピストンリングに交換した。街乗り仕様なら再利用で何ら差し支えない状況だ。取り外した中古リングはスペアパーツとして保管した。
ピストンクリアランスもざっくり確認
ピストンクリアランスを測定する際には、ピストンの実測ボアに対して+値になっていることをシリンダーボアゲージで厳密に測定する(1/100mm単位で明確になる)。新品ピストンでオーバーサイズにボーリングする際は、実測ボアに対して、シリンダー内径仕上がり値を指定して内燃機ショップ(ボーリング屋さん)へ作業依頼する。例えば、Φ57mm鋳造ピストンでクリアランスを3/100mmにしたいなら、そのように指示しよう。ここでは、ピストンをシリンダー内に挿入し、スカートとシリンダーの隙間にシックネスゲージを差し込んでみた。すると0.03mmのゲージは差し込めても、0.04mmのゲージは差し込めなかった。つまり、ざっくり確認では、ピストンクリアランスは0.03~0.04mmの間と言うことができる。
通称エキスパンダーリングの向きは
昔のピストンリングはオイルリングが厚く「一体型の鋳鉄製」だったが、70年代中頃には3ピース構造へ進化し、上下2本のハガネレール+通称エキスパンダーと呼ばれるリングバネが保持する作りとなっている。このエキスパンダーリングの上下は、合口接点が上側になるように組み込むのが正しい。レールのセットは、エキスパンダー合口に対してレール合口をそれぞれ10~15度程度ずらすようにセットする。
ストレート製ピストンリングコンプレッサー
全国でチェーン展開している工具ショップ・ストレートのオリジナルピストンリングコンプレッサーがこれ。小径ボア向けに作られた商品だが、想像以上に使い易い。ピストンリングのセット角度を決めたら、この樹脂製コンプレッサーをセットしてリングを指先で縮める。シリンダースリーブエッジをコンプレッサーエッジへ当てながら、ヘッドガスケット面をポンポンッと叩きシリンダーを滑らせ、ピストンリングを圧縮したままスーツとピストンをシリンダーへ挿入する。
- ポイント1・作業性を優先したいなら、エンジン腰上の分解メンテナンスはエンジンを降ろして作業しよう
- ポイント2・カーボンは削り落とすと部品にダメージを与えるのでケミカルを上手に利用しよう
- ポイント3・取り外したピストンリング、交換用新品ピストンリングがあるときには合口隙間を測定して比較してみよう
- ポイント4・オイルリングエキスパンダーを組み込む際にも上下関係に注意しよう
エンジン腰上を分解し、各部の部品交換を実践する際には、ピストントップや燃焼室周りの「カーボン落とし」は必要不可欠。長年乗り込んできたエンジンなら、その汚れ具合に驚きすら感じるはずだ。腰上分解時には、各部品のコンディションチェックは積極的に行いたい。シリンダーヘッドなら、カムシャフトジャーナル(軸受け部分)とカムホルダーの摺動回転状況。キズは無いか!? スムーズに回るかなどが点検項目になる。次に、ロッカーアームとシャフトの作動性。また、カム山とロッカーアームスリッパー面の摩耗なども確認点検しなくてはいけない。
吸排気バルブを取り外せば、バルブステムとバルブガイドのガタや摩耗を点検することができる。それにより、バルブシートとバルブフェースの当たり具合を確認することもできる。バルブシートの当たり具合は、エンジンコンディションに於いて極めて重要なポイントなので、吸排気バルブを分解した際には、バルブフェースの汚れ落としやカーボン除去を行い、バルブフェースを磨いた後に、バルブシートとの「擦り合わせ」を行おう。この際に、バルブシートのあたり幅が規定値より広い場合は、迷うことなく内燃機加工のプロショップへ作業依頼するのが良い。作業内容は、バルブフェースの研磨とバルブシートカット&擦り合わせだろう。このときに、バルブステムとバルブガイド間に摩耗があり、バルブステム(軸部分)にガタが発生していることに気がついたら、バルブガイドの入れ替えを含む、前述した作業工程を依頼することになる。バルブガイドにガタがあるままシートカットしたところで、好結果を得られることはない。内燃機関は、トータルコンディションを回復させない限り、好結果は得られない。
ピストンリング交換の際は、ピストン自体の摩耗やシリンダーの摩耗も十分考慮しなくてはいけない。高温環境下でシリンダーに擦りつけられ、往復運動を繰り返し行うのがピストンリングの仕事。最初に減ることを想定した部品だが、状況によっては(潤滑不良などが原因)、シリンダー内壁も同時に減ってしまうことがあるので知っておこう。
ここでは、単品にしたピストンに堆積したカーボン除去を行ったが、カーボン除去で大切なことは、できる限り「ケミカルのチカラ」を利用することだ。スクレパーやカッターの刃を利用し過ぎると、ピストンにキズなどを付けてしまいやすい。また、耐水サンドペーパーを使ったところで、ピストン表面を磨き過ぎてしまい、結果的には、擦り減らしてしまうことがあるのだ。汚れ落とし洗浄の際には、高性能ケミカルを利用することで、驚くほど簡単にカーボン除去できることを知っておこう。今回は、ガーボン落としに良く効くガスケットリムーバーを利用したが(画像は旧パッケージ)、反応が低い冬場などは、ビニール袋や梱包ラップなどで汚れ部分を巻き付けよう。こんなひと手間でケミカルの反応が良くなる。作業台の上でデスクランプを当てて温めたこともあるが、それも効果的だった。しかし、部品の暖め過ぎや、作業中に目を離すのはたいへん危険なので、十分気を使って作業進行しなくてはいけない。
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