気持ちよくツーリングに出掛けた先でバイクが不動になるのは、何が原因であっても顔面蒼白で冷や汗ダラダラものです。快調に走行していたのに突然スロットルが軽くなったと思ったら、エンジンがアイドリング回転で粛々と回り出したら……。まさかと思いながら実際に遭遇した、スロットルケーブルのタイコ抜けを通して、トラブルの例と対処方法を紹介します。

スロットルケーブルのタイコ形状はストレートタイプと直交タイプの2パターン


ケーブルに対してタイコが直行する例。スロットルパイプやスロットルドラム、ブレーキ/クラッチレバーなどタイコが円弧運動する部分にはこの形状が使われる。


タイコの上下をケーブルが貫通するストレートタイプの例。ピストンバルブキャブのスロットルバルブや2ストローク車のスロットルケーブルとオイルポンプケーブルを分岐するデバイダーのように、往復運動する部分に用いられる。

スロットルやクラッチやドラムブレーキを操作するケーブルには、柔軟でフリクションロスが少なく伸びづらいといった性能が求められます。また日常的にワイヤーグリースなどを与えることで、アウターとインナーが擦れて切断するトラブルを予防できます。そうした基本的なメンテナンスを行っていれば大きなトラブルに遭遇することは少ないはずですが、時には信じられない災難もやって来ます。

その一例がケーブル端部のタイコ抜けです。スロットルケーブルの場合、一方のタイコはスロットルドラムに取り付けられ、反対側はキャブレターに付きます。キャブレター車の場合、負圧キャブであればバタフライバルブを開閉するスロットルドラムに、シングルやツインエンジン用のピストンバルブキャブの場合はスロットルバルブに直接取り付けられている場合が多いです。ただしピストンバルブでもカワサキZ1やホンダCB750フォア、CRやFCRといったリンクを介して開閉されるキャブレターの場合は、スロットルケーブルはスロットルドラムに取り付けられています。

スロットルケーブルのタイコには、ケーブルが円筒形のタイコの円周部分を貫通するものと、上面と下面の円の部分を貫通するタイプがあります。ここでは仮に前者を直交タイプ、後者をストレートタイプと呼ぶことにしますが、直交タイプはスロットルドラムと組み合わされ、ストレートタイプはスロットルバルブにダイレクトに取り付けられています。

どちらのタイプもタイコを引っ掛けるには若干のコツが必要です。直交タイプのタイコの場合、タイコやケーブルがスロットルドラムの切り欠きに引っかからないように注意しながら取り付けます。4気筒用キャブのスロットルドラムは2、3番キャブの間にあることが多く、キャブをエンジンに組み付けてからケーブルをセットしようとすると、スロットルドラム側の穴でタイコが斜めになったり、ケーブルが折れた状態でドラムに掛かることがあります。これに気づかず作業を進めるとケーブルが余計なテンションが掛かって適正な遊びが取れなかったり、フリクションが増えて操作性が重くなることがあります。

ストレートタイプの場合、タイコ部分をスロットルバルブに貫通させた際の引っ掛かり具合が浅く、開けたスロットルをスパッと戻した際の勢いでタイコが外れてしまうことがあります。タイコを引っ掛ける部分は抜け止め用の金具が付くことが多いので、必ずセットすることが重要です。

POINT

  • ポイント1・スロットルケーブルのキャブレター側のタイコ形状は二種類に大別できる
  • ポイント2・ケーブルの損傷やタイコが外れないよう、ケーブルを取り付ける際は慎重に作業を行う

タイコ部分の経年劣化によって切断ではなく抜けるトラブルもある


走行中にタイコが抜けると、ガス欠した時のようにパワーがなくなり失速する。ハンドクラッチ車でクラッチを切ったり、遠心クラッチ車の場合は車速ゼロでもエンジンは普通に回っているから違和感が大きい。シート前のカバーの下にキャブレターがある機種の場合はすぐに確認できるが、燃料タンクやカバー類をあれこれ取り外さないとキャブに届かない機種の場合は、状況確認までの手間が多くて大変だ。

スロットルケーブルはクラッチやブレーキに比べて軽い力で操作することもあり、タイコの根元でケーブルがほつれて切断するトラブルはそれほど多くありません。しかし想定外の事態が起こることもあります。それがタイコ抜けです。ケーブルとタイコは素材の異なる金属をハンダなどで一体化しています。しかし溶接とは違って素材同士が溶けて着いてるわけではいので、ごく稀に剥がれるように分離してしまうことがあります。

こうしたトラブルが発生するのは、絶版車や旧車など製造から長い時間を経過した機種で、新しいバイクではまず発生しません。しかしながら、スロットルケーブルからタイコが抜ければ、エンジンやキャブに何ひとつ問題がなくても走行できません

負圧キャブで引き側と戻り側の2本のケーブルがある場合、暫定的に戻り側のケーブルを引き側に付け替えることでスロットル操作が可能になる場合もあります。ただ、キャブレターの取り付け状況やスロットルドラムの位置によって、トラブルが発生した路上では対応できない難易度になる場合もあるので、必ず修復できるわけではありません。

今ではJAFや任意保険のロードサービスが充実しているので、よほどの場所でない限り時間は掛かるにせよ不動となったバイクとライダー本人を回収してもらうことは可能です。

それにしても、ツーリング途中で不意にタイコが抜けて、スロットルをどれだけ開けても速度がどんどん落ちる経験をした瞬間は誰もがパニックに陥ることでしょう。私は画像のヤマハチャピィで実際にその目に遭いましたが、焼き付きやガス欠のようにエンジンが停止することなく、ニュートラルでは淡々とアイドリングしているのにまったく走行できない状態を即座には理解できませんでした。

しばらくスロットルを開閉するうちにやけに手応えがなく軽いことに気づき、キャブレターのトップキャップを外した時点で、ようやくタイコが落ちてケーブルが抜けたことを把握しました。

POINT

  • ポイント1・ケーブルとタイコは経年劣化によって外れることもある
  • ポイント2・引きと戻りの2本のケーブルがある負圧キャブの場合、ケーブルを付け替えることで再走行が可能になることがある

ストレートタイプなら抜けたタイコを潰して応急修理できる場合もある


ケーブル先端のタイコだけが見事に抜けた状態だったので、キャブレターからスロットルバルブを引き抜いて紛失しないように回収。何とかケーブルを通して車載工具のプライヤーで思い切り潰してかしめた。抜けたタイコが見つからなければゲームセット。現場で暫定修理ができればラッキーなので、おとなしくロードサービスを呼ぼう。


タイコが抜けたケーブルは新品に交換するのが理想だが、純正部品が販売終了になっている場合は、用品メーカーから発売されているインナーケーブルキットやケーブルエンドセットの部品を活用できる場合がある。


ケーブルエンドの固定方法はイモネジを使う場合もあるが、確実に固定したいならハンダを使うのがオススメ。電気で加熱する壺の中でハンダを溶かす「ハンダポット」にタイコ部分を漬けると、毛細管現象によってタイコとケーブルにハンダが行き渡り、強固に接着された状態になる。


ハンダポットを使用する際は、ハンダ槽に漬ける前にフラックスでタイコとケーブル表面の酸化皮膜を除去し、漬けた後はエンジンオイルなどの油分に浸して冷却する。

幸い、タイコが抜けた瞬間にスロットルバルブが全閉になったため、タイコはスロットルバルブの下に落ちています。そこでシリンダー側に落とさないよう最新の注意を払いながらキャブの中から拾い上げ、ハンダがすっかり落ちたケーブルをもう一度差し込み、車載工具のプライヤーでタイコを潰してケーブルをかしめて、再びスロットルバルブに引っ掛けて復元しました。これはトラブルの中でもかなりラッキーなパターンですが、再始動後はスロットルケーブに無理なテンションを掛けないよう全開走行は慎み、何とか無事に帰宅することができました。

ケーブル自体の切断ではなくタイコが抜けるトラブルの発生割合はかなり低いと思われますが、状況次第では路上修理が可能な場合もあります。ロードサービスは最後の切り札として手元に置き、状況判断と原因の追及を行い、可能な範囲で対応方法を探ってみても良いかも知れません。

POINT

  • ポイント1・タイコからケーブルが外れる時の抜け方によっては、タイコを再使用して一時的にケーブルを再生できる場合がある
  • ポイント2・暫定的な補修で再走行が可能となっても、ケーブル交換や恒久的な補修を行うことが必要

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