キャブレターの調子の良し悪しを左右するのが燃料タンク内のコンディション。タンク内部がサビてしまい、サビが粉となってガソリンに混じると、それが悪影響となってキャブレターのフロートバルブに引っ掛かりオーバーフローが発生してしまう。そんなキャブレターと燃料タンクの間で機能している部品が燃料コック。ここでは、燃料コックのオーバーホールと同時に、細部機能部品を点検交換してみよう。
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一見では程度良さそうに見えるが
一般的に燃料コックには2タイプある。ひとつがこの部品のように、ガゾリンの自然落下を制御コントロールするタイプ。操作レバーにはON=ガソリンが通常流れるポジション。OFF=ガソリンを強制的に止めるポジション。RES=リザーブとは、予備燃料を使うためのポジションの3系統。もうひとつのタイプは「負圧コック」と呼ばれるもの。エンジン始動中の吸入負圧でダイヤフラム弁を作動させ、ON位置ポジションでガソリンが流れるようになる。負圧コックにおけるRESポジションは、一般的に吸入負圧に関わらず、予備燃料を送り込むためのポジション。OFFは文字通りガソリンを止めるポジションで、吸入負圧の有無に関係なくガソリンの流れを遮断する。負圧コックには、そのような機能があることを知っておきたい。一見では程度良さそうに見える燃料コックだが、切り替え弁となるガスケット(通称レンコンガスケット)には液体ガスケットを塗布していた痕跡があるため、おそらく現状のまま利用すると、ガス漏れが発生しそうだ。
フィードパイプにクラック発見!!
燃料コックをオーバーホールする時には、すべてのパーツをバラバラにしてから各部を点検クリーニングするのが基本。旧車あるあるの中に、真鍮製フィードパイプへのクラックがあるので覚えておこう。真鍮素材は、経年変化でクラックが入ってしまいやすい特徴がある。このコックでは、パイプをボディへ圧入する根元付近に亀裂を発見。こうなるとフィードパイプとして機能しなくなってしまう。フィードパイプの長さが違うのは、長い方がONポジション用で、短い方が予備燃料用だ。つまりガソリンタンク内部のガソリン油面の高さ違いでONなのかRESなのかを切り替えている。タンク満タンでONポジションにて走行していた時に、長いパイプの先端に油面が到達すると、ガソリンがキャブレターへ流れ落ち無くなる。そこで、予備燃料エリアのガソリンを使うためにRESポジションへレバーを切り替えるのだ。極めて単純な構造である。
フィードパイプの長さで変化する走行距離
仮に、長いフィードパイプがもう少し短いと、ONポジションでの走行距離は長くなる。一方、パイプを長くすると、油面が高くなるためONポジションでの走行距離は短くなる。従来通りの設定で良いときには、パイプの長さをまったく同じに製作復元すればよい。ここでは、出っ張り部分の長さを金尺で測定して、パイプの長さを同じに復元する。
新品真鍮パイプへ交換
亀裂が一直線に入っている時などは、フラックスを亀裂周辺に塗布してからハンダを流して肉盛り修理することができるが、今回のキレツはザクザクなので諦めた。同サイズ(同じ太さ)の真鍮パイプがあったので、新品パイプをカットして圧入し直すことにした。平ポンチで裂け崩れた部分をたたき崩し、細いスクリューエキストラクターを食い込ませて、2本のフィードパイプを抜き取った。
こんなときにも逆タップは使える
イザといったときに使えるのがスクリューエキストラクター、通称「逆タップ」とも呼ばれている。折れ込んだボルトをレスキューしようと、この逆タップまで折ってしまった経験があるサンメカは数多いのでは!?こんな圧入真鍮パイプの引き抜き時にこそ、逆タップの利用価値がある。コック本体の中に圧入されている長さは10mmだった。
チューブカッターで厳密に美しくカット
鉄でも銅でも真鍮でも、薄肉パイプをきれいにカットしたいときにはチューブカッターを利用するのが良い。丸形のカッター刃を徐々に食い込まれながら本体をクルクル回し、望む箇所でパイプをカットできるのがチューブカッターだ。測定したフィードパイプの長さに対して10mm長くカットした真鍮パイプ。ボディ本体側の加工穴に差し込んでから、小型ハンマーでパイプエンドをコツコツ叩いて圧入した。さらに万力でパイプを挟んで追確認。
いよいよ組み立て復元の開始
燃料コックには数種類のガスケットや燃料を簡単に濾過するためのネットストレーナーが組み込まれている。ガスケット類は、旧車専門のレストアショップ製オリジナル商品を購入。破けていた真鍮ネットのストレーナーは、似た網目サイズの真鍮ネットを購入して、精密ハサミでカットして自作することにした。
ストレーナーの製作完了
ストレーナーカップのネジ部分を参考にマーカーペンで印をつけ、先が鋭い精密ハサミで真鍮ネットをカット。中央のニゲ穴は穴抜ポンチを利用して叩き抜いた。すべてのゴム製ガスケットには、ラバーグリスを薄く塗布してから組み立てた。
旧車は電気と燃料計がキモ
1963年モデルのヤマハYDS2。オイルポンプが無い時代に開発販売された車両なので、エンジンオイルとガソリンを混ぜてから給油する「混合燃料仕様」を採用。1964年に発売された250YDS3や305YM1からオイルポンプを装備。その仕様をヤマハはオートルーブ仕様と呼ぶ。もはや2ストエンジンモデル自体が絶滅危惧種なので、2ストモデルのマシンオーナーさんは、空冷エンジンでも水冷エンジンでも、大切に維持し乗り続けましょう。
- ポイント1・ 燃料系を制することで、トラブルがぐっと減るのが旧車
- ポイント2・ 燃料コックを分解したときには、真鍮製フィードパイプに割れや亀裂が無いか点検しよう
- ポイント3・ 真鍮パイプに亀裂があるときには市販品に交換することができる
- ポイント4・ストレーナーの真鍮ネットはハサミで切り出し自作可能
もはや「旧車の括り」として認識されているのが「キャブレター装備モデル」である。現代は原付スクーターでもFI=フューエルインジェクションシステムが当たり前の時代。西暦2000年を境に、キャブ仕様車からFI仕様車へと進化し、2000年代後半には、ほぼすべての国内モデルがFI搭載モデルとなっている。日本のメーカーでも現地生産車の中にはキャブ仕様車もあった。しかし、今現在では、極稀なケースのみキャブ仕様車があるが、もはや世界的にも絶滅危惧種なのがキャブ仕様モデルである。
放置期間が長くなると「トラブルの温床」と化してしまうことが多いのがキャブレターモデルの特徴だろう。エンジン始動できない原因には、各種ジェット類や各種通路の詰まり(変質ガソリンによるワニス化が原因)などが考えられるが、エンジン始動の可否に関わらず、大問題と言えるのがオーバーフローによるガソリン漏れだ。放置すれば当然に危険である。そんなオーバーフローの原因も実に様々。もっとも多い原因は「ガソリンタンク内の汚れやサビ」によるものだろう。タンク内のゴミやサビ粉が、燃料ホースを通じてキャブレターへ流れ、それらのゴミがフロートバルブシートなどに堆積することで、バルブを閉じ切ることができず、ガソリンを流し続けてしまい、結果的にオーバーフローが発生してしまうのだ。
キャブモデルの場合は、燃料タンクとキャブ本体の間に、必ず装備しているのが燃料コックだ。ガソリンタンクに燃料コックを取り付けるタイプと、キャブ本体に燃料コック機能を持つタイプがあるが、いずれにしても、キャブレターに燃料=ガソリンを送り込む役割をしているのが燃料コックなので、燃料系トラブルが発生したときには、この「燃料コック」にも疑いの目を向けるべきだろう。
ガソリンタンクのように、ある一定量以上のガソリンが滞留していると、ガソリンは変質しにくい傾向だが、キャブレターボディのフロートチャンバー内や燃料コックのチャンバー内はガソリン滞留量が少ないため、ガソリンがダメージを受けやすい。そんな意味でも、燃料コックを取り外したときには、構成部品を分解洗浄し、各部をしっかり確認点検してから組み立て復元するように心掛けよう。
ここでは、旧車のレストアに際し、燃料コックをオーバーホールした様子を解説しているが、肝心なことは消耗部品の調達だ。旧車とはいえ人気モデルなら、燃料コック用各種ガスケットも入手可能だろうし、モデルによってはメーカー純正部品で入手可能な場合もある。このモデルのように生誕50年を超えるとさすがにメーカー純正部品は販売中止だが、旧車専門店やオーナーズクラブなどで取り扱っている例もあるので、困ったときに救いの手を得られるような「バイク仲間作り」も大切なのだ。
旧車専門店から補修用ガスケットを購入し、真鍮製ストレーナーネットは素材から切り出すことで自作。そんな作業で蘇った燃料コックは、コンディション良く働いてくれて大満足だ。
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