ブレーキキャリパーとキャリパーピストンの隙間からブレーキフルードが流出しないよう、両者の隙間にはゴム製のピストンシールが組み込まれています。そしてもうひとつ、パッドダストや外部の水分がキャリパー内に入らないよう、ピストンシールの外側に入っているのがダストシールです。このダストシールにはピストンの先端部分から側面を覆うタイプがありますが、時間経過とともにシールの隙間から入った水分などでピストンが腐食することがあるので、定期的なメンテナンスが必要です。

アコーディオンの蛇腹のように伸びてピストン側面を保護


ブーツタイプのダストシールの一端はピストンの溝にはまっており、ピストンがせり出しても外周が露出しないのが特長。


ピストンシールとダストシールがキャリパー内部に組み込まれている場合、ブレーキパッドが摩耗してピストンの露出量が多くなると、パッドダストなどが外周に付着して堆積するため、定期的な洗浄が欠かせない。

ブレーキレバーやブレーキペダル操作によってマスターシリンダーから押し出されたブレーキフルードによってキャリパーピストンが押し出され、ブレーキパッドがローターを挟み込んで制動するディスクブレーキ。マスターシリンダーとマスターピストン、ブレーキキャリパーとキャリパーピストンの間には、エンジンにおけるシリンダーとピストンと同様に僅かな隙間=クリアランスが設定されています。このクリアランスはピストンが固着せずスムーズに動くために絶対に必要な隙間です。

ブレーキキャリパーでその隙間に装着されているのがピストンシールとダストシールです。どちらもゴム製のリングでキャリパー側のシール溝の中に収まり、エンジン内部のピストンリングのトップリングが燃焼の圧力を受け止め、オイルリングがシリンダーに付着したエンジンオイルを掻き落とすように、ピストンシールはキャリパー内部のブレーキフルードが外部に漏れることを防ぎ、ダストシールは水分や汚れの浸入を防止します。

ブレーキを掛けるとキャリパーからピストンが出てパッドを押し、離すとピストンがキャリパー内に戻る動作を繰り返すディスクブレーキでは、ブレーキパッドの摩耗に伴いピストンが前進していきます。そのためキャリパー内部に占めるピストンの体積が減少し、その体積分だけマスターシリンダーのリザーブタンクからブレーキフルードが流れ込みます。だからブレーキパッドが摩耗するとリザーブタンクの液面が低下するのです。

キャリパー内部はきれいなブレーキフルードで満たされているのに対して、ピストンとパッドの接触部分は走行中に巻き上げた砂やホコリや摩耗したブレーキパッドのダストで汚れています。その汚れがピストンとキャリパーの隙間に巻き込まれてキャリパーやピストンシールを傷つけるとフルード漏れの原因となるため、ダストシールはワイパーのようにピストンの汚れを拭き取っています。

このダストシールには、輪ゴムのようなシンプルなリング形状の他に、ピストンのせり出しと共に伸縮するブーツタイプがあります。具体的には、アコーディオンの蛇腹のように折り畳まれたシールの一方がキャリパーに固定され、もう一方がピストン先端部の溝にはめ込まれています。そしてピストンの前進にしたがってシールも伸びながら広がり、ピストンの側面は露出しない状態が維持されるようになっています。自動車用のディスクブレーキでは現在でもポピュラーで、バイクではディスクブレーキ初期から1980年代半ばぐらいまでの期間で使われていました。

POINT

  • ポイント1・ディスクブレーキのキャリパーには役割が異なるピストンシールとダストシールが組み込まれている
  • ポイント2・ピストンのせり出しと共に蛇腹が伸びるブーツタイプのダストシールはピストン側面をカバーする

パッドダストの付着を防止する効果は抜群だが……


平らに折り畳まれたダストシールは、キャリパー側は圧入されたリテーナーリングのツバに引っかかり、ピストン側はピストンの溝にはめ込まれる。保管環境によってブーツ内の温度や湿度の変化がサビを呼ぶことがある。


以前塗布したグリスの効果が残っているため錆びてはいないが、中にはシールの内側が赤茶色のサビ粉で覆われるほど腐食している場合もある。Z1/Z2のフロントブレーキキャリパーにはスチール製のリテーナーリング(ピストン根元に見えるプレス部品)が圧入されているが、部品として設定されていないためこれが錆びてピストンの硬質クロームメッキに食いつくと厄介。

伸縮タイプではないダストシール仕様のキャリパーでパッドの摩耗が進むと、パッドダストがピストン外周にびっしり堆積します。これは構造上避けられませんが、その状態で長く時間が経過してダストに水分が混ざり、キャリパーピストン表面の硬質クロームメッキが腐食するとそのピストンは使えなくなります。キャリパーボディからピストンが露出しなければ汚は付着しませんが、パッドが摩耗すれば自動的にせり出してしまうのでどうしようもありません。

だからこそ定期的に中性洗剤などでキャリパーとピストンを洗浄して、ピストンにシリコングリスを薄く塗布しておくことが効果的なのです。ただし塗布したグリスがいつまでも乾かない接着剤のように作用して、新たな汚れを呼び寄せる原因になる副作用もあるのですが……。しかし適度な潤滑成分は防錆被膜にもなるので、洗浄後のグリスは塗布しておいた方が良いでしょう。

これに対してブーツタイプのダストシールは、パッドが摩耗してもピストンが露出しないので汚れに対して有利です。またピストン外周が汚れなければキャリパー内面が傷つくこともなく、フルード漏れなどのトラブルも減少します。

良いことばかりと思われるブーツタイプのダストシールですが、シール自体がキャリパー内部に収まらないため取り付け部分が大きくなりがちです。2ポットキャリパーでは隣り合うピストンが近すぎて物理的に使用できないという問題もあります。

さらに時間の経過と共に素材の柔軟性が低下するとシール性が低下して、ピストンとシールの合わせ面から水分が浸入することもあります。一度水分が入ると抜けづらいのが弱点で、それが原因でピストンのサビにつながる場合もあります。長期間放置したブレーキに付いていたのがブーツタイプのシールだったので安心して取り外したところ、シールをキャリパーに固定するリテーナーリングとピストンがセットで真っ赤に錆びていた、ということも珍しくありません。過信は禁物です。

POINT

  • ポイント1・ブーツが伸びることでピストンの露出を防ぐため、ピストンの汚れやサビが防止できる
  • ポイント2・経年劣化により素材の柔軟性やシール性が低下するとダストシールとピストンの空間に水分が浸入してサビの原因になる場合がある

長期保管車や不動車再生時は必ずダストシールを外してチェックしよう


ダストシールを外してピストンの洗浄と揉み出しを行うと、ブレーキの作動性が良くなる。ただしブーツタイプのシールを外すと、キャリパー内に残っているのはピストンシールだけになるので、キャリパーとピストンの隙間に入った洗剤や水分はエアブローなどで完全に除去しなくてはならない。


洗浄後のピストンにはゴムと金属の潤滑に使えるMR20をスプレーしておく。MR20は低粘度でキャリパーとピストンの狭い隙間にも浸透する。MR20が無ければシリコングリスでも良いが、ベタベタになるほど塗らないように。


根元側をリテーナーリングに食い込ませ、先端側をピストンの溝にはめたらブレーキレバーを操作してピストンを出し、シールが外れないことを確認してからキャリパーを組み立てる。組み付けが不充分でシールが外れたり隙間ができると、気づかぬうちにピストンが錆びていた、ということになりかねない。

結局リングタイプであれブーツタイプであれ、キャリパーピストンは定期的に洗浄してシリコングリスやゴムと金属の潤滑を行うMR20などのケミカルを塗布するのが最も効果的です。ブレーキフルードは2年に一度の交換が推奨されているので、最長でもこのタイミングで洗浄を行いましょう。

これ以外でもブレーキパッドの摩耗が進んできた時など、ピストンのせり出し量が多くなってきた時に伸びた蛇腹部分をめくってピストンの汚れ具合を確認すると良いでしょう。汚れが目立つようならダストシールを取り外して、ブレーキレバーを操作してピストンを前進させた状態で洗浄と潤滑スプレーやグリスの塗布を行います。ただしブーツタイプのダストシールを外してしまうと、後に残るのはキャリパー内部のピストンシールだけなので、キャリパーピストンを落下させないように注意します。

適切なメンテナンスを行えば汚れ防止に役立ちますが、放置すればかえって不具合の温床になりかねないのが伸縮タイプのダストシールです。バイクでは絶版車で使用されることが多く見慣れない構造かも知れませんが、ブレーキパッドの後ろ側を確認してキャリパーピストンの先端部分までゴムブーツで覆われていたら、カバーされているから大丈夫だと安心せず、シール内側のコンディションを確認しておきましょう。

POINT

  • ポイント1・ブーツタイプのダストシールでもピストンの状態確認は不可欠

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