単気筒エンジンの場合は、その測定数値そのものに注目するが、多気筒エンジンの場合は、数値も大切だが、それと同等に、各シリンダーのコンディションが一致(許容範囲内で一致)しているか否かも大切な確認ポイントになる。バランスが取れていて、初めて気持ち良くエンジンは吹け上がるようになるのだ。大雑把な例えると、プラグキャップの接続不良で、4気筒エンジンなのに3気筒にしか火が入らなければ、エンジンコンディションの異常には誰もが気が付くはずだが、そんな気筒間の爆発コンディションの違いを、厳密に確認することができれば、素早くエンジン本体のコンディション把握ができる。
目次
圧縮圧力の維持が良い爆発力を生む
圧縮圧力ゲージ=コンプレッションゲージがあるとたいへん便利だ。使用測定方法は、スパークプラグのネジ穴に測定棒先端の円錐ゴムを押し付け(プラグのネジサイズに合せたアダプタータイプもある)、スロットル全開状態でクランキングを行う。当然ながらスパークプラグを取り外す作業から始めるが、プラグ周辺にドロや砂利が堆積していると、プラグを外したその瞬間にゴミがプラグ穴から落下してしまうこともある。そのため、プラグを取り外す前には、プラグ周辺をエアーガンでしっかりブローする習慣をつけよう。
しっかりした工具を使いたい
現代はFI(フューエルインジェクション)モデルの時代。FI車はプラグ不調になることがほぼ無いため、車載工具にプラグレンチが無いモデルも!?といったお話しを聞いたことがある。そんなお話しとは別に、車載工具のプラグレンチはあくまで非常用だと考え、普段使いの工具は、しっかり揃えておきたいものだ。
ネジサイズが細い高性能プラグ
ホンダRVF400Rのスパークプラグのネジサイズは極細の8ミリ。一般的には10/12/14ミリのスパークプラグが多く、NGK製商品で例えるならC/D/Bサイズとして呼ばれている。同じネジサイズでも、長さ(リーチ)が異なるプラグをネジ込んでしまい、吸排気バルブとプラグが干渉してバルブを曲げてしまったとか、ピストントップとプラグ先端が当ってしまった……などの経験を持つサンメカもいるはず。プラグ交換時には、ネジサイズや番手などの適合を、事前に確認してから作業進行しなくてはいけない。
ギャップの広さも機種や状況で変化
スパークプラグの焼け方によってキャブセッティングの方向性を知ることができるが、それ以前に大切なことは、プラグギャップ(電極間のスキマ)の正しい設定だ。一般的なモデル用スパークプラグのギャップ数値は、0.7~0.8ミリだが、特定モデルや使うプラグのタイプによっては、指定値があるので確認してから作業しよう。例えば、高性能点火系パーツに交換している場合は、パーツメーカーの指示で、プラグギャップ値を1.1~1.2ミリといった例もある。また、点検しようと思ってプラグを外した時に、熱いプラグを手で持って「あちちっ!!」と地面に落としてしまったときに、ギャップが閉じて火花が飛ばなくなってしまうケースもある。プラグは復元直前に「目視でギャップ確認」してから締め付け復元しよう。
セルモーター回転測定時の注意点
コンプレッション測定(今回は4気筒のバランス確認)の際には、車載バッテリーに電圧降下があると力強く回らず、最初の測定と最後の測定で測定条件に違いが出てしまうことがある。そんなことが無いように、ブースターケーブルで元気なバッテリーにつないで、フルスロットルで勢い良くセルモーターを回してコンプレッションデータを測定しよう。
ネジ山ケアの必要性……
取り外したスパークプラグのネジ山にグリスや潤滑剤を塗布することで、締め付けトルクに変化が出てしまうことがある。そのため、基本的に「ケミカルの塗布」は不要。プラグメーカーでもそう指示している。しかし、プラグを取り外す際にネジの回りが渋いときや、キーッ、キーッと音が聞えるようなときには、取り外したプラグのネジ山をウエスで拭き取り、ネジ山に潰れが無いことを確認してから、グリスや潤滑剤を少量塗布してプラグをネジ込み、底に当ったら再び抜き取るなどの確認を必ず行おう。さらにネジ山にに残ったグリスや油をウエスで拭き取ってからプラグを復元。「ギャップ確認は不要」「ネジ山にグリスは塗らない」などの指示があっても、あくまで個人の状況判断と責任に於いて、作業進行したいケースもあることを覚えておきたい。
- ポイント1・マルチエンジンの場合は、気筒間の圧縮バランスを比較する意味でもコンプレッションゲージは心強い味方になる
- ポイント2・ 熱いプラグを落としてしまったときには、プラグギャップを確認してから復元しよう
- ポイント3・プラグのネジ山回転が渋いときには、しっかり状況確認し、ネジ山に潰れが無いか確認しよう
現代のFIモデルなら、まず触れる必が無いスパークプラグ。しかし、FIモデルとは言え、しばらく乗らずに放置すれば、ガソリンは劣化してしまう。それに伴い、燃料ボンプは回転不良。FIノズルは詰まってしまい、燃料噴射できなくなってしまうことに……。そんな状況下でメンテナンス進行する場合は、スパーク=点火状況を確認するためにも、スパークプラグを取り外さなくてはいけない場合が多々ある。エンジンコンディションに大きな影響を与えるのが「良い燃料」「良い圧縮」そして「良い爆発」という3要素。燃料が劣化していてはよく燃えないし、圧縮が低ければエンジンは気持ち良く回らない。良い火花が飛ばなければ着火性能は低下し、良い爆発など得ることはできない。
エンジンの調子の善し悪しには、様々な要素が絡み合っているが、ここでは、エンジン本体のコンディション=圧縮圧力に注目してみよう。測定時には段取りがしっかり行われていないと正しい測定ができない。単気筒エンジンでもマルチエンジンでも、まずはスパークプラグをすべて取り外そう。ピストンンバルブのキャブレターなら、スロットル全開状態で測定開始。キック始動車なら、のんびり何発かキックするのではなく、素早く7~8回以上は、連続的にキックして測定する。セルモーター始動なら、ブースターケーブルで元気なバッテリー(四輪用がベスト)と車載バッテリーを接続して測定しよう。
ピストンバルブ式ではなくバタフライバルブ車の場合は、スロットル全開でクランキングしても、バキュームピストンが開ききれない状況になる。エアークリーナーボックスを取り外せるなら、直キャブ状態でバキュームピストンを物理的に持ち上げて作業することで、より厳密なデータ測定ができる。
マルチエンジンの場合は、現実的にもバキュームピストンを簡単に持ち上げることができないので、単純なスロットル全開で測定(各気筒とも同一条件で測定)してみよう。そのような測定でも、気筒間バランスの違いはゲージデータから知ることができる。疑わしき気筒は、さらに問題追及を進めよう。
あくまで参考数値になるが、温感状態(暖機後)の空冷4ストロークエンジンなら、8.5~9.5kgf/cm2(およそ850~900Kpa)ほどの数値で、7kgf/cm2を下回る場合は、何らかの問題が発生していると考えられる。この圧力データは排気量に関係無く、原付でも大型モデルでもほぼ同域だ。ちなみにハイコンプピストンを組み込んだチューンドモンキーでは、12kgf/cm2超えも当たり前で、部品の組み合わせによっては15kgf/cm2に達するケースもある。現代の水冷高性能エンジンの場合は、ノーマルでも11~13kgf/cm2の圧縮圧力は珍しくない。いずれにしても、測定モデルの標準データ(数値)がどの程度なのかは、メーカー発行のサービスマニュアルで確認しなくてはいけない。
また、温まったエンジンからスパークプラグを取り外す際は、指先で持つのが熱く、路面にプラグを落としてしまうことがよくある。そんなときに外電極が路面とヒット→プラグギャップが閉じてしまうことがよくあるため、スパークプラグのギャップは、必ず目視確認や測定してから、エンジンへ復元するように心掛けよう。
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