旧車や絶版車ユーザーやカスタム好きにとって、ハンドルスイッチの配線をハンドルパイプ内に通す「中通し」は馴染みのある処理方法のひとつです。ハンドル周りがすっきり見えるのが特徴ですが、細いハンドルパイプに配線を通すのに手間が掛かるのが難点です。さまざまな手法がありますが、柔らかさと硬さのバランスが絶妙な園芸用品が意外に使えることをご存じでしょうか?

旧車や絶版車だけでなくカスタム手法としても活用される「中通し」


ブレーキケーブルやクラッチケーブルは露出しているものの、ハンドルスイッチのハーネスをハンドル内に通すことでパイプのフォルムがすっきり見える。現在のパイプハンドル車はハーネスバンドで巻き付けてあるのが当然だが、1960年代は原付クラスでも気を遣って製造していたことが分かる。

スターターやウインカー、光軸切替やホーンなど、ハンドル左右のスイッチには昔から電装系を操作するスイッチやボタンが並んでいます。最新のバイクではハザードランプやクルーズコントロールや多機能メーターのモード切替など、さらに多くのボタンが配置されており、初めて乗る際にはしっかり予習をしないと使いこなせないほどです。

そんなハンドルスイッチには機能の分だけ配線が取り付けられ、ネイキッドモデルの場合はトップブリッジ部分からヘッドライトハウジング内に引き込まれて車体側のメインハーネスと結線されるのが一般的です。現代のバイクはこの配線はハンドルパイプにハーネスバンドで固定されていますが、旧車や絶版車ではハンドルパイプ内を通している例も少なくありません。中通しと呼ばれるこの手法によって、ハーネスチューブやバンドがハンドルパイプから消えることですっきり見えるようになります。そのため現行車であっても、カスタム手法としてスイッチハーネスをパイプ内に通すテクニックが使われています。

ここで紹介している1960年代のヤマハ原付モデルの場合、スロットルがドラム巻き取り式ではなくスライド式なので、スロットルケーブルもハンドルパイプの途中から引き出される構造で、これもまたハンドル周りをシンプルに見せるのに一役買っています。中通しハンドルに共通するのは、ハーネスの出入りのためハンドルスイッチ部分とトップブリッジ部分に大きめの穴が開いている点です。ネットオークションなどで下面に大きな穴のあるハンドルを見つけたら、元々中通しの旧車用か後加工でカスタム用に開けられた痕跡と判断してまず間違いありません。

余談ですが、ハンドルスイッチ配線をハンドル内に収めているのはホンダスーパーカブも同じで、上下分割式のハンドルカバーの内側にスイッチハーネスやスロットルケーブルが収納されているためハンドルやメーター周りのゴチャゴチャ感が解消されています。ハンドルパイプ内を通すパターンでも、ハンドルの周囲にカバーを取り付けるパターンでも、スイッチハーネスが隠れることで雑然としたイメージが払拭できる効果があります。

POINT

  • ポイント1・ハンドルスイッチの配線をハンドルパイプ内に通すことですっきりとした見た目を得られる
  • ポイント2・スイッチ配線を中通しにするのは絶版車や旧車だけでなく、カスタム手法としても有効

スイッチ配線を押し込んでも渋滞するだけ。出口側から引き込めばスムーズ


半世紀の歴史でバリバリになったハーネスチューブの中で柔軟性を保っていた配線は再利用しながら、スイッチハウジングをメタルポリッシュで磨いてスイッチ接点をクリーニング。新たにチューブを通すだけで見栄えは抜群に良くなった。こうした作業を行うために、中通し配線を引き抜く必要がある。


燃料タンク上にロール状の園芸用ビニールタイがあり、トップブリッジ部の中央の穴からハンドルスイッチの穴に向かって通した状態。ビニールタイはパイプのカーブに対する追従性が良く、強度のバランスも良いため通線ツールとして重宝する。


ハンドルスイッチハーネスにビニールタイを縛り付けて、抜け止めのビニールテープを巻く。ハンドルパイプ内に通す際は出口側のビニールタイを優しく引っ張る。

すっきりした見た目が印象的なハンドルスイッチハーネスの中通しですが、ハンドルパイプの交換やレストアなどの際に一度引き抜くと簡単には通せないのが悩みのタネとなります。柔軟性のあるハーネスは真っ直ぐのパイプを通すのにも苦労するもので、グリップ部分とクランプ部分の2カ所で曲がっているハンドルパイプとなると押し込むのは不可能です。

半世紀以上昔に製造されたこのバイクの場合、ハンドルパイプの曲がり方に従ってハーネスチューブがカチカチに硬化しており、少しずつ引き出すたびにチューブが細かく割れてしまい、それだけでも手間が掛かります。配線自体が劣化してればハンドルスイッチ側の根元部分で切断すれば良いのですが、ハンドルパイプ内にあったおかげで外皮は柔軟で色あせもないため、スイッチハウジングを研磨したら硬化したハーネスチューブだけ取り替えて復元するため、面倒ですが少しずつ引き出します。バリバリに割れたハーネスチューブを新品に交換するとハーネス全体がしなやかになりますが、そうなるともうハンドルパイプには通りません。

この場合、通線ワイヤーでハンドルパイプ内にハーネスを引き込むのが常套手段です。通線ワイヤーとは家屋の壁面内に設置された電線管と呼ばれる筒の中に電線やLANケーブルを通す際に使う道具で、適度な強度による直進性と壁内の曲がり角を通り抜けられる柔軟性を合わせ持つより線です。電線管に先に通線ワイヤーを通してから終端部分に電線を取り付け、出口側から引っ張ることで電線を曲げることなく管の内部を通すことができます。

ハンドルスイッチハーネスの中通しもこれと同様で、スイッチ取り付け部分とトップブリッジ部分に通線ワイヤー代わりの何かを通しておくことで、ワイヤーにつなげたハーネスを引き込むことができます。これはバイクだけに使えるテクニックではなく、自動車の電気いじりの際に室内からエンジンルームに配線を通したり、最近の流行であればドライブレコーダーのリアカメラ配線をルーフと天井の間に通して運転席まで配線する際にも利用されています。

家の壁の中の電線管や自動車のルーフの隙間に比べれば、ハンドルパイプの長さはたかが知れており、適切な材料を使えばスイッチハーネスを通すことは極端に難しいことではありません。

POINT

  • ポイント1・ハンドルスイッチのハーネスを中通しする際、スイッチ側から押し込んでも必ず途中で留まる
  • ポイント2・柔らかい配線を筒の中を通す際は通線ツールを使って出口側から引き込む

園芸用ビニールタイは柔軟性と硬さのバランスが絶妙な上に配線を傷つけない


ハンドル中央の穴から引き出したハーネスはヘッドライトケース内に挿入してギボシ端子を接続する。配線の数が少ない旧車なのでギボシ付きでも容易に通せるが、年式が新しくなるほど配線が増えるのでパイプ内が窮屈になり通しづらくなる。


ハンドルスイッチに注目すると、ハウジングの合わせ面からハーネスがまったく見えないのが中通しの特徴。カスタムでも使えるテクニックだ。

スイッチハーネスをハンドルパイプ内に引き込む通線ツールに必要なのは、硬さと柔軟性のバランスです。ネット上にはいろいろな材料を駆使して中通しを行う実践例が紹介されていますが、その中でも園芸用ビニールタイはなかなかの好結果でした。ガーデニング用品として販売されているビニールタイは電化製品などの配線やケーブルを縛る際にも使われている材料で、細い針金をビニール被覆で薄く平らにコーティングしてあります。

細かく調べればいろいろなサイズがあるのかもしれませんが、園芸用針金、園芸用ビニールタイと検索してヒットした製品を入手して試したところ、パイプの曲がりにもよく追従してクランプ部分からハンドルスイッチの穴まで引っかかったり曲がったりすることなく通すことができました。1本では剛性不足で途中で折れ曲がるような場合はより線状態にするのも簡単で、多少太くなってもパイプ内でビニール被覆が擦れて滑るので、送り込むごとに先に進んでいくことを実感できます。

ハンドルスイッチ部分まで到達したら穴から引き抜き、スイッチハーネスに巻き付けてビニールテープで保護したら、トップブリッジ側の穴からビニールタイをゆっくり引き抜けばパイプ内を通せます。

今回は既存のハーネスを再使用したためギボシ端子ごと通しましたが、新たにハーネスを作り直す場合はハンドルパイプを通した後でギボシをかしめた方がかさばらずスムーズに引き抜くことが可能です。またハンドルスイッチハーネスとは別にUSB電源やドライブレコーダーの配線もハンドルパイプ内に取り回したい場合は、ビニールタイを二重三重にして通しておくことで、複数の配線をパイプ内に通すことができます。

一度引き抜いてしまうと復元が難しいと思われる中通しですが、身近にある材料が流用できる場合もあります。ハンドルスイッチのメンテナンスやレストアの際には応用してみてはいかがでしょうか。

POINT

  • ポイント1・針金やスロットルケーブルのインナーなど、通線ツールとして使えそうなさまざまなアイテムを試してみると良い
  • ポイント2・細い針金をコーティングした園芸用ビニールタイは強度と柔軟性のバランスが良く通線ツールとして使いやすい

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